はじめに:ベトナム林業と木質ペレット産業
日本国内におけるバイオマス発電の発展を背景に、2018年頃から日本によるベトナム産木質ペレットの輸入量が拡大してきた。2022年、日本のベトナム産木質ペレット輸入量は約218万トンに及び、日本全体の輸入量の約53.5%を占めている。もはや、日本の再生可能エネルギーを支える不可欠な存在となっている。
ベトナムは林業や木材・木製品が主要な産業であり、木質ペレットの原料が大量に存在している。従来は有効活用されていなかった木質原料を燃料にし、日本等の海外の再生可能エネルギーを支えることは非常に有用なことであると考えられる。
また、最も重要なポイントとして、ベトナム政府は持続可能な森林発展を以前から積極的に推進しているということだ。植林は国の政策であり、基幹産業であるからだ。FSC認証は2007年から積極的に取得を進めてきた。そもそも、ベトナム政府は国内独自の森林認証も制度として立ち上げてきたし、世界自然保護基金(WWF)に加盟し、様々な環境保護政策を実行してきた。
そこで本記事では、ベトナムの林業に関する基礎情報、ベトナム森林認証制度の仕組み、ベトナム産木質ペレットの輸出動向等、客観的なデータと事実、根拠に基づいてベトナム林業・木質ペレット産業について解説していきたい。
本メディアでは、これまでベトナムビジネスの最新動向や将来予測を日本企業の皆様に届けてきた。本テーマでは下記の4回のテーマ記事に分け、シリーズとしてアジア最大の木質ペレットサプライヤーであるAVP社をきっかけに話題(*)とされているベトナムの森林認証と木質ペレット産業について客観的に整理していきたいと考えている。
*22年10月、FSCがAVP社が販売した木質ペレットに数量の不一致の可能性がある為に調査すると表明。
【今後ベトビズで扱う記事テーマ】
- 第1回目(本記事):ベトナムの森林認証の概況と林業概況
- 第2回目:ベトナム政府の持続可能な森林の発展方針・木質ペレット認証制度について考える。
- 第3回目:ベトナムによる木質ペレット輸出産業の動向と森林認証
- 第4回目:日本企業がベトナムの木材業界に参入する際の重要ポイント解説、ベトナム企業の監視方法
第1回目の記事では、ベトナムにおける林業の概要をはじめ、森林認証の概要・仕組み・取得状況といった基礎的な情報を記載する。
ベトナムにおける林業概要
ベトナムは世界と比較しても林業が発展している国である。現在、日本を含めて、世界中に木材や木製品を輸出している。2022年、ベトナムは木材製品の生産で世界第 7 位である。アジア太平洋地域では第 2 位、世界第 5 位の木材製品輸出国でもある。近年、ベトナムの木製品産業・木材産業が発展する背景としては、ベトナムの森林資源がもともと豊富に存在するためである。
林地面積
ベトナム統計総局によると、ベトナムは2021年までに14.76 Mil haの森林を所有しており,世界の総森林面積の0.36%を占める。ベトナムの森林面積は年々増加しおり、2015年に比べて、森林面積が約5%増えた。そのうち、天然林が70%前後を占める。2022年現在、天然林の面積が10.17 Mil haに達し、全国の森林面積の69%を占める。
一方で、人工林が約30%を占め、2022年に4.57 Mil haに達する。人工林の面積は毎年増えている傾向にあり、2015年~2021年の時期には、年間平均増加率の2.75%で増加している。将来的にも増加しつつあると予測される。これはベトナム政府による持続可能な植林の計画に基づくためであり、木材産業が基幹産業であることから、計画的に植林と伐採が行われている。
また、ベトナムにおける森林被覆率は世界の森林の平均林被覆率(31%)より高い。森林面積の増加に伴い、ベトナムの森林被覆率も年々増加している。2015年の40.8%から2021年の42.02%に増加した。
地域別に見ると、北中部・中部沿岸地域の森林被覆率が最も高く、54.19%に達する。次いで、北部内陸・山間地域(53.84%)と高原地域(46.33%)である。メコンデルタ地域の森林被覆率は一番低く、5.84%しか達しない。
ベトナムにおける森林の分布
ベトナムには全国60省に森林がある。森林が主に北部内陸・山間地域と北中部・中部沿岸地域に集中している。2021年には、北中部・中部沿岸地域においての森林面積が5,582.7千haで、全国の森林面積の38%を占める。
次いで、北部内陸・山間地域の森林面積が5,375千haで、36%を占める。森林のある60省の中には、Nghe An省は1,008.8千haの森林があり、全国の総森林面積の6.8%を占め、最も多い森林面積のある省である。ベトナムで最も森林所有面積の大きい10省が所有する森林面積の合計は、ベトナム全体の森林面積の約44%を占めている。
ベトナムにおける森林の資源量
ベトナム国家林業マスタープランのデータによれば、2020年のベトナム森林木材蓄積は2017年に比べて、15%増加した。そのうち、天然林からの木材蓄積が84%を、人口林からの木材が16%を占める。
森林木材蓄積 (m3) | 人工林 | 天然林 | 合計 |
2017年 | 190,017,060 | 992,801,935 | 1,182,818,995 |
2020年 | 222,631,882 (↑17%) | 1,138,255,800 (↑15%) | 1,360,887,683 (↑15%) |
2020年のベトナムの地域別の森林蓄積は以下の表通りである。
地域別見れば、北中部・中部沿岸地域はベトナムの2020年の森林木材蓄積の39%を占め、527,381千haに達する。次いで、高原地域(27%、374,695千ha)と北部内陸・山間地域(26%、358,751千ha)である。竹系の木の蓄積については、北部内陸・山間地域の蓄積(4,212,937千本)は第1位に位置付けられ、全国の44%を占める。
第2位は北中部・中部沿岸地域であり、3,198,551千本で、全国の33%を占める。要するに、ベトナム森林蓄積の90%以上が北部内陸・山間地域、北中部・中部沿岸地域と高原地域に集中している。
森林面積、森林蓄積の拡大に伴い、ベトナムの森林伐採量も増加している。森林伐採量は、2015年の11.4 Mil m3から、2021年には18.38Mil m3へと伸びている。2015年~2021年の時期には、森林伐採量の平均年間増加率は8.3%/年である。2020年の森林木材伐採量はベトナムの森林木材蓄積の約1.26%に相当する程度だ。
地域別に見ると、現在、森林伐採は主に北中部・中部海岸現在に集中しており、全国の伐採総量の約59%(約10,854.8千m3)を占め、次いで、北部内陸・山間地域であり、全国の伐採総量の約26%(約4,847.9千m3)を占めている。伐採量が多い上位10省の合計伐採量は全国の伐採量の62%を占め、具体的な伐採量は以下の表通りである。
ベトナムにおける森林の樹種
ベトナムの自然林に対して、樹種別で以下の4つの種類に分けられる。そのうち、樹木の森林が主な林地の種類である。
- 樹木の森林:面積は8.9Mil ha、自然林面積が占める割合は86.54%(2020年)
- 木竹混交林:面積は1.14Mil ha、自然林面が占める割合は11.10%(2020年)
- 竹林:面積は0.24Mil ha、自然林面積が占める割合は2.32%(2020年)
- 竹林:面積は4,358 ha、自然林面積が占める割合は0.04%(2020年)
人工林の樹種を見ると、アカシア(Acacia)の林が主な種類である。林業総局によると、2020 年のアカシア林の面積は 2.35Mil haに達し、人工林の総面積の 53% に相当する。残りの面積 (47%、2.05Mil ha) には、ゴム、ユーカリなどの50種以上の樹木が栽培されている。つまり、アカシアがベトナム木材産業・木製品産業おける最も主要な木材であると言える。
ベトナムの森林認証制度の種類と概況
近年、森林保護・持続可能な開発のため、各森林認証が多くの国で、または地域・世界の範囲で積極的に普及している。ベトナムは世界有数の木材・木製品の輸出国として、森林認証のある製品・木材が求められている海外輸出市場の需要に応え、自国の森林について持続可能な開発を遵守徹底させるため、3つの森林認証システムを導入している。そのうち、
- FSCとPEFCは国際森林認証である。
- PEFCは世界最大の国際森林認証である。
- VFCSはベトナム独自の一連の規則と基準に基づいて発行されるベトナムの国家森林認証制度であるが、2020 年 10 月 29 日より PEFC によって正式に承認されたので、2020年からVFCS認証と認定された森林地域は、同時にPEFC認証を受けることになった。
上記の3つ森林認証の概要については以下にまとめている。
各森林認証システムのそれぞれにはFM(Forest Management)とCoC(Chain of Custody)の2つの認証がある。FM認証とCoC認証の対象、認証範囲は以下に具体的に説明する。
ベトナムにおける認証取得済みの林地
2023年2月現在、374,637ha(ベトナムの総森林面積の2.55%を占める)のベトナムの森林が、持続可能な森林管理の認証として付与されている。認証材(*)としては、年間約450万㌧程度の製品が製造可能と推察される。*管理木材は除く。
FSC-FM認証取得済みの林地
- 2007年、ベトナムは最初の 9,904 ヘクタールの森林がFSC-FM認証を付与された。 その後、 2012年以降、FSC-FM認証のある森林面積が急増した。2023年2月1日現在、FSC-FM認証のある森林面積は249,331 ha (59ヶ所)で、ベトナムの総森林面積の1.7%を占める
- FSC-FM認証のある森林の殆どが人工林である。 残りはわずかの自然林である
- FSC-FM 認証を所有している主なグループは以下の2 つがある。
- グループ1:企業(国営企業、民間企業、外資企業を含む)。これは、より多くの認証森林を所有するグループである。
- (2)グループ2:世帯。これらの世帯は互いに連携するか、或いは森林保護局/農民協会・地域の木材加工企業と協力している。
- FSC-FM認証のある森林の分布:FSC-FM認証を取得できた森林は24/63省にある。FSC-FM認証がある森林面積の90%以上が北中部地域に集中している。FSC-FM認証のある森林面積が多い上位10省は合計で、189,751.36ha、FSC-FM認証のある森林の76%を占める。
- FSC-FM認証のある森林の殆どが人工林である。 残りはわずかの自然林である
- FSC-FM 認証を所有している主なグループは以下の2 つがある。
- グループ1:企業(国営企業、民間企業、外資企業を含む)。これは、より多くの認証森林を所有するグループである。
- (2)グループ2:世帯。これらの世帯は互いに連携するか、或いは森林保護局/農民協会・地域の木材加工企業と協力している。
- FSC-FM認証のある森林の分布:FSC-FM認証を取得できた森林は24/63省にある。FSC-FM認証がある森林面積の90%以上が北中部地域に集中している。FSC-FM認証のある森林面積が多い上位10省は合計で、189,751.36ha、FSC-FM認証のある森林の76%を占める。
PEFC-FM認証取得済みの林地
- 2021年、ベトナムは最初の 46,657 ヘクタールの森林に PEFC-FM 認証が付与された。 2023年 2月現在、ベトナムには 125,306.33 ヘクタールの森林(22か所)が PEFC-FM で認証されている。
- そのうち、112,224.98 ヘクタールはゴムの人工林であり(90% を占める)、残り13,081.35 ヘクタールはその他の樹木の人口林である(10% を占める)。
- 認証のある森林面積の100%が人工林
- PEFC-FM認証を所有する主なグループは 2 つある。
- グループ1:Vietnam Rubber Industry Group (VRG)である。同社は112,224.98 ヘクタールのゴム人口林を所有しており、ベトナムの PEFC-FM 森林面積の 90% を占めている。
- グループ2:民間企業や林業協同組合。ゴム以外の他の樹木の人口林である残りの10%認証森林を所有している
- PEFC-FM認証のある森林の分布: PEFC-FM認証のある森林面積の90%は、中部高地・南東部に集中している。PEFC-FM認証を取得できた森林は13/63省にある。PEFC-FM認証のある森林面積が多い省はBinh Phuoc省であり、46,413.91haに達し、PEFC-FM認証のある森林の37%を占める
- なお、FSCのFM認証はPEFCのコントロールド・ソースというカテゴリーで出荷できる。
FSC認証制度の仕組み
次にFSC認証制度の仕組みについて述べていきたい。
FSC認証の仕組み
FSCの認証制度は、グローバルに一貫した規則・基準に基づいて、ベトナム政府機関と直接関係がない国際認証機関によって完全に独立して検証・認証されている。以下の図の通りに認証認定が行われている。
- ASIは認証機関の認定・監督機関である
- 認証機関:認証基準に基づいて審査を行うのは、FSCの組織ASI(Accreditation Services International)が認定した、独立した第三者認証機関である。
- 定期監査:初回の基準審査だけでなく、毎年の年次監査や5年毎の更新審査を行い定期的な監査・維持管理を実施している。制度運営と基準づくりを担うFSCと、審査・監査を行う認証機関を分けていることから、公正で信頼性の高い制度として評価されている。認証機関は、認証された組織・企業を調査・検査し、外部から検査要請などがあった場合は認証の有効性を一時停止し、検証結果に応じて認証を終了することができる。現在、ベトナムには17の認証機関がある。
FSC-FM認証の認定の流れ
FSC-FM認証取得を希望する森林の所有・管理している企業・組織・個人林業世帯のグループなどは10の原則と70の基準を含めたFSC基準システムを満たす必要がある。以下は10原則の内容である。
- 法律の順守: 森林管理や取引に関する国内法や国際条約を守ること
- 労働者の権利と労働環境:労働者の権利や安全を守ること
- 先住民の権利:先住民の権利を侵害していないこと
- 地域社会との関係:地域社会と連携し、よい関係を築くこと
- 森林のもたらす便益:森林の多面的な機能を考慮すること
- 環境価値と環境への影響:環境への影響は評価して、環境を守ること
- 管理計画:精確なデータや情報に基づく計画をすること
- モニタリングと評価:環境や社会への影響がモニタリングして、負の影響が抑えること
- 高い保護価値:森林の生態的、社会的に高い保護価値は守ること
- 管理活動の実施:管理活動は計画通りに行うこと
ベトナムでは、国際共通の上記10規則(70基準を含める)を基に、ベトナムの特徴にふさわしくように少し調整されたFSC-STD-VN-01-2018という「ベトナム国家FSC森林管理基準」に従って、FSC-FMが承認されている。FSC-STD-VN-01-2018の詳細内容(英語版)はこのリンクで確認できる。FSC-FM認証の認定流れは基本的に次のステップを含める。
FSC-CoC認証の認定の流れ
FSC-CoC認証取得を希望するベトナムにおける企業は7の原則を含めた国際共通のFSC基準システム(規則記号:FSC-STD-40-004 V3-1)を満たす。以下は7原則の内容である。
- CoC 管理システム:企業は組織の規模と複雑性に適した CoC 管理システムを運用及び維持しなければならない
- 原材料調達: 企業は、FSC 製品グループに用いられる原材料を供給するすべての供給者に関する最新の情報を保持しなければならない
- 原材料の取扱い: FSC 製品グループに不適格な原料が混入するリスクがある場合、企業はふさわしい分別方法を実施しなければならない
- FSC 原材料及び製品の記録: 企業は、製品グループごとまたは受注ごとに、原材料の体積または重量が変化する主な加工工程を特定し、加工工程ごとの、それが難しい場合は加工工程全体での換算率を明確にしなければならない
- 販売: 組織は、FSC表示を付けて販売される製品に関して発行される販売文書に含まれる情報の信頼性を保証しなければならない
- 木材合法性に関する法令の順守:企業は、自身の FSC 認証及び管理木材製品または木材製品が、適用可能なすべての木材合法性に関する法令を満たすことを保証しなければならない
- FSC の中核的労働要求事項: 企業は、FSCの中核的労働要求事項の適用にあたり、国内法令によって定められている権利及び義務を十分に考慮し、同時に本要求事項の目的を満たさなければならない。
上記はFSC-CoCの7つの基本的な規則である。規則に含めた詳細な内容・基準(日本語版)はこのリンクで確認できる。FSC-CoC認証の認定流れはFSC-FM認証の認定流れの本審査の準備から更新審査までと同じである。本審査も書類審査と現場審査を含める。そのうち、
- 現場審査:承認木材は不適合木材と混同されていないことの確認
- 書類審査:従業員へのFSC-CoCについて訓練の実施、原材料・商品の管理に関する書類の審査
まとめ
以上をまとめると、ベトナムは林業資源がもともと豊富な国であり、林業が盛んな国の1つである。林業を基幹産業と位置づけるベトナム政府は持続可能な森林発展の計画に基づいて植林と伐採を実施してきた。ベトナム政府は国内独自の森林認証も制度として立ち上げ、世界自然保護基金(WWF)に加盟し、様々な環境保護政策を実行してきた。事実、ベトナムの林地面積、森林被覆率、貯蓄された資源量は増加傾向にあり、2020年の森林木材伐採量はベトナムの森林木材蓄積の約1.26%に相当する程度でしかない。
現在、ベトナムにはFSC、PEFC、VFCSの3つの主要な森林認証制度が存在する。FSCの認証制度は、ベトナム政府機関とは直接関係がない国際認証機関によって完全に独立して検証・認証されており、VFCS/PEFC 認証制度はベトナム農業農村開発省に所属するVFCOの管理下にある。ベトナムの国家の持続可能な森林の発展政策に基づいて運営されることが原則である。
以上のことからベトナムは林業資源が豊富であり、認証制度に基づいた発展計画が行われていることがお分かりいただけるのではないか。こうしたベトナムの林業の基礎データを踏まえ、本メディアでは次回以降、ベトナムの木質ペレット産業の輸出動向についても客観的なデータや統計を用いて考察を続けていきたいと考えている。
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