はじめに
本レポートではベトナムの貿易について、あらゆる角度から網羅的に紹介していこうと思います。
具体的には輸出入額の推移、取引品目、取引相手国と将来の展望です。ただ情報を網羅するだけでなく、貿易構造のデータからベトナムの産業の特色を考察します。
ベトナムの貿易構造
この章では、ベトナムの貿易の変遷・現況を様々な統計データを用いて紹介します。
ベトナムの輸出入額及び貿易収支の推移
ベトナムは現在、世界的に大規模な貿易を行っています。しかしベトナムの貿易が盛んになったのは、つい最近のことです。
1975年まで続いたベトナム戦争の影響で、ベトナムの輸出入額は20世紀の間低いままでした。21世紀に入るとベトナムの輸出入額の増加が進み、2010年以降に爆発的な急成長を遂げています。つまりベトナムの貿易の発展は、ここ10年程度で起こったことなのです。具体的には、2010年のベトナムの貿易輸出額は約720億ドルですが、2020年には約2830億ドルに達しています。9年間で約3.7倍にもなっています。
輸入額についてもほとんど同様の成長を見せています。2010年には約850億ドルでしたが、2020年には約263億ドルに達しています。
以上の図表を見ると、ベトナム貿易のここ10年間での急成長ぶりが伺えます。2009年には一度リーマンショックの影響を受けていますが、その翌年からしっかりとプラス成長しています。2020年には、もちろんベトナムもコロナ禍に見舞われましたが、マイナスに転じることなく好調な成長を遂げました。
貿易収支に関しては、1980年代から長い間赤字を計上し続けてきました。2008年のリーマンショックの際に大きな赤字になっていますが、それ以降はどんどん改善されています。そして2016年から2020年までの直近5年間は、連続して黒字を計上しました。もちろん成長の裏にも、世界的なコロナ禍によるリスクは潜んでいます。それでもベトナムの貿易は、今まさに全盛期へと向かっています。
具体的なベトナムの輸出品目
前章ではベトナムの輸出入額, 貿易収支の推移を紹介しました。では具体的に、ベトナムはどんな物品をやり取りしているのでしょうか。まずは輸出品目から紹介していきます。
2019年のベトナムの輸出品目は、以下の図表の通りです。
全体の約5分の1を占めるのは電話機・同部品です。これにはスマートフォンが含まれており、輸出額は約513億ドルにも達します。2番目に大きなシェアを占めているのはコンピュータ電子製品・同部品の約360億ドルです。輸出額は2番目ですが、成長率では1番です。3番目と4番目には縫製品と履物が続いています。工業系だった1,2番目と打って変わって、アパレル系の2品目です。縫製品の輸出額と構成比はコンピュータ電子製品・同部品とほぼ同規模です。履物の輸出額は縫製品の約半分ですが、成長率は大幅に伸びています。木材・木製品は輸出額的にはかなり落ちますが、全体で2番目に高い成長率を誇っています。水産物は食料として唯一主要輸出品目に数えられています。この水産物の半分以上はエビです。
具体的なベトナムの輸入品目
輸入品目で最も大きなシェアを占めているのはコンピュータ電子製品・同部品で、約513 億ドルに達します。次点では機械設備・同部品が挙げられており、金額は約367億ドルです。3番目には電話機・同部品で、金額はやや少なくなり約146億ドルです。4番目には織布・生地、5番目に鉄鋼、6位と7位にプラスチック原料とプラスチック製品が入ります。8位と9位は金属類、石油製品です。金額はまだ少ないですが、前年比がそれぞれ12%、22%と大きく成長しています。10位は繊維・皮原材料です。繊維は糸の原材料で、皮は履物やカバンなどに使用されることが多いです。
ベトナムの主な貿易相手国
主要国・地域別では、輸出相手先第1位がアメリカで613億4,659万ドル(29.1%増)、2位が中国で414億1,409万ドル(0.1%増)、3位が日本で204億1,264万ドル(8.4%増)という結果です。米国向けは前年比29.1%増となり、大幅な増加となりました。輸入相手先は、1位が中国で754億5,194万ドル(15.2%増)、2位が韓国で469億3,458万ドル(1.4%減)、3位が日本で195億2,552万ドル(2.5%増)です。貿易収支では、米国が469億8,120万ドルの黒字(35.1%増)、中国が340億3,785万ドルの赤字(40.9%増)という結果になりました。米中貿易摩擦の影響もあり、ベトナムから米国向けの輸出が大幅に伸びましたが、輸出全体では前年比8.4%増と、前年の伸び率13.2%を下回っています。ベトナムで2019年1月14日に発効された環太平洋パートナーシップに関する先進的かつ包括的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の締結国の中では、自由貿易協定(FTA)がなかったカナダ向け輸出額が前年比29.8%増、メキシコ向けが26.3%増と大きく伸びました。
貿易データから見えるベトナムの特徴
第1章ではベトナムの貿易データを網羅し、紹介しました。本章ではそのデータを考察し、ベトナムの特徴を抽出していきます。
貿易データに見られるベトナムの特徴は大きく分けて2つあります。1つ目は第1章で述べた通り、ベトナムの経済はここ10年で急激に発展しているということです。本章で主に述べるのは2つ目の、ベトナムの貿易は製造業が中核になっている、ということです。
輸出入の品目から出来る考察
ベトナムの主要貿易品目を見ると、輸出の3位4位に縫製品と履物が入っており、輸入には織布・生地と繊維・皮原材料が入っています。この点から、ベトナムは衣料品や履物の原材料を仕入れ、完成品を輸出していると推測できます。事実ベトナムには多数の縫製工場、靴工場があり、外資企業の発注で多くの製品が製造されています。例えばファーストリテイリングはベトナムの計51の工場と契約しており、これはファーストリテイリングの全契約工場の約15%を占めています。履物に関して、米ニューバランスはベトナムの60の工場と契約しています。これはニューバランスの全契約工場の約30%です。
第1章で紹介した主要貿易品目リストでは、アパレル系でなく工業系の品目がトップに来ていました。コンピュータ電子製品・同部品, 電話機・同部品などです。これら3つは、順位は前後しつつも輸出入両方の表に入っています。この点も、前述した原材料(部品)を仕入れ完成品を輸出するという論理から外れません。この考察を裏付ける事実として、韓サムスンのベトナム進出が挙げられます。サムスンはスマートフォンの5割以上をベトナムで生産しており、サムスンベトナムの2020年の総輸出額は約570億ドルに達します。このように、アパレルでも工業でも、ベトナムは世界的ブランドの主要な生産地として機能しています。
以上のことから、やはりベトナムの貿易構造の中核は製造業にあると言えるでしょう。
まとめ
本レポートではベトナムの貿易データを網羅し、その特徴からベトナムの貿易の中核は製造業にあると考察しました。ベトナム国内の産業別GDP割合や産業別従事労働者割合では、製造業はトップではありません。両方ともサービス業がトップになっています。しかしベトナムにとって製造業は、外貨を獲得するための非常に重要な産業です。2021年、いまだコロナ禍にある状況ですが、ベトナム政府は貿易の更なるプラス成長を見込んで注力しています。海外への販路拡大あるいは海外からの仕入れを考えている方は、一度ベトナムを検討することをお勧めします。
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