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不動産・建設

【最新トレンド】ベトナムのグリーンビルディング:持続可能な都市開発を目指して

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以前のコラムでは、地場不動産大手のBRGグループと住友商事が主軸となって進めるハノイ市のスマートシティ開発を取り上げた。その中で、同開発は「Clean / Green」、「Safety / Security」そして「Connect / Mobility」の3つのコアバリューが掲げられていることを説明した。特に近年は「Clean/Green」のコアバリューは「持続可能な発展」という理念の下に、各国の都市開発でも多く取り上げられるようになっている。都市への人口の流入が進む共に、空気や水の汚染などの環境への影響が懸念されるようになっているが、IoTの活用や新しい技術により、環境への負荷を減らしながら発展を実現していこうという動きが加速している。また環境に配慮した都市開発は、企業にとっても社会的責任(CSR)を果たすためにも必要な取組である。そのような取り組みの中で近年ベトナムで注目されているソリューションの一つが「グリーン・ビルディング」である。今回は、環境保護に配慮した都市開発を行う「グリーンな成長」へのベトナム政府の取り組み、及び「グリーン・ビルディング」に焦点を当てて取り上げていきたい。

ベトナム政府のグリーンな成長に向けた政策

ベトナムはすでに日本や中国の経済発展の成功事例を目にしており、如何に環境への配慮と経済発展を両立していくかを深く検討している。

ベトナム政府は2014年3月20日付けで、2014年から2020年のフェーズにおける「グリーンな成長」に向けたアクションプランを策定している(No.403/ QĐ-TTg)。この中では「制度の設計とアクションプランの策定」、「温室効果ガスの排出を削減するためのクリーンなエネルギーの利用」、「グリーンな生産」そして「グリーンなライフスタイルと持続可能な消費活動」の4つの主要なテーマが定められており、その中でも、「グリーンな都市開発」は重要な取り組むべきテーマとして定義されている。

ベトナム政府は2016年11月3日にパリ協定を批准しているが、先んじて2015年9月29日には気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCC)事務局に対して、約束草案(INDC)と呼ばれる、2030年までに対策を取らない場合と比較して8%(国際的支援を得た場合には25%)の温室効果ガスの排出削減を行うという数値目標を提出している。また2016年10月28日には首相決定の法形式でパリ協定実施計画が策定されている(No.2053/QĐ-TTg)。2つのフェーズ(2016年から2020年と2021年から2030年)にて、関連省庁や地方政府等により実施されるべき68 の政策措置が規定されている。実施を必須とする政策措置を示すなど、優先順位をつけ、進めていくものである。またその実現のために、ベトナム政府はグリーンな都市開発に資するような設備投資への補助金、技術の無償提供などの政策を打ち出している。

グリーンな都市開発を実現するための「グリーン・ビルディング」

建築・不動産セクターにおいてグリーンな都市開発を実現するソリューションとして近年注目されているのが「グリーン・ビルディング」である。グリーン・ビルディングとは建築・運営の各段階において、それにかかるエネルギー・水などの資源の消費量を極力少なくし、建物全体の緑化や効率のより資材を用いることで、建物全体の環境性能が高まるように設計された建物である。「緑の建築物」、「サステナブルビルディング(持続可能な建築物)」などと呼ばれることもある。

グリーン・ビルディングのメリットは環境にやさしいことだけでなく、外見の美しさ、電力・水道などの維持コストの削減、建設・入居企業に対する評価の向上、また施設利用者の健康や生産性に好影響を与えるというメリットもある。

上の図はYCP Solidiance Research & Analysisの調査による、ベトナムにおけるグリーン・ビルディングの建築件数(建築中のものを含む)であるが、2017年の約60件から2019年の約250件へと年39%で増加をしている。

ベトナムのグリーン・ビルディング認定制度「LOTUS」

ベトナムのグリーン・ビルディングの基準としては、ハノイ市にあるNGO法人「ベトナム・グリーン・ビルディング協会(VGBC)」が行っているLOTUS認証制度が挙げられる。このLOTUS認証制度は、元々アメリカ・グリーン・ビルディング協会(USGBC)が創設した建物の環境性能の評価制度「LEED」が世界標準の環境認証として浸透していた。ベトナムはこの「LEED」に加えて、欧州の年金基金が創設した「Global Real Estate Sustainability Benchmark(GRESB)」が認証する「グリーン・スター」、英国の認証制度「BREEAM (BRE Environmental Assessment Method)」などの内容を基に、VGBCが独自に作り上げたものである。

LOTUS認証制度では「エネルギー」、「水資源」、「材料・廃棄物」、「健康・快適性」、「立地・環境性能」、「プロジェクト管理」、「その他の取り組み」の7つの項目により評価される。これらの項目により採点された建築プロジェクトは、ポイントの高い順に「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」「認証」の4つのレベル付けが為される。またこれらの認証は新築の建物だけでなく、すでに建築されておりこれから改修されるようなビル・戸建てにも適用される。

上記は近年にLOTUS認証を受けた2つの建築物である。まずは米国系インターナショナルスクールである「コンコルディアインターナショナルスクールハノイ」では、エネルギー利用の削減率の他、敷地内における換気システムや日光の入る設計など、入居者の快適性が守られている点が大きく評価されている。続く国連がハノイに建設した「国連グリーンハウス」ではソーラーパネルの設置や環境に優しい塗料の仕様の他、内部で働く職員に紙コップやストローなどを使用させないような行動規範を導入したことが評価されている。

このようにLOTUS認証制度は、建築物そのものだけでなく入居する人間の快適性や、実際の運営の詳細な中身までを評価項目としていることがポイントである。

まとめ

本レポートでは、まずベトナム政府が環境を守りながら経済発展を実現していく「グリーンな成長」のための様々な取り組みを見てきた。そこではパリ協定への批准という国際的枠組みへの参画も含まれており、政府が本気で環境保護に注力していると理解できる。

また都市開発という枠組みで「グリーンな成長」を実現するための取り組みとして「グリーン・ビルディング」を取り上げた。これはエネルギーの節約や廃棄物の削減等の建物自体の環境性能だけでなく、そこに入居する人々の快適性や健康にも焦点が当てられていることを確認した。

今後、ベトナムだけに限らず途上国で開発を行う企業にとっては、環境に対する企業の社会的責任(CSR)が強く問われることとなる。またグリーン・ビルディングの取り組みは、環境保護だけでなく維持・運営に係るコストを中長期的に削減することが可能であり、また企業への評価も向上することが望まれることから、経済的便益ももたらす取り組みであると言えるだろう。

こうした動きは今後、ベトナムで開発を行う企業だけでなく、グリーン・ビルディングを実現するための技術や原料をベトナムで展開することができるというポテンシャルを抱えている。今後、グリーン・ビルディングだけでなくベトナムの環境への取り組みを日本企業は特に注視していく必要があるだろう。

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