はじめに
ベトナムではコロナ禍を通じて電子商取引(EC)が人気を集めている。ベトナム商工省のEC・デジタル経済局によると、ベトナムのEC市場は急速に成長している。2022年には、約164億ドルの売上が見込まれ、成長率は20%と予測されている。
ベトナムにおけるECの普及とともに、SNSを通じた販売が広く行われており、特にTikTok Shopが有望な市場として注目されている。TikTok Shopは2022年にベトナムのEC市場に参入したばかりであるが、2023の第2四半期の売上シェアではこれまで2位であったLazadaを追い抜いた。TikTok Shopは既に、ベトナムの販売業者にとって欠かせないプラットフォームとなっている。
TikTok Shopとは?
TikTok Shop(ティックトック ショップ)は、近年日本を含め世界中で流行しているSNSであるTikTokの新しいサービス・機能で、TikTokアプリの中で出店から決済まで行えるECプラットフォームである。日本ではまだリリースされていないが、ベトナムを含めた複数の国で展開されている。ベトナムにおいては、最新のビジネストレンドとして認知されている。
TikTokは、中国のIT企業ByteDance(バイトダンス)によって開発されたSNSである。TikTokは、ユーザーが短い動画を制作、共有、視聴できるアプリで、世界中の若い世代を中心に非常に人気がある。
TikTokは世界中で爆発的な成長を遂げ、若年層を中心に数億人のユーザーが利用している。インフルエンサー、クリエイター、ブランドなどもTikTokを活用して広告やマーケティングを行っている。TikTokは、音楽業界やエンターテインメント業界においても非常に大きな影響力を持つようになっている。
基本機能
TikTok ShopはTikTokアプリ内で提供されるECサービスである。販売者は、ライブ配信・通常の動画・アカウントページの3つの方法で商品を消費者に閲覧してもらう。また、消費者が商品を購入する際には、他のWEBサイト等にリダイレクトすることなくTikTokアプリ内で決済を完了することが可能である。
また、販売者は、出品やプロモーション、各種パフォーマンス分析、クリエイターとのコラボレーション依頼まで、ECに必要なあらゆる作業をTikTokアプリ内で行うことが可能である。
TikTok Shopは、ショッピングをエンターテインメントと結びつけた、いわゆる「Shoppertainment(ショッパーテイメント)」の新しいケースとして知られている。
強み
ベトナムにおけるTikTok Shopの強みは、以下のとおり大きく4つが挙げられる。
ベトナムではTikTok自体の利用者が多いため、潜在顧客が多く集まる
TikTokはベトナムで非常に人気があり、特に若年層を中心に広く利用されている。多くのユーザーがアプリを毎日利用し、短い動画を制作・視聴している。そのため、TikTok上でのショッピング体験は多くのユーザーにリーチできる機会となる。
ベトナムにおけるTikTokの利用概況は後述する。
画像やテキストよりも商品の魅力が伝わりやすい
動画の方が画像やテキストよりも商品の魅力やイメージが伝わりやすい点も、動画がメインのTikTok Shopの強みである。
エンゲージメントに関して、TikTokの特徴は短い動画でユーザーの関心を引きつけることができることである。視覚的かつエンターテイニングなコンテンツは、ユーザーの商品に対する興味を抱かせ、購買意欲を刺激する。
また、TikTokはクリエイティブなマーケティングに適したプラットフォームである。ユーザーはダンス、コメディ、チャレンジ、メイクアップなどさまざまなコンテンツを制作し、広告したい商品を自然に取り入れることができる。
直接的な対話が、消費者に信頼感を生み出す
TikTokにはライブストリーミング(生配信)機能も提供されており、商品のデモンストレーションや視聴者からの質問回答など、リアルタイムでコミュニケーションを行うことができる。これにより、顧客とのインタラクションを増やし、信頼性を高めることができる。
Tiktokのアプリの中で出品や決済が全て完結する
TikTok Shopの最大の強みの1つとして、すべての機能がTikTokアプリ内に完全に内包されていることが挙げられる。商品の出品や支払いなどをすべてTikTokアプリ内で行うことができる。ユーザーはTikTokを楽しみつつ、簡単にショッピングを行うことができる。
TikTokアプリ内で支払い機能等が含まれることにより、取引の完了が今まで以上に迅速かつ便利になる。購入者は数回のクリックで商品を購入でき、リンクをクリックしたり、外部のウェブサイトに移動したり、複数回の支払い情報を入力したりする必要がない。これにより、商品カートが放置される可能性が減り、取引の完了率を向上させている。
ベトナムにおけるTikTokの利用状況
ベトナムは世界で6番目にTikTokユーザーが多い国である。日本はベトナムよりも人口が多いが、TikTokユーザー数は世界で17番目とされている。
ベトナムは5,000万人以上のユーザーを有し、東南アジア地域ではインドネシアに次いでTikTokユーザー数が2番目に多い。
ベトナムでは、総人口に占めるTikTok利用者の割合が、2020年の34%から2022年には62%に増加している。また、TikTok利用者の年齢層としては、Z世代の利用者が多い。
ベトナムにおけるTikTok Shopの概況
本章では、ベトナムにおけるTikTok Shopの概況を解説する。
ベトナムにおけるTikTok Shopのシェア
TikTok Shopはベトナムで2番目に大きなシェアを持つECプラットフォームである。2023年の3月まで2位であったLazadaは2012年に設立されており、ベトナムのEC業界では老舗である。TikTok Shopは2022年の第4四半期からサービスを開始したので、非常に短い時間で急成長していると言える。
今後は、ベトナムで1番のシェアを持つShopeeにどこまで迫れるかが注目すべき点である。
ベトナムにおけるTikTok Shopの活用事例
ここでは、ベトナムにおけるTikTok Shop及びTikTokを通じたマーケティング・販売促進の成功事例を2つ紹介する。
バクザン省:ライチの販売
WEBやSNSでの生放送を通じて商品を販売するライブコマースは、新しい販売方法としてベトナムでも浸透しつつある。ベトナム各地の特産品など、さまざまな商品の販売に利用されている。
2023年6月、バクザン省でライチのライブコマースが実施され、わずか4時間で50トンのライチが販売された。これはTikTok Shopとの協力によるもので、ライチの栽培から収穫、パッケージングまでの一連の作業が放送され、消費者はその過程を通じて商品の新鮮さや品質を確認できた。
この手法はバクザン省だけでなく、ベトナム全国の農家や協同組合、農業関連企業でも取り入れられつつある。コロナ禍以降、販売方法を変化させ、SNSやECでの商品販売にシフトしてきた農家は、ライブコマースを今後より一層活用すると予想される。
メイベリン:化粧品の販売
アメリカの大手化粧品メーカーであるMaybelline New York(メイベリン)のキャンペーン「Mấy bé lì. Chẳng sợ gì」は、ベトナムにおけるTikTokの活用に成功した事例の1つである。
このキャンペーンの目標は、新製品である「Superstay」というリップスティックを、16歳以上の若者に向けて宣伝することであった。まず、メイベリンはターゲット顧客層に最も影響力のあるKOL(キーオピニオンリーダー)を抜擢した。覚えやすい音楽とKOLを組み合わせ、ベトナムのTikTokコミュニティで広く拡散された。 「Mấy bé lì. Chẳng sợ gì」は、75,000人以上のユーザーが動画を投稿し、ハッシュタグ「#Maybeline」はベトナムの19,000,000人のユーザーが閲覧し、動画再生数は1億7,300万回を記録した。
キャンペーン実施前と比較し、広告アクセス数は31.34%増加した。SuperStay製品の売上高は790%増加した。Maybelline VietnamのEC売上高も、前年同期比で32.4%増加した。
日本企業が参入する際のポイント
本章では、日本企業がベトナムのTikTok Shopに参入あるいはSNSマーケティングを行う際の注意点を解説する。
現地理解
ベトナムでビジネスを行う日本企業にとって、ベトナムの文化や習慣を深く理解することは非常に重要である。ベトナムは独自の文化や社会構造を持っており、これらの要素を理解することは、ビジネス上の成功に直結する。
特に、Tiktokを含めたSNS上で形成される文化は、影響力は大きいものの、外国企業が「ツボ」を抑えることは非常に難しい。
ベトナムでSNSマーケティングを行う際には、より入念な調査と戦略立案が必要である。
インフルエンサー(KOL)の起用
ベトナムでのマーケティングにおいて、インフルエンサー(KOL:キーオピニオンリーダー)を起用することは非常に効果的である。KOLは自分のコンテンツを通じて広範なフォロワーや視聴者にリーチすることができる。KOLはフォロワーとの信頼関係を築いており、KOLの推薦や意見には高い信頼性がある。KOLが製品やサービスを積極的に紹介し、利用したことを示すことで、消費者はその製品やサービスに対してより信頼を寄せる。
また、KOLはクリエイティブなコンテンツ制作に長けている。彼らの独自のスタイルやアプローチを活かしたプロモーションは、消費者に強いインパクトを与え、製品やサービスを魅力的に見せることができる。
KOLのコンテンツはしばしばバイラル効果を持つ。彼らの投稿が多くのユーザーに共有されることで、広告効果が増幅される。製品やサービスの知名度が加速度的に拡大する可能性がある。
これらの理由から、ベトナムでのECおよびマーケティングにおいて、KOLを起用することは非常に有益であり、ブランドの認知度向上や商品の販売促進に大きく貢献することが期待される。
リスクマネジメントの徹底
ベトナムでTikTok ShopやSNSを通じて商品を販売し、KOLを活用して製品を宣伝することのメリットは大きい。ただし、法的な情報セキュリティに関連するリスクやKOLが真実でない情報を伝えてしまうなど、いくつかのリスクも存在する。
実際に、ベトナムにおいてKOLが誤った情報を発信した事例も報道されている。一部のKOLは、商品やサービスを不正確に宣伝し、消費者を誤導することがある。また、商品やサービスを利用していないのに利用したかのように装ったり、宣伝料を受け取ったにもかかわらず自発的な投稿のように見せかけたりすることもある。
このような事例は消費者の信頼を損ない、ブランドの評判にも影響を及ぼす可能性がある。企業はKOLを選定する際には、信頼性や実績、エンゲージメント率などを慎重に評価することが重要である。さらに、広告に関する法律を遵守することで、事前に問題を防ぐことができる。また、コンテンツの作成前から密なコミュニケーションを取ることも重要である。
ベトナム市場に馴染みのない会社にとっては、信頼性のあるパートナーやアドバイザーを見つけることも、リスクを最小限に抑える効果的な方法である。
まとめ
TikTok Shopは、ショッピングとエンターテインメントを組み合わせた新しい手法で、ベトナムのEC市場に参入した。参入から1年足らずで、TikTok Shopはベトナムで2位のシェアを獲得した。今後もTikTok Shopはベトナムでの売り上げを伸ばし、より存在感の大きいECプラットフォームになっていくと考えられる。 日本企業がベトナムでECあるいはSNSマーケティングを行う際に、TikTokは良い選択肢である。しかし、現地理解、KOLの選定、法的なリスクヘッジなど、考慮すべき課題は複数ある。事前に入念な準備が必要であるため、ベトナムに精通したコンサルティング企業に依頼をすることも検討すべきである。
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