はじめに
本記事では、ベトナムの消費市場について、ベトナム消費者の嗜好や購買ニーズについて分析していきたい。これまでの記事でも、ベトナムが日系企業の主要な製造拠点であり続けるとともに、中間層・富裕層の拡大を受けて今後は消費市場が拡大していくことを繰り返し述べてきた。今回の記事では、ベトナム消費者の特徴や近年の変化について深堀をしていきたいと考えている。日用消費財(飲食料品、アパレル、健康食品、化粧品、日用品、一般用医薬品等)分野における事業展開の成功要因は、現地のベトナム消費者ニーズを十分に把握し、ローカル化を進めることだと筆者は考えている。以下では、この成功要因について順を追って考察をしていきたい。
ベトナム消費市場の成長性
まずはベトナム消費市場の市場規模を見てみたい。1億人規模の人口を有するベトナムであるが、経済発展に伴い、所得水準の向上が続いており、2021~2022年頃にベトナムの一人当たりGDPが3,000ドルを上回る見込みだ。一般的に国民1人当たりのGDPが3,000ドルを超えると、国民の自動車や大型家電、家具といった耐久消費財の購入意欲が急速に高まると言われている。
以下の図表はベトナムの一人当たりGDPと小売市場の売上高の推移を示したグラフであるが、一人当たりGDPが初めて1,000ドルを上回った2008年以降は、特に小売市場の売上高が急成長している。2008年から2019年までの18年間における一人当たりGDPの年平均成長率は8.12%であるが、同期間における小売市場の売上高の年平均成長率は15.3%に及んだ。2019年時点で小売市場の売上高は約17兆円の規模に達している。
都市ごとに異なる消費行動の意向
ここからはベトナム消費者の特徴について様々な角度から見ていきたい。大手コンサルティング会社のデロイトが2019年にベトナム国内の主要都市にて1,000人を対象に行った消費者動向のアンケート調査のレポートによれば、将来に対する支出の意向について、「より積極的に支出したい」と回答した人は全体の48%に及び、「現状維持」の46%を上回った。「より積極的な支出を控えたい」とした人は全体の6%にとどまっている。
一方で、都市別に回答結果を見てみると、結果は都市ごとに異なっている。ダナン市とカントー市は「より積極的に支出したい」と回答した割合はそれぞれ、68%と84%となっており、ハノイ市とホーチミン市の2大都市よりも大きく上回っている。ハノイ市は18%に留まっており、将来の支出に対して積極的な考えは見られないようである。この調査では、具体的にどのような品目に対して支出を増やしたいかは明らかにされていないが、地域によって、支出に対する考えが異なることは押さえるべきポイントの1つであろう。
また、都市ごとにも購入チャネルの嗜好は異なっており、スーパーマーケットを好む傾向は全国的に強いが、ハノイ市やダナン市ではパパママショップを好む傾向が強く、それぞれ、38%、45%となっている。また、伝統的な生鮮市場もカントー市で41%と多く好まれるほか、ダナン市で19%、ホーチミン市で18%と好まれる傾向が強い。今後はスーパーマーケットを含め百貨店やショッピングモールといったモダントレードが発展していくことに加え、ECサイトの普及により、購入チャネルはますます多様化していくだろう。
成長性が高い品目:アパレル、食品、一般用医薬品、スマートフォン
次にベトナム消費者が具体的にどのような品目に対して支出を増やしていきたいかについて見ていきたい。以下のグラフを見ると、ベトナム消費者が最も高い支出意向を持っている品目は「衣類・履物」で、約半数の回答者が積極的な支出を回答している。
確かに、ベトナムのアパレル市場は特に成長が続いているセクターの1つであり、英調査会社ユーロモニターによれば、直近10年間で2.4倍に市場規模が拡大している。2019年12月にはホーチミン市にユニクロがベトナムに初めて出店し、地上3階の売り場は東南アジア最大級となった。また、ユニクロでは、子供服の専用売り場も設置しており、子供連れの家族でも買い物ができるように遊び場も設けている。若年層の割合が高いベトナム市場のニーズを反映したものと考えられる。
そのほか、飲料品、菓子類、包装食品、家庭用洗剤、トイレタリー用品、携帯電話・デジカメ等も2~3割の回答者が更なる支出意向を示しており、成長性が高いセグメントと考えられる。携帯電話については、既に携帯電話の所持率は9割を超えているとされているが、スマートフォンの普及率は4~5割に留まっているとされている。ベトナム情報通信省によれば、2020年代の前半にかけてスマートフォンの普及率は90%を超える見込みであるとしている。
このほか、今後ベトナム消費者の購買ニーズが高まる品目として、一般用医薬品(OTC医薬品)、健康食品、化粧品、スポーツ用品、文房具といった品目は高い成長率を遂げると筆者は見ている。
事業展開の成功要因:現地消費者ニーズの把握とローカル化
こうした市場環境の変化を受けて、日本企業による事業展開の可能性も格段に高まるだろう。事実、2010年頃から、ファミリーマート、ミニストップ、イオンモール、高島屋、セブンイレブン、良品計画、マツモトキヨシといった日系の主要な小売企業がベトナムに進出している。
日本ブランドはベトナム現地でも高品質、高技術、安全性の証として非常に好意的に受け止められているものの、販売ターゲットとなるコア顧客層(購買力が国内でも比較的高い層)はホーチミン市やハノイ市といった都市部に集中しており、顧客の獲得、用地・人材の確保の面で、同業他社との競争が激化していくことも予想される。
こうしたことから、ベトナム消費市場への参入を検討する企業にとって、最も重要となる点は、ベトナム現地の消費者ニーズを正確に把握することだと考えられる。ベトナムでは経済発展に伴い、所得水準の向上や中間層の拡大が続いていることは冒頭でも述べた通りであるが、こうした経済発展に伴い、ベトナム消費者の生活スタイルや消費に対するマインドも日々変化している。
ここでは一例として、飲食料品を挙げたい。ベトナムの飲食料品市場において、消費者は価格をこれまで重視してきたが、近年になり、高い品質、安全性、美味しさを以前にも増して求めるようになった。一部ではあるものの、産地偽装や法基準を満たさない食品が市場に出回る現状の中で、消費者が食品に対して安全性を求めるようになっている。
また、ベトナムと一口に言っても、地域によって食習慣や好みが異なる。例えば、北部では隣接する中国からの影響が強く、塩や醤油をベースとしたあっさりした味付け、塩辛い味付けが主流である一方、南部では1年中を通じて、気候が蒸し暑いため、疲労回復の効果がある甘辛い味付けが多い傾向があり、スパイスを使用した甘く濃い味、甘辛い味が好まれる。また、中部では唐辛子をベースとした辛い味付けが主流であり、ベトナム国内でも地域によって全く嗜好が異なっている。
また、現地の嗜好に合わせたローカル化も重要な要素の1つであると考えている。例えば、ベトナムで事業を拡大する日系某外食チェーンは自社の最大の強みである味付けをベトナム人の味覚と合致しないという理由で排除し、トッピングを売りにして客単価を上げる等、マーケティング手法を現地向けに合わせることで、ベトナム消費者にも受け入れられていったと言われている。
飲食料品の例以外でも、健康意識の高まり、生活習慣病の拡大による健康食品へのニーズの高まり、運動不足によるスポーツ用品への需要増等、消費者ニーズ、嗜好トレンドは日々変化を続けているうえ、地域や年代、性別によっても嗜好は大きく異なっている。
まとめ
上記を踏まえると、ベトナムでの事業展開の成功要因は、ベトナム消費者の需要や嗜好を事前に把握し、ベトナム消費者の嗜好に合わせた事業展開(ローカル化)をしていくことだと結論付けられる。ベトナム市場をリサーチする上では、既存のレポートや統計だけを見ていても、机上のデータが必ずしも実態を反映しているとは限らない。特にベトナムの場合、政府機関が公表する統計やレポートでも、実態を正確に反映していない可能性も高い。
ベトナム消費者を対象とした定量調査、定性調査を個別に実施していくことが重要になるであろうし、ベトナム消費者への理解を深めることが、引いてはベトナム市場での事業展開の成功に繋がるであろう。
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