2025年ベトナム経済の回顧:主要指標が示す「中所得国の壁」突破への歩み
2025年のベトナム経済を一言で総括するならば、「成長局面の転換点」という表現が最も適切である。世界経済が不透明感を増す中、ベトナムはGDP成長率8.02%を記録し、世界でも屈指の高成長を遂げた国の一つに数えられた。
経済規模は約5,140億ドル(約77兆円)に達し、一人当たりGDPは5,026ドル(約75万円)を突破した。これは、ベトナムが正式に「中上位所得国」へ移行したことを示す、重要な節目である。
成長を牽引した主要因:
- 製造業の復活: 製造・加工業は9.97%増と、過去7年間で最高の伸びを記録した。
- インフラ投資の加速: 公共投資の実行額は約850兆ドン(約5.1兆円)に達し、経済全体の潤滑油となった。
- 観光業の完全回復: 外国人観光客数は過去最高の2,120万人を記録し、サービス業の成長(8.62%増)を強力にバックアップした。

2025年ベトナム経済における10の明るい兆し
2025年の経済成長を詳細に分析すると、以下の10の主要なポジティブな動向(明るい兆し)が確認できる。これらは2026年のさらなる飛躍を支える基盤となっている。
- GDP成長率の目標達成と上振れ: 多くの国際機関の予測を上回り、政府目標(6.5-7.0%)を確実に達成する見込みである。
- マクロ経済の安定維持: インフレ率(CPI)が抑制され、為替相場も主要通貨に対して相対的に安定を維持している。
- 鉱工業・製造業の強力な回復: 経済の屋台骨である製造業が力強く復活し、製造業PMIも50を上回る水準で推移している。
- 輸出入総額の過去最高更新: 貿易収支の大幅な黒字を維持しつつ、輸出入総額が過去最高水準を突破した。
- 質の高いFDIの流入継続: 半導体、ハイテク、エネルギー分野を中心に、付加価値の高い投資プロジェクトが急増している。
- 公共投資の実行加速: 全国的な交通インフラ(高速道路、空港、港湾)の整備が加速し、物流網の劇的な改善が進んでいる。
- ベトナム国内消費市場の力強い拡大: 中間層の台頭を背景に、小売売上高およびサービス収入が二桁成長を維持している。
- 観光・サービス業の完全復活: インバウンド観光客数がパンデミック前の水準を超え、外貨獲得の重要な柱となっている。
- デジタル経済(DX)の劇的な進展: デジタルガバメント、デジタル決済、eコマースの普及が経済全体の効率性を高めている。
- エネルギー転換(GX)への本格始動: 第8次国家電力開発基本計画(PDP8)に基づき、再生可能エネルギーへの投資が活発化している。
経済成長の質的変容:TFPとデジタル経済へのシフト
現在のベトナム経済において注目すべきは、量的拡大から「質的向上」へのパラダイムシフトである。従来の労働集約型モデルから、効率性と技術革新を重視するモデルへの転換が鮮明になっている。
その証左として、全要素生産性(TFP)の成長寄与率は約47%に達し、政府目標の45%を上回った。これは、資本や労働力の投入だけでなく、技術革新や管理能力の向上が成長の半分近くを支えていることを示している。
また、デジタル経済の規模は約320億ドル(約4.8兆円相当)へと拡大し、GDP比で約14%を占めるまでになった。特にAI(人工知能)関連のスタートアップ投資額ではASEAN第2位に躍進しており、次世代の成長エンジンとしての基盤を固めている。行政面でも「政府組織の簡素化」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が断行され、投資環境の透明性が飛躍的に向上した点は、日本企業にとっても大きなメリットである。
外国直接投資(FDI)の最新動向とサプライチェーンの変化
2025年のFDI実行額は276.2億ドル(約4.1兆円相当)と前年比9%増を記録し、ベトナムは世界トップ20の投資受入国としての地位を揺るぎないものにした。
サプライチェーンにおける戦略的地位: ベトナムは現在、単なる「代替生産拠点」ではなく、グローバルサプライチェーンの「戦略的ハブ」へと変貌している。特に米国市場向けの輸出において、履物、衣類、家電製品のシェアが拡大しており、関税リスクを回避するための重要拠点となっている。
注目分野:
- 半導体・ハイテク: 米国や台湾の巨大資本による後工程(OSAT)拠点や設計センターの設置が相次いでいる。
- グリーンエネルギー: 脱炭素化に向けた再生可能エネルギープロジェクトへの外資参入が活発化している。

世界有数の半導体企業であるオランダのASMLの幹部らは、2026年初頭にファム・ミン・チン首相を訪問した際、ベトナムでの事業拡大への意欲を表明した。
出所:https://www.vietnam.vn/tap-doan-ban-dan-hang-dau-the-gioi-muon-mo-rong-tai-viet-nam
2026年への展望:GDP成長率10%目標の妥当性と潜在的リスク
ベトナム政府は2026年、GDP成長率10%という極めて野心的な目標を掲げている。これは、かつての東アジア諸国が「中所得国の壁」を突破した際の急成長軌道に匹敵するものである。
2026年の予測シナリオ:
- ベースシナリオ: 9.0〜9.5%。インフラの完成と内需の回復が着実に進む場合。
- ポジティブシナリオ: 10.0%。制度改革の加速とFDIのさらなる流入、次世代FTA(自由貿易協定)の恩恵が最大化した場合。
しかし、楽観視できないリスクも存在する。米国の新政権による関税政策の影響や、インフレ圧力(予測4.0〜4.5%)、地政学的な緊張によるサプライチェーンの分断が懸念される。また、気候変動による経済損失(GDP比約0.8%)も無視できない要因である。
日本企業への提言:変化するベトナム市場で勝つための戦略
経済構造が劇的に変化する中で、日本企業には「ベトナム戦略のアップデート」が求められている。
- 「安価な労働力」依存からの脱却: 今後は高付加価値な製造業やITサービス、環境関連ビジネスへのシフトが必要である。現地の賃金上昇(平均月収840万ドン/約5万円相当)を前提とした事業モデルの構築が急務である。
- 法規制の動向注視: 土地法や投資法の改正に加え、地方自治体の運用モデル(2層制)の導入など、実務レベルでの変化が激しい。これらの情報を適時把握することがリスク回避の鍵となる。
- データに基づいた意思決定: 不確実な時代において、感性や過去の経験に頼る投資は危険である。精緻な現地調査(Market Research)や競合分析に基づいた戦略策定が、成功と失敗を分ける。
まとめ:ベトナムの決意と日本企業への新たな機会
2025年の躍進を経て、2026年の第14回党大会は、ベトナムが2030年の先進的な工業国入りを目指す上での大きな転換点となる。ベトナム政府の決意は固く、投資環境の整備は加速し続けるだろう。
ベトナム経済の高度化に伴い、日本企業にとっての商機は拡大しているが、同時に参入障壁や競争の質も高まっている。現地の最新ルール、産業構造、そして信頼できるパートナーの選定はこれまで以上に重要である。
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