はじめに
本レポートでは、ベトナムの電力消費状況、電力供給能力、発電源構造、ベトナム国家電力マスタープラン(PDP8)等について解説する。 また、電力業界の事業体制や日本の投資家が参加できるセグメントについても紹介する。
ベトナムの電力事情
本章ではベトナムの電力事情について網羅的に解説する。
ベトナム国内全体の電力需給、電源構成(発電方法)、送電方法、ベトナム電力公社、政府の開発方針、外資規制など、まずは再生可能エネルギーに拘らずに基礎情報を網羅していく。
電力需要の状況
ベトナムの2020年の年間電力需要は216TWhであった。
ベトナム電力公社(EVN)の統計によれば、ベトナムの電力需要は2000年以降、一貫して増加を続けていることが分かる。また、2030年には491TWh、2045年には877TWhまで拡大すると予測されている。
ベトナムではこうした電力需要の伸びに対して、供給側である電源開発が追いついていない問題が現状として存在する。
電力供給の状況
2020年、ベトナムの年間電力供給量は47,442MWであった。ベトナムにおける電力の供給は電力の需要を満たしていない。
ベトナムでは、夏季に電力不足が発生することがよくある。週末には地域間で交互に停電が発生することが多く、企業は地域の電力供給能力に応じて生産計画を立てなければならないことがある。
2022年には、ベトナム北部で地域的に電力不足が発生することが予想される。現在、ベトナム政府は2022年夏に北部地域の停電や節電計画を立てている。ベトナム電力公社(EVN)の計算によると、2022年の夏のピーク時のベトナム北部では、約1,500〜2,400MWの電力が不足する。
電源構成
ベトナムの電力供給は石炭火力発電源に依存している。
商工省のデータによると、2020年のベトナム電源構成は石炭火力(43.6%)、再生可能エネルギー(21.0%)、水力(16.9%)、ガス火力(14.7%)の順で、構成比が大きいことが分かった。2020年時点、再生可能エネルギーは2割で、2017年の僅か数%の程度から3年間で急増した。
国内送電網の状況
送電と配電に関して、ベトナムには唯一の独占会社であるベトナム国家送電公社(EVNNPT)がある。
2020年時点で、EVNNPTが管理しているのは、7,996kmの500kV送電線、17,207kmに及ぶ220kVの送電線、 総容量33,300 MVAに及ぶ500kVの変電所30カ所、総容量54,188MVAに及ぶ220kVの変電所123か所を運営・管理している。EVNNPTは、ASEAN地域の他国の送電会社が管理する送電線と比較すると3位のキャパシティで、保有する変圧器の総容量では4位となっている。
しかし、近年のベトナムでは送電線の過負荷は大きな課題となっている。
特に、日射量条件が良好であるニントゥアン省、ビントゥアン省、ダックラック省等の中南部では、太陽光発電の急発展により送電線の過負荷が深刻になっている。
2020年時点では、ベトナム全国には89ヶ所の風力・太陽光発電所があり、総設備容量は4,543 MWであった。そのうち、ニントゥアン省とビントゥアン省には38ヶ所の風力・太陽光発電所があり、総設備容量は2,027MWであった。
そのため、現在では中南部にある太陽光・風力発電プロジェクトの電気出力がEVNによって抑制されることもよくある。
2022年3月末、ベトナム検査官及び商工省の共同記者会見で、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギープロジェクトの許可や審査において、複数の地域の電力会社や人民委員会で不正が発見したと発表された。今後、全国的に再生可能エネルギーの開発プロジェクトに関する不正を引き続き調査する方針がベトナム政府によって固められている。
ベトナム電力公社(EVN)について
ベトナムの電力事業者で最も代表的なのが、ベトナム電力公社(以下:EVN)である。
EVNは1994年に設立され、ベトナムの電力業界で最大手である。設立当初のEVNは、ベトナム商工省の下で完全な国営企業であった。しかし、ベトナム政府が「国営企業の民営化」という方針を固め、EVNは2010年に有限責任会社に変更された。
EVNの主な事業は、発電、送電、電力小売、電力輸出入である。EVNは、発電所の建設、家庭への配電、国の送電網の構築、中国やラオスなどの近隣諸国との電力の輸出入を実施し、ベトナムの人々の生活や各企業の電力要求需要に応じて電力を供給している。
EVNの傘下には、EVN GENCO 1社、EVN GENCO 2社、EVN GENCO 3社、国家送電公社(EVNNPT)等がある。また、EVNは各地域の発電、送配電、電力小売を管理するため、北部電力会社、中部電力会社、ハノイ電力会社、ホーチミン市電力会社等の子会社も所有している。
第8次ベトナム国家電力開発マスタープラン(PDP8)
ベトナム電源開発計画(The National Power Development Plan:PDP)は、ベトナムの経済発展における電力消費需要に応じて、発電源と電力網の開発方針を示すことを目的とした、一定の期間(約20年~30年)での電力開発計画である。
PDPは商工省によって策定され、ベトナムの産業全体で考えても、最も重要なマスタープランの1つである。
現在、Le Van Thanh副首相の直接指導の下、ベトナム商工省は、国の経済・社会の発展や国際の気候変動の対応の協定などを合わせて、第8のPDP(PDP 8)の策定を進めている。
ベトナムでの電力事業に関する外資規制
ベトナムにおける電力事業(発電・送配電・小売)の中で、外国投資家が参入できるのは「発電」事業のみである。
ベトナムの「2020年投資法」(2021年1月1日政府発行)によれば、ベトナムでの送配電と電力小売事業は、EVNしかEVNの子会社のみ行えない。ただし、発電事業については、基本的に外資規制がない。現在、ベトナムで発電事業、発電所を操業している外資系企業(日本を含む)の事例は多数ある。
実際には、配電及び電力小売事業は外資系企業だけではなく、ベトナム国内の民間企業でも参入できない。そのため、発電所からEVNへの売電価格、またEVNから消費者への電力販売価格は市場原理によって変動するわけではなく、EVN・商工省・財務省によって決められる。
ベトナム再生可能エネルギー市場の概要
本章では、ベトナムの再生可能エネルギー市場について網羅的に解説する。
ベトナムの温室効果ガス排出量
2018年のベトナムの温室効果ガス(GHG)の排出量は3億7,900万トンであった。ベトナムの2018年の排出量を2000年の実績と比べると、約2.4倍も増加したことが分かった。(Global Carbon Project のレポートによる。)
ベトナムは人口増・都市化・工業化によって、温室効果ガス(GHG)の排出量が年々増加している。
今後、経済発展速度の速いベトナムは、国内に発生する温室効果ガス量も更に増加すると見込まれる。
太陽光発電
本段落ではベトナムの太陽光発電について解説する。まずベトナムの日射量を紹介し、次に屋根置き、地上置き、水上置きといった太陽光発電の手法ごとの概況を紹介する。
ベトナムの日射量
ベトナムの日射量は中南部が最も多い。
ベトナム国内には、太陽光発電開発に適する土地が約79,000平方キロメートルあると推定されている。以下の東南アジア地域の日射量マップを見ると、ベトナムの中部から南部までの日射量が良好であることが分かる。
そのため、ベトナムでは中部及び南部地域での太陽光発電プロジェクトが急増し、中南部地域の送電線の過負荷に繋がった。
屋根置き太陽光発電
ベトナムでは2019~2020年の期間で、FIT制度によって屋根置き太陽光発電プロジェクトが急増した。EVNに売電することができるため、多くの中小規模の屋根置きプロジェクトが、主に送電網への売電目的で増加していた。そのため、一部地域で電力システムに過負荷が多発した。
今後、ベトナム政府は工業団地等の工場の屋根に太陽光パネルを設置するという方向を固めている。また、この場合は発電した電力を自家消費することができるほか、発電した電力を売電することも可能である。
地上設置型太陽光発電
ベトナムの地上設置型太陽光発電プロジェクトは、2019年6月末が期限であったFIT制度(9.35セント)の時期に開発が特に進んだ。現在、新規開発を行う動きの他、セカンダリー市場での案件売買も活発化している方向がみられる。
ただし、地上設置型太陽光発電プロジェクトを建設するために、土地収用と土地の利用目的の変更届等の手続が必要であり、数年を要する場合もある。
水上太陽光発電
ベトナムでは、現在開発されている水上太陽光発電プロジェクトは少ない。水上太陽光発電プロジェクトは主に、湖等にパネルを設置することが多い。
ベトナムで水上太陽光発電の開発があまり進んでいない理由としては、水上に設置するための設置費用が高くなりがちだからである。また、設置に係る技術面の課題もあり、民間企業からの注目度がまだ高くない。
風力発電
本段落では、ベトナムの風力発電について網羅的に解説する。
ベトナムの風況
ベトナムの風況は東南アジアで最良といえる。
商工省によれば、ベトナムの63省市合計で、513,360MWの風力発電容量の開発可能性があると推測されている。ベトナムの風力発電可能な容量は東南アジア最多で、2番目のタイに比べると、約4倍となっている。
ベトナム国内で風況が最も良好な地域は、中北部、中南部及び中原高地部であり、現在これらの地域で開発されている風力発電プロジェクトが最も多い。
洋上風力発電
洋上風力発電は、海に近い陸の部分で発電する「ニアショア(Near-shore)」と、それより遠い海域で行う「オーフショア(Off-shore)」の2つに分類される。
ベトナムで開発されている洋上風力発電は殆どがニアショアである。 洋上風力発電(Off-shore)に関しては、着床式や浮体式は技術面、法整備、コストといった要因により、現時点ではベトナムでの開発は進んでいない。
ただし、洋上風力発電は土地収用が必要ないため、ベトナム政府は今後Near-shoreとOff-shore両方の洋上風力発電の開発を推奨している。そのため、今後のベトナムでは洋上風力発電の急速な発展が期待されている。
陸上風力発電
ベトナムの陸上風力発電は2022年1月の時点で、全国に商業運転開始済みのプロジェクトが84案件あり、総容量は3,980MWとなっている。
2021年は風力発電が急増した年であった。理由として、2021年10月末に、風力発電プロジェクトに対するFIT制度が終了したためである。
コロナの影響で、設備の輸入や建設が遅れて、商業運転開日がFITの期限に間に合わなかったプロジェクトが多数ある。現在これらのプロジェクトの投資家はベトナム政府及び商工省にFITの期限延長または例外プロジェクトという制度を申請している。ベトナム政府は、今後風力発電に対するFIT制度を維持するか、あるいは入札制度へ移行するかという検討を続けている。
バイオマス発電
ベトナムはバイオマス発電の開発ポテンシャルが非常に高い。
ベトナムは世界的に農業(農産物輸出)大国である。2020年には、ベトナム米の輸出量は世界2位、コーヒー輸出量も世界2位、カシューナッツの輸出量は1位であった。農業だけではなく、ベトナムでは林業も盛んであるため、国内で発生する農業・林業の副産物の量は非常に多い。
バイオマス発電の主要な燃料は、木材チップ、木質ペレット等(林業の副産物)や、籾殻、コーヒー殻、トウモロコシ残渣、カシューナッツ残渣等(農業の副産物)である。これらのバイオマス発電燃料の供給はベトナム国内だけでも十分に対応できるだけでなく、安い価格で調達できる。
ベトナム政府はバイオマス発電のポテンシャルを認識しており、今後は上記で解説した太陽光発電、風力発電等に加えて、バイオマス発電にも注力する方針である。
木質ペレット
ベトナムの木質ペレット生産は、国内消費と輸出の2つの需要に対して、十分に対応できている。
近年、ベトナムの木質ペレットの輸出量及び金額が急増・高騰している。ベトナム統計局の統計によれば、木質ペレットの主要な輸出先国は韓国(56%)と日本(43.8%)である。
木質チップ
ベトナムの木質チップの輸出量は13.6百万トンである(2021年)。
2021年には、ベトナムで生産された木材チップの最大98%が、中国(65%)、日本(30%)、韓国(3.4%)の3つの市場に輸出されている。残りはラオス、インドネシア、台湾などの市場である。
日本市場への輸出量は409万トンで、価格は5億15万米ドルに相当する。2020年と比較してそれぞれ27%、24.4%増加した。
廃棄物発電
ベトナム政府および地方自治体は、廃棄物発電への投資に注力している。
ベトナムでは現在、都市化・人口の増加・経済発展により、廃棄物の排出量も増加している。労働・傷病兵・社会省の調査によると、ベトナムの都市化率は2020年の24.4%から2050年までに51.1%になると予測されている。
現在ベトナムでは、特に大都市圏での廃棄物処理が大きな課題となっている。現地新聞の記事を見ると、ハノイ市、ホーチミン市にある廃棄物処理プラントのほとんどがキャパシティオーバーの状態になっていて、環境汚染課題も取り上げられている。
ベトナムの都市では、発生した廃棄物が主に直接埋立されている。直接埋立はごみ処理効率が非常に低く、土壌汚染・水汚染を引き起こす可能性も高いという大きな欠点がある。ベトナム政府、特にハノイ市、ホーチミン市行政等は廃棄物処理、特に廃棄物発電プロジェクトを開発する投資家を歓迎している。
ただし、廃棄物処理や廃棄物発電への投資には大きな資本と高い技術が必要で、ベトナム国内企業にとっては中々難しいところがある。そのため、現在ベトナムで稼働している廃棄物発電所の殆どは外資系企業により、資本及び技術が支援されている。
大水力発電(30MWを超えるプロジェクト)
商工省大臣によって公布された「水力発電プロジェクトの計画、建設、投資、および運営、開発、管理に関する規則」通達43/2012/TT-BCTの第2条によると、ベトナムにおける水力発電プロジェクトは大水力発電(30MWを超えるプロジェクト)と、小水力発電プロジェクト(30MW以下のプロジェクト)と分類されている。
大水力発電がベトナムでの開発される可能性が低い理由は二つある。第一に、水力発電を構築するために、多くの土地を収用する必要がある。第二に、水力発電は環境と水中生態系に大きな影響を与えるからである。
したがって、大水力発電プロジェクトを開発する企業は若干あるが、ほとんどはEVN系の会社、または国営系の電力やインフラ建設会社だと見られる。
小水力発電(30MW以下のプロジェクト)
国内外の民間企業に対する開発のポテンシャルが大きくない大水力発電に対して、小水力発電はベトナムでの開発可能性を秘めている。ベトナムでは、民間の電力会社・インフラ建設会社・不動産会社でも、小さな水力発電を開発・運営している。ベトナムは毎年の降水量が多く、近年の「ラニーニャ現象」の影響で、小水力発電所の運営会社の収益が向上している事例がある。
原子力発電
現時点では、ベトナム政府は原子力発電を開発する方計画をまだ策定していない。
ベトナム政府は以前、ベトナム中部で原子力発電を開発する計画を立てていた。しかしベトナム政府は、原子力発電所の安全を十分に担保できないと結論付け、原子力発電所の開発計画を放棄した。
2022年2月のPDP8の策定状況の報告会で、商工省は政府に対し、2030年から2045年の間に原子力発電を開発する可能性を再び研究することを提案した。
バイオガス発電
ベトナムにおいて、バイオガス発電を開発している企業や家庭があるが、ほとんどは小規模である。開発されているプロジェクトが家庭の生産や企業の事業の消費電力の一部分に利用されている。現時点では、ベトナムには大規模のバイオガス発電プロジェクトがない。
また、バイオガス発電プロジェクトに対してはFIT制度がないため、投資家にとって魅力が少ないと思われる。
地熱発電
ベトナムの地熱資源は細かく点在しており、大規模なプロジェクトの開発は困難である。ただし、地熱資源を全国の多くの地域に分散していることで、反対に多くの地域で小規模プロジェクトを開発される可能がある。
地熱資源が最も多いベトナム西北地域や中南部でも地熱発電によって、温泉、塩生産、観光等に利用されることが圧倒的に多い。
ベトナム政府の再生可能エネルギー開発目標
ベトナム政府のPDP 8 ドラフトの最新版では、2045年までは再生可能エネルギー(特に風力発電)の開発が最も注力されている。
風力発電源について、2020年時点で発電設備容量の630MWにとどまっているところから、2030年は18,010MW(2020年比28.6倍増)、2045年までに60,610(2020年比96.2倍増)に増加するとされる。
太陽光発電源について、2018年~2020年の間にFIT制度によって、2020時点で発電設備容量が16,640MWにも上った。2030年までには、太陽光発電源の容量は18,640MW(2020年比12%増)、2045年までは55,090MW(2020年比2.3倍増)になるとされる。
しかし、再生可能エネルギーの中でも、水力発電の開発は制限される。理由は水力発電(特に多数のある小規模プロジェクト)がベトナムの水環境に悪影響を与える可能性が高いからである。水力発電の開発には、山や森林の土地を収用、木を伐採する必要がある。また、水力発電ダム周辺の水棲生物の生態に影響することもあるため、ベトナム政府は水力発電の開発を制限する方針がある。
ベトナムの再生可能エネルギーに関する優遇制度
ベトナム政府は民間企業・投資家による再生可能エネルギーへの投資を促すための奨励政策・優遇措置を設けている。優遇措置としては、主に法人税・輸入税・付加価値税の免税・減税である。
FIT制度(固定価格買取制度)
ベトナム政府は温室効果ガスの排出量を削減するため、再生可能エネルギープロジェクトを対象とした固定価格買取制度(以下:FIT)を設けていた。
ただし、2018年9月の首相決定No.39/2018/QD-TTgにより、風力発電・太陽発電等の再生可能エネルギープロジェクトのFIT価格を引き上げたため、2018年~2020年の間に再生可能エネルギーのプロジェクト数が急増した。
2021年10月にFIT制度が完全に終了したことで、今後の再生可能エネルギーの開発において、ベトナム政府はFIT の代わりにDPPA・入札制度等に移行する可能性が高いと予測されている。
法人税
ベトナム財務省が発行した通達No.78/2014/TT-BTCによると、再生可能エネルギーの投資家に対して、事業内容や設立地域の性質に応じて10%もしくは20%の優遇税率が一定期間適用される。
具体的には、4年間免税・その後9年間50%減税、4年間免税・その後5年間50%減税、もしくは2年間免税・その後4年間50%減税が適用される。
輸入税
ベトナムでは再生可能エネルギーのプロジェクトに必要な設備(固定資産)に対して、輸入税が減免される。
ただし、輸入税免除の対象製品はベトナム現地で生産されていない材料、資材、および半製品のみである。
土地賃貸税
ベトナムでは再生可能エネルギープロジェクトに対して、電力系統接続と変電所工事のための土地使用とリース代が減免される。土地賃貸税については省級人民委員会が土地収用の保障と補助を行う。
地域や省、建設中の土地の賃貸状況(土地賃貸契約締結から最大3年間)や建設完了後などプロジェクトの状況・条件によって異なるが、追加で11~15年間免税出来る場合もある。
付加価値税(VAT)
ベトナムのVATは日本でいう「消費税」と同じであると考えて問題ない。
再生可能エネルギープロジェクトの建設中に発生した費用にかかる仕入れ付加価値税は、発電所が商業運転を開始した後に還付される。
ベトナムの再生可能エネルギー・電力市場の今後の見通し
ここまではベトナムの再生可能エネルギーの現状やこれまでの歩みについて解説してきた。
本章では、ベトナムの再生可能エネルギー市場の今後の見通しについて考察する。
COP26での2050年ゼロカーボン達成表明
2020年11月1日、イギリスで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、ベトナムのPham Minh Chinh首相は、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(ゼロカーボン、あるいはカーボンニュートラルとも呼ばれる)を目指すことを発表した。
COP26の後、ベトナム政府は天然資源環境省に対し、COP26で発表した目標を実現するための「専務指導委員会」を設置するよう指示した。この指導委員会は2050年までに「カーボンニュートラル」を達成するための、「2050年までの気候変動に関する国家戦略」、「2030年までのメタン排出量削減に係る行動計画」、「グリーン成長に関する国家戦略」などの炭素削減戦略を策定する役割で、2021年末に設立された。
ベトナムは環境保護と二酸化炭素排出に関する国際的な公約達成に向け、カーボンプライシングの整備を迅速かつ積極的に進めていくと考えられる。
主な理由として、ベトナム経済が外国に対して非常に開放的であることが挙げられる。2021年のベトナムの総輸出入金額は6700億米ドルに達し、そのうちの約7割はFDI(外国からの直接投資される企業や事業活動)に由来するものである。
2021年の2,762億ドルというGDPと比較すると、総輸出入金額はGDPの2.4倍であり、ベトナム経済はシンガポールと香港に次いで、東南アジア及び東アジアでトップクラスに開放的であると言える。
しかし言い換えれば、ベトナム経済はやや海外市場に依存しがちであるため、ベトナム政府はできるだけ国際的な圧力及び反発、貿易規制を避けるようにする方針がある。そのため、ベトナムは「パリ協定」や「COP26」などで発表したゼロカーボン達成目標をきっちり実現しようとすると考えられる。
温室効果ガス:削減に関するベトナム政府の方針
COP26後、ベトナム政府は温室効果ガスの排出量を削減するために、素早く行動を始めた。
2022年1月30日に、ベトナム政府はCOP26 で宣言した「2050年までのゼロカーボン(カーボンニュートラル)」を実現するために「書簡No.30/TB-VPCP」を発行した。また、温室効果ガスの排出削減量を観察する運営委員会も設立した。
「書簡No.30/TB-VPCP」では、将来に踏まえ注力する必要がある8つの重要な目標が明記されている。具体的には以下の通りである。
- 化石燃料からクリーンエネルギーへの切り替え
- 温室効果ガスの排出を削減
- 農業生産と廃棄物処理におけるメタン排出量の削減
- 電気自動車の研究開発と使用の奨励
- 二酸化炭素を吸収するための新たな植林を促進しながら、既存の森林地域の持続可能な管理と利用も促進
- クリーンで持続可能な開発に適した都市を建設し、建築材料の研究・製造・使用を実施
- 国民全体と経済界が団結して政府に同調するように、プロモーション活動を促進
- 気候変動に対応するためのデジタルトランスフォーメーション(DX)の促進
石炭火力発電の開発を制限
PDP 8 ドラフトで、ベトナム政府は新規の石炭火力発電所の開発を規制する方向性を明らかにした。
具体的には、2030年までの基本開発シナリオにおける石炭火力発電所の総設備容量は40,700 GWであり、これはPDP7より約15,000MW削減されている。
PDP7で首相によって承認された石炭火力発電プロジェクトのほとんどは、商工省によって実行可能性の高い投資家を抱えており、PDP8でも引き続き展開していく。ハイフォン、クアンニン、ロンアン、バクリュウなどの地域で承認されなかった石炭火力発電プロジェクトは、比較的環境に優しいLNG火力発電プロジェクトに置き換えられる。
このように、ベトナムでは2030年までに、石炭火力発電の割合が基本シナリオでは約31%、高い目標のシナリオでは約28%にまで削減される。
カーボンプライシング
排出される二酸化炭素に価格付けをし、排出量削減にインセンティブを設けることをカーボンプライシングと言う。日本では段階的に導入が進んでおり、ベトナムでもゼロカーボン達成のために整備が急がれている。カーボンプライシングの手法はいくつかあるが、ベトナム政府は2025年に「排出権取引」(排出量取引、排出枠取引と呼ばれる場合もある)という手法を開始することを明言しているため、ベトナムのカーボンプライシングは注目を集めている。
炭素税
炭素税とは、政府がCO2排出量に対して課税することで炭素に価格を付ける仕組みである。
ベトナムでは石炭火力発電所等に対し、「環境税」という名前で既に導入されている。
排出権取引
排出権取引は、まず政府が国全体のCO2排出量上限を設定し、それを各企業に振り分ける。そして排出上限に対して余裕が出来た企業が、その余剰分の排出枠を販売することで、炭素に価格付けがされる仕組みだ。余った排出枠の販売で利益を得ることが出来るので、企業の積極的な努力による排出量の減少が見込まれる。
ベトナムにおいては先述の通り、2022年1月7日に発出された「議定No.06/2022 / ND-CP」によって、2025年からの開始が宣言されている。
クレジット取引
クレジット取引とは、CO2の削減価値を証書にして取引を行うことである。日本政府は非化石価値取引、Jクレジット制度、JCM(二か国間クレジット制度)などを運用している。
日本とベトナムの間ではJCMによるクレジット発行が複数実施されており、今後さらに協力体制を強化し促進される見通しである。
炭素国境調整措置
炭素国境調整措置とは、CO2の価格が低い国で製造された製品を輸入する際に、両国間のCO2の価格差を事業者が負担するという仕組みである。
2022年4月現在では、EUを中心に検討を進めている段階である。
太陽光発電の制度改正
ベトナムの太陽光発電は、今後売電のルールや価格付けの方法が大きく変わることが予想される。本段落では、ベトナムの太陽光発電市場に取り入れられることが想定される新制度を解説する。
直接電力供給契約(DPPA)
ベトナム商工省は直接電力買い取り契約(DPPA)制度をすでに実証実験している。
ベトナム電力市場では、従来各発電所から生産された電力をEVNにしか売電できなった。しかし、DPPAの導入により、電力事業者は民間企業や工場等EVN以外の電力需要者と直接買取契約を締結することが可能になる。
現時点でベトナム政府は、DPPAを導入するか、あるいはFIT制度を延長するか正式な決定が発表されていない。ただし、DPPAの導入であっても、またはFIT制度の延長であっても、ベトナムの太陽光発電産業が発展し続けると考えられる。
入札制度
DPPA制度と同じように、ベトナム政府は入札制度を実施するためのメカニズムや仕組みを議論、策定している。
入札制度の仕組みについては、次の2つの案が提出されており、政府内で議論されている。
1つ目の案は、省や地域といった地理的区分で企業が入札を行う案である。
2つ目の案は、変電ステーションごとに接続する企業同士で入札を行う案である。
1つ目の案の場合、省といった地理的区分に位置する発電所同士で入札を行うことになり、その地理的区分に属する全ての企業が参加することとなる。
一方、2つ目の案では地理的区分が関係なく、接続箇所が同じである発電所同士で入札を行うことになる。
ベトナムの再生可能エネルギー市場における日本企業の参入事例
本章では、ベトナムの再生可能エネルギーに参入した日本企業の事例を紹介する。
熊谷組
日本のゼネコンである株式会社熊谷組は、2021年2月26日に、ベトナムの再生可能エネルギー事業に参画することを発表した。
具体的には、フランスを拠点とする世界的な再生可能エネルギー大手であるQAIR社のグループ企業QAIR International社と、ベトナムの再生可能エネルギー最大手の1つであるTTVN社が共同で手掛けるベトナムCat Hiepメガソーラー事業の事業会社であるBDE社の株式30%を、熊谷組が取得した。
それだけでなく、熊谷組はTTVN社とベトナムの再生可能エネルギー事業の開発・事業運営を共同実施するため、戦略的業務提携を締結した。
熊谷組:ベトナムでの再生可能エネルギー事業に参画 TTVN社と戦略的業務提携契約を締結
中部電力
名古屋市に本店を置く電力会社である中部電力は、2021年9月28日に、ベトナムで水力発電を中心に再生可能エネルギー事業を展開する現地企業のビテクスコパワー社の株式20%を取得することを発表した。これは中部電力にとって、初のベトナム進出となった。
中部電力:ベトナムの再生可能エネルギー事業会社ビテクスコパワー社の株式を取得
レノバ
日本の再生可能エネルギー会社である株式会社レノバは、2021年11月4日に、同社がベトナム・クアンチ省で建設していた「クアンチ風力事業」が、2021年10月31日までに営業運転を開始したことを発表した。
クアンチ風力事業はレノバにとって初の海外進出、初の陸上風力発電事業となった。この事業で発電した電力は、FIT制度に従い売電される。
レノバはこのクアンチ風力事業を、ベトナムの電力会社であるPower Construction Joint Stock Company No.1と共同で進めていた。
レノバ:ベトナム社会主義共和国における「クアンチ風力事業」の営業運転開始に関するお知らせ
まとめ
本記事では、ベトナムの電力および再生可能エネルギー市場について網羅的に紹介・解説した。
ベトナム政府のPDP8の策定方向と、最近の商工省の動きを見ると、ベトナムの再生可能エネルギー市場は今後数十年間でさらに成長し続けることが考えられる。
ベトナムの再生可能エネルギーの中でも、風力発電、特に洋上風力発電に注目すべきである。この分野はまだ開発の余地が多く、特に風況が良好なベトナム中南部、北中部地域、中原高地は、まだまだ十分な開発余地が残っている。
太陽光発電の開発に関心のある投資家は、FIT制度の期限が終了することを想定し、入札制度やDPPA制度などの新しい仕組みを理解する必要がある。しかし、現在ベトナムの中央検査局は太陽光発電プロジェクトが急増した地域の投資家や地域行政に対して、全面監査を実施している。その結果法規程に違反しているプロジェクトが複数発見されたため、今後ベトナム太陽光発電への投資を検討する場合は、こうしたコンプライアンス面のリスクに十分注意する必要がある。
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