マサングループ:食品加工を中心とするベトナム最大級のコングロマリット
ベトナム最大級のコングロマリットとして知られるマサングループ(Masan Group)は1996年に設立され、今年で設立から25年目となる。調味料、インスタントヌードルそして加工肉等を中心とする食品加工業が事業の中核であるが、その他にも鉱業事業、消費財小売業を行うグループ子会社を有している。ベトナム国民からはヌクマム(魚醬)、チリソースの製造企業として最も良く知られている。
マサングループの歴史:ロシアから始まった発展の歴史
マサングループの創業者Ngueyen Thanh Quang氏は1990年代、留学先のロシアでインスタントヌードルの販売事業を始めた。当時ロシアには多くのベトナム人が留学・出稼ぎ等で暮らしており、Quang氏の販売するインスタントヌードルはそうしたベトナム人から高い人気を得た。またベトナム人だけでなくロシア人も、Quang氏のインスタントヌードルを購入するようになり、順調に売上を伸ばしていった。
2001年からは、Quang氏はベトナム国内向けの販売事業も行うことを決め、インスタントヌードルだけでなく、後に有名になるチリソース「CHIN-SU(チンスー)」やヌクマム(魚醬)の製造販売も行った。
ベトナムでの販売も順調に拡大していき、2004年11月にはMasan Maritime Joint Stock Company(MSC)が資本金320億VNDで設立された。 2009年7月、MSCの株式は持株会社であるMasan Group Joint Stock Companyに完全に譲渡され、資本金は320億VNDから1,000億VNDに増加した。
事業内容
マサングループは飲食料品部門から始まった企業であるが、現在は食肉・鉱業・リテールなど幅広い分野まで事業を拡大している。まずはセグメント別の売上構成を確認していきたい。
セグメント別の売上構成
2016年と2020年のそれぞれの売上構成を比較すると、いくつかの大きな変化が見られる。
ビンマートの買収によるリテール部門の出現
マサングループは2020年にビングループより、スーパーマーケットチェーンの「ビンマート」を買収した。これによりセグメント別売上にリテール部門の売上が大きく計上され、現在マサングループ内で最大の割合を占めるに至っている。
鉱業部門の存在感の高まり
2016年のセグメント別売上では、鉱業部門の売上はそこまで重要ではないとして、「その他」の分類に計上されていた。しかし2020年には「鉱業部門」という一つのセグメントが立てられ、全体の10%の売上を占めている。
マサングループの収益実績の推移:ビンマートの買収が利益率を大幅に押し下げ
2016年~2020年度の実績推移
マサングループの実績でまず目につくのは、2019年から2020年の間までの売上が2倍近く増加している点である。この売上増加はビンマートの買収によりリテール部門の売上が一気に計上されたためである。一方で純利益率は2019年から2020年までに80%近く減少している。純利益率も同じく14.9%から1.6%へと急落している。この原因は何だろうか。
ビンマートが抱える負債がグループの利益率に大きく影響
マサングループがビンマートを買収した際、ビンマートは大幅な赤字であった。もともとビンマートを経営したビングループは顧客の利便性やブランド力強化を優先し店舗拡大をしていたため、あまり利益率が重視された店舗配置になっていなかった。また2020年にはコロナの影響で国内の物流が一部滞ったことから、商品の輸送費が嵩み、販売費が急増した。
現在マサングループはビンホームの黒字化に向けて、店舗の陳列方法の変更、不採算店舗の閉鎖と新たな店舗のオープン、物流の効率化等の取り組みを行っている。今後ビンマートの経営が上向くかどうかが、グループ全体の利益に大きく影響するだろう。
大型M&Aを行ったことによる有利子負債の増加
2020年期中にマサングループは前述のH C Starkのプロジェクト、洗剤を製造するNET Detergent、その他ベトナム企業3社の買収を行った。その際に社債発行による買収資金の調達を行ったため、有利子負債が増加し金利費用が大きく計上された。また買収によって多額の固定資産がバランスシートに計上されたため、償却費が急激に増加したことも、利益率を押し下げる一因となった。
マサングループはなぜビンマートを買収したのか
ここまでの分析を振り返ると、ビンマートの買収は財務状況に負のインパクトを与えており、なぜマサングループがビンマートを買収したのかの理由が不明確である。しかし買収の背景には、マサングループが目指す「農場から食卓まで:一貫したコールドチェーン体制の構築」があった。
冷蔵・冷凍肉のコールドチェーンの構築
Masanは豚の飼育農場を全国各地に構えており、また自社で屠畜場を構え、自社グループ内での豚肉の一貫生産を実現すべく取り組みを進めてきた。今回、豚肉流通経路の出口であるスーパーマーケットチェーン「ビングループ」を買収したことにより、豚の飼育場からスーパーマーケットまでの一貫した流通経路をマサングループが構築できたことになる。
ビンマートチェーンは全国2600店舗を有しており、この販売網をマサングループが手に入れたことは、長期的に見て同社の発展に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
結論:マサングループの今後
ビンマートの買収からわかるように、マサングループの方針は巨大コングロマリットのスケールメリットを活かした自社独自の流通経路の構築、およびマサンブランドの評価を上げることにあると推測できる。特にベトナムでは近年「食品の安全性」が非常に注目されている。そのため、全ての流通経路をマサングループがしっかりと管理することで、消費者は安心してマサンブランドの食料品を手にすることができる。
また現在、プロジェクト進行中の鉱業分野についても、今後どのような動きが出てくるかに注目が集まる。ベトナムではマサンやビングループを始めとする巨大なコングロマリットが国内経済に大きな影響を与えている。今後もこうした企業の動向には、日本企業としても注視する必要があるだろう。
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