はじめに
2021年11月22~25日に、チン首相を始めとするベトナムの首脳陣が来日し、ベトナムに展開している主要な日本企業や、岸田文雄首相との会談を行った。
岸田首相との会談では、今後優先して取り組む経済・ビジネスの分野について言及があった。その後外務省より、「アジアの平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップにおける新たな時代の幕開けに向けて」という共同声明が発出された。この共同声明の中に、スマートシティの開発でより協力を深めるという言及がある。
ベトナムは現在、スマートシティの開発に注力しており、日本企業には技術ノウハウの提供や具体的な案件形成に関する期待が寄せられている。
日本企業がベトナムのスマートシティ分野に参入する例としては、住友商事が挙げられる。住友商事の発表では、住友商事と他5社でコンソーシアムを結成し、ベトナム・ハノイ市の社会課題を日本企業の技術・サービスおよびベトナム企業との連携で解決すると宣言されている。この案件の詳細は、後ほど個別で紹介する。
上記の背景を受け、本レポートではベトナムのスマートシティ分野について網羅的に紹介する。
スマートシティの定義
ベトナム情報通信省が2019年に発行した「829決定」によると
「スマートシティはICT(ICT)やその他の手段を活用して人々の生活を改善し、地域(都市)の活動とサービスの効率を改良し、地域の競争力を向上する革新的な都市」と定義されている。加えて、「地域の経済・文化・社会・環境といった側面の現在および将来の開発計画を維持することを保証する。」とも定められている。
ベトナムのスマートシティ開発は、次の原則に沿うものである。
- 人を中心にすること。
- スマートシティのアプリケーションとサービスの開発に対応するため、情報インフラの容量を確保すること。
- モノのインターネット(IoT)、クラウド、ビッグデータ、人工知能などスマートシティに適したICTの適用に注目すること。
- 情報の安全性、特に国の重要な情報のセキュリティに対応できるインフラと技術を確保する。国民のプライバシーも保護すること。
- スマートシティの建設は、地域の文化的、経済的、社会的価値の持続可能な開発を確実にすること。
- 行政業務上の意思決定をサポートするための、データの正確性と品質を確保するために、適正な管理をすること。
スマートシティ市場の動向
2030年までのベトナムの都市開発マスタープランでは、ベトナムの人口の約50%が都市部に住むことが想定されている。これに伴う変化としては、都市化のプロセスにおける経済構造、ライフスタイル、生活水準などがある。さらにこれらの変化から、大都市の人口密度増加、交通渋滞、大気汚染、社会インフラの不足など多くのリスク・課題が予想される。
上記の課題を解決する方策として、ICT技術を応用し、効率的に機能する都市・地域であるスマートシティの開発は重要である。
スマートシティの市場規模
ベトナム政府のスマートシティの開発目標は、大きく分けて以下の3つである。
- 2025年までに、北部、南部、中部の3つの主要経済地域(※)に、少なくとも3つのスマートシティを確立する。
- 2030年までに、ベトナム全国のスマートシティを相互に連結する。外国のスマートシティとも、段階的に連携する。
- 2045年までのビジョンとして、ベトナムはアジア地域でのスマートな製造の主要な国の一つになる。環境、防衛、治安等で、高度なIT, ICTを利用する。
※ベトナムの3つの主要経済地域:
北部:Ha Noi市、Hung Yen省、Hai Phong省、Quang Ninh省、Hai Duong省
中部:Thua Thien-Hue省、Da Nang市、Quang Nam省、Quang Ngai省
南部:Ho Chi Minh市、Binh Duong省、Ba Ria-Vung Tau省、Dong Nai省
ベトナム政府は、いまだスマートシティ開発のための公式予算を発表していないため、ベトナムのスマートシティの市場規模を予測することは困難である。しかし、ハノイ市にあるBRG-Sumitomoスマートシティのような大規模プロジェクトを見ると、ベトナムのスマートシティプロジェクトの価値の大きさが分かる。
スマートシティ市場のセグメント
ここではスマートシティを構成する主な産業について紹介する。
交通
スマート交通は、交通システムを効率的に運用および管理するために、電子機器、IT、および電気通信技術を含む技術の適用に基づいて開発されたシステムである。
スマート交通は、交通システムの使用効率の向上、交通参加者のサポート、事故や交通渋滞の軽減を目的として、運用、監視、統計、追跡、通知などの道路交通の課題を解決する。
特にハノイ市は、スマート交通モデル「REDOM」を適用している。 REDOMはドイツとベトナムの10の機関よって共同実施されたプロジェクトである。「車モバイルデータ」(FCD)と「携帯データ」(FPD)の収集に基づいて、オンラインで交通量を監視および推測し、短期および長期の市内の交通データベースを構築している。
このプロジェクトでは、交通監視(速度と方向)、GPS測位を使用してデータを収集し、渋滞の場所を検出することにより、交通参加者に交通情報を通知しながら、最短ルートを提案する。
エネルギー
発電所、送電網および配電システムの運用へのITの適用は、非常に重要な事項である。今後のベトナムで、風力や太陽光発電などの多くの再生可能エネルギー電源を電力システムに統合するため、ITを活用した計測の自動化やデータ収集などの業務を通して安定的に電力を確保し、電力システムを安全かつ効率的に運用するための決定的な条件となる。
ベトナムの都市化プロセスは順調に進んでおり、今後も再生可能エネルギーの需要は多くなると見込まれている。スマートなエネルギーの運用・管理はベトナムの持続可能な発展に寄与するだろう。
近年のスマートエネルギーの事例として、カントー市内でのスマート省エネを開発するプロジェクト(SEEPプロジェクト)が挙げられる。このプロジェクトは、ADB(アジア開発銀行)とグリーン気候基金(GCF)によって共同出資されている。
プロジェクトの内容については、カントー市内の30,579個の既存の街路灯をすべてLEDの街路灯に交換し、24,691の新しい照明と381のスマート電柱を設置する。また、カントー市に19の病院、27の学校、4つのオフィスなど50の公共建築物に省エネシステムを導入する。省エネシステムを導入することより、カントー市は2025年までに4.5-5%、2030年までに6-7%の電力量を節約できると予想している。
ヘルスケア
スマートヘルスケアは、高度なセンサーから健康情報を記録し、パーソナライズされたアドバイスを自動的に保存および処理をして提供することが可能である。
健康状態のデータ分析により、ITシステムは高度な分析に基づいて調整されたアドバイスを、人間に提供することができる。医療技術の進歩により、患者と医療従事者は、治療においてより多くの選択肢から選択することができるようになっている。 データ分析と組み合わせて開発されるスマートヘルスケアは、ベトナムにおける今後の主要なトレンドの一つだと考えられる。
ベトナムのスマートヘルスケアの分野には、ベトナムで著名なスタートアップ企業によって開発されたAiHealthというアプリがある。このアプリは人工知能を活用して、各ユーザーの生涯にわたる完全な健康データベースを構築し、各人を担当医師に接続し、健康状況に関する情報を提供する。
これまで、48の地域と都市をカバーし、1,437人の医師、438人の看護師、672の病院(および診療所)、薬局がAiHealthのプラットフォームと接続されている。
医師とユーザーはメッセージ、電話、ビデオ電話を通じて行われる簡易的な診察の後、オンラインで薬を購入し、デリバリー業者のAhamove(今年中にAiHealthはデリバリー大手のGrabとも連携する予定)を利用して自宅で薬を受け取ることができる。
また、サービス料や薬代、配達料金はPayme Wallet、Momo Wallet、Payooといったベトナムでメジャーなキャッシュレス決済サービスを利用できる。
電子政府
電子政府(e-gov)は、あらゆる行政手続きでインターネット(オンライン)を使用、または単に公務員・公共機関のメンバーのITリテラシーを向上させることである。
2020年の国連の評価では、現在のベトナムの電子政府ランクは2位上昇しており、世界193か国の中で86位、アジアでは23位、東南アジア11か国の中で6位にランク付けされている。 ベトナムの総合指数は世界や地域の平均値よりも高く、電子政府の応用が進んでいる国のグループに入っている。
ベトナム政府は電子政府を積極的に活用している。約5年前、ベトナムでは出生登録、国民証明の発行、納税、車両登録などの手続きに多くの時間と労力がかかっていたが、2021年現在ではベトナム政府がオンラインでの検索・登録・支払のサービスを提供している。
これにより、人や企業は市役所などの政府窓口で長く待つ必要がなくなり、時間と労力を大幅に節約できている。ベトナム政府は、企業の電子署名・電子印鑑に特に注力し、事務処理と行政手続の時間を以前より大幅に短縮した。
ベトナム政府のオンライン手続サービスのURL: https://dichvucong.gov.vn/p/home/dvc-trang-chu.html
ロボット
ロボットは、スマートシティ開発において多くの用途があるモノである。
例えば:
- ロジスティクス・ロボット:ロボットは、ロジスティクスチェーンの効率を高めるために、商品の運搬や倉庫内での商品の取り扱いに大いに役立つだろう。
- サービスロボット:ロボットはレストランや小売店でサービスを提供できる。またサービスロボットの導入は、顧客を引き付けるためのマーケティングにも繋がる。
- 家事用ロボット:ロボットは、人間の労力と時間を節約するために、家の掃除、衣類の折り畳み、衣類の乾燥などに使用される見通しである。
- 交通管制ロボット:現在、この用途のロボットは、まだまだ研究の発展途中で、あまり実用化されていない。しかし、このロボットには大きな応用のポテンシャルがある。特に空気汚染、または道路での車両数の増減を観測する機能を持つ移動可能なロボットは、今後ベトナム政府により優先的に導入される可能性がある。
- 教育用ロボット:ロボットを教育に取り入れることで、学生のチームワークスキルを刺激することができる。ベトナムの一部の学校では、組み立てられたロボットを使用して、生徒にテクノロジーの学習と実践を促している。
ベトナム商工省の統計によると、ベトナムのABBロボットの数は過去5年間で10倍に増加しており、ベトナムはASEANにおいて最も積極的にロボットを導入している国である。ABBロボットは、ABB Robotics(スイス)が提供する産業用ロボット製品である。ABBロボットは、溶接、金属加工、組み立て、塗装、パッケージング、輸送、仕上げなど多くの業務に適用される。
IoT
IoT(モノのインターネット)は、人間の介入を必要とせずに、ネットワーク間でデータを送信および共有する機能を持つネットワークである。 IoTの端末機器には、家電製品、電気メーター、車両、セキュリティシステム、スピーカーなどが含まれる。
これらのデバイスには、データの送受信ソフトウェアとセンサーが搭載されていて、受け取ったデータを処理する機能により、デバイスの稼働効率を向上する。
スマートシティにおけるIoTの典型的なソリューションは、効率的な給水、効率的な交通管理、建物の省エネ、スマート街路灯、廃棄物管理などがある。
ベトナムの人々の生活に大きな影響を与えるIoTの応用は未だ多くない。ただし、日常生活の中の細かな部分で役立つIoTアプリケーションとプラットフォームの開発は、ベトナムのIT企業によって非常に活発に進められている。
たとえば、Mimosa Techな精密のハイテク農業向けのソリューションを商品化している。 BKAVとLumiは、スマートホーム向けのソフトを開発し、国内市場だけでなく、オーストラリア、シンガポール、インドなどの他の国にも展開している。
Abivinは、輸送車両用に最適化されたデジタルマップに基づいて、交通中の車両の重さ・速度等のデータを収集した最初の企業の1つである。
AI・ビッグデータ
AI、ビッグデータは、スマートシティのベースである。
ビッグデータは交通、治安、地域の予算など、地域内のさまざまな分野を支えられる可能性がある。スマートシティでは、リアルタイムで保存およびアクセスされる大量のデータを処理できるようにする必要がある。
例えば:
- スマートカーデータ:交通に自律型および自動運転の車が参加することが見込まれている。スマートカーデータにより、車はお互いに、そして地域の交通管理者と通信またコミュニケーションができる。この機能により、交通渋滞を緩和し、道路交通上の問題を予防することが出来る。
- カメラからのデータ:カメラによる監視は、交通規制、治安向上、スマート照明システムの構築、としての役割を果たす。
- 環境センサーからのデータ:大気質センサーにより、都市は汚染物質を見つけて対策を講じることができる。また大気質の状態について住民に警告することも可能である。
フエ市は、行政管理におけるビッグデータの活用が、ベトナムの他地域より進んでいることで知られている。 トゥアティエンフエ省(フエ市)は、スマートシティモニタリングおよびオペレーションセンター(IOC)を設立したことにより、監視カメラと市民の通報からデータを収集し、ビッグデータシステムの活用によって交通違反の罰、災害警報、特にコロナ感染者の追跡にAIを適用した最初の地域である。フエはベトナム国内で感染者数が最も少ない地域の1つである。
スマートシティに関する政府の動向・法規定
ベトナムでのスマートシティ開発促進のために、政府と省庁は様々な政策を発行した。
例えば2018年に首相は、2030年までのスマートシティ開発目標を確定するために、「決定950」を発行した。首相の「決定950」を受け、ベトナム情報通信省は各地域にスマートシティ開発の実験を案内するため、「通知4176 」を発行した。
2019年に同省は、スマートシティ開発のためのICT技術参照フレームワーク(決定829)を発行した。さらに、情報通信省は科学・技術省と共同でベトナムスマートシティインデックス(通知3098)も発行した。
地方政府(人民委員会)の動向
過去数年の間に、ITの大手企業が設計したモデルに基づいたスマートシティの開発を策定していたベトナムの地域と都市は約38か所あった。しかし現時点では、ほとんどの地域で情報通信インフラへの投資をする段階にあり、技術の応用を導入する地域はまだ極めて少ない状況である。
ハノイ市
「スマート交通システム、行政手続きの改革」(2020年~2030年計画)
ハノイ市と米国のテック大手であるデル テクノロジーズの子会社Dell Global B.V(シンガポール)を通じて電子行政とスマートシティを構築している。
ハノイでは技術の活用により、都心部における深刻な交通渋滞問題の一部を解決することが期待されている。また、ベトナムの首都として、行政手続のデジタル化をリードしたいという意思も市の知事が述べた。
ホーチミン市
ホーチミン市:「経済、コミュニケーション、スタートアップ・エコシステムの構築のモデルに関するスマートソリューション、「オープン」のICTを開発」(2017年~2025年の計画)
ホーチミン市は、従来のバスの切符代わりにICカードを使用する実験など、スマートシティのさまざまな側面を実装するための措置を講じている。市内複数カ所でのフリーwifiの提供、交通情報を送信するためのスマートフォンアプリやホットライン等がある。
またホーチミン市は、日常生活のデジタル化に取り組む企業を支援している。
ダナン市
ダナン市:「スマート管理; スマート経済、スマート交通、スマート環境、市民」(2030年〜2045年の計画)
2012年、ダナンはIBMテクノロジーグループによって選出された、世界33のスマートシティ推進都市の1つである。ダナンはその後も、スマート管理センターを導入し、水道の品質を管理・確保し、効率よく公共交通機関を運営し、交通渋滞を軽減している。
その他の地域
大都市以外では、ハロン市(クアンニン省)も、2017年から2030年の期間に「スマート移動、スマートガバナンス、スマート市民、スマートエコノミー」を目標としたスマートシティ開発計画を持っている。
ベトナム南部にあるカントー市は、2017年から2025年にかけて、「デジタル行政、市民のアクセシビリティの最大化、エネルギーの節約」という方針でデジタル政府の開発に注力している。
また、現在フエ省、ゲアン省、バクリュウ省等多くの地域・都市は行政データセンター、デジタル行政などスマートシティの一部を開発している。
政府の指示により、今後ベトナム全国のすべての地域をスマートシティ、またはその一部となるような開発を進める方針がある。
主な現地の企業プレーヤー
FPT
FPT Group、旧The Corporation for Financing and Promoting Technology(略してFPT)は、ICT関連サービスの提供というコアビジネスを持つベトナム最大のIT会社である。
FPTは本業に加えて、教育および情報通信の分野でも積極的に活動している。2020年、FPTの収益は4,451億4,000万ドンに達した。
代表的なプロジェクト:「FPTダナンスマートシティ」(FPT Da Nang Smart City)
「FPTダナンスマートシティ」は、ダナンのグーハインソン (Ngu Hanh Son) 地区にあるFPTコーポレーションによって実施されているスマートシティプロジェクトである。FPTダナンスマートシティには、オフィスビル、商業ビル、学校、病院、ホテルや住宅が含まれて、総面積は約181.6ヘクタールある。そのうち100ヘクタールは緑地用とされている。
加えてこのFPTダナンスマートシティは、スマート・インフラを利用する都市でもある。IT、電気通信、およびソフトウェアにおけるFPTとFPTのパートナーの強みを利用して、プロジェクトにスマート・インフラを提供する。グリーンテクノロジー、再生可能エネルギー、太陽エネルギーの電源を使用すると発表した。
Viettel
Viettel Groupは、ベトナムのハノイに本社を置くベトナムの最大手電気通信会社である。 Viettelは国営企業であり、国防省によって運営されている。
Viettel Group の子会社であるViettel Telecomは現在、ベトナムの電気通信サービス市場で最大の市場シェアを持つ企業である。
1989年に設立されてから30年間で、Viettelは通信インフラの建設会社から、電気通信およびIT(IT)、電子および電気通信機器の研究および製造、防衛産業; サイバーセキュリティとデジタルサービスを含む5つの事業を持つ複合体に成長した。
Viettelの2020年の売上は約264.1兆ドンであり、ベトナムで最大かつ最も影響力のある国有企業の1つと見なされている。
「Viettelのスマートシティモデル」
Viettelのスマートシティモデルは、都市の創造・管理のための包括的なソリューションである。 Viettelは、各地域や都市のニーズ、特性、現状、文化に応じて、地域の資源や機能を正確に分析することによりスマートシティモデルを調整する。行政が最適な方法で資源を活用し、地域の競争力を高め、住民の満足度を高める。
Viettelによって開発されたスマートシティモデルは、世界的な大企業であるChina Telecom Global, KT Corporation, ZARIOT secured SIMsを抜き、World Communication Awards 2021にて効率性と創造性があるとされ賞を受賞した。
Vin Group
ビングループ(Vingroup JSC)は、幅広いカテゴリの不動産建設と運営を展開するベトナム大手企業である。
商業用、オフィス用、住宅用の不動産を開発・建設し、賃貸・販売も展開する。また、Vinmec総合国際病院の運営に代表される医療サービス、VinschoolおよびVinUniversityといった教育サービスも提供する。他にも自動車・携帯電話・ホテル・外食など、非常に幅広い多角化を実現している企業である。
Vingroupの子会社であるVinhomesはベトナム不動産業界の最大手だ。2020年度におけるVihomesの売上高は70兆8,900億ドンで、Vingroupの売上高110兆4900億ドンの中で約7割を占めている。
代表的なプロジェクト:「ビンホーム スマートシティ」(Vinhomes Smart City)
Vinhomes Smart Cityは、ハノイの西に位置するVinhomes不動産会社によって建築されているスマートシティで、住宅街、遊園地、学校システムなどVinGroupのバリューチェーンを含むサービスがあり、総面積は280ヘクタールのプロジェクトである。
「スマートセキュリティ」、「スマートオペレーション」、「スマートコミュニティ」、「スマートアパートメント」の目標を実現するためにICTテクノロジーを最大限活用するだけでなく、Vinhomesスマートシティは再生可能エネルギーを使用して、ハノイの中心部に自動運転のバスを運行させる最初の民間運営のプロジェクトだと発表された。
BRG Group
1993年に設立されたBRG Groupは、ベトナムの主要な多業種民間企業になっている。BRG Groupは、不動産、リゾート、ホテル、エンターテイメント、貿易、小売、ハイテク農業及び工業生産などの事業を展開している数十の関連子会社を擁している。
BRGは、近年ハノイ市の内外で高級住宅および住宅街プロジェクトの開発に注力している。
代表的なプロジェクト:ハノイ都外のスマートシティ
2019年10月、BRGのスマートシティプロジェクトは、BRGグループ(ベトナム)と住友グループ(日本)の合弁会社によって開始された。ハノイ市のドンアイン地区において、272ヘクタールの面積に総金額41億3800万米ドルの投資が行われている。
このプロジェクトはスマートエネルギー、スマート交通、スマートガバナンス、スマート教育、スマートエコノミーの5つの要素を備え、多くのテクノロジーを適用すると発表された。
ECOPARK GROUP ( エコパーク )
先進国の新たな都市開発のトレンドに続き、ベトナムで最初のエコ都市エリアを開発することを使命として、2003年にViet Hung都市開発投資合資会社(Vihajico)が設立した。
2018年、Vihajicoは持続可能な開発を目指し、教育、健康、クリーン農業、テクノロジー、観光、エンターテインメントなどの分野へ投資することを目的として、社名をエコパークグループ(Ecopark Group)に変更した。
今後も、Eco Parkは「グリーン不動産」のトレンドに沿った都市開発・投資会社としての地位を維持しつつ、全国で「エコパーク都市」モデルを拡大・発展している。
代表的なプロジェクト
FPT Smart City プロジェクト
- 規模:7500億 VND
- 投資家: (ベトナム)FPTダナン都市開発株式会社(FPTグループの子会社)
- 場所: Ngu Hanh Son 地区、Da Nang 省
- プロジェクトの面積: 181,6 ha
- 具体的なソリューション:スマート・インフラ、 再生可能エネルギーを最大限に活用
- 進捗状況:90%(一部の住民は入居している。学校、ショッピングモール等の施設は2021年末に完了する予定)
- 開発スケジュール:2021年頭にすべての施設の建設を終了
- 参画している企業:
(米国) Skidmore, Owings & Merrill LLP:プランニング・コンサルティング
(シンガポール) Cicada Pte. Ltd. :景色デザイン
(カナダ)WSP Parsons Brinckerhoff :上下水道コンサルティング
(イタリア) ACA Corporation & Accademia Italia :建築の設計
Vinhomes Smart Cityプロジェクト
- 規模:80兆VND
- 投資家: (ベトナム)Vinhomes (Vin Groupの子会社)
- 場所: Nam Tu Liem 地区、Ha Noi 市
- プロジェクトの面積: 280 ha
- 具体的なソリューション:学校・スーパー・病院・ショッピングモール・オフィス・住宅など、Vin Groupの一貫したサービスでエコシステムを提供。「スマートセキュリティ」、「スマートオペレーション」、「スマートコミュニティ」、「スマートアパートメント」の目標を実現するためのICTテクノロジーの最大限の応用も挙げられる。
- 進捗状況:95% (マンションの販売は既に実施、公園、公共施設など未完成の施設は2022年の1月までにオープン)
- 開発スケジュール:2021年末まで建設を完了
- 参画している企業:
(米国)EDSA Group :透視・総合設計
(カナダ)West Green Design :建築設計・総合設計
(ベトナム)Coteccons Group :ゼネコン
(ベトナム)Hoa Binh Group :ゼネコン
Starlake Ho Tay プロジェクト
- 規模:13億米ドル
- 投資家: (韓国) Daewoo Engineer & Construction Co.Ltd (Daewoo E&C)
- 場所: Tay Ho地区、Ha Noi 市
- プロジェクトの面積: 186 ha
- 具体的なソリューション:高級マンションにおける証明や設備の機能を最適化するICTソリューション、無人の全自動セキュリティシステム、自動防火システム等
- 進捗状況:高級マンションの建設が完了しており、今後ショップハウスと公共施設の建設を実施
- 開発スケジュール:2022年(土地収用が遅れているため、最初のスケジュールよりプロジェクトの運営開始が延長される可能性が高い)
- 参画している企業:
(韓国)Heerim Architects & Planners :建築設計・総合設計
(韓国)Daewoo Engineer & Construction Co.Ltd :ゼネコン
(韓国)Shinhan銀行:資金調達
(韓国)韓国産業銀行:資金調達
(ベトナム)BIDV銀行:資金調達
Thanh Do Smart City プロジェクト
- 規模:3,500億ドン
- 投資家: (ベトナム)LDG Group、(ベトナム)Sao Vang Tay Do
- 場所: Hung Thanh 地区、Can Tho 市
- プロジェクトの面積: 5ha
- 具体的なソリューション:インターネットに接続されたスマートフォンを介した電気機器の完全自動制御、太陽光エネルギーを使用した公共施設の照明、蛇口から直接飲める品質の水道水、自動監視カメラシステムを備えた24時間セキュリティ
- 進捗状況: 一部完了
- 開発スケジュール:2021年4月にすべての施設がオープンされた。
- 参画している企業:
(ベトナム)Dat Xanh Group :販売仲介業者
(ベトナム)SHB銀行:資金調達
(ベトナム)LDG Group:総合設計・建設業者
ECOPARK City プロジェクト
- 規模:82億米 USD
- 投資家: (ベトナム)ECOPARK Group
- 場所: Van Giang 地区、Hung Yen 省
- プロジェクトの面積: 500 ha
- ソリューション:居住者専用のスマホアプリを開発:アプリを通じて、ECOPARK City内のバスの時刻表、トイレ、樹木、電気代、水道料金、工事などの情報にアクセスできる。このアプリを通じて、住民は24時間年中無休でサポートがを受けられる。また、ECOPARK Cityは、人々のアイデアや技術で交流するための「イノベーションセンター」の開設を計画している。
- 進捗状況: 第2フェーズに入っている
- 開発スケジュール:全9フェーズがあり、2029年までにすべての施設の建設を終了
- 参画している企業:
(ベトナム)Conteccons Group :ゼネコン
(ベトナム)Techcombank銀行:資金調達・住宅ローンサービス
(ベトナム)FPT Software及び(日本)ヤマハ発動機株式会社:プロジェクト内の自動運転車の開発
(スペイン)Fundacion Metropoli:総合設計
(韓国)Samsung Smart Security:居住者専用の電話アプリケーションの開発
日本企業による代表的なプロジェクト
BRG-住友スマートシティプロジェクト
- 規模:42億 USD
- 投資家: (ベトナム) BRG Group、(日本)住友グループ
- 場所: Dong Anh 地区、Ha Noi 市
- プロジェクトの面積: 272 ha (マンションの戸数は約7,000戸)
- 具体的なソリューション:未発表
- 進捗状況:土地収用中、建物の建設自体は未開始
- 開発スケジュール:2028年までにすべての施設を運営開始
- 参画している企業:
(日本) 株式会社日建設計:プランニング・プロジェクト全体の設計
スマートシティ市場の今後
トレンド①: ベトナムの不動産会社は、スマートシティプロジェクトの開発を推進
ベトナムの不動産会社は、スマートシティを開発するために外国のパートナー(特に日本企業)と協力する傾向がある。 ベトナム政府の都市開発推進の意向や、ベトナム人の生活水準向上の需要が高まっていることから、「スマートシティ」の方向に住宅地が開発されることは既定路線である。。
しかし、ベトナムの不動産会社のスマートシティ導入能力と経験は、まだ高い水準にあるとは言えない。 スマートシティの開発において、ベトナムの不動産開発業者は、資本、設計、技術、および建設の経験について支援を求めるため、スマートシティ開発経験のある外国企業との提携を希望する傾向がある。
トレンド② スマートシティだけではなく、「スマート工業団地」も
ベトナムの工業団地の多くは、現在、電気、水、廃棄物処理などの基本的なインフラ条件を満たすだけであり、生産管理および開発活動におけるIT技術の応用はいまだ不十分である。それに加えて、工場団地では管理システムとセキュリティシステムが不十分で、生産業者に魅力的なサービスを提供できていないとみられる。
人件費が安く、6000万人の労働者が従事しているベトナムの製造業は、アフターコロナの際に多くのFDI(外国直接投資)を集め、工業団地と製造工場は急速に増加すると予測されている。環境を保護してコストを節約するために、工業団地の運営を最適化するためのIT・ICT技術の適用は、ベトナムの工業団地の開発業者にとって最大の課題の1つである。
トレンド③ 公共サービス、国民および地方自治体の管理を包括的なデジタル化
ベトナム政府は、行政手続きのデジタル化と人口に関する国家データベースの構築に注力している。 地方自治体における行政手続きのデジタル化指導に加えて、 2021年初頭、ベトナム政府は紙の身分証明書をICチップ付きのカードに変更することを宣言した(日本のマイナンバーカードと非常に似ているが、ベトナムでは強制的に発行される)。わずか半年で、ベトナムは電子身分証明カードを約5千万人(人口の半分以上)に付与し、このデータベースを通じて、国民の生活、健康、医療管理にビッグデータを活用し始めている。
さいごに
本レポートでは、ベトナムにおけるスマートシティの現状について網羅的に紹介した。ベトナムでは人口の約50%が、2030年までに都市部に住むことが想定されている。
そこでベトナム政府は、単に住宅を多く建設するのではなく、最新のIT、ICTを活かしたスマートシティを開発し、渋滞や大気汚染、社会インフラの不足といったリスクを回避・解消する狙いである。スマートシティ市場の規模は、ベトナム政府が公式予算を開示していないため、予測は困難である。
ベトナムのスマートシティと一言でいっても、地域ごとに方針が少し異なっており、多くの様々なプレーヤーが市場には存在している。
今後のトレンド・見通しとしては、ベトナムの不動産会社の動きが活発になること、スマート工業団地が登場すること、国家データベースの構築を挙げた。特に最後の国家データベース構築の事例は、ベトナム政府のDXへの意識の高さを表している。
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