はじめに
アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領は現地時間の4月2日、すべての国と地域からの輸入品に対して10%の基準関税を課すと発表した。また、アメリカに対して貿易黒字を計上している数十カ国に対しては、より高い関税が適用されることになり、ベトナムからアメリカへの輸入品の90%には46%の関税が課されることになる。

アメリカの税制政策:全貿易相手国とベトナムへの対応(2025年4月2日更新)
トランプ前政トランプ大統領のこの政策は、アメリカの国内経済を保護し、国の貿易赤字を改善することを目的としている。その他にも、中国(34%)、台湾(32%)、タイ(36%)、カンボジア(49%)、日本(24%)、インド(26%)などの国にも高い関税が課されることとなる。しかし、アルミニウム、鉄鋼、アメリカにはないエネルギーや鉱物などの一部製品には新たな関税が適用されない。10%の基準関税は、4月5日午前12時1分(米東部時間)、より高い税率は4月9日午前12時1分(同)から適用される。
図表 アメリカの輸入関税の対抗措置の一覧
アメリカに対し各国・地域が課しているとする関税(%) | アメリカが各国・地域に課すとする関税(%) | |
China | 67% | 34% |
European Union | 39% | 20% |
Vietnam | 90% | 46% |
Taiwan | 64% | 32% |
Japan | 46% | 24% |
India | 52% | 26% |
South Korea | 50% | 25% |
Thailand | 72% | 36% |
Switzerland | 61% | 31% |
Indonesia | 64% | 32% |
Malaysia | 47% | 24% |
Cambodia | 97% | 49% |
United Kingdom | 10% | 10% |
South Africa | 60% | 30% |
Brazil | 10% | 10% |
Bangladesh | 74% | 37% |
Singapore | 10% | 10% |
Philippines | 34% | 17% |

出所: VNExpress
アジア地域およびベトナムへの関税政策の影響
アメリカの税制政策は、特に中国、日本、韓国、ベトナムなどの主要経済国に広範囲な影響を与える。この国々はアメリカの重要な貿易相手国であり、新たな関税はそれらの国々の輸出能力に直接的な影響を及ぼし、製造および貿易戦略に大きな変化をもたらすことになる。
ベトナムにおいて、46%の関税は、繊維、靴、電子機器、消費財などの主要な輸出産業に小さくない影響を与える。ベトナムは現在、繊維、靴、電子機器、電子部品などの分野でアメリカに商品を輸出しており、このような高い関税が課されることで、輸出製品の価格が上昇し、企業が利益を維持したまま、他国と競争するのは難しくなる。

出所: Kinhte&Dothi
ベトナムでの生産における重要な要素の一つは、低い労働コストと競争力のある生産コストである。しかし、ベトナムからの輸入品に対する関税が増加すると、アメリカの消費者にとってのコストが上昇し、それが消費需要に影響を与え、アメリカ市場におけるベトナム製品の競争力に影響を及ぼす可能性がある。これにより、ベトナムの企業は代替市場を探すか、コスト増加を補うために製品の付加価値を高める必要が生じるかもしれない。
また、この関税政策は、グローバルなサプライチェーンにも影響を与える。現在、ベトナムで生産活動を行っている多くの企業は、アメリカから高い関税が課されている国々から原材料を輸入している。そのため、関税の増加は原材料コストを引き上げ、生産コストを適正に維持する企業に影響を与え、製品コストの増加を引き起こすことになる。さらに、この変化は、グローバルなサプライチェーンの構造に変動をもたらし、大手企業の戦略に調整を求める結果になる可能性がある。特に製造業や輸出業においてはその影響が顕著である。
輸出入の面では、ベトナムはアメリカへの輸出品の需要減少に直面することとなり、主要な産業の輸出推進力が低下することになるだろう。ただし、農産物や加工食品のような一部の産業は、アメリカがこれらの製品に対して新たな関税を課していないため、影響が少ないと考えられる。
図表 ベトナムからアメリカへの主要な輸出品目

アメリカの利益を最優先する「アメリカ第一主義」を掲げ、パリ協定からの離脱や世界保健機関(WHO)からの脱退表明など、国際協調よりも自国優先の姿勢を示した。
ベトナム政府の対抗政策
このような状況に対するベトナム政府の主要戦略の一つは、アメリカ向けの輸出品に対して代替市場を探すことである。ベトナムは、EU、日本、韓国、ASEAN諸国などの主要な市場との自由貿易協定(FTA)の交渉を強化し、貿易拡大を図ることができる。

優遇融資プログラム、物流インフラの支援政策、国内の税制改革などもベトナム政府が実施し得る対応である。繊維、靴、電子機器などの主要な製造業は、これらの支援を受けることで競争力を維持し続けられる。
また、ベトナム政府は製品の品質向上と生産コスト削減に注力する必要がある。これには、技術革新や研究開発への投資強化が含まれる。この取り組みは、ベトナム製品の付加価値を高め、国際市場での競争優位性を生み出し、高い輸入関税に直面しても競争力を維持する助けとなる。
さらに、ベトナムはアジア地域の他国との投資プロジェクトでの協力を強化するであろう。地域内のパートナーとの関係強化は、アメリカや中国といった主要貿易相手国への依存度を減少させる助けとなる。
加えて、ベトナム政府は国内産業の維持と発展に力を入れるべきであり、特に競争優位性のある分野である電子機器、高度な技術、加工食品産業を支援する必要がある。特に、加工業および製造業に投資する企業に対する税制優遇政策は、国内の生産低下を防ぐ助けとなるだろう。
結論
アメリカの輸入関税政策、特にベトナムに対する46%の関税は、ベトナムの製造業と輸出入業に大きな影響を与えるだろう。ベトナム政府は、代替市場の模索、製品の品質向上、企業の競争力維持を支援する柔軟な対抗措置を講じる必要がある。同時に、自由貿易協定の拡大や主要産業への支援を強化することが、アメリカの関税政策による負の影響を最小限に抑えるために重要である
ベトナム市場調査レポート販売|トランプ政権誕生とベトナム政治情勢への影響
※本レポートはトランプ大統領の新たな関税政策を発表に伴い、2025年4月3日に加筆を行いました。

レポート基本情報
– ページ数(企業紹介ページを除く)35pページ
– 発行年月日:2025年4月3日
– 発行:ONE-VALUE株式会社
– ファイル形式:PDF形式
– 価格:ページのフォームからお問い合わせください
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本レポートポイント
以下、レポートのポイントです。
▶ 米中貿易戦争がベトナム経済に与える影響について分析
アメリカとその同盟国は中国に対抗するためベトナムとの関係強化を図っています。 一方で、ベトナムは自国の利益を最大化すべく、米国寄りにはならず、バランスを取り、米国と中国の両方と友好関係を維持・発展する方針であることを本レポートでは解説しています。
特に、米中貿易戦争が激化することで、中国に拠点を置く外資系企業がベトナムへの移転の動きを加速させることが予想されるなど、ベトナムは「漁夫の利」を得る可能性が高まっています。 前トランプ政権時、米中貿易戦争が勃発している中、ベトナムはFDIの額や米国への輸出額を増やしていることをデータで示し、今後同じことが起こる可能性を本レポートでは言及しています。
▶ トランプ政権が直接ベトナム経済に及ぼす影響について俯瞰
米中貿易戦争がベトナム経済に及ぼす影響以外に、トランプ政権下の経済政策が、ベトナム経済に直接もたらす全体的な影響についても俯瞰しています。
トランプ政権の方針として、米国第一主義、貿易政策の変化、税制改革などがあげられ、それらに起因した経済政策がベトナム経済に及ぼす影響について分析しています。 ベトナムの産業業界が直接受ける影響は業界ごとに様々で、ポジティブ或いはネガティブな影響を受けることが予想される主要業界を取り上げ解説します。
最後の頁では、本レポートの議論を踏まえ、トランプ政権下のベトナム経済・ビジネス環境についての考察をまとめています。
▶ベトナム政府機関、現地報道機関の統計資料・データを活用
ベトナム政府機関、現地及び外国の報道機関、国際シンクタンクの記事・統計資料など、信頼できる現地の情報源の資料やデータを活用しています。
ベトナムの情報機関から発信される情報と外国の情報機関から発信される情報を基に、客観的にトランプ政権がベトナム経済にもたらす影響について分析しています。 日本語、英語、ベトナム語の定量的・定性的資料・データを活用・分析したうえで、ONE-VALUE独自の見解をまとめています。