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環境・再生可能エネルギー

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向

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はじめに
この記事で伝えたいこと
  • ベトナムは2050年までのカーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギーの開発に注力している。
  • カーボンプライシングの中でも特に注目されている「排出権取引」は、2025年にベトナムでも開始される予定。
  • 都市化・工業化が著しいベトナムでは脱炭素技術・ノウハウの需要が高く、日本企業を始めとする外資系企業の参入が期待される。

はじめに

ベトナムにおけるカーボンプライシング(Carbon Pricing)が注目を集めている。カーボンプライシング(Carbon Pricing)とは、排出される二酸化炭素(カーボン/CO2)に価格付け(プライシング)を行い、CO2排出者の行動を変化させて排出量を抑えるという、地球温暖化対策の政策である。

ベトナムのカーボンプライシングが注目を集めている理由は大きく分けて2つ挙げられる。


1つ目は、ベトナムは2050年までに温室効果ガスの排出を0にするという目標(カーボンニュートラル)を公示しているからだ。ベトナムにおけるカーボンプライシングは未発達であるが、だからこそ今後目標を達成する鍵となることが期待されている。


2つ目は、ベトナム政府が2025年までに「排出権取引市場」を開始すると宣言したからである。詳しくは後述するが、「排出権取引」を端的に表すと「CO2削減をより直接的に利益に結び付ける仕組み」である。経済発展とそれに伴う都市化・工業化が著しいベトナムにおいて、そのような新しい市場が登場することは企業にとって経営戦略に関わるほど重要な要素であるため、注目を集めている。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:著しいとしかを見せるベトナム・ホーチミン市
著しい都市化を見せるベトナム・ホーチミン市 出所:Vincent Loy’s Online Jornal

カーボンプライシングとは

世界で最も先進的にカーボンプライシングを行っているのは欧州地域で、日本でも導入が進んでいる。カーボンプライシングを導入している国・地域はここ10年間で3倍以上増加し、地球全体の温暖ガスの20%以上をカバーしている。今後は新興国、さらには発展途上国にも浸透する見通しである。

日本国内でのカーボンプライシングの具体的な手法・仕組みは、環境省の定義では4種類に分けられる。

  • 炭素税
  • 排出権取引
  • クレジット取引
  • 炭素国境調整措置

この4種類に加え、国際的なカーボンプライシングとして「国際機関による市場メカニズム」、企業内でのカーボンプライシングとして「インターナル・カーボンプライシング」の2種類もある。

本章では、国内における4種類を簡単に紹介する。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:カーボンプライシングの概要
カーボンプライシングの概要 出所:環境省

炭素税

炭素税とは、政府がCO2排出量に対して課税することで炭素に価格を付ける仕組みである。90年代初頭からフィンランド・スウェーデンといった欧州の国が先進的に導入しており、日本では「地球温暖化対策のための税」という名称で2012年に導入されている。

炭素税は政府が価格を決定するので、価格は安定するが実際の削減量を見通すことが困難である。もう1つのメリットとして、炭素税は既存の徴税システムを流用できる点が挙げられる。したがって炭素税は、行政にかかるコストが低く導入が比較的容易である。実際に、次に紹介する排出権取引よりも、炭素税を導入している国・地域の方がやや多い。

排出権取引

排出権取引は、まず政府が国全体のCO2排出量上限を設定し、それを各企業に振り分ける。そして排出上限に対して余裕が出来た企業が、その余剰分の排出枠を販売することで、炭素に価格付けがされる仕組みだ。余った排出枠の販売で利益を得ることが出来るので、企業の積極的な努力による排出量の減少が見込まれる。

炭素税と違い政府が排出量を決めるので、実際の削減量が予想しやすい一方で価格が不安定になることが懸念される。こちらは企業ごとに排出上限を設けることや取引の実施など綿密に設計すべき点が多く、行政にかかるコストが大きいことがデメリットである。

ベトナムにおいては先述の通り、2022年1月7日に発出された「議定No.06/2022 / ND-CP」によって、2025年からの開始が宣言されている。
日本では2010年から東京都が、2011年から埼玉県が実施している。この他には実施されていない。

また排出権取引は、「排出量取引」や「排出枠取引」と呼ばれる場合もある。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:表

クレジット取引

クレジット取引とは、CO2の削減価値を証書にして取引を行うことである。日本政府は非化石価値取引、Jクレジット制度、JCM(二か国間クレジット制度)などを運用している。

例えばJCM(二か国間クレジット制度)は、日本がパートナー国でCO2削減に貢献するプロジェクトを実施し、その削減分を「クレジット」として両国で分け合う制度である。このクレジットは、国のCO2削減目標に活用される。

日本とベトナムの間ではJCMによるクレジット発行が複数実施されており、今後さらに協力体制を強化し促進される見通しである。

炭素国境調整措置

炭素国境調整措置とは、CO2の価格が低い国で製造された製品を輸入する際に、両国間のCO2の価格差を事業者が負担するという仕組みである。

もしこの制度が無ければ、将来CO2価格の低い国への製造拠点移管が多く発生し、結果的にCO2排出量が増加するという恐れがある。現在は欧米で検討されている段階である。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:世界および日本でのカーボンプライシング導入状況
世界および日本でのカーボンプライシング導入状況 出所:環境省

ベトナム政府の脱炭素方針

本章では、脱炭素に関するベトナム政府の方針を紹介する。

COP26でのベトナム政府の宣言

ベトナムのファム・ミン・チン首相は2020年11月1日、イギリスで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すことを発表した。

COP26の後、ベトナム政府は天然資源環境省に対し、COP26で発表した目標を実現するための「専務指導委員会」を設置するよう指示した。指導委員会は2050年までに「カーボンニュートラル」を達成するための、「2050年までの気候変動に関する国家戦略」、「2030年までのメタン排出量削減に係る行動計画」、「グリーン成長に関する国家戦略」などの炭素削減戦略を策定するという役割で2021年末に設立された。

天然資源環境省は、国防省および関連省庁とその支部、地方自治体と連携して海洋調査を実施し、国家の海洋開発マスタープランを見直し、洋上風力発電開発を促進するという方針も表明してきた。加えて、天然資源環境省・財務省・商工省は共同で、2022年内に炭素税・排出量取引を含むカーボンプライシング計画を設計し、チン首相に提案することを指示されている。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:チン首相はCOP26、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を宣言
チン首相はCOP26で、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を宣言 出所:qdnd.vn

再生可能エネルギーの開発

ベトナムは今後、電源構成の開発における石炭火力発電の割合を削減し、再生可能エネルギーの割合を増加させることに注力する。COP26でカーボンニュートラルを達成すると発表した後、ベトナム政府は2021年11月10日に、第8次国家電力マスタープラン(PDP8)原案を再度見直すと発表した。

見直された詳細な内容はまだ明確に公開されていないが、ベトナム政府は国の電源構成の約4割を占めている石炭火力の発電所新規建設と拡張を制限し、石炭火力のシェアを減少させる方針は明らかになっている。さらにベトナム政府は再生可能エネルギー、特に風力発電と太陽光発電を中心に開発する方針である。

しかし今日のベトナムでは太陽光発電の開発が過剰になっており、2021年までの開発目標の20倍にも達している。今後は太陽光発電の開発を制限すると予測されている。その代わりに、ベトナムの優れた風況を活かした風力発電、特に洋上風力発電は、ベトナム政府が今後最も注力する電源となる可能性が高い。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:北部は重要な発電源である「Uong Bi」石炭火力発電所
北部の主要な発電源である 「Uong Bi」石炭火力発電所 出所:evn.com.vn

ベトナムのPDP8については以下の記事で詳しく紹介しております

廃棄物処理に関する新たな法規定

環境保護法はベトナム政府によって改正され、2022年1月1日から正式に有効になっている。新しい環境保護法における最も重要な変更点は、廃棄物処理の責任を製造業者に課す点である。

従来の法律では、メーカーは販売段階までの責任を負っていた。新法では、メーカーは消費者が製品を使用した後の回収とリサイクルにも責任を負う。生産者に対する廃棄物処理の責任範囲が拡大された格好である。具体的には、製品の生産者は廃棄物を回収して自社で処理するか、環境保護基金に寄付をする必要がある。生産者はこの2つの義務を両方拒否すれば、法的に罰せられる。

ベトナムは海洋に排出されたプラスチック廃棄物の量で世界7位であり、その点で世界各国から批判的な声が多く寄せられている。この新法には、ベトナム政府が廃棄物、特にプラスチック廃棄物削減に本格的に取り組む姿勢が表れている。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:廃棄された電化製品から有用な部品を取得する廃棄物処理の個人店
廃棄された電化製品から有用な部品を取得する廃棄物処理の個人店 出所:suckhoedoisong.vn

加えて、先述した2022年1月7日にベトナム政府が発出した「議定No.06/2022 / ND-CP」では、排出権取引以外にも決定がなされた。政府が定めた基準を満たす生産業者に対して、温室効果ガスの排出量を記録することを義務付けることである。
具体的な対象は、年間3,000トン以上のCO2を排出する会社・団体・機関である。加えて、次のいずれかの基準を満たす主体も対象だ。

  • 年間総エネルギー消費量が1,000 TOE(※)以上の工業生産施設、会社または火力発電所
  • 年間総燃料消費量が1,000TOE以上の貨物輸送会社
  • 年間総エネルギー消費量が1,000TOE以上の商業ビル
  • 年間稼働能力65,000トン以上の廃棄物処理施設

※TOE (Tonne of Oil Equivalent)(石油換算トン)とは、各種エネルギー源について比較を容易にするため、発生エネルギー量を石油のトン数に換算することである。

2022年1月7日以前のベトナムには、温室効果ガスおよびCO2排出量の測定・報告・削減義務を事業者に負わせる特定の法的文書は存在しなかった。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:ベトナム中部にあるVinh Tan石炭火力発電所
ベトナム中部にあるVinh Tan石炭火力発電所 出所:vatlieuxaydung.org.vn

ベトナムにおける炭素税制度と排出権取引

ベトナム財務省は2010年から「通知No.152/2011/TT-BTC」に則って、「環境保護税」という名前で、ガソリン、石油、石炭、農薬など環境に悪影響を与える原材料や燃料を対象とした課税制度を導入していた。

この「環境保護税」は、温室効果ガスの排出量ではなく化石燃料の使用量ベースで課税額が設定される。

例えば、2020年におけるガソリン使用に対する環境保護税は、1リットルあたり1千〜4千ドン(5〜20円)、または1トンあたり1万〜3万ドン(50〜150円)とされている。環境保護税は燃料を購入する時に、購入者が負担する。

ベトナム政府は環境保護を意識し早期からの化石燃料消費に対する税制を導入していたが、今後は排出された二酸化炭素の量も考慮した新しい環境保護税に転換するか、あるいは既存の環境保護税と併せて新しく「炭素税」を導入する可能性が高いと考えられる。

ベトナムにおける排出権取引については、先述した2022年1月7日の決定の直後である1月28日に、レ・バン・タン副首相は財務省が提案した「カーボンプライシング全般並びに排出権取引市場の仕組み」のドラフト案にコメントを加えつつ、既にこのドラフト案を承認したという早い動きも見られた。これはベトナム政府のカーボンプライシングに対する本気度を示唆する出来事だと言える。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:1月28日に、レ・バ・タン副首相は「排出権取引市場の仕組み」のドラフト案を承認した。
1月28日に、レ・バン・タン副首相は「排出権取引市場の仕組み」のドラフト案を承認した 出所: baotintuc.vn

ベトナムにある企業の動き

2021年まで、ベトナムには国内民間企業に対する温室効果ガスやCO2排出量の削減義務を表す明確な法規定が無かったため、ベトナム企業の脱炭素施策はまだあまり見られていない。しかしベトナムで操業している外資系企業は、脱炭素のためのプログラムを早い段階から発実施していた。

Unilever Vietnam(ユニリーバベトナム)

Unilever Vietnam(ユニリーバベトナム)は、ベトナムにおける日用消費財メーカーの最大手である。同社はメーカーとして、ベトナムにおけるプラスチック廃棄物の収集とリサイクルのパイオニアである。

ユニリーバベトナムはハノイ市のURENCO 社・VIETCYCLE社と協力し、消費者が廃棄物を正しく分別できるようにハノイ市内の公共施設や道路でプラスチック廃棄物の収集システムを構築している。また、市内のごみ収集業者は、収集場所で廃棄物を安全に正しく分別するように啓発・訓練されている。

リサイクル段階では、リサイクル可能なプラスチックはユニリーバの包装生産のための原材料として分別され、リサイクルされる。一方、リサイクル不可能なプラスチックは燃料油に変換される。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:廃棄物の分別・プラスチックのリサイクルを啓発するユニリーバのポスター
廃棄物の分別・プラスチックのリサイクルを啓発するユニリーバのポスター 出所:unilever.com.vn

Starbucks Vietnam(スターバックスベトナム)

スターバックスベトナムはVeritas Vietnam(ベリタスベトナム)と提携してコーヒーかす(コーヒーを抽出した後のかす)をリサイクルしている。ベリタスベトナムの従業員は、コーヒーかすを収集するために週に2度スターバックスの店舗まで足を運ぶ。 同社はこれらの廃棄物を原料として靴、カップ、マスクを製造し、自動車メーカーやホテルなどに販売する。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:スターバックスベトナムはプラスチック廃棄物の削減に貢献している
スターバックスベトナムはプラスチック廃棄物の削減に貢献している 出所:rangcafe.vn

ベトナムの外食・飲食店については以下の記事で詳しく紹介しております

Nestle Vietnam (ネスレベトナム)

2021年12月、Nestlé Vietnam (ネスレベトナム) は、ベトナム資源環境省と「協力協定」を締結した。この協定では、ネスレベトナムの活動によってベトナム消費者の環境保護に対する意識を向上させること目的としている。

同時に、ネスレベトナムは、2025年までにリサイクル可能なプラスチック包装を使用するという目標も発表した。同社はまた、パートナー企業に対してリサイクル不可能なプラスチック廃棄物の収集と分別手法を改善するために、プラスチック廃棄物分別機を支援している。

ネスレベトナムは、店舗で使用するプラスチックストローをFSC認定の紙ストローに変更したベトナム初の企業でもある。

ベトナムの二酸化炭素排出権・カーボンプライシング最新動向:ネスレは環境保護活動に積極的に参加している
ネスレはベトナムでの環境保護活動に積極的に参加している 出所:vir.com.vn

さいごに

ベトナムは環境保護と二酸化炭素排出に関する国際的な公約達成に向け、カーボンプライシングの整備を迅速かつ積極的に進めていくと考えられる。

主な理由として、ベトナム経済が非常に外国に対して開放的であることが挙げられる。2021年のベトナムの総輸出入金額は6700億米ドルに達し、そのうちの約7割はFDIセクター(直接投資本の企業や事業活動)に由来するものである。2021年の2,762億ドルのGDPと比較すると総輸出入金額はGDPの2.4倍であり、ベトナム経済はシンガポールと香港に次いで、東南アジア及び東アジアでトップクラスに開放的であると言える。

しかし言い換えればベトナム経済はやや海外市場に依存しがちであるため、ベトナム政府はできるだけ国際的な圧力及び反発、貿易規制を避けるようにする方針がある。そのため、ベトナムは「パリ協定」や「COP26」などで発表したカーボンニュートラル達成目標をきっちり実現しようとすると考えられる。

ベトナムにおけるカーボンプライシング、特に「排出権取引市場」の導入は、高い二酸化炭素削減技術・ノウハウを持つ日本企業にとって有望な参入機会である。

また、ベトナムが進める環境保護の最も重要なポイントの1つとして、電源構造の変化も挙げられる。正式発効が待たれるPDP 8における石炭火力削減はほぼ確実で、再生可能エネルギーの中でも特に洋上風力発電の開発に焦点が当てられると予測される。日本企業にとって、これもベトナムの再生可能エネルギー業界への良い参入機会と言える。

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