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ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ

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ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ

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はじめに
この記事で伝えたいこと
  • ベトナムはアパレルの製造拠点としてだけではなく消費市場としても注目を集めており、世界トップクラスのアパレル企業も出店している。
  • ベトナムではSNSが非常に盛んで、ライブコマースに関しては日本よりも発達している。ベトナムでのWEBマーケティングの成功事例を学ぶことが肝要である。
  • ベトナムでは南北での気候区分の差異や、独特なライフスタイルへの適応が求められる。ローカライズされている要素が多いので、入念な調査設計が必須である。

はじめに①:アパレル製品の製造拠点が中国からベトナムにシフト

これまで、アパレル製品の生産は中国が主であった。しかし、中国での人件費高騰、政治の不安定さといったリスクが顕在化し、中国以外にも製造拠点を設け、リスクを減らそうと考える企業が多く現れた。この考え方はチャイナプラスワンと呼ばれ、アパレルに限らず多くの製造業で共通して見られる。その新たな製造拠点国として、多くの大手アパレル企業はベトナムに目を向けた。既に多くの企業がベトナムに製造をシフトしているが、このムーブメントは未だ健在である。

ベトナムに製造拠点を置くと、多くの利点がある。まず人件費は中国の2分の1が相場であり、最も大きな利点である。JETROの調査によると、中国の人件費の中央値が441米ドルなのに対し、ベトナムの人件費の中央値は216米ドルになっている。また、ベトナムは中国と4,550キロメートルの陸路で国境が接しており、多くの貿易協定が締結されている。

はじめに②:ベトナムは消費市場としても拡大している

前述のように、ベトナムでアパレルと言うと製造拠点というイメージが主流であるが、最近では消費市場としての注目度が非常に高くなっている。現在のベトナムは人口が毎年安定的に増加しており、平均所得も増加している。スマートフォンの普及率も高く、スーパーマーケットやショッピングモールだけでなくコンビニも順調に増加しており、ベトナム人の生活は非常に現代的になっている。それどころか、ECの盛んさや電子決済の割合などでは既に日本を凌駕している場合もある。特に人口に関しては既に1億人に達する寸前であり、2040年には日本を追い抜くと言われている。そんなベトナムのアパレル消費市場は、アジアでもトップの成長率とされている。事実、既に世界トップのアパレルブランドはベトナムに続々と参入している。具体的にはZARA、ユニクロ、H&Mなどが既に参入している。ユニクロのCEOである柳井氏は「ベトナムは大きなポテンシャルがあり、世界最大の消費市場の一つになると思う」と述べている。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベトナムのユニクロ
ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベトナムのユニクロ
出所:https://kenh14.vn/

ベトナムにおけるアパレル市場の現状

Statistaの調査結果によると、2019年のベトナムのファッションおよびアパレル市場の規模は56億米ドルと推定され、2019年から2023年の期間に年間平均8.8%の成長が見込まれる。ベトナムの大手ファッション企業Eliseの発表では、20〜45歳のベトナムの女性向けセグメントは、2022年までに約20億米ドルの価値を持ち、年間成長率は約30%になるとの見通しだ。

市場調査企業であるAsia Plusの調査によると、ベトナムの若者は衣料品への支出を大幅に増やしている。 調査対象者の26%は、月に2〜3回服を購入し、52%は、月に1回購入すると答えた。 加えて、今日のベトナムアパレル市場では、生産地不明の商品や模造品なども、地方を中心に多く購入されているため、実情としての市場規模は56億米ドルを上回っている可能性が高いと考えられる。

ベトナムのアパレル市場では、近年のZARA、H&M、Pull&Bear、Stradivariusなどのグローバルブランドの登場とともに、スタートアップ、M&Aが増加している。その中で、急成長の後に縮小あるいは倒産してしまった企業も多くあるが、生き残って成長し続けている企業は概ね新しい考え方や方法論を有している。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベトナムの知名度

グローバルブランドのベトナム市場参入

前述したファストファッションの大手3社以外にも、ベトナム市場には多くのグローバルブランドの注目を集めている。 かつてはベトナムで海外ブランドの製品を入手する場合は、外国にいる友人に頼んで代わりに購入してもらうという方法が主流であった。しかし現在では、ベトナム市場に外国ブランドが続々と登場しているため購入が容易になり、グローバルな有名ブランドとベトナム人の距離が近くなっている。 例えば、Chanel、Giovanni、ルイヴィトン、日本では懐かしいMangoなどの200以上の外国ブランドの製品がベトナム市場に参入している。これらのファッションブランドはベトナムに、世界水準の洋服を供給し、トレンドを創造している。 またこれらのブランドは、市場と消費者の価値観形成に大きな影響を与えており、今後のベトナムアパレル市場をより目の離せないものにしている。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:主要なアパレルショップ
ベトナムの主要なアパレルショップ

外資系アパレル企業の成功事例

ベトナム参入で特に目立った成績を上げているのはZARAである。ZARAはホーチミン市でも特に人気の巨大ショッピングモールであるVincom Dong Khoiに最初の店舗を開店し、2016年9月にベトナムに正式に参入した。 2016年末、つまりわずか4か月でZARA Vietnamは3,210億VNDの売上を達成した。これは、外国市場に新規参入した小売企業としては、過去類を見ないほどの好業績である。 2018年までにZARAの収益は約9,500億VNDになり、一日当たりの売上は53億VND /日に達した。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:アパレル業界の主要なプレーヤー

ベトナム国内ブランドの苦境

「外国ブランドが好き」というベトナム人の心理は、ベトナムブランドが衰退する要因の1つである。多くのベトナム人はまだ外国の製品が国内の製品より品質が良いと考えている。 したがって、外国の製品が国内製品の2〜3倍の価格であっても、消費者は外国の製品を購入する場合が多い。 特にベトナムのアパレル企業の多くは今でも家族経営のため、新しいトレンドを追うスピードが外国企業よりはるかに遅く、競争力は低い。

ベトナムのアパレル企業が、今後も国内市場に存在するために「ベトナム人は率先してベトナム製品を使おう」や「ベトナム製品のクオリティは外国製品に劣らない」というような宣伝をすると考えられる。将来ベトナム人の価値観が、海外ブランドではなくベトナム製品志向になれば、仕様の様相は一変するだろう。ベトナの有名ファッションブランドであるCOCO SINの創業者TRAN MAI HUONG氏によると、アパレル企業が抱える最も難しい課題はファッションのトレンドや新しいスタイルに追うことではなく、サプライチェーンとキャッシュフローを最適化することだという。ブランドの存続のために常に新しいデザインを作成すること、つまり新作が販売される度、すぐに次の新作に再投資するべきである。過程をアウトソーシングする場合、企業は常に製品の進捗と品質について受動的になってしまうので、自社の工場を所有するべきだと述べた。

ベトナムのアパレル市場における偽物問題

ここまでベトナムのアパレル市場の良い点を紹介してきたが、課題としては模造品の流通が挙げられる。前述のような外国ブランドの参入に伴い、主に中国やタイからの安価な模造品が市場に大きな影響を及ぼしている。 有名ブランドの製品に非常に似たデザインで、価格は半分あるいは3分の1程度で流通しているので、購入してしまう人は少なくない。 さらに現在、ベトナムではECが非常に発達している。オンラインショッピングでは偽物を見極めることがより難しくなる。特に悪質な場合は、偽物にもかかわらず本物の製品の画像を使って販売しているが、これも特段珍しいことではない。この現状を受け、ベトナム人消費者は「どうせ判別が出来ないから安い方を買おう」という考えに至る傾向がある。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:偽物と本物
ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:偽物と本物

ベトナムのアパレル業界で今後の成功の可否を決める要因

近年のベトナムではアパレルに限らず、SNSなどのマーケティング手法の重要性が高まっている。 これは製品のクオリティの差が小さくなっているからである。デジタルマーケティング企業であるWe Are Socialの分析データによると、2019年のベトナム人口は約9,700万人で、そのうち約6,400万人がインターネットとSNSを利用している。 ベトナム人は平均して1日6時間42分インターネットにアクセスしており、そのうち2時間23分はSNSを使用している。 ベトナム人は学習、仕事、生活などに関する情報をFacebookやInstagramでシェアすることが比較的多い。これらのチャネルを通じて広告や宣言を実施することは、アパレル企業の販売、マーケティングにとって効果的な機会だと考えられる。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベト案むECサイト
ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベトナムECサイト
ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベトナムECサイト
このライブは個人経営の衣料品店によるもの

しかし、SNSを利用したマーケティングは競合も多く、それ自体も非常に難しいので、結果が出ない企業もある。特に多い失敗要因は、投稿がブランド-顧客間の接触を生み出さないか、そもそも具体的で魅力的なマーケティング計画を設計できていないというものがある。それにより、SNS広告で消費者を「攻撃」しているという状況に陥ってしまうケースが多い。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ベトナムで人気のECサイト

ベトナムの大手アパレル企業CanifaのCEOによると、ファッションブランドのマーケティングを成功させるには、業界を理解し、自社ブランドのコア価値を理解することが重要である。 衣料は必需品としてだけでなく、嗜好品のようなイメージで購入される場合も多い。つまり顧客に自社ブランドに対するロイヤリティを形成することが肝要であり、アパレルの経営は価格だけではなく、製品の背後にある精神が非常に重要である。

アパレル製品のライフサイクルがますます短くなっているこの状況で、消費者の嗜好や習慣に関する調査を実施するのは重要である。実際に、グローバルなアパレル企業はビッグデータに大きな投資をしている。 ビッグデータの分析は、正確で無駄のない生産計画の策定に欠かせない。ベトナム人のITリテラシーは個人単位でみれば比較的高いが、企業単位ではあまりDXが進んでいない。この点はベトナムのアパレル企業の弱点の一つである。

代表的なマーケティング成功事例「CANIFA」

CANIFAは、現在7,000種以上の多様な衣料品を販売し、幅広い層の顧客を取り、ベトナムにおけるファッションブランドの中でも特に人気のある企業である。ここではCANIFAのマーケティング戦略を紹介する。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:CANIFA

オンライン販売チャネルを最大限に活用

ウェブサイトを通じて、CANIFAの製品を詳細に紹介して販売する。 ウェブサイトのデザインだけでなく、同社は比較的早い段階からSEO施策に取り組んでいた。また、オンラインカスタマーチャットボックスでは、顧客のすべての質問に直接に回答するだけではなく、それを通じて、消費者の注文も受け付けることができる。加えて消費者の注文から2日~4日間で自宅に届くような仕組みも構築している。

特定の製品メッセージ

CANIFA製品のスローガンは「Fashion of all」(すべての人のためのファッション)。このスローガンを体現するように、CANIFAの製品は年齢、性別、性格、収入に関係なく、すべての人の需要に対して、十分に対応できるな幅広さがある。もちろん、製品のサイズも幅広く展開している。

メディアを通じたブランドプロモーション

CANIFAはテレビ番組や公開イベントなどを通じて、ブランディングすることに注力している。同社は「Project Runway Vietnam」、「ド・レ・ミ」、「Vietnam Next Top Model」などの人気番組または慈善活動を後援している。また、「CANIFA ロイヤリティ」というイベントを定期的に開催している。そこではベトナム社会での関心が高まっている、「ベトナム人はベトナムの商品を使う」というメッセージを発信しており、その文化醸造に努めている。

ベトナムのEC、マーケティングの動向については、以下の記事で詳しく紹介しています。

ベトナム消費者のニーズ

2021年夏現在の状況

新型コロナの感染拡大により、ベトナム人の収入は一時的に減少している。ロックダウンも相まって、アパレル製品への支出も大幅に減少している。現在は、よりミニマルなアパレル製品の需要が高い。
ただし新型コロナウイルスの影響は、長く見積もっても1,2年程度であると考えられる。5年以上、中長期的に見れば、ベトナムのアパレル市場は非常に有望な成長市場だ。ベトナムの人口と平均所得が増加しているからである。

ベトナム特有のファッション感

ベトナム人は、住んでいる地域の気候に合わせながらファッションを楽しんでいる。洋服のデザインだけでなく、色や素材ももちろん重視されている。

ベトナムアパレル市場の大転換│製造拠点から世界トップの消費市場へ:ホーチミン特有のファッション

上記の写真は、ベトナムの南北におけるファッションの差異を紹介するものである。ベトナムの南部は赤道に近いので1年中熱く、四季は存在しない。一方で北部は、日本ほどハッキリとはしていないが四季があり、降雪も見られる。このような地域差は、ベトナムのアパレル市場を考察するうえでは欠かせない要素である。加えて、ベトナムではバイクに乗る人が非常に多いことも考慮するべきである。例えばスカートやワイドパンツは、バイクに適しているとは言えない。

今後メインとなる顧客層

今後のベトナムにおけるファッションビジネスの顧客は、いわゆる「ミレニアル世代」や「Z世代」と呼ばれる若者になる。これらの若者は、ベトナムで非常に人気のあるSNS(Facebook、Instagram、Tiktok、等)で、ファッションを通じて自分自身を表現することを好む。この世代は幼い頃から、環境保護、気候変動などに関する問題に触れているので、持続可能なファッションまたはファッションを通じて社会問題を緩和することに一定の関心をもっている。製品そのものだけでなく、これらのエシカルな付加価値は若者の消費行動に影響するだろう。

ベトナムのアパレル市場の今後

ベトナムはアパレル製品の生産地としてだけでなく、消費市場としても強大なポテンシャルを秘めている。日本のアパレル市場は全盛期の3分の2以下の規模になっており、継続的な縮小傾向にある。しかし世界的にみればアパレルは成長産業であり、ベトナムにおいても同様である。安定した人口増、若者が多い人口構造、平均所得の増加による富裕層・中間層の増加など、ベトナムのアパレル市場の有望さを示す要因は多くある。

このように、ベトナムのアパレル市場は有望であるが、未だ市場の様相は固まりきっていないと言えるだろう。世界最大手のZARAがベトナムに参入したのは2016年、世界2番手のユニクロが参入したのは2019年末、3番手のH&Mは2017年と、外資大手の参入は比較的最近の話である。ベトナムのアパレル市場は今後、さらなる参入・撤退・M&Aなどを通じて様相が変化していくだろう。

ベトナム人消費者の嗜好や流通形態、WEBマーケティングはかなりローカライズされている。南北での気候の違い、独特なライフスタイル、若者に人気のコンテンツなど、日本と異なる点は数多くあり、留意する必要がある。進出を検討する際のベトナム消費者の調査や現地の市場動向についてはぜひ、専門家に相談されたい。

ベトナムのアパレル市場に関しては別の記事もある。是非そちらも参照されたい。

終わりに

日本企業によるベトナムのアパレル市場進出においては最近になり、ますます加速していると筆者も日頃から肌で感じている。記事中でも述べた通り、ベトナム消費市場のポテンシャルを評価して、ベトナム進出を検討する日本企業が増えている。特に、EC販売については非常に関心が集まっている。

ベトナム消費者の嗜好・トレンドに関する調査、現地パートナーの探索、OEM委託製造など、ベトナムのアパレル市場でのビジネス展開をご検討の日本企業はぜひご連絡いただければ幸いである。

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