はじめに
ベトナムの外食業界の市場規模は2019年に2,000億米ドルにまで達し、前年の2018年から34.3%の増加となった。2020年および2021年は新型コロナの影響を受けたものの、ワクチンの普及やロックダウン政策が功を奏し、徐々にベトナムでも外出・外食も緩和されている。
現地報道によれば、コロナが終息した2023年には外食業界の市場規模は4,080億USDにまで達すると予測されている。今回は今後の成長に大きな期待が寄せられているベトナムの外食産業について解説していきたい。
ベトナムの外食業界の概要
ベトナムでは経済発展と所得上昇に伴い、様々な分野で消費者需要が伸びており、外食産業も同様の状況である。 もともとベトナムでは外食が好まれる文化があり、路上の屋台から高級なレストランまで、朝昼晩の時間を問わず大いに賑わっている。
Dcorp R-Keeper Vietnam社とStatistaのレポートによると、2020年時点でベトナムには540,000の飲食店、22,000のカフェ・バーがあると言われている。
ベトナム人の外食産業における消費
ベトナム統計総局の公表データによれば、ベトナムの外食市場(一部宿泊施設市場も含む)は2019年時点で586兆VNDとなっており、これは日本円に換算すると、約2兆7,559億円程度の市場規模となっている。ベトナムの外食市場は過去20年間にわたって概ね年間2桁成長を達成しており、今後も中間層や富裕層の拡大につき、市場は成長を続けるものと考えられる。
また統計によると、3つの都市における1人の消費者の1回の食事に費やされる平均金額は以下であると伝えられている。
ハノイ市:80,327 VND(約400円)
ホーチミン市:69,599 VND(約340円)
ダナン市:65,526 VND(約320円)
特に近年はベトナムの物価上昇に伴い、1回あたりの食費も上がってきている。
ベトナムにおけるコロナの状況
ベトナムでは2021年夏頃からのデルタ株流行により都市部にてロックダウンが実施され、飲食店のほとんども営業停止を余儀なくされていた。しかし2021年10月末現在、ワクチン接種率の上昇に伴い、コロナの感染流行も収まりつつある。ハノイ市を始めとする多くの都市ではロックダウンが解除され、飲食店も営業を再開し、以前の賑わいを取り戻しつつある。来年頃にはコロナも完全に終息し、外食産業がコロナ前と同じような活況を呈することになると予想される。
ベトナムの外食産業の特徴
飲食店の種類
ベトナムには庶民的な価格から高級レストランまで、またベトナム料理・洋食・和食などの様々なカテゴリーの飲食店が存在している。これらの飲食店は大きく2つに大別される。
個人経営の飲食店
まず一つ目は、個人や家族で経営される中小規模の飲食店である。こうしたお店は自分の家の1階部分を飲食店として使っている場合が多く、庶民的なお店が多い。ほとんどの場合、ベトナムの定番料理であるフォー、ブン(米粉で作られたベトナム風そうめん)、コムタム(ベトナム風定食)およびベトナムコーヒーなどのメニューが提供されている。
2016年5月にオバマ元アメリカ大統領が訪問して話題となった「フオンリエン」というお店も、個人経営のローカル飲食店であった。ちなみにこの「フオンリエン」はオバマ大統領の訪問後は「ブンチャーオバマ」と呼ばれ非常に有名となり、現在では観光バスが乗り付けることもあるという大人気店となった。これを受けて、ハノイの他の飲食店までもが「ブンチャーオバマ」の偽物の看板を立て始めると言うオチまでついた。
チェーン展開をする飲食店
二つ目は大規模な飲食店・レストランのチェーンである。このチェーンには大きく2つのタイプがあり、ベトナム独自ブランドをチェーン展開する場合と、海外ブランドをチェーン展開する場合がある。
ベトナム独自ブランドとして有名なチェーン店の一つに、「Pho 24」がある。同社はホーチミン市に本社を置き、ベトナム国内で22店舗以上を展開している大手飲食チェーンである。提供するメニューはベトナムの伝統的な料理「フォー」を中心としたメニューであり、牛肉フォーや鶏肉フォーなどの定番料理の他に、揚げ春巻きや、ベトナム風お粥などのサイドメニューも提供している。同社はチェーンならではの丁寧な接客、どの店舗でも同じ味を提供せきるというポイントで個人経営の飲食店との差別化を図っている。
また有名カフェ・チェーンの「Trung Nguyên(チュングエン)コーヒー」も、ベトナム企業がフランチャイズを全国展開させた事例である。同社のケースはベトナムでのフランチャイズ展開を始めた先駆的事例として知られている。
海外ブランドのチェーン展開では、マクドナルド、バスキンロビンス、ドミノピザ、バーガーキング、ロッテリア等の日本でもお馴染みのフランチャイザーが進出している。その中で日本のブランドも展開されている。例えばカレーでおなじみCoCo壱番屋はフランチャイザーとしてホーチミン市に進出しており、ベトナム現地企業がフランチャイジーとして経営を行っている。
ベトナムへの投資概要(参入手法)
外食分野において、日本企業がベトナムに参入する際の投資方法は、大きく2つに分類される。独資(100%日本からの投資)と、合弁(日本企業とベトナム企業両方の出資)、そしてフランチャイズである。本章では、この3つを解説する。
独資
他の産業では、外資が制限されている場合もあるが、外食においては外資100%での会社設立が可能である。独資の場合は自社で自由度の高い運営が出来るが、ベトナム現地にパートナーがいない場合、現地の商習慣について理解が遅れたり、関係する政府機関と良好な関係を築くことが難しくなる点等の懸念点がある。
合弁
合弁は、もちろん独資のように自由度の高い運営は出来ない。しかしベトナム参入においては大きなメリットがある。
日本の外食企業がベトナムに参入する時の強みは、調理手順の確立や店舗のオペレーション、人材育成などのノウハウである。しかし現地での最適なサプライチェーンの構築や、前述の商習慣への理解や関連政府機関との関係作りなど、ベトナム現地企業が強みを持つ部分も非常に重要である。
合弁は日本企業とベトナム現地企業それぞれの強みを活かすという点において、有効な手法の1つである。
フランチャイズ
日本企業がベトナムに参入する際に、最もメジャーな手法がフランチャイズである。具体的には、Yoshinoya International社(吉野家)やToridoll社など、多くの日本企業がフランチャイズを選択している。
ベトナムで外資企業によるフランチャイズ展開が活発になりだしたのは2007年ごろである。日本企業だけでなく、マクドナルド(米)やロッテリア(韓)、外食以外ではブルガリ(伊)やモスキーノ(伊)といったラグジュアリーなファッションブランドまで、様々な国の様々な業種の企業がベトナムに参入した。ただ、ベトナムのフランチャイズ市場の約40%が外食産業であり、市場で最大の割合である。これは外資企業によるベトナムへのフランチャイズ参入が有望であることの証左となる。
フランチャイズの関連法規定
まずフランチャイズの場合は、計画投資局への手続きは必要なく、商工省に対してフランチャイズ登録を行う必要がある。フランチャイズは商法でのみ規定されているので、契約や技術関連で不利益を被った場合に、フランチャイザーを保護する法規定が足りない点は留意すべきである。
ベトナムでは外資企業による市場参入が盛んに行われてきたが、上記の点以外でも、市場経済の発達に法整備があまり追い付いていないという課題がある。そのため、やはり法規制や商習慣への対応が比較的容易なフランチャイズによる参入がポピュラーである。
市場の主要なプレーヤー
以下では、ベトナムの外食産業における主要プレーヤーについて紹介していく。
Golden Gate Restaurant Group
2005年に設立された同グループは次々と独自のあるブランドを展開し、2020年までに、21のブランド、400店舗以上を運営している。
Red Sun ITI
2008年に設立されたRed Sun ITIは海外のフランチャイザーの店舗を複数運営している。
Jollibee Foods Corporation
タイ資本のJolibeeグループは、ファストフード店「ジョリビー」を約100店舗近く展開している。また同じくフィリピン資本のViet Thaiグループとの合弁事業としてベトナムの有名カフェチェーンの「ハイランドコーヒー」を運営していることでも知られている。また前述した「Pho 24」の株式を買収するなど、積極的にシェアを拡大している。
ベトナムの外食産業:コロナ影響と最新動向の【2022年版】:
日本食人気の高まり
現地報道によれば、カテゴリ別外食における顧客一人当たりの一食分支出額において、日本食への支出額は最も高く、日本料理はBBQや鍋料理、イタリア料理を上回っている。このデータによれば、ベトナム人は日本料理を外食で食べる際一人当たり270,000VND(約1,260円)支出するという。ベトナム統計総局によれば、所得が高い都市部においても一人当たりの月平均所得は5,624,000VND(約26,400円)程度であるため、現地消費者において、日本食レストランは上位中間層から富裕層がメインのターゲットとなるだろう。
一方で、JETROによれば、ベトナム人の食の嗜好の調査(2015)において、ハノイ・ホーチミン市に居住する 18 歳以上の男女 572 人にアンケート調査を行った結果、好みの国料理として最も回答が多かったのはベトナム料理であったが、ベトナム料理を除くと、全体では「韓国料理」が 51.9%で最も高く、次いで「日本料理」37.7%、「中国料理」27.3%と続いた。韓国料理はハノイの方がホーチミンよりも約 19 ポイント高かった。このことから、地域に応じた食の嗜好の違いはあるものと考えられる。例えば、北部は中国の影響を受けるため塩辛い、しょっぱい味付けが好まれる一方で、南部は甘い濃い味、中部は辛い味付けが好まれると一般的には言われている。
ベトナム人に人気の日本料理
また、同調査の「日本料理の認知度」については、全体では「寿司・刺身」(94.3%)、「うどん」(78.8%)、「焼き鳥」(72.9%)の順番で認知度が高いという結果になった。認知度上位である「寿司・刺身」、「うどん」はホーチミンの方がハノイよりも数字が高い。またホーチミンのたこ焼きの認知度はハノイよりも約 12 ポイント高いなど、都市によって認知度は異なっている。
安全性や品質がより重視される傾向
日本食そのものに人気があることに加えて、ベトナムでは日本式サービスが消費者の魅力をつかんでいる。ベトナムで人気がある高い日本料理レストランを見ると、他店にはないメニューのコンセプトや独自の店内のインテリアに加え、安全性、品質食材の使用を重視しているという傾向が読み取れる。新型コロナウイルスの感染拡大により、安全や衛生への意識が高まる中、日本料理レストランでは、安全の基準を順守し、高品質の食材を使っているだろうという消費者の信頼感がある。
オンラインフードデリバリー市場の勃興
一方で、オンラインフードデリバリー市場も高成長が続いている。2018年のベトナムのオンラインフードデリバリー市場の売上高は1億4800万米ドルで、平均成長率は28.5%/年となっている。 その中で、レストランから消費者への配達セグメントからの売上高は約1億1700万ドル(79%)であり、プラットフォームから消費者への配達セグメントの売上高は約3,200万ドル(21%)である。 2023年には全体で4億4900万米ドルに達すると推定されている。プラットフォームにおいては、ベトナムではGrab Foodが市場シェアの6割近くの市場シェアを握っているとされているが、Nowなどのその他のプレーヤーも存在している。
コロナはオンラインフードデリバリー市場の成長を後押し
ベトナム全土でロックダウンが発出された際には、人々は生活必需品の買い出し等の理由なしに外出することができなくなった。そこでニーズが増えたのがオンラインフードデリバリーである。コロナをきっかけに今後もデリバリー市場は順調に成長していくと考えられる。
飲食店を開業するまでの手続きフロー
飲食店を開業するためには、投資登録証明書(IRC)、および企業登記証明書(ERC)をそれぞれの省または市に対して申請する必要がある。その後、それぞれの省または市にある保健局に対して「食品安全衛生証明書」を取得する必要がある。
まとめ
経済成長、中間層の成長によりベトナムの外食産業は今後間違いなく急成長する業界の1つである。とはいえ、各国の外資企業がすでに参入をしている中で自社のビジネスを成功させるためには、ベトナム人の消費行動・嗜好を踏まえた上での戦略立案、競合調査は不可欠である。逆に言えばしっかりと事前調査・準備を行えば、ベトナムの外食産業は非常にポテンシャルのある業界であると言えるだろう。
【関連記事】ベトナムの外食産業についてはこちらの記事もご覧ください。
ベトナム市場の情報収集を支援します
ベトナム市場での情報収集にお困りの方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
VietBizは日本企業の海外事業・ベトナム事業担当者向けに市場調査、現地パートナー探索、ビジネスマッチング、販路開拓、M&A・合弁支援サービスを提供しています。
ベトナム特化の経営コンサルティング会社、ONE-VALUE株式会社はベトナム事業に関するご相談を随時無料でこちらから受け付けております。