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環境・再生可能エネルギー

ベトナム環境産業の成長性:産業排水の増加と汚泥処理ニーズの高まり

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はじめに

今回はベトナムの環境ビジネスについて取り上げ、特に水環境、排水処理市場にフォーカスしたい。以前の記事では、固形廃棄物処理に焦点を当て、都市部における廃棄物処理や廃棄物発電の事業展開の可能性について考察した。今回の記事では、同じ環境ビジネスの中でも、水環境や産業向け排水処理を中心に市場動向や現状課題、今後の機会について分析していきたい。

水環境汚染の現状

ベトナムでは人口増加と都市化、経済発展に伴う工業化を主な要因として、生活排水、産業排水が増加している。しかし、都市部では下水道インフラが十分に整備されておらず、未処理の生活排水、産業排水が河川に放流されており、水環境の汚染を引き起こしている。また、排水処理システムが導入されていない工業団地も依然として存在しており、導入されていても十分に稼働していないなど、政府が定めた排水処理の基準を満たさないまま、排水が河川に放流されている現状がある。

また、下水用の河川も、未処理のごみ、廃棄物の不法投棄があるほか、無許可な占有、埋め立てが多発しており、排水を妨げている現状だ。沈殿によって水量が少なくなり、流れが悪くなることで、水環境汚染の悪循環が進行している。

ベトナムの環境産業については以下の記事で詳しく紹介しています。

排水に関する統計データ

ベトナム天然資源環境省の統計によれば、2030年にかけて、生活排水と産業排水の発生量はともに増加を続ける見通しであるが、特に産業排水の増加が顕著である。2020年時点、1日当たりの産業排水の発生量は3,200千㎥/日とみられているが、2030年には13,600千㎥/日となる見込みで、これは現在と比較して約4.3倍に増加することを示している。

ベトナム商工省の発表によれば、2019年時点、ベトナム全国に存在する工業団地の88.3%に集中排水処理システムが導入されており、導入済みの工業団地から発生する1日当たりの産業排水の量は635,000㎥ /日にのぼるという。一方で、処理能力は僅か450,000 ㎥/日に留まっており、システムが導入されていても、処理能力が不足している。また、地方政府は中央政府と比較して、環境規制を重視せず、環境に対する意識が高くない傾向も一部ではみられる。

こうしたことから、工業団地を中心に排水処理システムが導入されていても処理能力が不足し、行政による検査がある際に一時的に稼働するものの普段は稼働していないという現状が散見されるようである

厳格化される法規定と基準違反に対する罰則の強化

こうした水環境の汚染の現状を踏まえ、政府は排水基準を定めており、環境保護に関する規定の厳格化を進めてきたが、法規定の制定ばかりが先行し、実際の効果につながってこなかった過去の経緯がある。しかし、最近では基準を違反した企業に対する罰則は強化されている傾向だ。

ベトナムでは1993年に初めて環境管理に関する基本法となる「環境保護法」が公布され、それ以降、同法は2005年と2014年に全面的な法改正が実施されてきた。改正に伴い、国内の環境汚染に対処することを目的として、規制内容の厳格化、罰則の強化、国家の環境保護管理に関する各当局の役割・権限の明確化、環境保護に関する地方政府への権限付与が進められてきた

また、2019年5月13日に出された、政府議定「環境保護法の詳細及び施行を規定する政令の一部条項の改正及び補足」(No. 40/2019/ND-CP)では、「一般産業固形廃棄物の排出者の責任」、「電気電子機器、紙・パルプ、電池・バッテリー、化学品など全17業種を対象とした貯水池の設置」、「特定の業種(ガラス、鉄鋼、セメント、火力発電所など全11業種)を中心として、一部の施設に排ガスの自動連続モニタリング装置の設置を義務付け」を規定している。

2020年7月には、Hung Yen省人民委員会が地場化学品メーカーのLever Vietnam社に対し、環境違反の行政処罰を下した。罰粉塵と排ガスに関する濃度が基準値の1.1~1.5倍となっていたこと、排水の濃度が基準値の10倍以上となっていたことが主な違反内容であったが、罰金総額は約7億2600万ドン(約334万円)にのぼった。

こうした取締りや罰則が強化されれば、企業側も自社の環境保全に関する管理体制を強化していくと考えられ、より高度な水処理の技術に対する需要が高まっていく可能性が高い。環境ビジネスは政府による実行力がなければ、企業側にとっても基準を順守するインセンティブが働きにくくなる。取締りや罰則が規定通り執行されるようになれば、企業による排水処理ニーズも高まり、市場も更に成長していくだろう。

排水処理に伴う汚泥の増加の問題

 上記では水環境汚染の現状を述べてきたが、近年ではODAといった公的資金を通じて、都市部を中心に下水道インフラの整備が進んでいる。現在、ベトナムでは20の都市に集中型の下水処理場が40箇所程度存在しており、建設工事中・投資準備中のものは50箇所程度存在している。2020年以降、ベトナムでは都市部を中心に新設の下水処理場が運転開始を行う計画だ。

 これに伴い、新たな問題となっているのが、下水処理に伴って発生する汚泥の増加であり、下水道インフラの整備が進むにつれて、汚泥の発生量も付随して増加していく。ベトナムの都市部では、殆どの世帯のトイレはセプティックタンク(浄化槽)であるが、殆どの下水は公共の排水システムに排出され、セプティックタンクからの汚泥の引き出し、収集、運搬はされるものの、処理されずに川や湖に排出されるか、一般廃棄物と共に処分場で埋め立てされる。こうした状況が続けば、既にひっ迫している廃棄物の処理場を更に逼迫させる恐れもある。都市部で発生する汚泥は主に、セプティックタンクからの汚泥、排水システム(下水溝、排水管に繋がる湖)からの汚泥、下水道インフラ場からの汚泥の3つに分類されるが、いずれも大部分が管理されておらず、脱水処理をして、埋め立て処理をするのが現状だ。一部では、セメントや燃料として活用する動きもあり、汚泥の有効活用が期待される。

 ベトナム建設省技術インフラ局の試算によれば、ホーチミン市における下水道汚泥発生量は長期的に急増する見通しで、現在は1日当たりの数百トンの汚泥であるが、2050年にかけて汚泥発生量は1日2,000トン以上まで増加すると予測されている。

産業排水処理・汚泥処理の市場が成長

 上記をまとめると、水環境の汚染の進行と政府の環境対策の強化により、水環境・排水処理の市場規模は長期的に成長を続ける見通しである。そのなかでも、産業向け排水処理と汚泥処理のセクターは特に成長性が高いと筆者は考えている。ベトナムでの事業展開においては、まず自社の方針にあった適切なパートナーを探索するとともに、実現可能性があり、収益性が高いビジネスモデルの構築が必要となる。例えば、廃棄物処理においては廃棄物を燃料として有効活用し、売電収入やチッピングフィーを得るということも想定されるビジネスモデルの1つであろう。環境改善という社会インフラの性質を保ちつつ、以下に採算性が見込めるモデルを展開するかが鍵となると見ている。

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