はじめに
ベトナムは急速な経済発展と国際連携により、世界の半導体産業において、ますます重要な役割を果たしつつある。近年はインテル、サムスン、ルネサスといった世界的な企業が進出が相次いでおり、ベトナム国内産業の成長を促進している。
一方で、半導体産業の発展には専門技術を持つ人材育成が不可欠であり、ベトナム政府や教育機関、現地企業が一体となって取り組んでいる。
ベトナムの半導体産業が世界から高い注目を集めている中で、2024年7月9日、FPT創業者チュオン・ザー・ビン(TRUONG GIA BINH)氏が来日し、業界関係者に対して講演を行った。
これに合わせてONE-VALUEの代表ホアは、ビン氏と意見交換および独占インタビューを実施した。
半導体人材には半導体の設計・開発といった高度人材と、製造機械の操作や保守管理等を担う中度人材に区分される。その中で最も不足して需要が高いのが中度人材である。そのため、意見交換では、特に中度人材の供給国としてのベトナム半導体産業のポテンシャルについて言及している。
また、ベトナムでの人材育成においては国際連携も重要である。本インタビューにおいては、ベトナム現地企業と日系企業が連携した人材育成の枠組みについてもビン氏の意見を伺った。
FPT創業者ビン氏が考えるベトナムおよび日本の半導体分野での連携(当日講演より一部抜粋)
ソニーの盛田昭夫氏は、「今日は新製品ではなく、新しい習慣を紹介します」と言っていました。ソニーの成功例を教訓に、日本は新しい習慣、新しい認識を生み出す必要があります。カメラ、携帯電話、ロボット、医療機器がますますスマートになる中で、日本が新しい時代にどのように進むかを考えるべきです。
日本に匹敵する国はほとんど存在しないでしょう。日本は強力なハードウェアを持っています。その卓越した製品と日本の優れた文化を背景に、革新的な新製品を生み出すことで、日本は決して中国や韓国に負けることはありません。
また、AIと半導体技術における最大の課題は人材です。工場をどこに建てるかは問題ではありませんが、どのように人材を確保するかが最大の問題です。毎年、ベトナムでは100万人の若者が労働市場に参入しますが、彼らはまだどのようなキャリアを選ぶべきか決めていません。
さらに重要なのは、文化的な共通性です。台湾の多くの優秀な人材は、アメリカで働くことを望んでいません。この業界には、文化的な共通性とハングリーな意欲が必要です。
日本はAIと半導体の分野で1万人の専門家を必要としていますが、ベトナムはその1万人を提供できます。日本が10万人を必要とすれば、ベトナムは10万人を提供できます。日本が100万人を必要とすれば、ベトナムは100万人を提供できます。
我々はベトナムと日本が協力して、教育、インフラ、戦略的国際協力などのプラットフォームを構築することが重要であると確信しています。これにより、ベトナムと日本が再び世界のリーダーとしての地位を取り戻すことができるでしょう。
弊社代表ホアによるFPT創業者BINH氏への独占インタビュー
―ホア:本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。日本とベトナムの半導体分野の連携について、どのように考えていますか。
ビン氏:日本はかつて、ソニー社ウォークマンが代表する通り、ものづくりにおいて世界をリードする国でした。ベトナムと日本は共に発展し、半導体産業での連携を通じて、「黄金時代」の日本の勢いを復活させることができるパートナーになれると深く信じています。
―ホア:大変感銘を受けました。 なぜ日本との連携を進めていくのでしょうか。
ビン氏:日本は誰しもが認める最高品質の半導体装置を開発してきました。日本と私は全てのスマート産業において、日本はトップに立つことができると信じています。世界的に半導体需要が高まる中で、日本には新たなステージが待っています。
FPTは、日本の半導体開発計画に対して全く新しい次元で協力関係を構築していき、日本の発展に大きく貢献できると考えています。ウォークマンが代表する通り、ものづくりにおいて世界をリードする国でした。
ベトナムと日本は共に発展し、半導体産業での連携を通じて、「黄金時代」の日本の勢いを復活させることができるパートナーになれると深く信じています。
―ホア:ベトナム半導体産業の現状に関しては、どのように考えていますか。
ビン氏:コロナ禍において、とあるアメリカの自動車メーカーのリーダーが私に言ったことをご紹介します。現在の最も大きな問題は、製造された自動車を置く場所がないということでした。チップが不足したことで、車が完成しても販売できなかったのです。
アメリカは驚くべきことに、軍事力、経済力、外交力をもっていても、チップがなければ現代の技術を維持できないという現実を突きつけられたのです。
その後、日本を含めた先進国は、チップの確保を優先課題と考えるようになりました。先ほどご紹介した自動車メーカーと、改めてエコシステムの再構築について話し合った際は、ベトナム、インド、メキシコの名前が挙がりました。私が「どの国が製造に関与しているのか」と尋ねたところ、「ベトナムである。設計はインドであるが、製造はベトナムが担当する」とのことでした。
アメリカは半導体産業を再構築するためにベトナムに賭けているのです。この未来に賭けるか、それとも運に任せるかは我々次第です。しかし私は、世界が今後大規模にチップを必要とする時代が来ると信じています。ただし、それはただのチップではなく、最先端のチップです。これは単なるチップの問題ではなく、経済全体の問題にも直結します。
―ホア:ONE-VALUEは、ベトナム現地大学へのヒアリング調査を通じて、半導体人材育成にあたって、コストのかかる研修機材や実践的なノウハウを教えることのできる人材が不足しているという声を聞いています。その中で、日本はベトナムに対して、どのような協力を進めるべきと考えていますか。
ビン氏:半導体人材は世界的に不足しており、アメリカ企業が自国に工場を建設しても、十分な半導体人材がいなくては稼働することができません。人材育成は非常に重要です。
日本はベトナムに対して、特別な政策的な枠組みを構築する必要があります。中でも、私は日本の大学との連携を進め、ベトナムの優秀な半導体人材を育成するともに、日越連携のためのプラットフォームを構築することが必要であると考えています。
―ホア:ありがとうございました。
FPT創業者チュオン・ザー・ビン(TRUONG GIA BINH)氏について
1956 年生。FPTコーポレーション会長。1988年にFPTを設立し、ITと電気通信を中核事業分野とするベトナムの大手テクノロジー企業に成長させた。現在同社はベトナム全ての省と都市にサービスを提供している。FPT大学理事長、ベトナムソフトウェア協会半導体開発委員会会長等を歴任。
ONE-VALUE株式会社について
創業以来、ベトナムに特化した経営コンサルティングのプロとして、活動しています。様々な業界のお客様に対して、日本・ベトナム間のビジネス展開に関する深い専門知識と豊富な実務経験を活かして、サービスを提供してきました。近年は、再エネおよびCO2クレジット、半導体分野でのご支援に特に注力しており、日系企業の東南アジア事業における競争力向上に貢献しています。
ベトナムにフォーカスし、ベトナムに関する幅広いネットワークと業界の深い知見を有することがONE-VALUEの最大の強みです。
【経営コンサルティング事業】
ONE-VALUEはベトナム進出に関する経営コンサルティングサービスを提供しています。市場調査、企業調査、消費者調査、ベトナム市場進出に関する戦略立案、投資アドバイザリー(合弁設立、事業の立上等)、ベトナム企業のM&Aアドバイザリーなどお客様のご要望に応じてオーダーメイド式でご提供しています。
【メディア事業】
ベトナムビジネスに関わるビジネスパーソン向けにベトナムビジネス・経済に関するメディア運営を行っております。このほか、日本に関わるベトナム人コミュニティ向けのメディア運営を行っています。
ベトナムビジネス・経済専門メディア⇒https://vietbiz.jp/
【その他事業】
ONE-VALUEはベトナムビジネスの課題解決に関するサービスとして、BPO、通訳・翻訳、ビジネスマッチング支援、トレーディング等の各種サービスを提供しております。
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•本件に関するお問い合わせ先
ONE-VALUE株式会社 お客様窓口
contact@onevalue.jp
ONE-VALUE代表者(フィ・ホア)について
2008年日本政府文部科学省の国費留学生として来日、2015年、大阪大学大学院経済学研究科経営学系修了。同年デロイトトーマツコンサルティングに入社し、ベトナム事業拡大のリーダーに就任。多くの日本企業のベトナム進出をサポートした。2018年にONE-VALUEを設立。2021年一般社団法人外国人材支援機構HuReDee理事に就任。2022年 JICA主催「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(現:一般社団法人JP-MIRAI)の外国人代表専門家・アドバイザーに就任。約10十数年にわたり経営コンサルティングとして、日系企業のベトナムでの競争力を高めることを目指し、経営コンサルティング業務や市場調査、M&A(合併・買収)アドバイザリー業務を日系企業へ提供してきている。近年の主な注力分野はCO2クレジットや再生エネルギー、半導体などがある。2023年に日越外交関係樹立50周年の記念事業において日越の関係発展に貢献する人材人物として選出。ベトナムと日本の政財界や大学に幅広い人脈を持つ。