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ベトナム小売市場で日系企業が苦戦するワケ:外資規制の回避方法

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ベトナム小売市場で日系企業が苦戦するワケ:外資規制の回避方法

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このレポートのサマリー
  • ベトナム小売市場は急速な経済発展を背景に、ポテンシャルは高いものの、多くの外資系企業が苦戦を強いられている
  • ベトナム小売分野では外資規制の存在。特に、ENT(Economic Needs Test)が大きな参入障壁となっているが、2024年に撤廃される見通し
  • テナント出店と路面店出店のメリット・デメリットを理解することが重要。また、現状でもENTを回避する方法は存在する

本レポートは2022年7月4日に加筆・修正を行いました。

はじめに

ベトナムは1億人規模の人口と安定した経済成長から、様々な国の企業が市場として有力視している。

ベトナムの消費市場のポテンシャルは高く評価されているが、ベトナム小売市場に進出する外資系企業は苦戦を強いられているケースが散見される。実際のところ、撤退も多い。

この記事では、小売チェーンを中心になぜ外資系企業がベトナム市場で苦戦しているのか、そして参入障壁の打開策について詳しく解説していきたい。

ベトナム消費市場の成長性はホンモノか?

ベトナム経済は新型コロナが発生する以前、年率6~7%の経済成長を維持してきた。新型コロナが発生した2020年では東南アジア諸国のなかで唯一のプラス成長を維持した。ベトナム統計総局によれば、2020年の実質GDP(国内総生産)成長率は2.91%であった。

ベトナム国民の所得水準は増加し続けている。2021~2022年頃にベトナムの一人当たりGDPは3,000ドルを上回る見込みだ。一般的に国民1人当たりのGDPが3,000ドルを超えると、国民の自動車や大型家電、家具といった耐久消費財の購入意欲が急速に高まると言われている。

以下の図表はベトナムの一人当たりGDPと小売市場の売上高の推移を示したグラフである。一人当たりGDPが初めて1,000ドルを上回った2008年以降は、特に小売市場の売上高が急成長している。2008年から2019年までの18年間における一人当たりGDPの年平均成長率は8.12%であったが、同期間における小売市場の売上高の年平均成長率は15.3%に及んだ。2019年時点で小売市場の売上高は約17兆円の規模に達している。

ベトナム小売市場徹底の事例:外資系小売業者

事例①フランス大手スーパーマーケットAuchan

フランスの大手スーパーマーケット小売業者であるAuchanは世界17の国と地域に4000の拠点を持つ多国籍企業である。2015年の創業以来、主にハノイやホーチミン市、南部のタイニン省など18カ所で事業を拡大してきた。しかし、Auchan Retailの最高経営責任者であるEdgar Bonte氏は、ベトナムで18の赤字店舗を売却することを決定した。これらの店舗は2018年に5040万米ドルの収益を上げたが、依然として赤字が続いていた。

2019年、ホーチミン市商業合作社(サイゴンコープ=Saigon Co.op)はAuchanの買収を発表し、Auchanが展開してきた18店舗および、オンラインショップを引き継いだ。

商品の価格は全体的にリーズナブルで、フランス発祥ということもあり、フランスパンが多く売られている。https://clickandshop.altervista.org/partnership-strategica-per-lecommerce-tra-auchan-retail-vietnam-e-lazada/?doing_wp_cron=1635320214.5348269939422607421875

事例②ドイツ系卸売り流通大手METRO

ベトナム全国でスーパーチェーン「メトロ(Metro)」を展開していたドイツ系卸売り流通大手METROも2015年にタイの富豪チャローン・シリワダナパクディ氏率いる大手財閥TCCグループ(TCC Group)に買収された。買収されるまで、メトロC&Cは2002年にベトナムへ参入し、ベトナム全国で「メトロ」19店舗を展開していた。

地元報道によると、ベトナムで12年間営業してきたMETRO Cash&Carry社は、2010年には1160億ベトナムドン(498万米ドル)の利益しか上げておらず、残りの数年間で890億ベトナムドン(382万米ドル)から1600億ベトナムドン(688万米ドル)の損失を計上している。

メトロは会員制のスーパーのため、顔写真付きの会員カードを作る必要がある。https://vietq.vn/hoan-tat-chuyen-nhuong-metro-cash–carry-viet-nam-d79838.html

事例③マレーシア百貨店大手パークソン

マレーシアのParkson Holdings Berhadの子会社であるパークソンの小売事業は、競争が激化するベトナム小売市場において、同業他社と比較して業績が低迷していると伝えられている。

パークソンは2005年にホーチミンに1号店をオープンし、外資系百貨店としてパイオニア的な存在である。その後北部のハノイにも進出したが、経営不振により店舗閉鎖・売却が続いた。現在は北部での店舗運営からは撤退し、ホーチミン近郊に経営資源を集中させている。事業を縮小させる形となった。

一方で、2019年にはユニクロのホーチミン1号店がパークソンに入居しており、復調のきっかけになると考えられる。

https://www.rli.uk.com/parkson-vietnam-revamps-ho-chi-minh-city-flagship/

外資規制:エコノミック・ニーズ・テスト(ENT)は2024年に撤廃される

ベトナム小売市場への参入において、外資系企業にとって大きな参入障壁となるのが、外資規制の1つであるエコノミック・ニーズ・テスト(ENT: Economic Needs Test)の存在である。ENTとはEconomic Needs Test の略称で、日本語では 「経済合理性テスト」 とも称される。ENTとは簡潔に説明すると、外資系企業がベトナムで2店舗目以降の店舗を設置する場合、小売店舗設置許認可の発行権限を有する管轄のベトナム当局から許可を取得しなければならないというものである。

ベトナムでは依然として家族経営の小規模な小売店舗(トラディショナルトレード)が多く、そうした現地企業への保護、配慮もあり、小売事業ではライセンス取得やENTといった外資規制が根強く存在する現状だ。

ベトナムにおいて卸売業・小売業は、2009年より外資100%での参入が可能であるが、その活動の一部は制限されている現状である。ベトナム法規定(政令23号、通達8号、および決定10号)によれば、小売業について、第1店舗の設立を許可された業者は、2店舗目以上の開設に当たり、小売店設立認可書発給申請手続きを必要とすると定められている。

外資系企業が多店舗展開する際に必要とされるENTの審査基準について、通達No.08/2013/TT-BCT(2013年4月22日付)によれば、ENTの審査基準は、出店予定地域の小売店舗数、市場の安定性、人口密度などから構成される。この通達では、地域対象は省・中央直轄都市から区・群レベル規模に縮小された。

また、省・中央直轄都市による商業マスタープランがあり、インフラ建設が完了している地域において、500平方メートル未満の面積で2店舗目以降を出店する場合には、ENTの実施は不要である。ただし、同商業マスタープランが変更になった場合には、適用されないので注意が必要である。

但し、CPTTP条約により、ENT規制は、2024年1月14日には撤廃される予定だ。勿論、ベトナム政府が必ずこの計画通りにENTを撤廃するかは鵜呑みにできない。

それでは現時点ではどのような打開策が想定されるだろうか。

打開策①出店形態・出店地域に関する長期的な店舗展開の戦略策定

1つ目の打開策としては、最も基本的なことであるが、ベトナム市場に進出する際には事前に長期的な出店戦略を綿密に検討することだ。小売業者がベトナム市場に進出する場合、テナント出店と路面店出店の2つが主に想定される。それぞれにデメリットとメリットが存在する。以下では、それぞれのメリットとデメリットについて解説したい。

テナント出店のメリット・デメリット

テナント出店は主にショッピングモール、大型商業施設での出店が想定される。ベトナム市場でテナント出店するメリットは、テナント入居に関する手続きは路面店での出店と比較すれば複雑ではないことだ。ただし、デメリットとして、賃貸料、管理費が比較的高い傾向にあるということが挙げられる。また、運営方針においては、モール運営会社の規定に従う必要がある。ベトナムで既に知名度があり、集客力も高く、交通アクセスがいい商業施設にテナント出店することは売り上げにつながるポジティブな要素である。一方で、コスト増大の傾向が高く、うまくコントロールすることが重要になる。また、固定費として賃貸料に店舗管理費や光熱費が含まれており、コントロールできる経費は人件費など、選択肢が狭まらないように注意する必要がある。

路面店出店でのメリット・デメリット

路面店での出店においては、主に都心部での出店と郊外での出店に分類できる。路面店でのメリットとしては集客力が高い、お店のブランドイメージやこだわりを表現しやすい、宣伝効果が高い、営業時間の規制を受けにくいといった一般的なメリットがあるが、ベトナム市場で言えば、土地の使用権を取得すれば、将来的なキャプタルゲインを見込めることが大きいだろう。ベトナムでは土地の所有は認められていないが、土地の使用権は50年にわたって付与される。経済成長に伴い、土地・不動産価格も上昇しているため、土地の取得をおこなう上でのメリットも大きい。

一方で、土地取得に関する複雑な手続きや権利関係をクリアしなければならないというデメリットも存在する。現地市場、ネットワークに精通したエキスパートに依頼するとよいだろう。

打開策②現地パートナーと提携して、ENTを回避する

2つ目の打開策は現行の法規定(ENT)をうまく回避することだ。具体的には現地パートナー会社と合弁会社を設立して、2店舗目からフランチャイズ展開を行う方法だ。この場合、2024年のNFT撤廃を待つ必要はない。この手法はすでに実施されている手法であるが、信頼の置ける現地パートナーの探索が必要となる。パートナーシップがより重要となる手法であるため、自社の方針と合致するクレジットの高い企業を探すことがポイントとなる。

結論:小売分野の外資規制は回避可能

ベトナム消費市場は確かに長期的な成長性は高いが、現状では外資規制が大きな参入障壁となっている。具体的にはENTであるが、2024年には撤廃される見込みだ。ベトナムでは突然の方針変更も想定されるため、この計画を鵜呑みにはできない。ただ、ENTを回避する方法も存在する。

事前の正確な売り上げ予測、コスト予測が重要であることは言うまでもない。但し、ベトナム市場への深い理解と現地ネットワークが欠如しているために、自社が採用できる出店戦略の選択肢の幅が狭まってしまうことはできる限り避けていきたい。ベトナム市場での事業展開であれば、ベトナム市場に精通していること、豊富なネットワークを有するプロフェッショナルなメンバーをチームに入れることが重要であることは間違いない。

ベトナム小売市場への進出を検討されている企業様におかれては、ぜひONE-VALUEまでご相談頂ければ幸いである。

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