はじめに
日本企業がベトナム企業のM&Aを行うにあたり、ベトナム経済、特に不動産セクターの状況がM&A案件の取引額等に大きな影響を与える。2022年まではベトナム経済は右肩上がりで成長しており、不動産セクターも土地価格の高騰に代表されるように、いわば「過熱」状態となっていた。
しかし、2023年に入り上述したような傾向が変わりつつある。
今回は、本メディア「VietBiz(ベトビズ)」の運営会社であるONE-VALUE株式会社の代表取締役 Phi Hoa(フィ ホア)に、2023年のベトナム経済の見通しと、M&A動向予測について詳しく語っていただいた。

2023年のベトナム経済は大きな転換期を迎える
ホア
2022年末から2023年1月にかけて、ベトナムの商工省(MOIT)、計画投資省(MPI)といった政府機関、および各業界を代表する大手企業の社長の方々とお会いし、お話を伺いました。そうしたお話を伺う中で、2023年のベトナム経済はこれまでと異なり大きな転換期を迎えており、特に日本企業のM&Aにとっては大きな追い風となる筈だと確信しました。
ー現在、ロシア・ウクライナ問題や、世界的なインフレが世界経済にも大きな影響を与えています。こうしたものがベトナム経済にも影響するということでしょうか?
ホア
はい、2023年は世界的な不景気の状態が続き、多くのベトナム企業で収益が悪化し、これまでのような成長を継続することが難しくなります。例えば米国のGAFAや日本の大手企業も、社員の新規採用を停止したり、既存社員の削減・解雇といった方向に動いています。ベトナム企業も例外ではなく、製造業やサービス業などでは失業者が増えると予測されています。失業者が増えると、消費活動も活発ではなくなってしまいますので、ベトナム経済全体が元気を失ってしまう結果になるでしょう。
ベトナムの経済成長率は2010年から約5~6%で推移してきていたが、世界経済悪化の影響を受け、2023年はこうした成長がいったん落ち着きを見せることになると、多くの専門家、および経営者によって予測されている。
不動産セクターにおける変化
ー2023年のベトナムの不動産セクターはどのようになると予測していますか?
ホア
これまでベトナムの不動産価格はいわば「バブル」のような勢いで高騰しており、都市部においても多くのオフィスビルや高層マンションが建設されました。こうした物件は主にベトナム国内の投資家や企業によって、主に投資目的で購入されてきました。しかし、2023年以降はこうした動きはいったん落ち着きを見せ、不動産価格もこれまでのような上昇幅ではなくなると予測しています。場所によっては30%~50%ほど不動産価格が下落することもあるでしょう。

ー不動産投資の動きが落ち着きを見せる背景には何があるのでしょうか?
ホア
まず1つは、先ほどお話したようなベトナム経済成長の鈍化です。企業や投資家もこれまでのような高い収益を上げることができなくなると予測されるため、不動産への投資を控えるようになります。2つ目の要因は、金融機関が金利を引き上げ、特に不動産ローンの与信枠を大幅に絞り込んだことです。これにより、国内の投資家は、投資資金を借入によって調達することが難しくなりました。
ベトナムの中央銀行は2012年から金融緩和の方針で低い金利を設定していたが、2022年9月よりインフレを抑制することを目的として、段階的に政策金利を引き上げている。
日本企業にとって2023年はベトナムM&Aを行う絶好の機会に
ーここまで話していただいたようなベトナム経済の転換は、日本企業にとってどのような影響がありますか?
ホア
海外の投資家、企業にとっては、2023年はベトナムへの投資において絶好の機会となるでしょう。ベトナム経済の成長鈍化によって多くのベトナム企業は経営が困難になり、外部の投資家による出資を受け入れるようになります。以前まででしたら出資の申出を断る、または多額の対価が必要となるようなM&A案件であっても、2023年以降はより低い対価で出資できるようになる。つまり日本企業にとってベトナム企業が「お買い得」な時期になると思います。
ー不動産セクターについてはいかがでしょうか?
ホア
国内の投資家が資金を調達できないため、ベトナムの不動産価格は横ばい、または下落することになるでしょう。これは外国の投資家にとっては大きな投資のチャンスとなります。また、物流や倉庫といった不動産が大きく関係するセクターのM&A案件についても、外国の投資家にとっては大きな追い風となるでしょう。
インタビューを終えて(VietBizとしての考察)
2023年は日越国交樹立50周年の年であり、今後ますます日本・ベトナム間の経済関係も緊密になっていく。ベトナムの経済成長が一段落し、次の成熟段階へと向かっていくにあたり、2023年は日本企業にとってはM&Aのまたとない好機となる。
M&Aだけでなく、新規生産拠点の設立等にとっても、不動産価格が落ち着きを見せる今は、ベトナム進出を検討する多くの日本企業にとって、検討から「実行」段階へと進む良い機会となると思われる。
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