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経済動向貿易・輸出入ベトナム経済

アメリカ、ベトナムを含む75か国以上への報復関税を90日間一時停止 

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はじめに 

2025年4月9日、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領は、ベトナムを含む75か国以上に対する報復関税の適用を90日間猶予し、関税率を10%に引き下げると発表した。本決定は、2025年4月2日に署名された大統領令によって発表された報復関税措置(関税率46%)の発効直前に行われたものであり、ベトナムをはじめとする多くの国々にとって、対米貿易関係の見直しと交渉の機会を提供するものとなっている。 

本レポートでは、このアメリカによる報復関税猶予措置の背景と内容、ベトナム経済および輸出産業に与える影響、また今後のベトナム政府の対応方針と国内企業の戦略的対応について分析する。さらに、猶予期間中における二国間交渉の可能性や、ベトナムのグローバルサプライチェーンにおける地位向上の展望についても考察する。 

トランプ大統領、報復関税の適用を一時停止を発表 

2025年4月9日、ドナルド・トランプ大統領は、75か国以上に対する報復関税の適用を90日間延期を発表した。この決定は、各国がアメリカ政府と通商協定に関する交渉を行い、アメリカに対して報復措置を取らなかったことを受けて下される。 

同日午後(現地時間)にトランプ大統領はSNS「トゥルース・ソーシャル」上で次のように投稿した。「75か国以上がアメリカの商務省、財務省、通商代表部(USTR)などの関係機関に接触し、貿易問題、貿易障壁、関税、為替操作、非関税措置などについて解決策を交渉しており、いずれの国もアメリカに対する報復行為を行っていないという事実に基づき、私は90日間の適用停止と、報復関税の税率を10%に大幅に引き下げることを認めた。これは直ちに発効する。」 

一方で、中国に対する関税は即時発効で125%に引き上げられる。これは、北京がワシントンの新たな関税引き上げに対抗措置を講じたことに起因する。 

ホワイトハウス前に姿を見せたドナルド・トランプ米大統領(関税延期の発表後)。 
出所:Reuters 

2025年4月2日、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、ベトナムを含む180以上の経済体に対して報復関税を適用する大統領令に署名した。ベトナムへの関税率は46%と設定された。この政策は、アメリカ国内経済の保護および国家の貿易赤字の改善を目的として実施された。ホワイトハウスの発表によれば、報復関税は2025年4月9日から適用される予定であった。その他、高い関税が課される国には、中国(34%)、台湾(32%)、タイ(36%)、カンボジア(49%)、日本(24%)、インド(26%)などが含まれていた。 

相互関税の実施延期がベトナムに与える影響 

アメリカが報復関税の適用を90日間猶予する決定を下し、世界貿易の不確実性が高まる中で、ベトナムは戦略的な対応を採ることが求められている。 

短期的だが安定した輸出活動を継続 

米国が相互関税政策の実施を90日間一時的に見送ったことにより、ベトナム企業は短期的に対米輸出活動を安定的に維持することが可能となった。仮に同政策が即時適用された場合、繊維・縫製、履物、木製品、電子機器、農産物などの主要輸出産業が大きな影響を受ける可能性がある。これらの産業の中には、対米輸出が業界全体の輸出額の20〜40%を占める品目も含まれている。 

関税措置の延期によって、企業はサプライチェーンの維持が可能となり、受注の中断リスクや物流面での追加コストを回避できる。また、貿易政策の変動が続く中でも、生産・事業計画の安定を図る環境が一定程度確保されている。 

二国間交渉の余地の拡大 

猶予期間中、ベトナムは米国との二国間貿易関係における内容を再検討・評価する時間を確保できる。特に、米国側が対ベトナム税制の見直しに際して重要視している貿易赤字の問題は、今回の見直し対象のクリティカルな要素の一つである。 

加えて、この期間は、両国が明確なロードマップを持つ貿易協定について協議を進める上でも適切なタイミングである。このような協議により、企業にとって移行措置が明確となり、円滑な対応が可能となるだけでなく、今後も米国向けの安定的な輸出超過を維持することに貢献すると期待される。 

グローバルサプライチェーンにおける地位強化 

米国が中国に対して125%という高率な関税を適用する中で、ベトナムは地域のサプライチェーンにおいて代替的な役割を果たす潜在性を有する国の一つと見なされている。今回、ベトナムに対する関税措置が一時的に猶予されたことは、同国製品の米国市場における競争力を維持するうえで重要な要素となっている。 

この措置により、ベトナム製品の価格競争力が確保されることで、輸出拡大の可能性が高まるとともに、特定産業における海外からの投資誘致にもつながる。特に、サプライチェーンの再編を検討する多国籍企業にとって、ベトナムは魅力的な選択肢の一つとして位置づけられている。 

 外国投資動向への影響 

ベトナムが報復関税措置延期の対象国としてリストアップされたことは、外国投資家の信頼を強める要因となり得る。特に、製造業、輸出関連産業、サポーティングインダストリーといった分野においてその効果が期待される。 

不安定な通商政策に直面する国が増える中、今回の決定はベトナムへの外国直接投資(FDI)の持続的な流入を後押しする可能性が高いと見られている。 

ベトナム政府の対応 

4月9日午後(現地時間)、ホー・ドゥック・フォック副首相は、トー・ラム書記長の特使として米国を訪問中、米国通商代表のジェイミーソン・グリア氏と会談を行った。本会談は、両国間の経済・通商分野に関する諸問題について意見交換を行う目的で実施された。 

ホー・ドゥック・フォック副首相とジェイミーソン・グリア米国通商代表  
出所:VNEconomy 

会談において、ホー・ドゥック・フォック副首相は、ベトナムの立場を明確に表明し、米国との包括的戦略的パートナーシップの推進を引き続き重視する姿勢を強調した。また、独立・自立した経済の構築および広範な国際経済統合に対するベトナムの強いコミットメントを再確認した。 

ベトナム側は、米国による報復関税の一時停止措置を高く評価するとともに、両国が安定的で透明性があり、互恵的な二国間貿易協定の交渉を早期に開始する必要性を提案した。また、ベトナムからの輸出品に対する高関税の適用は、両国の実際の関係性と乖離しており、二国間の信頼関係に悪影響を及ぼしかねない点を指摘した。 

これに対し、米国通商代表は、ベトナムの積極的な取り組みを評価し、報復関税に関する二国間貿易協定の交渉を開始することに同意した。 

今後90日間のベトナム国内事業戦略 

本章では。90日間のベトナム国内の事業戦略について解説する。

いくつかの分野では、経済活動の活発化が予想される 

今後90日間、アメリカによる関税適用の一時停止期間を見込み、いくつかの分野では経済活動が活発することが予想されている。まず、関税が課される可能性のある輸出産業、例えば繊維・縫製、履物、木製品、電子機器、農産物などの分野では、税制施行前に注文を完了させるため、生産と出荷を加速させる動きが見られる。これらの業界の企業は、短期的な生産能力の拡大、納期の迅速化、そして有効な貿易優遇措置の最大限の活用を優先する傾向にある。 

同時に、物流および国際輸送分野においても、活発な動きが予想される。アメリカ向け貨物輸送の需要は短期間で増加する可能性があり、それに伴い、港湾や主要物流センターでの輸送能力や物流の流れに対する圧力が高まる見通しである。一部の物流企業はすでに便数の増加、ルートの見直し、国際パートナーとの連携強化などの対応策を講じており、限られた時間の中で輸配送を確保しようとしている。 

ベトナム国内企業の調整戦略 

アメリカによる対抗関税政策の適用が90日間延期されたことは、ベトナムの輸出企業にとって、グローバルな貿易環境の変動に対応するために、事業戦略を見直し・調整する好機と見なされている。 

この期間に、輸出市場の多角化を図ることは重要である。企業は、CPTPP、EVFTA、RCEPなどの既存の自由貿易協定を効果的に活用し、市場の拡大を図ることで、特定の国への依存度を下げることができる。このような取り組みにより、特定市場の貿易政策に変化が生じた場合でも、柔軟に対応できる体制を構築することが可能となる。 

自由貿易協定を活用し、輸出市場を多様化を図る 
出所:Bao dai bieu nhan dan 

加えて、製品の競争力向上も重要な要素である。技術革新への投資、製品品質の向上、および製品の内在的価値の増加は、アメリカ市場を含む先進国市場における厳格な技術基準に対応するために、企業の競争力を強化する。 

企業はまた、90日後に適用される可能性のある関税水準に備えたシナリオを構築する必要がある。追加コストのシナリオ評価、利益率への影響分析、コスト管理や輸出商品の見直しなどの対応策を準備することで、税制が施行された場合のリスクを最小限に抑えることが可能になる。 

さらに、米国のパートナーとの協力強化は、サプライチェーンの強化と市場の安定維持に向けた解決策の一つである。米国の輸入業者、流通業者、顧客とのつながりを拡大することで、企業は安定した市場基盤を築くとともに、将来的な政策変動に対する対応力を高めることができる。 

結論 

米国による90日間の報復関税の一時延期は、ベトナムにとって輸出の安定維持および二国間交渉の継続に向けた好機であり、極めてタイミングの良い要素といえる。この期間中、公的部門と民間部門の双方において、戦略の再評価・調整および対応計画の策定を主体的に進めることが必要である。これにより、輸出成長の維持と戦略的パートナーとの経済関係の安定が確保されることが期待される。 


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– ページ数(企業紹介ページを除く)35ページ
– 発行年月日:2025年4月3日
– 発行:ONE-VALUE株式会社
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レポートのポイント

トランプ政権の復活がベトナム政治経済と日本企業のビジネス戦略に与える影響を分かりやすく基礎から解説。2025年4月2日にトランプ政権が発表した対ベトナム相互関税46%。最新のベトナム政治情勢を詳しく解説し、今後の展望を探ります。

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