はじめに
ベトナムの生徒たちは激しい受験競争にさらされており、若年層の人口増加に伴って、学習塾に通う生徒は今後増えていくことが予想される。一方で、テストで高得点を取るためだけの知識習得に編重した教育でなく、勉強と生活のバランスを重視し、実社会での問題解決に資するような教育プログラムの開発へのニーズがベトナムでは高まっている。そういった意味で、ベトナムでは国際教育分野で経験のある投資家が求められている。
ベトナムの学習塾市場の現状
ベトナムの教育市場、特に学習塾の分野は急成長している。高等学校の生徒数は年々増加しており、大学入学試験・進学試験対策をする学習塾への需要が高まっている。具体的には、2016年から2023年にかけて、高等学校の生徒数は240万人から289万人に増加し、年平均成長率(CAGR)は4.75%に達している。特に、学校以外の場所で受験勉強をする生徒数が増加していることは、このサービスに対する大きな需要があることを示している。例えば、ホーチミン市では、学習塾に通う生徒の割合が2019年の81%から2023年の88.4%に増加した。
また、IDP Education LLCによって2022年に実施されたベトナムの1,005人の保護者を対象とした調査結果によると、48%の保護者が子供を留学させたいと希望し、44%の保護者が外国の大学と連携した国際教育プログラムに関心があると回答した。一方、ベトナムの大学のベトナム式カリキュラムで学ばせたい保護者は18%だけであった。この数字は、ベトナムの保護者が留学準備や国際教育プログラムを兼ね備えた学習塾に着目している傾向を表している。
大学受験向け学習塾の市場トレンド
- 資格試験対策: 英語能力試験(IELTS、TOEFL)や大学入学試験対策を行う語学センターが増加している。多くの大学の入試では、英語や日本語、中国語等の語学試験成績証明書を提出することで、合否の決定の際に加味される。
- デジタル化: オンライン学習プラットフォームの普及が進み、リモート学習の需要が高まっている。
- 個別指導の増加: 生徒一人ひとりにカスタマイズされた学習プランを提供する個別指導が人気である。
- 国際教育プログラムの需要: 海外の大学への進学を目指す生徒が増え、それに伴い国際バカロレア(IB)やSATなどの準備コースが注目されている。
- 総合学習支援: 学業以外にもキャリアカウンセリングや大学選びのアドバイスを提供する塾が増えている。
- 大学入試への能力評価試験の導入:ベトナムの名門大学では大学入試として、能力評価試験を実施しており、受験生はこの試験を受験する。能力評価試験では、学習知識の確認だけでなく、問題解決能力や論理的思考能力の評価も可能である。そのため、多くの学生が能力評価試験を受けるための学習塾に通っている。
ベトナムにおける学習塾の成長要因
本章では、ベトナムにおける学習塾の成長要因について解説する。
人口増加と学生数の増加
ベトナムには10歳から24歳までの青少年が2,040万人おり、人口の21%を占めている。人口ボーナス期は2039年まで続くと予測されている。このような学齢人口の増加は、教育市場の拡大を支える基盤となり、学習塾産業の成長を促進している。
都市化と中流階級の台頭
都市化の進展と中流階級の拡大も学習塾の成長に寄与している。都市部では教育への投資が一般的であり、中流階級の家庭は子どもの教育に多額の費用をかける傾向がある。この層が学習塾の主要な顧客層となっており、学習塾市場の成長を後押ししている。
教育に対する高い需要
ベトナムでは、教育が家族や個人にとって重要な位置づけを占めている。大学や中学・高校への受験競争が非常に激しく、子どもたちにより良い教育機会を提供し、学業成績を向上させるために、多くの家庭が学習塾に頼る傾向がある。この需要は、特に大都市圏で顕著である。
投資家のビジネス機会
本章では、投資のビジネス機会について解説する。
自己発展及び自主性を重んじた学習
ベトナムの学習塾市場における新たなニーズの一つは、自己発展や自主性を重視したり、外国式学習スタイルを取り入れているの学習塾である。国際教育分野での経験がある日本の投資家は、このトレンドに着目し多様で柔軟、そして個別化された学習プログラムを提供する学習塾の展開が有望な投資だと考えている。
生徒の全人的な成長を支援するとともに、ベトナム教育業界に付加価値を創出することができる。
ベトナムの学習塾の質は、ばらつきがあると言われている。。多くの生徒は、知識の習得だけでなく、生徒の心理面をケアしてくれる、優秀な教師に教えてもらいたく、塾に通いたいと思っている。しかし、質の良い塾に通うための経済的に高い授業料を支払う余裕がない場合、生徒が最良の教師から教わる機会を得られる可能性は狭まる。
学業ストレス及び激しい競争
ベトナムの受験生は、厳しい大学受験競争の中で、余暇を過ごしたり、社会的スキルを向上させるための時間が不足している
勉強と生活のバランスに配慮した教育プログラムの開発に豊富な経験を持つ日本の投資家は、この問題を改善できるかもしれない。理論と実践を組み合わせた学習プログラムの提供及び学業プレッシャーの緩和によって、日本の投資家は生徒の負担を軽減し、より健全な学習環境を創出することができる。
教育分野への外国投資に関する政府の政策
ベトナム政府は、教育分野の発展と質の向上を目指し、外国からの投資を積極的に誘致している。教育の質を高め、産業の近代化や国際社会で求められる能力を育成していくため、政府は外国投資家の参入を奨励する次のような政策を実施している。
投資促進のための政策
ベトナム政府は、2018年6月6日に政令第86/2018/NĐ-CPを発布し、外国との教育分野での協力と投資に関する手続きを簡素化した。この政策は、外国投資を惹きつけることを目的としており、教育分野での投資機会の拡大を目指している。また、ベトナム政府の政令第118/2015/NĐ-CPにより、教育分野の投資プロジェクトには、法人所得税、輸入税、土地税などの優遇措置が適用される。
教育分野への外国投資に関する他の規定
外国投資家はベトナムにおいて教育分野への投資が認められているが、投資はWTO、FTA、AFAS、AANZFTAに従った特定の学問分野に限られる。例えば、工学、自然科学および技術、経営学およびビジネス科学、経済学、会計学、国際法および語学教育等が認められる。これにより、投資の方向性が明確になり、政府の教育戦略に沿った形での投資が促進される。
投資範囲について、外国投資家は、以下の教育分野への投資が認められている。
- 小学校教育
- 中等教育(一般教育と職業教育を含む)
- 高等教育(大学・専門学校など)
- 成人教育
- 外国語教育やその他の教育サービス
プログラムの承認について、投資家が提案する教育プログラムは、必ず権限のある国家機関によって承認される必要がある。このプロセスは、教育の質を保証し、国家の教育基準に適合することを目的としている。
投資形態について、外国からの投資は、ベトナムの企業との合弁形式で行われる必要がある。外国投資家の出資比率には制限がなく、柔軟な投資形態が認められている。
まとめ
小学校から高校まで、学習塾に通う生徒数が著しく高まっている。また、ベトナムの多くの保護者は自分の子供に留学プログラムや国際教育に参加させたいと思っている。これは、多様で現代的な教育プログラムに対する保護者及び生徒の関心が高まっていることを反映している。
政府が税制優遇措置や円滑な手続きの整備等を通して投資をサポートすることで、学習塾だけでなく、外国投資家が語学教育や社会スキル教育等も対象にした、最新の教育プログラムの開発に参入する機会が増えている。これらは、外国投資家にとって有望な市場に参入する機会であり、ベトナムの教育の質向上に貢献する機会にもなる。