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第2回│ベトナム政府の持続可能な森林の発展方針~木質ペレット認証制度について考える~

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はじめに

日本国内でのバイオマス発電の発展を背景に、2018年頃から日本におけるベトナムからの木質ペレット輸入は増加している。2022年には、日本のベトナム産木質ペレットの輸入量は約218万トンに及び、日本全体の輸入量の53.5%を占めることとなった。

ベトナムでは林業や木材・木製品の製造が主要な産業の一つであることから、間伐材、林地残材、端材等木質ペレットの原料が存在している。他方、ベトナム政府は国策として、持続可能な森林の開発を積極的に推し進めている。例えば、FSC認証の取得やベトナム独自の森林認証制度の整備、世界自然保護基金(WWF)への加盟など、様々な森林保護に資する政策を実施している。

本レポートでは、前回記事「ベトナム産木質ペレット・森林認証制度に関する考察と事実の整理」に引き続き、ベトナム産木質ペレットの動向について事実の整理と考察を行いたい。具体的には、ベトナム政府による持続可能な森林開発の政策動向、ベトナム産木質ペレットの生産動向についても事実ベースで考察していきたいと考えている。

【今後ベトビズで扱う記事テーマ】

  • 第1回目:ベトナムの森林認証の概況と林業概況
  • 第2回目(本記事):ベトナム政府の持続可能な森林の発展方針、認証済み木質ペレットの生産ポテンシャル
  • 第3回目:ベトナムによる木質ペレット輸出産業の動向と森林認証
  • 第4回目:日本企業がベトナムの木材業界に参入する際の重要ポイント解説、ベトナム企業の監視方法

第2回目の本レポートでは、ベトナムにおける持続可能な森林の発展と認証済み木質ペレットの生産ポテンシャルに焦点を当てて詳しく解説していきたい。

ベトナムにおける持続可能な森林発展の状況

1990年代頃から、ベトナム戦争及び戦争後の経済回復に伴う森林伐採により、ベトナムの森林面積・資源量は大きく減少した。その際に、ベトナム政府は森林の回復のため、多くの森林開発に関する政策を実施した。主な例として以下の政策が挙げられる。

  • 農民へ林地を割り当てる政策
  • 田や畑にするために森林を燃やすことを禁止。森林を明確に保護する政策の制定
  • ベトナム全国での植林活動の実施・推進
  • 産業用の人工林を育むための林地を企画・整備する政策
  • ベトナム全国で1000万の樹木を植林するスローガン
  • 天然林の伐採を全面的に禁止する政策 など

上記のような様々な森林開発・回復の政策の効果として、ベトナムでは人口林の面積および全国の森林被覆率が毎年増加する傾向にある。人工林の面積は2015年から2021年にかけて17%増加し、457万ヘクタールに達する。全国の森林被覆率は40.8%から42.02%に増加した。

現在確認できる統計の限りでは、ベトナムの森林開発・保護政策により、2011年~2020年には、ベトナムにおける森林被害面積は減少傾向にある。

2011年~2015年の時期には、ベトナム全国における年間の平均森林被害面積は2,924.2ヘクタールであった。しかし、2016年~2020年の時期において、年間平均森林被害面積は2,347.9haであり、前期と比べると20%減少したことになる。これはベトナム政府が国の産業である木材・木製品加工業、林業を保護し、持続可能な発展を継続させるために、施策を実施した結果でもある。

ベトナム政府による持続可能な森林の発展方針

戦争等を原因で過去に多くの森林を失ったベトナム政府は、早い段階から持続可能な森林開発の問題に注目してきた。2007年2月に、ベトナム政府首相が決定No. 18/2007/QD-TTgを発行し、持続可能な森林開発の内容を含めた2006年~2020年のベトナム国家林業マスタープランを承認した。

2006年~2020年のベトナム国家林業マスタープランに続いて、ベトナム政府は2050年までのビジョンを持った上で、2021年から2030年までのベトナム国家林業マスタープラン(2050年のビジョンを持ち、2021年から2030年までのベトナム林業の開発戦略を定めた計画)を策定した。このマスタープランでは、持続可能な森林の開発に関する内容がより強化されている。具体的は、以下の目標が挙げられる。

  • 2030年までに、森林所有者・管理者が個人ではなく、組織である場合、森林の100%の面積が持続可能な手法で管理されること
  • 2021年から2025年まで天然林の10%の面積、 2026年から2030年までに20%の面積が持続可能な方法で管理され、森林の質を向上すること
  • 2025年までには50万ヘクタール、2030年までには100万ヘクタールの森林に対して森林認証があること

また、ベトナム政府は以下の方針で持続可能な森林の開発を推進している。

  • 国際基準に沿った森林認証の普及と持続可能な森林管理・開発を促進する。森林認証を取得するための持続可能な森林管理・開発には、地方政府機関、民間組織、森林の所有者・管理者、農民世帯等の積極的な参加を促進する。
  • 個人、世帯、コミュニティなどのそれぞれの対象に応じた土地の所有権、利用権、税金に関する詳細な規定を含めて、持続可能な森林管理・森林認証の普及に関する政策・技術ガイドラインを完成させる。
  • 持続可能な森林管理・開発に向けて、産業用森林の集中地帯の開発に注力する。 同時に、輸入木材への依存を最小限に抑えるために、木材と木製品の輸入をより正確に管理する。
  • 合法的かつ森林認証のある木材を使用して生産されたベトナムの輸出木材ブランドを構築する。

ベトナム国家林業マスタープランに基づいて、2022年7月12日にベトナム政府は決定No. 809/QD-TTgを発行し、2021年から2025年までの持続可能な林業の開発計画を承認した。この決定により、ベトナム政府は2021年から2025年の間、現在の森林面積を維持しながら、持続可能な森林開発を目指し、約42%の森林被覆率を達成することを目標としている。さらに、森林の質を向上させることも目標に含まれている。

ベトナム林業総局は、ベトナムの林業を管轄する最も上位の管理機関であり、2023年の年間計画を作成する役割がある。その中で、新たに90,000ヘクタールの森林認証取得を目標に掲げている。そして、各地域の農業・農村開発局に、持続可能な森林管理計画の作成および実施を指示する。VFCS/PEFC森林認証制度に従い、森林認証申請を効果的に実装するための指導と協力を行う。また、ベトナム天然ゴムグループ(VRG)と協力して、VFCS/PEFC森林認証制度に基づく認証される森林面積を拡大する。

このように、現在のベトナムでは持続可能な森林の開発は政府によって非常に注力されている。特に、COP26で宣言されたカーボンニュートラル(CO2の実質排出ゼロ)という目標を達成するために、ベトナム政府の国内CO2クレジット市場の開発や国際市場での森林由来のCO2クレジットの販売実証実験が、持続可能な森林の開発に積極的な影響をもたらすとされている。

今後、ベトナムにおいて森林認証のある森林の面積が増加することが考えられる。それによって、VFCS/PEFC/FSC認証を持つ木製品や木材の生産可能量も増加するだろう。

ベトナムにおける木質ペレットの生産状況

ここまではベトナム政府による林業関連の政策動向について解説してきたが、こうしたベトナム国内で栽培される植林は世界市場の木材、木製品、木質燃料の市場を支えている。

本記事の後半では、前回に引き続き、木質ペレットに焦点を当て、ベトナム国内で植林される林地から、どの程度の木質ペレットが生産できるのかについて見ていきたい。

ベトナムの木質ペレットの輸出状況

ベトナムは、世界規模で見てアメリカに次いで世界第2位の木質ペレット輸出量を誇り、ベトナム木材林産物協会の情報によると、その輸出される木質ペレットの原料のほぼ全てが国内林地由来である。主要輸出市場は日本と韓国であり、ベトナム政府の統計によれば、2022年には488万トンの木質ペレットを輸出した。そのうち、日本への輸出量は218万トンで、輸出総量の51%を占めており、毎年、日本への輸出量は輸出総量の40〜50%を占めている。

日本の木質ペレット輸入状況

日本は、2022年にはベトナムから218万トンもの木質ペレットを輸入しており、これは国別輸入先では53.5%を占める。

日本の木質ペレット輸入については、以下の図表のとおりである。

ベトナムにおける認証林の木材から生産される木質ペレットの生産可能量

ベトナムの木質ペレット産業において、原料となる木材の供給源については、次のように分類・整理できる。まずベトナム国内で伐採される木材を、FSC認証木材、PEFC認証木材、非認証木材に分類できる。

FSC認証木材とPEFC認証木材の中から木質ペレット生産に充てられる分が、ベトナムの認証林から生産される木質ペレットの最大生産可能量であるが、Vietbiz独自の調査では、これが約449万トンであると算出している。尚、当該最大生産可能量に管理木材(CW)由来の生産可能量は含まれていないことも付け加えたい。

ベトナムにおけるFSC認証木材面積、PEFC認証木材面積から林地の面積データを取得し、ベトナム林業に関わる複数の有識者から聴取し、面積当たりの木質ペレット生産可能量を推計した。

ベトナムの木質ペレットの生産ポテンシャル

ベトナムが年間あたり認定木材(管理木材を除く)を由来とする木質ペレットの潜在的に生産可能な量は449万トンと推計できる一方、実際の日本向け輸出量は218万トンである。

2022年10月、FSCはAVP社が販売した木質ペレットに数量の不一致の可能性がある為に調査すると表明したが、VietBiz独自の調査では、ベトナム林業の構造的な問題ではないと考えている。

また、ベトナムの木質ペレットの主な輸出先は日本と韓国であるが、認証林から生産された木質ペレットの輸入インセンティブとなるFIT制度の状況に異なる点がある。韓国では、森林認証のある木材製品に対して優先措置としてのFIT制度は存在せず、バイオマス発電においても認証木材であることは求められていない。一方、日本のFIT制度上はPEFC/FSC認証制度に代表される合法性証明を求めている。

つまり、日本は認証林から生産された木質ペレットを輸入する必要があるが、韓国はその限りではない。また、VietBiz独自の調査では、韓国が輸入しているベトナム産木質ペレットの多くが、安価な非認証のものである可能性が極めて高い。

この場合、日本がベトナムから輸入している木質ペレットの量が、ベトナムにおける認証済み木質ペレットの生産可能量に収まる規模であることを裏付ける1つの要素となる。

まとめ

本レポートでは、ベトナムにおける林業の持続可能な開発について大きく2つの視点から解説・考察した。前半では、ベトナムにおける持続可能な林業の開発について、ベトナムが注力するようになった背景や実際の施策、そして実際にベトナムの森林量が増加していることを解説した。

後半では、ベトナムの林地からどれだけの木質ペレット生産が可能であるかについての推計も実施した。

実際のところ、ベトナム政府は国土を代表する産業である木材、木製品加工業を持続可能なものにするために、その上流にある林業についても持続可能な開発を政策として制定し、実行している。

また、客観的な統計データ、専門情報を基に推計した、ベトナム国内における生産可能な認証材生産量を用いて、日本がベトナムから輸入している量を十分カバーできることも分かった。 ベトナムの林業に加え、そのサプライチェーンの下流に位置する木質ペレット製造・輸出事業についても健全な成長を遂げていることを強調しておきたい。

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