ベトナムの医療消耗品市場|低コスト大量生産の最前線として急成長
ベトナムの医療消耗品市場は、医療インフラ拡充と診療需要の増加を背景に、近年急速に注目度が高まっている。Fitch Solutions の試算では、同国の総医療支出は 2022年時点で 約230億ドル に達するとされ、注射器、ガーゼ、医療用手袋、マスクなどの基本消耗品が安定的かつ大量に消費される市場構造が形成されている。
また、医療消耗品は「頻度が高い・数量が大きい・価格競争力が重要」という特性を持つため、生産効率とコストが競争力の核心となる。若年労働力の豊富さと低コスト構造、さらにFTAを活かした輸出メリットを背景に、ベトナムは医療消耗品の 低コスト大量生産拠点 として、各国メーカーやディストリビューターから存在感を高めている。

ベトナム医療消耗品市場が世界供給網で存在感を高めている
本章ではベトナムによる医療消耗品の供給について解説する。
需要が絶えず拡大し市場成長が加速している
ベトナム国内の医療現場では、注射器や注射針、ガーゼ、手術用手袋、手術用マスクといった基本的な医療消耗品が、外来診療・入院医療の両方で日々大量に使用されている。高齢化の進行(2023年時点で65歳以上人口は約14%)、生活習慣病患者の増加、民間病院の拡大により、これらの消耗品は長期的に安定した需要を生み出している。
パンデミック期には、フェイスシールドや不織布ガウン、検査用スワブの使用量が急増し、医療消耗品が景気変動や一時的な政策変更に左右されにくい「高頻度消費×必需品」の市場であることが改めて認識された。こうした背景のもと、ベトナムの医療消耗品市場は、国内需要と輸出需要の両輪で拡大を続けている。
多品目化が進み製品ポートフォリオが急速に広がっている
Wresearchによると、ベトナムの医療消耗品市場は2027年にかけて年平均13%前後の成長が見込まれている。市場の中心を占めるのは、注射器や手袋、ガーゼ、カテーテル、輸液関連製品などの基礎的な消耗品であるが、病院数の増加や検査需要の拡大に伴い、採血管、創傷被覆材、尿検査試験紙といった検査・処置系の製品も着実に存在感を高めつつある。
こうした製品構成の広がりは、医療消耗品の生産ポートフォリオ拡大とも連動しており、国内メーカー・外資メーカー双方が多品目対応の体制を整え始めている。

国内需要と輸出需要が連動し生産拠点化が一気に進んでいる
医療消耗品は単価が低く、安定した大量供給が前提となる製品群である。ベトナムでは、増え続ける国内需要に対応するための生産能力強化と並行して、輸出を見据えた生産拠点化も進行している。
内需の拡大が工場新設・ライン増設を促し、その結果として輸出対応能力が高まり、海外需要を取り込むことでさらに生産規模が拡大する――という循環が生まれている。これにより、ベトナムは「ローカル市場向けの供給国」にとどまらず、「グローバル供給網の一角を担う生産拠点」としての性格を強めている。
低コスト大量生産に最適な国としてベトナムが台頭している
本章ではベトナムが医療消耗品の供給において優れている理由を整理する。
労働力と生産工程の相性が量産効率を最大化している
医療消耗品の多くは、完全自動化よりも人手による組立・検品・包装といった反復工程が重視される。ベトナムは若年人口が多く、労働力が豊富であり、中国沿岸部と比較して50%程度の賃金水準にとどまるとされている。工業団地の賃料も相対的に低く、新規工場の立ち上げコストを抑えられる点が強みだ。
ガーゼや包帯、医療用テープ、吸引チューブ、採血キット、創傷被覆材といった、細かな加工や目視検査を要する製品は、まさにベトナムの労働市場と相性が良い。人件費の優位性と加工ノウハウの蓄積が組み合わさることで、医療消耗品の低コスト大量生産に適した土壌が形成されている。

FTAと産業基盤が輸出競争力を一段と押し上げている
ベトナムはCPTPP・EVFTA・RCEPなど、多数の自由貿易協定を締結しており、欧州、日本、オーストラリア、カナダなど主要市場へのアクセス条件に恵まれている。これにより、ベトナム発の医療消耗品は、関税面で中国や他の新興国より有利なポジションを取りやすい。
生産面では、2024年に医療・歯科・リハビリ関連機器の生産指数が前年同月比16.5%増と、二桁成長を記録している。輸出面では、医療用手袋(HS 401511)の年間輸出額が約5.8百万ドルに達し、米国、トルコ、インド、スペイン、ドイツなどが主要輸出先となっている。ハイフォン、カイメップ、カットライといった国際港湾と、国内400以上の工業団地が連携することで、原材料の調達から完成品輸出までの一連の流れを効率的に処理できる体制が整いつつある。
外資とローカルの集積が巨大な生産クラスターを形成している
ベトナムには、世界的な医療消耗品メーカーが積極的に進出している。
- B. Braun:ベトナム最大級 / 最大級の医療機器工場
- Terumo:手袋やシリンジの安定量産体制を確立
- Nipro:注射器と採血関連製品で大型投資を継続
- Danameco・My Anh:ガーゼや手術用ガウンなど、国内サプライチェーンの中心的存在
これら外資とローカル大手が集積することで、部材メーカー、物流企業、人材供給網が同一地域に集まり、医療消耗品に特化した生産クラスターが形成されている。この環境が、調達リードタイムの短縮や生産効率の向上につながり、ベトナムの国際競争力をより一層高めている。

日本企業の生産移管と調達戦略がベトナム活用を後押ししている
本章では日本企業から見たベトナムの医療消耗品の関り方について解説する。
OEM・ODMの拡大が供給力と価格競争力を一気に高めている
コスト競争力と量産能力を評価した日本企業は、ベトナムでのOEM・ODM生産を積極的に活用し始めている。注射器や点滴チューブ、ガーゼ、手術用手袋、輸液関連製品に加え、アルコール綿、採血キット、滅菌パックといった周辺製品も組み合わせることで、単一拠点で複数カテゴリーを一体的に調達する動きが広がっている。
品目の幅が広がるほど、生産ラインの稼働率向上や原材料調達の効率化につながり、ベトナム側の供給力も一段と強化される。こうした双方にとってのメリットが、OEM・ODM拠点としてのベトナムの地位を押し上げている。

低コストと安定供給が日系メーカーの強力な追い風となっている
日本企業がベトナムを生産・調達拠点として選ぶ理由は明確である。第一に、労働コストは中国より約40%低く、医療消耗品のような大量生産品目ではコスト差がそのまま価格競争力に直結する。第二に、FTAを活用することで、欧州や日本向け輸出時の関税負担を抑えられる。第三に、工場キャパシティが大きく、数百万〜数千万個単位のロットにも柔軟に対応できる点が挙げられる。
さらに、China+1戦略の観点から、調達先をベトナムに分散することで、地政学リスクやサプライチェーン断絶リスクを軽減できる。結果として、注射器、手袋、ガーゼ、マスクなど主要消耗品の一部または全部をベトナム生産へ移行する動きが顕在化している。
品目選定と拠点設計が競争力を左右する次の焦点となっている
今後、日本企業がベトナムをより戦略的に活用していくためには、自社のポートフォリオの中で「どの品目をベトナムで量産すべきか」を見極めることが重要となる。単価は低いが数量の多い注射器やガーゼ、安定的な需要が見込める手術用手袋や輸液関連製品、また在庫戦略が取りやすい検査用スワブや尿検査試験紙など、ベトナム生産と相性の良いカテゴリから段階的に移管を進めるアプローチが現実的である。
生産拠点の設計においては、既存の外資・ローカルメーカーとの協業やOEM活用、将来的な自社工場設立まで、複数の選択肢が存在する。いずれのケースでも、ベトナムの低コスト大量生産能力を前提としつつ、自社の品質要件や供給リスク管理と整合する形で拠点戦略を組み立てていくことが求められる。
ONE-VALUE が提供できる支援
ONE-VALUEは、ベトナムで医療消耗品の調達・事業展開を検討する日本企業に対し、市場調査、競合分析、現地メーカーのリストアップ、サプライヤー候補の基礎情報収集、工場視察アレンジなど、初期段階で必要となる事前調査を総合的に支援している。ベトナムでは企業規模や輸出対応の可否がメーカーごとに大きく異なるため、現地ネットワークを通じた実態把握と一次情報の収集が重要となる。
さらにONE-VALUEは、事業パートナー候補との面談調整、業務提携・協業に向けたコミュニケーション支援、必要に応じた行政手続きやライセンス取得に関する情報提供など、日系企業のベトナム市場参入を幅広くサポートしている。現地事情に精通した伴走型支援により、日本企業がベトナムの医療消耗品分野を活用する際のリスク低減とスムーズな意思決定を後押ししている。
判断力が競争力を左右する局面にベトナム市場が入っている
ベトナムの医療消耗品市場は、高頻度で消費される製品特性と、若年労働力を背景とした低コスト大量生産の優位性により、国内需要と輸出需要の双方で拡大を続けている。外資・ローカル企業の集積による生産クラスター形成、FTAを活かした輸出競争力、工業団地の整備など、産業基盤は年々強化されており、日本企業にとって調達先・生産移管先としての選択肢が広がっている。一方で、品目ごとに生産能力や輸出対応力が異なるため、信頼できるパートナーの見極めや、供給面の実態把握が重要になっている。
こうした環境下で、ONE-VALUEは市場調査、現地サプライヤーのリストアップ、企業比較のための情報整理、工場視察アレンジ、現地企業とのコミュニケーション支援など、日本企業のベトナム活用を実務面から総合的にサポートする。医療消耗品分野で調達・生産拠点の検討を進めたい企業に対し、意思決定をスムーズにするための一次情報と現地知見を提供している。まずはお気軽にご相談いただきたい。
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