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環境・再生可能エネルギー

第3回│ベトナム木質ペレット考察:日本のバイオマス発電を下支え

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はじめに

本記事では引き続き、ベトナム産木質ペレット・森林認証制度に関する考察を続け、第3回目の記事では、日本側の視点から、ベトナムを中心に木質ペレットの輸入状況について考察したい。

日本国内ではバイオマス発電への投資が進んでいるが、燃料不足の問題から海外輸入が増加している。以前はアメリカやカナダなどの北米からの輸入が殆どであったが、近年になりベトナム産木質ペレット輸入が急増している。2018年頃からベトナム産木質ペレットの輸入量は増加し続けており、2022年には日本全体の輸入量の約53.5%を占めるようになった。林業資源が豊富なベトナムは日本向け木質ペレット製造への投資がここ数年で進んでおり、今後も海外向け輸出は続くと考えられる。
ベトナムは日本の再生可能エネルギー推進にとって、必要不可欠な存在となっている。

Vietbizでは、ベトナムの森林認証と木質ペレット産業に焦点を当て、4つのレポートで解説・現状の整理を行っていく。

本レポートは第3回にあたり、「日本の視点から見たベトナム産木質ペレット輸入」について解説する。

4つのレポートのテーマは以下のとおりである。
第1回目:ベトナムの森林認証の概況と林業概況 
第2回目:ベトナム政府の持続可能な森林の発展方針・木質ペレット認証制度について考える。
第3回目(本記事):日本から見た木質ペレットの輸入状況
第4回目:日本企業がベトナムの木材業界に参入する際の重要ポイント解説、ベトナム企業の監視方法

日本における再生可能エネルギーと木質ペレットの位置付け

再生可能エネルギー分野は日本にとって推進すべき重要な分野である。その再生可能エネルギーの中でもバイオマス発電は比較的注力されており、主な燃料となる木質ペレットの需要は高い。

世界規模で地球温暖化の問題に対応するため、脱炭素化の実現が求められている。脱炭素化とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスである二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることである。日本でも、環境省が「2050年までに年間で12億トンを超える温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること」を目標として掲げ、産業構造や経済社会の変革に取り組んでいる。この脱炭素化の実現には再生可能エネルギーの活用が必須である。

再生可能エネルギーは、化石燃料と違い比較的短期間で再生でき、枯渇せず何度も使うことができる。水力・風力・地熱による発電、森林の間伐材や家畜の排泄物などのバイオマス燃料を利用するバイオマス発電やバイオマス熱利用などがある。

こうした流れを受けて、再生可能エネルギーの利用促進のため、日本では2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が始められた。これは、発電した電気の買取価格を固定する制度であり、事業者から見れば高額な発電所建設コストの回収の見通しが立ちやすくなるメリットがある。これにより再生可能エネルギー分野に参入する事業者が増加し、それに伴ってバイオマス発電所も増加しており、そして燃料となる木質ペレットの需要も増加している。

政府が掲げる2030年度の電源構成の計画によると、バイオマス発電は全体構成比の3.7~4.6%程度まで引き上げられることが定められており、これは風力発電(1.7%)を上回る数値目標である。このとおり、再生可能エネルギーの中でもバイオマス発電は日本政府が注力して取り組んでいる分野であり、日本の木質ペレット需要増加の大きな理由となっている。

2050年までの脱炭素実現を宣言する菅元首相 出所:Reuters

日本は木質ペレットの調達を外国産に支えられている

日本が再生可能エネルギー及びバイオマス発電を推進する一方で、主な燃料となる木質ペレットの調達は、石炭とLNGと同様に輸入に頼っている現状がある。日本国内における木質ペレット需要の急増、高価な国内産、安価なベトナム産の台頭などによって、日本の木質ペレット自給率は減少しており、輸入木質ペレットの台頭が進んでいる。

日本の木質ペレット自給率は、ここ10年間(2012-2021)で57.7%から4.8%にまで減少している。国内での需要急増に対し国内での生産量がほとんど横ばいであるため、輸入木質ペレットが大幅に増え自給率を押し下げる形となっている。

急増した輸入木質ペレットの輸入先は、ベトナムとカナダが大半を占めている。次章からは、日本の木質ペレット輸入について、輸入先国や量など詳細に掘り下げて解説する。

日本による木質ペレットの輸入状況

日本による木質ペレットの輸入状況(輸入量や輸入相手国)について解説する。財務省の貿易統計のデータによると、日本はベトナムから最も多くの木質ペレットを輸入している。

日本による国別木質ペレット輸入量の推移を見ると、2019年頃からベトナムがカナダを抜いて大きく増加している。2022年におけるベトナムからの木質ペレットの輸入量は約220万トン、輸入額は55,216百万円、全体輸入量に占めるシェアは53.5%であった。尚、2022年はロシア侵攻・コロナウイルスの影響で、北米産木質ペレットメーカーの供給不調をベトナムからの代替調達に切り替えたことも起因し、統計上の輸入量が急増している。

ベトナムからの輸入が増えている理由

木質ペレットのベトナムからの輸入が増えている理由について、需要(日本国内)と供給(ベトナム)の観点から解説する。

需要(日本国内)の観点

ベトナムからの木質ペレット輸入が増加している日本国内の要因としては、日本産の木質ペレットの生産数量が限られていることが挙げられる。

国土の7割弱が森林といわれる日本は世界でも有数の森林大国であり、木材資源は豊富にある。しかし、少子高齢化が加速する日本では林業に従事する若者が減少し深刻な人手不足に陥っており、木材の生産量は減少傾向にある。結果として大規模かつ安定的に調達が可能なベトナム等の安価な海外産の木質ペレットが使われている。以前はアメリカやカナダなどの北米からの輸入が殆どであったが、近年になりベトナム産木質ペレット輸入が急増した。先述のとおり、2022年には北米ペレットメーカーによる代替調達活動に起因し、日本が輸入する木質ペレットの半分以上がベトナム産となった。

供給(ベトナム)の観点

ベトナムからの輸入が増えている理由として、供給(ベトナム)の観点からは、ベトナムでは林業が主要な産業であり、安価で安全な木質ペレットが増えていることが挙げられる。ベトナム産木質ペレットは日本の主要な木質ペレット輸入相手国であるカナダ、中国、タイ、マレーシア産の木質ペレットと比較しても価格競争力の面でも見劣りしていない。日本国産の木質ペレットの価格はベトナム産を始めとする輸入木質ペレットと比較して2~3倍とされており、バイオマス発電のコストの約7割を占めるのが燃料コストであることを考えれば、安価な海外産木質ペレットを使用する動機は大きい。

また、ベトナムはバイオマス資源が豊富にある。ベトナム国内には世界と比較しても多くの森林資源が存在している。ベトナムの国土面積は約3,300万haであるが、そのうち、森林面積は約1,400万haに及んでいる(森林率:約41%)。森林全体のうち、天然林が約7割、人工林が約3割を占めているが、2014年の首相決定により、天然林の伐採が禁止された。

ベトナム森林総局の統計によれば、ベトナムの人工林を樹種別にみると、7割近くをアカシアが占めており、その他にはユーカリやゴムといった樹種が人工林における大きなシェアを占めている。

また、ベトナムには製材所や家具工場が多くあるため、木材資源(木質ペレット)も豊富にある。

さらに、従来の森林資源に加え、これまでは有効活用されていなかった未利用木材である間伐材や林地残材、木材加工工場で発生する廃材やおがくず、建設廃材(建物取り壊し時に発生する廃材)、ゴム木廃材(※ベトナムは世界トップレベルの天然ゴム生産国であり、天然ゴムの採取が終わったゴム木を伐採して有効活用する動きがある)といった木材を活用した木質バイオマス燃料の製造が期待される。2035年にかけて、ベトナムではバイオマス燃料の潜在量、回収可能量、発電使用可能量は増加し続ける見通しである。

このように、日本国内の課題とベトナムの強みはマッチしており、日本は木質ペレットの調達をベトナムに頼っている。

日本の木質ペレット輸入と森林認証の関係

木質ペレットの調達を、ベトナムを始めとする外国に頼っていることに関して、日本政府の立場から見れば、法制度を整備し、税金を投じて事業者を補助しているので、輸入している木質ペレットの出所が合法であることが重要である。そのため、日本に輸入される木質ペレットは、森林認証制度によって認証された森林・木材から生産された木質ペレットでなければならないと定められている。

尚、日本に輸入される木質ペレットは森林認証を得たものでなければならないが、日本政府は認証の種類までは定めていない。

主な森林認証

現在、世界的な森林認証制度としては、主にPEFC認証とFSC認証の2つが挙げられる。両方とも世界的な森林認証制度であり、幅広い国や地域で適用されている。

世界全体での認証森林面積で比較すると、PEFC認証が約3億3000万haなのに対し、FSC認証は約2億3000万haである。日本国内においても、PEFC認証は約220万haなのに対し、FSC認証は約42万haとなっており、PEFC認証の方がややメジャーな森林認証制度であると言える。

まとめ

本レポートでは、主に日本による木質ペレットの輸入状況の動向について解説した。
日本は再生可能エネルギーの普及に注力しているが、バイオマス発電の燃料である木質ペレットについては既存の他燃料同様に海外からの輸入に依存している。自給率は年々減少しており、2021年にはベトナムとカナダからの輸入量が調達量(国内生産量+輸入量)全体の80%以上を占めた。ベトナムからの輸入が増加している理由は、日本国内の視点とベトナム国内の視点からの2軸で考えられる。日本の課題とベトナムの強みがマッチしており、日本は木質ペレットの調達をベトナムに頼っている。

日本政府は、海外から輸入する木質ペレットを、合法性証明を得て生産されたものに限定している。世界的な森林認証制度としてはPEFC認証とFSC認証が挙げられるが、日本政府はPEFC認証、FSC認証を含む複数の異なる合法性証明を認めている。

日本のバイオマス発電は、ベトナム産の木質ペレットに支えられている側面がかなり大きい。林業資源が豊富なベトナムは日本向け木質ペレット製造への投資がここ数年で進んでおり、今後も海外向け輸出は続くと考えられる。日本の輸入相手国として重要なベトナムの木質ペレットの製造について、今後の動向により注目したい。

本レポートは、ベトナムの木質ペレット産業について解説・整理するレポートシリーズの第3回目である。最終回となる次回は、「日本企業がベトナムの木材業界に参入する際の重要ポイント解説、ベトナム企業の監視方法」というテーマで、ベトナムの木質ペレット産業に対する日本企業のスタンスについて整理・解説する。

以上

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