はじめに
本レポートではベトナムの伝統衣装「アオザイ(Áo dài)」について解説していきます。
アオザイは女性だけではなく、男性の衣装でもあり、昔からベトナムで着られています。ベトナムで最も代表的な民族衣装のひとつです。さらにベトナムには、他にもさまざまな民族衣装があります。
本記事では、アオザイの特徴、アオザイの歴史や現代のアオザイについて紹介をしていきます。
アオザイの特徴
ベトナムの最も代表的な民族衣装アオザイはベトナムの約80%を占めるキン族が発祥と言われています。ベトナム語では、衣服という意味の「アオ (Áo)」と長いという意味の「ザイ( dài )」がくっついてアオザイと呼ばれています。ベトナムでは公式的な場で着られることが多く、結婚式の際に新郎新婦がアオザイを着ます。学生服として無地の白いアオザイが着らています。
見た目が中国のチャイナドレスと似ているアオザイですが、アオザイはワンピース型ではなく、上着とズボンが分かれているのが特徴です。また、最も体に合ったサイズアオザイを作るために、ベトナムにはアオザイを仕立ててくれるお店が多くあります。無地からハスの絵が刺繍されたデザイン、またファッション性の高いアオザイなど現代では様々なアオザイの形・デザインがあり、これを「現代のアオザイ(Áo dài hiện đại」)や「革新的なアオザイ (Áo dài cách tân)」と呼ばれています。
近年ベトナムへの観光客が増えたことで、観光客がアオザイをレンタルして街中を歩いて写真を撮ったり、お土産として、購入したりと気軽に見掛けられるようになりました。そんなアオザイは歴史を経て、西洋と東洋の文化が混じり合い、現在の形へと変化してきました。
デザイン
アオザイは、もともと単色のものが主流でしたが、時代が変わるにつれ鮮やかな色を使用し、華やかな柄を取り入れデザインが変化してきました。単色のアオザイといえば、学生が着るアオザイは上から下まで白一色です。
ベトナムで多くの人が華やかなアオザイを着る機会が多いのは、「テト」というベトナムの旧正月です。赤色や黄色、花柄などの華やかなアオザイを着て年の始まりを祝います。また、無地の生地に刺繍が施されたアオザイも美しく、華やかです。ベトナムの国花である蓮のデザインや、花のモチーフが縫い付けられたデザインは器用な人が多いベトナムの人々こそできる芸術だと感じられます。
アオザイと似たデザインに、「アオバーバー(Áo bà ba)」という服もあります。アオザイとよく間違えられやすいですが、 アオバーバーは特に南部の女性が、日常的に着る洋服です。
シルエット
アオザイは体にピッタリとあったシルエットが美しいとされています。上着の首襟は少々高めで腕や胸回りはサイズを合わせ、下半身に向けて真っ直ぐ、もしくは少々Aラインになっているのが特徴です。ズボンは基本的にゆったりとしたものが多く、丈が広めで、長さは足首くらいまであります。
最近では、上から下までゆったりとした形のアオザイがあったり、ズボンではなくスカートを取り入れたアオザイだったり若い子がファッションやお洒落として楽しめるようなアオザイも増えてきています。
素材
素材は基本的に上着・下着ともにシルクが使用されていました。アオザイは、綿、シルク、ポリエステルなど、様々な素材で作られています。
綿は、アオザイによく使われる素材一つです。通気性と吸湿性に優れているため、暑い気候に適しておりまた、綿は比較的丈夫な素材なので、長持ちします。またシルクは、アオザイに高級感を与える素材です。光沢と滑らかさがあり、上品な印象を与えます。シルクは吸湿性にも優れています。ポリエステルは、アオザイの普及に大きく貢献した素材で、丈夫でシワになりにくいため、扱いやすいのが特徴です。アオザイの素材は、着用する人の好みやシーンによって選ぶことができます。暑い気候で着用する場合は、通気性と吸湿性に優れた綿がおすすめです。上品な印象を与えたい場合は、シルクがおすすめです。普段使いに手頃なアオザイをお探しの場合は、ポリエステルがおすすめです。
帽子
通常アオザイを着る場合、決まった帽子はありませんが、結婚式などでは伝統として被り、それ以外の場ではファッションの一種としてかぶり物をかぶります。円錐形の笠の帽子は、アオザイと同じくキン族発祥の「ノンラー(nón lá)」といいます。
ベトナムではとてもポピュラーなかぶり物で、お土産屋さんなどでもよく見かけられます。ノンラーは、よく市場や街中などで働いている人達が日除けのために被っています。さらに、アオザイを着た際に、ベトナムらしさを引き出すためにも被られています。
結婚式の際には男女ともに円形の帽子を被ることがあります。元々ターバンが使用されることが多かったですが、この帽子のことを「マン(mấn)」といい、本来は結婚式などの伝統的な場で髪をまとめるためにターバンが付けられていましたが、現在では、被りやすいように帽子や円形のようになっています。しっかりと髪の毛を整える為、として使用されていましたが、最近ではファッションとして被られることもあります。
アオザイの歴史
アオザイは今まで様々な文化を取り入れながら変化をし続けてきました。現在の形になるまでにフランスやアメリカなどからの影響によって変化し、アオザイの種類ごとに魅力の異なるアオザイは、歴史の象徴と言っても過言ではありません。そして、アオザイに様々な変化を起こさせるほど、ベトナム人の人々がアオザイに対して誇りを持っているのが感じられます。
18世紀
1744年、ベトナムが北と南で分裂をしている時代、当時の北側の国王、「グエン・フック・コート ( Nguyễn Phúc Khoát )」が北と南を分けるためにアオザイを着させたことが始まりとされています。
この頃のアオザイのことを「アオヤンリン(Áo giao lĩnh)」といい、大きめのガウンでワンピースのような形になっており、現在のアオザイより袖や幅がゆったりとつくられており、前を縛って着られていました。
19世紀
19 世紀初めには5つのパーツを組み合わせた「アオングタン(áo ngữ thân)」というアオザイが作られました。今までのアオザイより、首丈が高めであることや中に着る下着がつけ始められたことが特徴です。上着はガウンのようになっており、前を締めて着ます。現在のアオザイの横のスリットはこの時代のアオザイを起源とされており、両サイドにスリットがあるのが特徴です。この時代の女性はズボンではなくスカートを着ていました。
また、同じ時代に「アオトゥタン(áo tư thân」) という4つのパーツを組み合わせて作られたアオザイが作られました。アオトゥタンは、上記のアオングタンと少々異なり、上着の前の部分を締めずに着られていました。
20世紀
1900年台 20世紀初頭になるフランス文化がベトナムに浸透しました。そのためアオザイも大きく変化しました。1930〜1950年には「カットトゥオン(Cát tường) 」という画家によって「 アオザイレマー( áo dài Lemur)」というスタイルのアオザイが作られます。 西洋ファッションに影響を受けて、ベトナム人の体に合わせタイトで、スカートが長く、肩の部分が膨らんだパフスリーブで丸首の胸元にリボンがついているのが特徴です。これまでのアオザイの形を残しつつも、西洋らしいかわいらしさがプラスされたアオザイはとても人気だったようですが、本来のベトナム人らしいアオザイと雰囲気が異なるためか多くの人から批判を受けることもありました。
また、同じ時代 に画家である「レーフォー(Lê phở)」により、「レーフォーアオザイ(Le Pho Ao Dai)」が作られます。19世紀初頭の「アオトゥタン」と「アオングタン」の要素を取り入れたアオザイが作られ、「 アオザイレマー」のスタイルから肩が膨らんだパフスリーブを失くし、首の高さがあるアオザイが作られました。
1958年「チャンレスアン(trần lệ xuân) 」によってアメリカの文化から影響を受けた「アオザイコーチュエン(áo dài cổ thuyền)」が作られました。 基本は、肘までの袖だけにVネック、グローブをつけたスタイルでフランス文化を取り入れたアオザイ、アオザイレマー( áo dài Lemur)とは少々異なるスタイルです。
1960年になると「アオザイラグラン(áo dài tay RAGLAN)」 というアオザイが南部の「ズンダーカオ( Dung Da kao )」という仕立て屋で作られました。首から両腕に向かって斜めに縫い目が入っているのが特徴で、横のスリットはボタンがついており、現代のアオザイの形に最も近いデザインとなっています。
1970年頃、ベトナムではドイモイ政策は始まりました。この頃、アオザイも大きく変化しました。
軽い素材で、錆ビットなど様々な色を使用し、今までのデザインとは異なったデザインのものが増えます。
2000年台なると、アオザイはベトナムの文化として広く認知されるようになり、海外からもそのファッション性を評価されるようになります。海外でも、ベトナム文化の紹介やアオザイの普及を目的としたファッションショーが行われています。国際的なファッションイベントや文化交流イベント、ベトナムフェスティバルなどで、ベトナムのアオザイがランウェイに登場し、その美しさと魅力が披露されます。また、新たなアオザイのデザインやスタイルを追求するデザイナーなども出現し、現在でも様々なスタイルのアオザイが生まれています。
現代におけるアオザイ
現代においてもアオザイは変化を続けています。伝統衣装でもあり、ファッションとしてお洒落を楽しめる洋服として親しまれています。現代のアオザイでは、様々なパターンやカラーバリエーションがあります。伝統的な柄や刺繍の他にも、モダンなプリントやグラフィックデザインが取り入れられることもあります。また、伝統的な色彩から派手な色合いまで、幅広いカラーパレットが用いられます。
現代ファッションとして変化したアオザイ
以下に現代のアオザイの一例を紹介します。
このように現代ファッションと融合し、様々な種類のアオザイが登場してきており、若者の間でもファッションの一環としてアオザイを着るようなりました。個人の好みに合わせてオーダーメイドやカスタマイズが可能となっており。要望に応じて、生地の選択やサイズの調整、デザインの変更ができ自分の好きなようにカスタマイズできます。
どのような場で着られているのか
日本の伝統衣装である「着物」や「袴」などは結婚式や成人式など特別な機会や場所で着ることが多いです。アオザイも同様に結婚式やイベント等で着られています。
ベトナムのアオザイは着る機会が多くあります。地方の学校では、無地の白いアオザイを着て登校することがあり、生徒同様に教師がアオザイを着る日もあります。また、ベトナムの旧正月「テト」の期間中は女性がアオザイを着て、お洒落をし写真をとる場面がよくみられます。近年ではアオザイを着てベトナムを観光するのも主流となっており、アオザイを着てベトナムの街を歩いて観光を楽しむ観光客を多く目にするようになりました。
男性用アオザイ
女性が着ることの多いアオザイですが、男性用のアオザイもあり「アオザイナム(Áo Dài Nam」)と呼ばれています。男性のアオザイは女性のアオザイと異なり、肩や袖が大きめなのが特徴です。またデザインには、竜や鳥などの模様が多く使用されています。
男性は女性ほどアオザイを着る機会がありませんが、結婚時、新郎新婦の地元で式をあげるときなどに新郎新婦がアオザイを着ることが多いです。(中心地に住んでいるベトナム人は、住んでいる地域と自分達の地元で2〜3回式を挙げることが多いです。)
アオザイ以外の民族衣装
ベトナムには少数民族も合わせると54の民族があります。そんな民族のなかで民族衣装が異なります。民族によって異なるデザインや素材は様々な種類があります。また少数民族が住んでいる地域では毎日、民族衣装を着て生活しています。
モン族
モン族はベトナムの西北山間部に住んでいます。モン族の衣装は青、赤、白、黄色の4色が基本として使用されます。特に刺繍が特徴的で、ベトナムではお土産用の雑貨屋さんで見かけることがあります。この刺繍は母親が必ず子供に教えるため、モン族の女性は小さい頃から刺繍をします。
モン族の女性の民族衣装は上下分かれており、下はスカートになっています。またピアス、ネックレス、ブレスレットなどのアクセサリーをつけており、既婚者の女性は頭にスカーフや大きな丸い帽子を被り、指に2つの指輪をつけているそうです。衣装に使用されている生地は、住んでいる地域で栽培される麻(リネン)から作られています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。アオザイには、ベトナムの歴史が組み込まれ、その中で様々な影響を受けながら変化を続け今の形へと辿り着きました。現在でも昔のアオザイの要素を取り入れた新しいアオザイも人気が高いです。ベトナムに訪れた際には、ベトナムの伝統衣装であるアオザイの文化に触れてみてはいかがでしょうか。
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