はじめに
ベトナムのデジタル経済の規模が急速に拡大している。
ベトナムにおける2021年のデジタル経済規模は210億USD(約2兆3700億円)に達し、東南アジア主要6か国の中でインドネシアとタイに続く3位となった。
特に、ベトナムにおける電子商取引(eコマース、EC)の市場規模は130億USD(約1兆4700億円)で、2025年には390億USD(約4兆4000億円)まで拡大すると予測されており、成長性に注目が集まっている。この統計はGoogle、Temasek、Bain & Companyが共同で実施した調査レポート「e-Conomy SEA 2021」にて発表された。
今後、ベトナム市場における「デジタル経済」と「デジタルトランスフォーメーション」(以下:DX)は大きく成長することが予測される。
「デジタル経済」、「DX」は過去5年間でベトナム政府によって最も言及されたキーワードの一つであった。特に、ファム・ミン・チン新首相がベトナム国家DX委員会の会長を務めていることは、ベトナム政府のDXに対する温度感を示唆している。
この記事では、ベトナムのデジタルトランスフォーメーションとデジタル経済の展開する状況を紹介し、また今後の傾向について予測する。
ベトナムにおけるデジタル経済の動向
ベトナム科学・技術省によると、DXとは政府機関、民間団体または企業の「革新・創造活動」である。また政府機関、民間団体および企業は、情報技術を使用して、情報をデジタル化し、業務プロセスと組織構造を再構築し、従来の伝統的な環境からデジタル環境に変換するという。
まずデジタル経済の定義についてと、IT化とDXの違いについて整理しておきたい。
「デジタル経済」と「IT化」と「DX」の違い
日本の内閣府の定義では、デジタル経済を「デジタル化された財・サービス、情報、金銭などがインターネットを介して、個人・企業間で流通する経済」としている。デジタル経済には様々な定義があるが、本レポートで扱うデジタル経済は上記の定義に沿うものである。
IT化とは、デジタル技術の応用により、作業方法を効率化することである。作業時間を削減できるため、生産性の向上が期待される。つまり人間の労力を軽減し、長時間残業・過労死などの社会問題解決に寄与することが期待されている。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術の活用よって人々のライフスタイルをより良いものに、あるいは新しいビジネスモデルを開発していくという取り組みのことである。DXは企業だけを対象にするだけではなく、日常生活やスポーツなどの分野も対象にする。
IT化は企業の生産性の向上という目的としてIT技術を導入するが、一方DXは新しいビジネスモデルの創造または既存ビジネスモデルの変革を目的にデジタル技術を活用する。
例えば、「生産ラインの自動化」、「賃金の計算を効率化」などはIT化と言える。しかし、「消費者が利用する新しい決済方法」、「顧客データ分析による新製品を開発」など、これまでの仕組みが変化することはDXと呼べる。
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ベトナムにおけるデジタル経済の展開状況
米国のGoogle、Bain & CompanyとシンガポールのTemasekの共同で実施・公表した「e-Conomy SEA 2021」によると、ベトナムの2021年のデジタル経済規模は210億米ドルに達し、前年より31%増加した。ベトナムはインドネシアとタイに次いで、東南アジアで3位となっている。
同研究によると、2025年には、ベトナムのデジタル経済の規模は2021年より3割を増加し、570億USDに達すると予測されている。
同研究によると、2025年には、ベトナムのデジタル経済の規模は2021年より3割を増加し、570億USDに達すると予測されている。
ベトナム政府は、デジタル経済が2025年までにGDP全体の20%以上、2030年までに30%以上を占めるという目標を設定する方針だが、投資・計画省の2021年9月の最新提案では、2030年までの比率を50%に引き上げる検討が提案された。
現在、ベトナムのデジタル経済の発展は、リープフロッグ型であると言える。リープフロッグとは、既存のインフラが無い新興国・途上国において、途中の段階を飛び越えて一気に最新技術が浸透する現象である。例として、日本では町の公衆電話・家庭の固定電話を経て電話文化が浸透したが、ベトナムではいきなり携帯電話・スマートフォンから電話文化が浸透したことなどが挙げられる。
ベトナムはインターネット、スマートフォン、4G・5Gの普及が進んでおり、今後のデジタル経済もリープフロッグ型の早いスピードで発展すると見られている。
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ベトナムのデジタル化・DXの現状
ベトナムのDXは、世界に比較するとやや遅れている。ベトナムはデジタル化の重要性を認識しているが、実施のスピードは伴っていないと言える。
ベトナムのDXが遅いと言われる要因は、大きく次の2点である。
1つ目は、人口や土地などのデータベースをまだ完成させていないことである。従来のベトナムは紙の「戸籍簿」を使用していたため、土地管理や人口・住民データの処理に多大な労力とコストがかかる。また、人口と土地に関する情報を正確かつリアルタイムで更新することは非常に困難である。
ただこの点には進展があり、2021年7月から紙の戸籍簿の新規発行が停止され、人口と土地に関する国家情報のデジタル化も開始された。
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二つ目は企業や人々のDXに対する意識が高くなっていないことである。多くの中小企業や人々は、テクノロジーの導入には費用がかかることから、あまりIT化やDXに積極的でないという現状がある。Cisco Vietnamの調査によると、DXに対してベトナムの中小企業の70%以上が受動的であり、DXの明確な方針を持っていないと判明した。「意識の転換」はDXの第一歩だが、ベトナムはこの初歩的な段階でもうまくいっていないと言える。
ベトナム政府のDX開発目標
ベトナム首相により承認された「2025年までの国家DXプログラム」(決定No.749/QD-Ttg)の内容によると、電子政府、デジタル経済、デジタル社会など3つの分野でDXの開発目標を設定した。
電子政府
ベトナム政府の2025年までの開発目標:
- 80%の国民がオンラインでの公共サービスの登録及び料金の支払いを行えること(2030年までには100%)。
- 90%の省、市や地域が行政文書をデジタル化(2030年までには100%)
- 50%の中央政府機関をデジタル化(2030年までには70%)
デジタル経済
ベトナム政府の2025年までの開発目標:
- デジタル経済がベトナムのGDPの20%を占めること(2030年までには30%)。
- デジタル経済は、分野別(農業、サービス、産業、建設など)のGDPで10%以上を占めること(2030年までには20%以上)
- 生産性の向上は年率7%以上(2030年までには8%以上)
- ICT開発指数(IDI)の順位は50位以内(2030年までには30位以内)
- 世界競争力指数(GCI)の順位は50位以内(2030年までには30位以内)
- グローバル・イノベーション・インデックス(GII)の順位は35位以内(2030年までには30位以内)
デジタル社会
ベトナム政府の2025年までの開発目標:
- 各地域の光ファイバーのカバー率は100%(各世帯までのカバー率は80%以上、2030年までには100%)
- ブロードバンドの展開は全国で4G/5Gをカバー(2030年までには全国で5Gカバー)
- 電子決済口座の保有率は人口の50%以上(2030年までには80%以上)
- グローバル・サイバーセキュリティ・インデックス(GCI)の順位は40位以内(2030年までには30位以内)
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ベトナム政府のデジタル経済戦略の策定状況・法規定
ベトナム政府は政府機能、社会、経済全体のデジタル変革を志向しており、「第4次産業革命に積極的に参加する政策」(議定No.52-NQ / TW)(2019年)、「政府の行動計画及び共産党の第13回全国大会の実施」(議定No.50 / NQ-CP)(2020年4月)、「2025年まで及び2030年向けの全国DX計画」(決定No.749 / QD‐TTg)(2020年6月)などの行政文書を通じて、DX戦略を毎年具体化している。
2019年の「第4次産業革命に積極的に参加する政策」(議定No.52-NQ / TW)では、政府はベトナムの国全体のDXの遅れを明確に述べ、急進的かつ包括的なDXの方針を固めた。
「政府の行動計画及び共産党の第13回全国大会の実施」(議定No.50 / NQ-CP)(2020年4月)は、以前の「議定No.52-NQ / TW」より具体的な国のDX方向性が表された。政府はDXをする分野や機関を指名、DXにおける政府、省庁、地方政府の役割を明確に指導したという。
DXに関する最新の文書である「2025年まで及び2030年向けの全国DX計画」(決定No.749 / QD‐TTg)(2020年6月)では、「国のDX戦略」が確立されており、各機関で設定された2025年と2030年までのDX目標を達成するよう全力で努力すると発表した。
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代表的な分野におけるデジタル経済の展開状況
キャッシュレス化・電子決済
ベトナム財務省によると、2021年時点でベトナム人口の85%は電子財布及び電子決済を利用している。特に、その中の71%は最低でも週に1回電子決済を行うという。
ベトナムで人気の電子決済アプリであるViettel Pay, MoMo, AirPayなどは保険の購入・支払い、公共料金、電話代、インターネット・電気・水道料金、学費、飛行機チケットなど包括的な支払いサービスを提供している。また、それらのアプリはShopee, Lazada, Tiki などの大手ECサイトとも連携している。
日本企業にとって、ベトナムの電子決済市場の発展は非常にポテンシャルが高い。2021年12月10日、日本のメガバンクであるみずほ銀行はベトナムの電子決済市場で53%のシェアを保有する「MoMo」に150億円の資金を出資し、同社の株式の7.5%を取得した。この出資により、「MoMo」はベトナムの3つ目のユニコーンとなった。また、019年には、ソフトバンクの投資ファンドである「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」が、ベトナムのキャッシュレス決済のスタートアップである「VNPAY」の株式20%を取得した事例もあった。
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農業(スマート農業)
農業分野では、政府は抜本的な改革を志向しており、技術を応用して農産物の付加価値を高めることで、生産を「量」から「質」に転換し持続可能な開発に目指す。
この転換は未だ初期段階にあり、ベトナムのいくつかの地域で行われているが全国には広がっていない。 今後、ベトナム農業農村開発省は特定の地域でスマート農業を実施し続け、その成功事例をモデル化し全国で用いる方法論を確立する方針である。
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環境・エネルギー
エネルギー・環境分野では、ベトナム政府は今後、再生可能エネルギー(特に風力)に投資しながら、電力使用管理システムをデジタル化することを目指している。
実際にEVN(ベトナム電力公社)は、「e-billing」という電子請求ネットワークを介した電気料金の確認と支払いを積極的に運用している。現在、国民への普及のため、広告活動を積極的に実施している。
しかし現在、太陽光発電の開発は2030年までに計画した容量を超えて供給過剰になった地域もある。また、送電線の過負荷やシステム全体の電力管理技術の適用が遅いことは、今後解決すべき問題である。
環境分野には、DXでの発展はあまり導入されていない。最も大きな原因として、コストの高さと期待される生産性の向上が釣り合わないことが挙げられる。
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を入れる風力発電"
人材管理
ベトナムは労働力を開発する計画を策定しているが、全体的に伝統的な手法で、DXをあまり意識していない。また、政府が発表する人材分野におけるDX関連の文書もない。
しかし実際には、労働市場のニーズに合わせたオンライン求人検索プラットフォームが積極的に開発されており、管理コストを削減するための人的資源管理のDXも企業によって積極的に導入されている。例えばベトナムの清掃業では、各現場の清掃員の勤怠を管理できるアプリが浸透しつつある。
人材育成が得意な日本企業はベトナム企業にとって有力なパートナーであるため、人材領域での連携のニーズが今後増加すると考えられる。
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教育
教育は、コロナ禍のベトナムで最もDXが進んだ分野の1つである。小学校から大学まで、すべての学生はオンラインで学習するようになったため、従来の教育の仕組みが2020年の1年間だけで大きく変化した。
ZoomやGoogle Meetingなどのオンライン会議プラットフォームに加えて、ベトナムのテクノロジー企業は、学生と教師をサポートするオンラインプラットフォームも提供した。Topica、Hocmaiなどのベトナム国内企業が開発したプラットフォームを介した教材ダウンロード、宿題提出、オンライン試験への参加など、ベトナムでは一般的になっている。
これらの企業はコロナ禍の前からすでに市場に参加していたため市場の理解度が非常に高く、この分野での競争は依然として非常に激しい。
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医療・健康
ベトナムの医療・健康の分野はコロナ禍によって、DXを大きく進めた。コロナ禍以前は、大都市の大規模病院に患者が集中しキャパオーバーしていた。ベトナムでは地方にある小さな病院の信頼度が低く、都市の外からも多くの患者が殺到することが原因である。
しかしコロナ禍をきっかけに大規模病院は、オンライン診断と地方病院との共同診断などを実施・推進したため、大規模病院の負担が軽減され、コロナの感染リスクも抑えることが出来た。
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デジタル経済をけん引するDXコンサルティング企業
FSI
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社名 | FSI Technology Development and Trading Investment Joint Stock Company |
設立 | 2007年 |
住所 | Cau Giay地区、Ha Noi市 |
HP | https://fsivietnam.com.vn/ |
FSIは、ベトナムのDXコンサルティング分野におけるトップ企業の1つである。FSIは創業時、ソフトウェアの設計および開発を行っていたが、ベトナムの大企業向けDXコンサルティングをメインの事業とする会社に転換した。現在FSIには、MB Bank(ベトナム軍隊銀行)やViettel(ベトナム軍隊通信)、Prudential、LG Groupのベトナム法人など、民間企業や政府機関を含む600を超える顧客がいる。
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FPT Digital
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社名 | FPT Digital Co., Ltd (FPT Group) |
設立 | 2020年 |
住所 | Cau Giay地区、Ha Noi市 |
HP | https://digital.fpt.com.vn/ |
FPT Digitalは、ベトナム最大手IT企業であるFPT Corporationの子会社である。同社は企業向けのデジタルトランスフォーメーションの企画から実施まで全体的なDXソリューションのコンサルティングを提供する。
FPT Digitalが独自開発したDXソリューションである「FPT Digital Kaizen」は、日本国内でも提供されている。FPT Digitalと他のDXコンサルティング会社との相違点は 人材の経験値である。FPT Digitalの管理職やエンジニアの多くはFPT Corporation出身で、2000年代初頭から国内企業や政府機関向けDXコンサルティングの実施経験を持っている。それにより、同社は顧客企業に対して、質の高いDX支援を提供することが可能である。
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MISA

社名 | 社名:FPT Digital Co., Ltd (FPT Group) |
設立 | 2020年 |
住所 | Cau Giay地区、Ha Noi市 |
HP | https://digital.fpt.c |
MISAは大企業ではないが、ベトナムで有名な企業である。企業向けの財務および会計管理ソフトウェアを提供している。同社は、人事、販管など経営管理領域のDXソリューションを提供し、特に中小企業に注力している。政府機関向け会計システムである「MISA FinGov」は2021年に、ベトナム政府が選出する年間最優秀DXソリューション3選の1つに選出された。
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出所:baotintuc.vn
デジタル経済をけん引するスタートアップ企業
MCGREEN SOCIAL SERVICES
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社名 | MCGREEN SOCIAL SERVICES |
設立 | 2018年 |
住所 | Ha Noi市 |
HP | https://mgreen.vn/ |
mGreenはデジタル技術を活用する廃棄物回収業者である。廃棄物を発生源で分別することのサポートに焦点を当てている。ベトナムでは日本ほどゴミの分別意識が高くなく、分別の知識を持った国民も少ない。
利用者はmGreenのスマートフォンアプリの案内に基づいて家庭ごみを分別し、そのあとmGreenが回収をする。利用者がmGreenアプリにアカウントを登録すると、廃棄物を分別するための無料のごみ箱が送られ、ごみの分別方法がアプリで説明される。これにより、利用者にごみの分別を啓蒙する目的もある。ごみが分別された後はアプリを介し、利用者はmGreenの従業員にリサイクル可能なごみを自宅から回収することを依頼する。利用者はリサイクル可能な廃棄物のキログラムごとにアプリ内ポイントを蓄積でき、買い物に使用できるポイントに交換できる。
現在、mGreenは主にハノイ市内でサービスを提供している。また、mGreenの事業はネスレ、Vin Groupなどの大手企業から支援されており、ハノイ市の共産青年協会も同社の自宅ごみ回収を支援している。

MIMOSA TECHNOLOGY
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社名 | MIMOSA TECHNOLOGY |
設立 | 2014年 |
住所 | Ho Chi Minh市 |
HP | https://mimosatek.com/ |
MIMOSA TECHNOLOGY(MimosaTEK)は、スマート農業分野での開発を行う企業である。
土壌水分センサー、自動操作、灌漑管理、栄養管理、肥料から農家にとって理解しやすい携帯アプリまで、MIMOSA TEK自社で設計している。
システムによって収集および分析されたデータは農家のスマートフォンに送信され、農家が次に何をすべきかを示すアドバイスを提供する。
MimosaTEKは、Eurofins Agro(オランダ)と提携して、農業を通じた土壌養分のデータと気象観測所のデータを収集し、リアルタイムで分析するIoTシステムの構築も進めている。

EDOCTOR

社名 | EDOCTOR |
設立 | 2014年 |
住所 | Ho Chi Minh市 |
HP | https://edoctor.io/ |
eDoctorは2014年末に設立され、電話による医療相談・診断サービスの提供と、携帯アプリの開発を行っていた。現在、eDoctorアプリは、人工知能(AI)を使用して患者の質問を分析し、患者の要求に含まれるキーワードを認識してから、適切な専門医とマッチングする。医師は自分専門のページにアクセスし、患者のリクエストや要求に対応する形である。
eDoctorは、患者と医師の間でのチャット、電話、ビデオ電話サービスを展開している。 eDoctorの常勤医師チームは、全国の病院の約30〜50人の医師である。
eDoctorは2020年3月に、日本のサイバーエージェントキャピタル(CyberAgent Capital)とジェネシアベンチャーズ(Genesia Ventures)、韓国のボンエンジェルス(Bon Angels)、ネクストランズ(Nextrans)の4つの大規模ファンドから100万米ドルを超える投資を受けており、ベトナムで注目のスタートアップの一つとして知られている。

日本企業の参入チャンス
ベトナム政府は日本企業のデジタル経済・DX分野での参入を歓迎している。
2021年11月にベトナムのファム・ミン・チン首相は日本を公式に訪問した。その際に日本企業の代表者と会談し、デジタル経済・DX開発での協力について言及した。対話に参加した大手企業はSBI、ソニー、大和証券、SCSK、大日本印刷、KDDIなどであった。
会談でチン首相は、デジタルインフラ、IoT、AI、ブロックチェーン、特にデジタル人材育成など日本企業と協力したい5つの分野を示し、各企業はそれぞれ注力している分野に関心を寄せた。
チン首相はベトナム国家DX委員会の会長であるため、この会談の実施はベトナム政府がDX分野への日本企業参入を歓迎していることを意味すると考えられる。

ベトナムのデジタル経済・社会の今後
ECの利用者が拡大
ベトナムのEC市場の規模と利用者数は、インターネットとスマートフォンの普及により、今後も堅調に成長し続けると考えられる。
ベトナム情報通信省(2020)の統計によると、ベトナムでスマートフォンを所有する人は6,137万人を超える。これは人口の64%に相当し、スマートフォンの普及率が世界で最も高い上位10か国に入っている。加えて、ベトナムでは全国のほとんどの地域や都市で4Gが普及している。これら2つの要素は、ベトナムにおけるEC発展の土壌になると見られる。
ウェブサイトへのアクセス回数を統計するiPriceのデータによると、2021年のベトナム最大手3つのECプラットフォームサイトへのアクセス回数は、前年より大幅に増加している。2021年6月と9月のわずか3か月で、Shopeeは7,780万回のアクセスを記録した(昨年同時期と比較して1,600万回増加)、TIKIは2,250万回(前年比550万回増)、経営戦略を再構築しているLAZADAでも2,140万回(140万回増加)だった。
またコロナ禍の影響によって、ECチャネルを介した食品購入が増加している。例えば、食品の小売りを専門とするBach Hoa Xanh社のECサイトへの平均アクセス回数は、1年間で2.3倍に増加した。
2021年におけるベトナムEC市場の規模は前年比+53%増の130億USD(約1兆4700億円)となった。2025年には2021年比+32%増の390億USD(約4兆4000億円)へと拡大すると予想されている。

DXおよびIT化への期待値向上
ベトナム商工会議所(VCCI)が、400を超える企業を対象とした調査「2020年デジタルトランスフォーメーションの状況」の結果によると、内部管理においてクラウドは最も導入されている技術であり、60.6%の調査対象企業で利用されていた。これは2019年と比較して19.5%増加している。次に多く導入されていたのはオンライン会議であった。約30%の企業が2019年以前からオンライン会議ツールを導入していたと判明したが、コロナ禍であった2020年を経て、さらに19%の企業がオンライン会議を導入し始めた。
調査対象の98%の企業が、DX・IT化を通じたコスト削減や事務処理の効率向上、製品とサービスの品質向上など、多くの期待をしている。

DXにおける3つの課題
ベトナム社会全体、特にベトナムの中小企業(国内ベトナム企業の98%は中小企業)はDXにおいて、大きく3つの最大の課題に直面している。
1つ目はDXの基盤がないことである。ベトナムは技術力で比較的世界に遅れており、DXの基盤となるようなコア技術が未熟であるため、海外のものや技術に依存している。現在、ベトナムの中小企業はDXの必要性について認識しているが、そもそも業務のデジタル化の導入度が低く、DXを実施する条件が難しい、つまりDXを実施するベースがないという状況である。
2つ目はDXへの投資資金である。DXへの投資は、意識・戦略・人材・インフラ・技術ソリューションなど企業全体を変化させるために、多額の投資が必要である。DXの意識を持つベトナム中小企業がいても、投資可能な資金が少なく、抜本的なDXを実施したくても出来ないというケースがある。
3つ目は企業や人々の意識である。DXは、伝統的な考え方からデジタルを用いた最先端の考え方へ転換する必要があるため、リーダーの考え方を変えることから始めなければならない。この点を踏まえると、ベトナム国内ではDXの啓発がまだ不十分である。ベトナム政府はDXの意識を社会全体へ広めることにより注力する必要がある。
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最後に
本レポートではベトナムのデジタル経済の動向について、網羅的に紹介した。
まず「デジタル経済」と「IT化」と「DX」の関係について、デジタル経済を「デジタル化された財・サービス、情報、金銭などがインターネットを介して、個人・企業間で流通する経済」とし、IT化を「デジタル技術の応用により、作業方法を効率化すること」と紹介した。DXは、デジタル技術の活用よって人々のライフスタイルをより良いものに、あるいは新しいビジネスモデルを開発していくという取り組みのことである。
ベトナムのデジタル経済の規模について、2021年は210億米ドルに達し、前年より31%増加した。ベトナムはインドネシアとタイに次いで、東南アジアで3位となっている。
また2025年には、ベトナムのデジタル経済の規模は2021年から3割増の570億USDに達するとされている。
一方でベトナムのDXはまだあまり進んでおらず、原因として2つ挙げられた。1つは国民と土地に関する情報がデジタル化されていないこと、2つ目にベトナム国威やベトナム企業がそこまでDXに注目していないことである。しかし1つ目に関しては、2021年7月からデジタル化が進んでいる。
また、ベトナムで注目されているDX分野は、農業(スマート農業)、環境・エネルギー、人材、教育、医療である。
ベトナムには大手からスタートアップまで、DXやIT化を含むデジタル経済の発展に寄与する企業が多く見られるが、ベトナム政府は日本企業の参入も歓迎している。
日本企業の参入によって、ベトナムが抱えるDXに関する3つの課題である、➀基盤がない、②投資資金がない、③意識関心が足りない、を解決することが期待されている。改善の余地が多くあるベトナムのデジタル経済関連市場は日本企業にとって有望な市場である。
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