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ベトナムの水産市場を徹底解説│輸出と加工のポテンシャルとは

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はじめに
この記事で伝えたいこと
  • 水産資源が豊富なベトナムにとって水産業は以前から重要な産業であり、今日も成長し続けている。
  • 2015年から2022年においては、年間平均4.34%で成長している。
  • 高付加価値製品が少ないという課題があるが、それに対応する企業も徐々に増加している。

はじめに

ベトナムは北から南まで約3000kmを超す長い海岸線を有し、広大な排他的経済水域(EEZ)を持つ水産大国である。水産業は経済発展をする上で、重要な産業であり、世界各国で盛んに行われている。水産業は、地域の特産品や伝統的な食文化の一部としても重要な役割を果たしている。多くの国では、地域経済の基盤を支えており、水産物は重要な食糧源となっている。

ベトナムでは近年特に、養殖エビ・パンガシウスを中心とする輸出が拡大し続けており、主な輸出先は、アメリカ、日本、中国である。ベトナムは世界的な水産大国として成長しており、今後も有望な市場として注目されている。本レポートではベトナム水産業の水産物の輸出・水産加工について解説していく。

ベトナムにおける水産業の定義

一般的に水産業とは、主に海洋や内陸水域での魚類や、その他の水産生物の養殖、漁業、加工、流通などに関わる産業のことを指す。

水産物 出所:Canva

ベトナムにおける水産業の市場規模

ベトナムの水産業における生産量について、2015年から2022年まで、年間平均成長率(CAGR)は4.34%で約673万トンから906万トンに増加し続けている。
ベトナムの水産業は、主にベトナムの大きな経済水域であるメコンデルタ(27.82%)、北中部と中部海岸(11.1%)、紅河デルタ(6.84%)などに集中している。メコンデルタと紅河デルタは養殖に特化しており、またメコンデルタと紅河デルタの水産物生産量は、ベトナムの生産量全体の約70%を占めている。北中部と中部海岸は漁獲に特化しており、地域の水産物生産量の85%以上を占めている。

ベトナム政府は、水産業における養殖の比率を増やし、沿岸外の漁獲を増加させる方針である。近年、ベトナムの水産業は高付加価値の製品を輸出することに重点を置いており、先進技術を持つ商品生産業としての発展を、淡水、汽水、海水などあらゆる環境で持続可能な形で目指ししている。

ベトナムにおける水産物の輸出動向

ベトナムは世界160カ国以上に水産物を輸出しており、2022年時点において世界で3番目に大きな水産大国である。

水産物輸出量

ベトナムの水産物輸出量は1997年から現在まで増加しており、年平均成長率は9%以上である。ベトナムの水産物は世界160カ国以上に輸出されている。
2022年の水産物輸出額は過去最高の約110億米ドルに達し、前年(88.9億米ドル)と比べて23.8%増加している。これにより、ベトナムは中国とノルウェーに次ぐ世界第3位の水産大国となっている。

主な輸出先

2022年時点で、米国はベトナムの水産物の最大の輸出先であり、輸出額は21億米ドルである。中国と香港が18億米ドル、日本が17億米ドル、ASEAN諸国が7億9千万米ドルとなっている。

主要な製品

ベトナムの主な輸出品はエビとパンガシウスである。 2022 年、汽水エビの輸出売上高は約42億米ドルに達しており(2021年から13%増加)、パンガシウスは23億5000万米ドルに達した(2021年から70%増加)。その他、マグロ、イカ、タコ、なども代表的な輸出品である。

ベトナムの水産業におけるサプライチェーン

ベトナムの水産業におけるサプライチェーンは、大きく4つの段階に分けられる。

水産物の漁獲と養殖

水産物の養殖について、ベトナムには大規模な養殖場が多くない。小規模な養殖場は、養殖技術や製品に対して知識が不足している場合がある。
水産物の漁獲について、ほとんどの漁船は個人や家族規模で運営されており、規模は小さく、木製の艤装を持つ漁船が大半を占めている。船上の設備は不十分であることが大半である。また、銀行や協同組合が、養殖者や漁師に対して資金提供や援助を行っている。 

水産物の卸売り

ベトナム水産加工業の大半の企業は、漁師や養殖者から直接水産物を購入する仕組みを確立しておらず、主に仲介業者(ブローカー、小さい市場)が漁師や養殖から水産物を購入し、水産企業に水産物を卸している。仕入先の仲介会社には断熱容器、秤、棚、氷破砕機などの設備はあるが、充実しているとは言えず、十分な設備は整っていない。

水産物の加工

ベトナムの水産物は、主に粗加工、初期加工、半製品、または輸入業者向けの原材料の供給に留まり、高付加価値をもたらす加工はまだ行われていない。ベトナムの水産物は、海外からの注文に従って加工・輸出されている状況であり、付加価値が高くないという課題がある。

販売・貿易・輸出

ベトナムの水産物の多くは輸出目的で生産および加工され、全体生産量の約20%未満の水産物が国内市場向けに消費されている。ベトナム国内市場の需要は多く、十分に供給されていない。ベトナムの水産加工品は、輸出量は多いものの各輸入相手国の市場の要件に沿えない場合がある。
ベトナムの水産物は詳細な原産地表示が出来ていない場合があり、そうした水産物が輸出できないというケースがある。また、国内市場の大半は原産地表示が活用されていない。従って、ベトナムの水産物は生産した分を有効に活かしきれていないという側面がある。

水産物 出所:camnang24h.net

ベトナム政府の方針

ベトナム政府は水産業に注力すべく、様々な政策・指示を打ち出している。具体的には、水産業の発展に関する支援施策の充実、技術の応用、貿易協定の優遇措置等などがある。

水産業の発展に関する支援施策を充実化

水産業は、ベトナムの海洋戦略で重点的に取り組む5つの海洋経済部門の1つとされている。水産業の発展を促進するため、財政、信用、貿易に関する多くの政策がこの分野の発展を支援するために実施されている。具体的には、漁船に対する税金、料金、保険の優遇措置、水産養殖施設への支援などがある。

技術の活用

政府は、技術の活用を強化することにより、生産性を向上させ、コストを削減し、水産物の採掘、養殖、加工の価値を高めるという方向性で水産業の発展を指示している。具体的には既存品種の研究への投資や技術移転を奨励し、省エネ技術を生産活動に適用し、副産物のリサイクルや再利用技術を利用することなどが挙げられる。

貿易協定の優遇措置

貿易協定の優遇措置を活用して競争力を高めることも推進されている。例えば、EUとベトナムの自由貿易協定(EVFTA)によって、ベトナムからEUへの水産物の輸出にかかる関税が撤廃されている(一部品目は段階的に撤廃)。これは、インドやタイなどの競争国と比較して、ベトナムの製品が持つ大きな利点である。

水揚げされた魚
水揚げされた魚 出所:Canva

世界に向けて輸出できる競争力

ベトナムの水産物が持つ競争優位性として、以下のような点が挙げられる。

多様な水産物

ベトナムは多種多様な海洋生物と淡水生物が存在する地域であり、それがそのまま輸出する商品の多様さに繋がっている。

労働力

ベトナムは若く豊富な労働力を有している。大量の水産物を処理・加工するために必要な労働力を確保することが可能である。

政府の支援

ベトナム政府は、国内の水産加工業界を支援するために様々な方策を打ち出している。融資の簡略化、税制優遇、技術的な支援などがある。

輸出入

ベトナムは多くの国と水産物の輸出入を行っており、ベトナムの水産加工製品は、多く先進国の厳格な市場基準を満たしているため、輸出に有利である。

出港前の漁船 出所:Canva

ベトナム水産業界の今後の展望

本章ではベトナム水産業界の今後の短期的な展望と長期的な展望について解説する。

短期的な展望

ベトナム水産物加工輸出業者協会(VASEP)は、ベトナムの水産業の主な成長要因を、業績の80%以上が輸出由来であることと分析している。
2023年第1四半期では、輸出先市場の購買力の減少により、ベトナムの水産物の輸出価格が低下し、そのため国内向け水産物の供給量が増えている。これにより、水産企業は国内向けの加工量を増やし、国内の倉庫を含めた物流網も発展すると考えられる。

長期的な展望

ベトナムの水産業界の長期的な展望については、政府の開発方針と地域ごとの開発方針という2つの視点から考察する。

ベトナム政府の開発方針

  • ベトナム政府は、水産業の価値を高めるために開発を進めている。
    生産での高品質な水産物の生産量を目指している。主要な企業は、バリューチェーン分析を強化することで多くの利益を得ることができると考えられる。
  • ベトナムは世界で3番目に大きな水産大国であり、大規模な水産加工センターを保有している。その中でも、主要な水産物、価値のある品種の開発を優先し、新たな品種の開発と共に、広大な経済水域での工業規模の水産養殖を推進している。水産養殖推進の対象として、国内消費と輸出の発展が見込める地域を対象としている。

地域開発の方針

  • 各地域の条件に合わせ、保護区を確立、拡大、発展させること。北部で新技術を導入し養殖のモデルを開発、中部の沿岸地域の水産養殖を管理する。沖合の海産物の採取を推進し、大規模な漁港を持つ漁業センターに投資し、メコンデルタで塩水、汽水、淡水の三つの水質で水産養殖に注力をする。
  • 技術の研究を通じ、養殖プロセスにおける生産性の向上と製品コストの削減を図る。ITを活用した管理と、輸出・工場、加工・養殖施設及び養殖池に対するトレーサビリティを確保するシステムの構築を進め、水産資源の保護を目指す。

企業紹介

本章では、ベトナムの地場水産企業の一例として、Hacaseafood社を紹介する。本レポートでこれまで解説してきたベトナムの水産業界の1プレーヤーなので、市場をより深く理解する一助となれば幸いである。

会社名HA NOI – CAN THO SEAFOOD JSC(HACASEAFOOD)
スローガン“QUALITY SUSTAINABLY SOURCED SEAFOOD”
設立2005年
本社所在地Con Tho 市(カントー市)

ハノイ – カントー海産株式会社(Hacaseafood)はベトナム最大の水産加工企業である。主に水遺産加工と水産物の輸出を行っており、水産物の加工量は約120トン/日である。2005年の創業以来、ベトナム国内と外国の顧客に鮮度の高い水産物を提供している。サプライチェーンを一貫した生産体制で、養殖や加工、パン粉付けやマリネされた魚など付加価値のある海産物の製品製造まで行っている。Hacaseafoodは2ヘクタールの敷地内に3つの養殖場を所有しており、パンガシウスの仔魚の飼育と成長させるための養殖も行っている

主な商品

ここではHacaseafoodの主な商品を紹介していく。

生鮮食品

出所:Hacaseafoodの公開データに基づきONEVALUEが作成

加工食品

出所:Hacaseafoodの公開データに基づきONE-VALUが作成

Hacaseafoodは、様々な加工製品を提供しており、パン粉をまぶした下準備済み商品やその他特殊な加工品がある。魚ベースのすり身の商品は、鱗、皮、骨を丁寧に取り除き、商品を生産している。付加価値の高い商品は、手作業でトリミングし、真空パックして袋詰めされ、鮮度が保たれた商品である。また、揚げ物にも最適で、冷凍したままでも解凍してからでも調理できる手軽な製品である。パッケージには調理手順が記載されている。

水産業への投資

ベトナムの水産市場参入への機会について、ベトナムの国内企業はまだ国内需要を最大限に活かすことが出来ておらず、先進的な加工技術を持つ日本企業の投資機会が多くある。加工技術を持つ企業がベトナムの国内企業へ投資することより、より付加価値の高い商品を生み出すことが可能になると考えられる。

ベトナムでは冷蔵倉庫や冷蔵運送などのコールドチェーンが整っておらず、製品のコストが高くなり、品質が低下している。冷蔵運送や冷蔵倉庫、などのロジスティクスサービス企業にとっての投資機会もある。

まとめ

本レポートでは、ベトナムの水産業界について、特に水産物の加工と輸出に焦点を当てて解説した。ベトナムは主にエビ・パンガシウスの生産と輸出が盛んであり、世界有数の生産地である。この他にも、ベトナムは広大な海域を有する水産大国であり、豊富な水産資源に恵まれている

一方で、水産物の加工や流通には大きな課題がある。水産物の加工に関しては、ベトナムは輸出先である先進国の指示通りに最低限の加工をするに留まっており、高付加価値な商品が少ない。流通に関しては、詳細な原産地表示といったトレーサビリティの確保があまり出来ておらず、生産した量を有効活用しきれていない。このような現状を受け、ベトナム政府は水産業の発展を推進する施策や支援を充実させている。施設への支援や研究の促進、ベトナムにとって有利な貿易協定の締結などを既に行っている。

本レポートでは、最後に実際のベトナム地場水産企業であるHacaseafood社を紹介した。Hacaseafood社では、サプライチェーンを一貫した生産体制で商品を製造している。養殖や基本的な加工から下準備や調理まで、幅広い商品を手掛けている。

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