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環境・再生可能エネルギー

第4回│ベトナム木質ペレット企業のFSC認証ブロック解除に関する考察

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はじめに

ベトナムは日本の再生可能エネルギー促進を下支えしている国である。再生可能エネルギーを普及させたい日本は、主にバイオマス発電の燃料となる木質ペレットの調達を外国からの輸入に頼っている。国内需要の増加に対し日本産のコストの高さなどがネックになり、日本の木質ペレット自給率は10年間で57.7%から4.8%に減少した。そして、日本の木質ペレット輸入の53.5%がベトナムからの輸入となっており、ベトナムは日本の再エネ普及を下支えしている重要な国と位置づけられる。

ベトナム産木質ペレット・森林認証制度に関する考察を行う記事の第4回となる本記事では、シリーズの最終回として、2023年に話題になった、ベトナムの大手木質ペレットメーカーが虚偽表示の疑いで認証機関にブロック(認証停止)された一件について考察したい。

この件で特に議論すべき点は、3年間のブロックが通告された約1年後にブロックが撤回されたことと、経緯説明のリリースがやや曖昧なことである。本記事では、この事例について考察していく。

4回の記事のテーマは以下のとおりである。

第1回:ベトナムの森林認証の概況と林業概況 

第2回:ベトナム政府の持続可能な森林の発展方針・木質ペレット認証制度について考える

第3回:日本から見た木質ペレットの輸入状況

第4回(本記事):ベトナム木質ペレット企業のFSC認証ブロック解除に関する考察

顛末の整理

本章では、本件の流れを時系列別に再度整理する。

2022年6月:
FSC認証が、ベトナムの大手木質ペレットメーカーであるAVP(An Viet Phat energy)社に対し、「大量の木材について意図的な虚偽表示を行った」として、認証をブロック(停止)した。

2022年10月:
FSC認証が同社に対し、ブロックの期間を3年半と通告した。

2023年12月:
FSC認証は同社のブロックを解除し、同社はFSC認証に復帰した。

2024年1月末:
FSC認証が本件の経緯についてリリースを掲載

このように、AVP社は1年半の間認証をブロックされ、日本企業を含む多くの木質ペレット購入者も影響を受けた。また、留意点として、この期間中に当該企業はPEFC認証にはブロックされていない点が挙げられる。PEFC認証は世界最大の国際森林認証であり、認証林面積はFSC認証よりも大きい。

FSC認証への復帰

AVP(An Viet Phat energy)社が、FSC認証に復帰したことは、FSC認証の公式ページから確認できる。同社は以前からFSC認証を取得していたが、ブロック解除に伴い認証を再発行という形になったため、認証開始日(Date From)が2023年12月21日となっている。

FSC Certificates Public Dashboard

FSC認証による経緯説明

FSC認証は、ブロック解除の約1か月後である2024年1月23日に、本件の経緯について公表した。

参考:リリース全文
英語(原文)https://fsc.org/en/newscentre/integrity-and-disputes/fsc-lifts-the-blockage-on-an-viet-phat-energy
日本語版 https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/integrity-and-disputes/fsc-lifts-the-blockage-on-an-viet-phat-energy

FSC認証によると、本件のブロック解除は、当該企業が今後数年間に渡りFSC認証とASI(認証機関を第三者認定する機関)に対し追加の確認と情報開示請求に応じることを誓約することを条件とするものである。また、当該企業はFSC主導の検証活動へも協力する。

両者は、問題の根本原因の分析を行うこと、FSCの要求を満たすための方策を講じること、業界の信頼性回復に努めることを規定した覚書を締結しており、この覚書の履行を評価し、ブロック解除に至った。

FSC認証の経緯説明で曖昧な点

FSC認証が1月に公表したリリースでは、「当該企業が実際に虚偽表示を行った」ということが明記されていない。ここでは、リリース内の曖昧な点を挙げる。

まず、冒頭の書き出しは以下のとおりである。

(原文)“In December 2023, the Forest Stewardship Council (FSC) lifted the blockage that was placed on An Viet Phat Energy in 2022 for making false claims on a large volume of wood pellets they sold”
(日本語版)「当該企業は、2022年に大量の木質ペレットについて虚偽表示を行ったとしてFSCからブロックされていました。」

このように、「当該企業が虚偽表示を行った”として”」という表現に留まっている。「虚偽表示を行ったためFSCからブロックされていました」というような断定的な言い方ではない。

次に、ブロック解除に際して合意した条件に関する部分は、

(原文)Undertake a root cause analysis of the identified issue (false claims).
(日本語版)特定された問題(虚偽表示)の根本原因の分析を行う。

となっており、ここでも、あくまで「特定された問題」という表現に留まっている。

最後に、リリースのまとめの部分では、

(原文)The relevant company’s commitment to corrective actions, the verification of the same by their certification body, and their willingness to allow additional checks by the certification body aim to prevent the recurrence of a major non-conformity like deliberate false claims in the future.
(日本語版)当該企業による是正措置実施の姿勢、認証機関による是正措置の確認、そして当該企業が今後意図的な虚偽表示のような重大な不適合を再発しないために、認証機関による追加の確認を受け入れる姿勢がFSCによって評価されました。

となっており、「意図的な虚偽表示の”ような”」という表現になっており、先述した2点の表現と併せて、最後まで、当該企業の行為に関する記述に関しては、偽装があったことを断言しない、曖昧な表現で一貫しているようにとれる。

背景の考察

本章では、本レポートのメインパートとして、なぜこの事象が起こったのか、認証の構造的な観点から考察する。

状況が急転することは取引企業のリスク

考察の前提として、本件のブロック決定から解除までのような一連の出来事は、FSC認証木材の購入者にとって、今後も起こり得る大きなリスクであることを強調したい。ブロックが突然発表されること、ブロックされた後にも調査に時間を要すること、ブロック期間が3年と通告された約1年後にブロックが取消になることは、取引企業の調達戦略の策定に深刻な影響を与える。

エビデンスが無くてもブロックが可能

本件の最大の要因として、不正を行ったというエビデンスが無く、第三者が任意にFSCに対して調査依頼を提示することでブロック可能という特権がFSC認証にあることが挙げられる。「FSC認証木質ペレットの取引情報の照合調査は、アジアにおけるFSC認証木質ペレットの信頼性についての問い合わせや申し立てをFSCおよびASIが複数受領したことによって開始された」※と報告されている通り、エビデンスが見つかってからブロックするのではなく、見つけるためにブロックして調査を行う体制になっている。これは厳格な認証機能を保つためなので有効な制度であるが、事業者側から見ると、エビデンスのない段階でのブロックは該当企業とその関係者に対する機会損失が大きいと考えられる。その後の処分について状況が二転三転し、調達スケジュールが定まらないことも取引事業者にとってのリスクである。

※参考:リリース全文
英語(原文)https://fsc.org/en/newscentre/general-news/fsc-blocks-an-viet-phat-energy-for-making-false-claims-on-large-volumes-of
日本語版  https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/fsc-blocks-an-viet-phat-energy-for-making-false-claims-on-large-volumes-of-wood-pellets

このリスクは認証取得者の国籍や企業規模を問わず、FSC認証木材を調達する際に起こり得る、構造的なリスクである。

業界や個々の団体ごとに問題があるとは言えず、仕組みの問題

本件の結論の一つとして、本件からは、ベトナムの該当企業およびベトナムの木質ペレット業界全体の問題点は簡単に指摘できないという点が挙げられる。本件に関しては、まず当該企業に疑義があったとは推測されるが、最終的に処分決定から約1年で取消になったことを踏まえると、あくまでFSC認証という仕組みの問題であり、業界全体、あるいは国全体の課題として扱うことは適切ではないだろう。

シリーズ4記事全体のまとめ

本記事はベトナムの木質ペレット業界について解説・考察するシリーズの第4回目であり、ここまで約1年間に渡り記事を掲載してきた。

第1回では「ベトナム産木質ペレット・森林認証制度に関する考察と事実の整理」として、日本のベトナム産木質ペレット輸入が増加していることを背景に、林地面積や森林分布、輸出量を含むベトナム林業の基礎情報から、ベトナムにおける森林認証の概況を解説した。特に、各認証の違いや概要、確認省ごとの取得済みの林地面積、FSC認証の仕組みといった詳細な内容も解説しており、ベトナムの林業の概況とポテンシャルを明らかにした。

第2回では、第1回に引き続き、ベトナム政府の持続可能な森林の発展方針、認証済み木質ペレットの生産ポテンシャルという2つの軸でベトナムの木質ペレット業界を考察しつつ、事実を整理した。ベトナム政府の方針としては、ベトナムの持続可能な林業開発について、ベトナムが林業に注力するようになった背景や実際の施策、そしてベトナムの森林量が増加していることを確認した。
認証済み木質ペレットの生産ポテンシャルとして、ベトナムの林地からどのくらいの木質ペレットが生産可能であるか推計を行い、日本向けに輸出する余地が現状以上にあることを明らかにした。

第3回では、視点を日本国内に移し、日本から見た木質ペレットの輸入状況について整理・解説した。日本は2050年までの脱炭素を掲げており、再生可能エネルギーの発展は喫緊の課題である。再生可能エネルギーの中でもバイオマス発電は比較的注目されており、主な燃料である木質ペレットの需要も年々増加している。しかしながら、日本産木質ペレットの生産は増加しておらず、供給を輸入に頼っていることを整理した。また、本記事の要点であるFSC認証がベトナム企業をブロックした件に関連して、日本政府は輸入する木質ペレットには森林認証が必須と定めているが、認証の種類までは規定されていないことを述べた。

そして、最後となる第4回目の本記事では、第1回記事の時期から続いていたFSC認証がベトナム企業をブロックした件について、ブロックが解除されたことを受け、背景の考察を行った。この事例は、FSC認証に「調査のためにブロックができる」特権があるという構造の上で発生している。また、ブロック後の対応が二転三転した点も含め、FSC認証製品の購入者のリスクとして指摘した。ブロックされたベトナム企業の疑義も含め、これらの課題は業界、あるいは国全体としての課題と明言することは出来ない。


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