はじめに:税務調査とは
税務調査とは地域を管轄する税務局が、納税者から提出された申告内容が正確かどうかを確認するために行う調査のことである。
ベトナムにおいて、税務調査制度は二種類があり、「税務検査」(ベトナム語:KIỂM TRA THUẾ)及び「税務調査」(ベトナム語:THANH TRA THUẾ)である。
本レポートでは、ベトナムでビジネスを行う際に欠かせない税務について、税務調査対策の観点から解説していく。
税務検査
ベトナムにおける税務検査とは、納税者の申告内容が適切かどうかを定期的にチェックする調査である。基本的に税金を納めている全ての納税者が検査の対象となり得るが、特に外資系企業が多く検査を受ける傾向がある。
検査対象は税務局によるサンプリングによって抽出されたサンプルに該当する企業であるが、明らかに申告内容が不適切である企業、脱税リスクが高い企業は優先的に検査の対象となる。
税務検査の対象となった企業には、調査が行われる3週間前に税務局から通知が来る。その後、最長で10営業日の期間で検査が行われ、税務申告方法の指導や追徴課税の決定が行われる。
税務調査
一方でベトナムの税務調査とは、非定期に行われる、税務検査よりも重い調査である。税務検査がサンプルによって抽出された企業が対象になるのに対して、税務調査では違反が疑われる企業に対して、税務局が目を付けて、入念な準備がされた上で実施される。これは脱税の可能性が非常に高いと判断された企業や、内部や外部からの告発により脱税が明らかになった企業等が対象となる。調査機関も45日~150日と長く、証拠書類を含め徹底的な調査が行われる。
税務調査が入って脱税行為が明らかになった場合、追徴課税も数百万円単位となったり、場合によっては責任者の刑事責任が問われたりする事態になりかねない。そのため、日々の管理業務を適切に行い、税務調査の対象になることがないように留意する必要がある。
税務調査で指摘されやすいポイント
前述の通り、ベトナムでは外資企業は頻繁に当局による税務調査(ほとんどは「税務検査」)が入る。もし調査で違反が見つかった時のペナルティは非常に重く、企業にとって大きな負担となる。そのようなトラブルを未然に防ぐために、税務調査でよく外資企業が指摘されるポイントについて解説していきたい。
経理担当者の能力不足による経理処理ミス
日系企業がベトナムで経理担当者を採用するにあたって、経理担当者のスキルを評価するのはなかなか難しい。スキルの見極めにはベトナムの会計基準に対する理解や実務経験が不可欠であるため、日本人の駐在員が優秀な経理担当者を見極めるのは非常に難しいためである。
その結果、能力が不足している経理担当者を採用してしまい、日常的な経理処理ミスが多く発生してしまうケースが多い。また日本人の現地代表や役員も、ベトナムの会計に対する理解は少ないため、ミスにも気づきにくい。
これらのミスが徐々に累積していった結果、不適切な税務申告を行うこととなってしまい、税務調査において指摘され罰金を科されるケースがよくある。
内部統制の不備によるインボイス等の資料不足
ベトナムの税務調査では、「なぜそのような経理処理、税務申告をしたのか」を裏付けるための証憑資料を求められる。しかし、会社の内部統制や資料管理体制が脆弱であると、適切な資料が紛失されていたり、インボイスの発行手順に誤りがあったりして、税務調査担当官からの指摘に応えることができないケースがよくある。
資料の適切な管理は各企業に義務付けられているため、資料を提出できない場合、企業の義務に違反しているとして罰金や追徴課税を課されることとなる。
言語の壁でコミュニケーションミス
ベトナムでは、税務調査担当者が会社の経営陣に対してヒアリングを行う場合がある。日本人がヒアリングに対応する場合、日越の通訳を挟むこととなるが、通訳者が必ずしも経理の専門知識を有しているとは限らない。その影響で、誤った通訳が行われお互いに正確な情報が伝達されず、税務調査において誤解が生まれてしまう可能性もある。
移転価格文書化不足
ベトナムの移転価格制度は日本と比較して、より厳しく、複雑であるため、現地スタッフと管理職にいる日本人は制度に対する理解不足が原因で書類の作成が難しい場合が多い。
移転価格については、以下の記事で詳細に解説している。
在庫リストと実地棚卸数量の不一致
ベトナムの企業は内部統制の整備及び運用に重要な不備が生じることが多く、帳簿上の数値と実際の数値に差異が発生することが珍しくない。特に製造業において、システム上の在庫リストと実地棚卸数量が一致せず、また経理部の会計の知識が不足で、差異に関する会計処理もちゃんと行われないことから、税務調査で指摘されることがある。
税務調査で違反が見つかった場合
ベトナムの税務調査で不適切な税務申告が明らかとなった場合、追徴課税の他に高額な罰金が科せられる。日本の場合は追徴課税額に対して40%の重加算税が課せられるが、ベトナムは追徴課税額の2~3倍というとんでもない金額が課せられてしまう。
その他、罰金を課せられる原因となる行為は以下のように規定されている。
追徴の対象となる行為 | 罰金の金額 |
申告手続の誤り | 最高2,500万VND |
過少申告・過大還付申請 | 追徴課税額の20% |
税務申告の遅延 | 最高2,500万VND |
脱税・不正行為 | 追徴課税額の2〜3倍 |
延滞税 | 0.03%〜 0.07%/日 |
過去に外資企業が税務調査で追徴課税された事例
ベトナムでは、外資企業は税務調査で狙われやすく、過去にも大手外資企業が税務調査により違反を指摘され、多額の罰金を支払った事例が数多くある。本レポートでは、その中でも有名な2つの事例を紹介する。
コカ・コーラ ベトナムの事例
コカ・コーラベトナムは設立されてから、毎年莫大な損失を計上し続けた。2012年時点までに、ベトナムのコカ・コーラは累計3,768億ドンの損失を計上しており、初期投資額の2,950億ドンを大きく上回っていた。ホーチミン市の税務局は、ベトナムの飲料業界でトップに位置している同社が損失を計上し続けている背景には、不適切な移転価格があると疑い、大規模な税務調査を実施した。この調査の結果、税務局はコカ・コーラベトナムが関連会社から購入している原材料の価格が不当に高いと結果付け、コカ・コーラベトナムに対して470億ドン以上の罰金を課した。
ペプシコ ベトナムの事例
またコカ・コーラの競合であるペプシコ ベトナムも優遇税制の誤適用により、2017年に18億ドンの追徴税が課された。
ペプシコベトナムはカントー市で新工場を開設するにあたって、カントー市役所から新規投資の優遇税制の適用許可を取得し、6,7年間に渡って減税制度を使用した。しかし、2015年に税務省の税務調査結果によって、ペプシコの新工場は新規投資ではなく拡大投資に該当するため、新規投資と同じ優遇税制は適用できないと指摘された。この指摘を受け、ペプシコベトナムは高価な追徴課税税を支払うこととなった。
まとめ
上記で見てきたように、特に日本企業にとってベトナムの税務調査は、言語の壁以外にも乗り越えるべきいくつものハードルがある。ベトナムだけでなくどの国でも、海外に進出してビジネスを行う際には、法人としての義務を理解し、適切な登録・手続きを行う必要がある。
ベトナムの税務調査は事業を行うにあたって避けられないイベントであるが、調査の連絡を受けてから慌てて準備をしても、付け焼刃では対応はできない。そのため、普段から、いつ調査が来ても対応が可能なように体制を整えておく必要がある。
ベトナムの税制は日本とは異なる点も多くあり、また税制も日々新しく改正されている。税務調査への対応支援だけでなく、関連する専門家への相談、コンサルティングなどのサービスの検討やセミナーへの参加をおススメしたい。
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