はじめに
ベトナムは水産業が盛んな国である。国内市場に加え、ベトナムの水産物は、日本、米国、韓国、ヨーロッパなど、最も厳しい国々を含む世界中の多くの国々に輸出されている。特にパンガシウス(白身魚)やエビなど多くの水産物の輸出高は、数年連続で世界上位にランクインしている。
養殖のコスト構造において、飼料は最も重要な要素の一つであり、そのコストは一般に全体の約70%を占めている。
ベトナムにおける水産飼料の需要は、高い品質基準を持つ先進国の市場への輸出の可能性が高まる中、ベトナムにおける水産飼料の需要は、量・質ともに増加しており、ベトナムの水産飼料産業は今後発展が期待される産業のひとつと考えられている。
本レポートでは、ベトナムの水産飼料産業の主要な情報、例えば、市場規模、産業の特徴、直面している困難、発展を促進するための政府の政策などを網羅的に紹介する。
ベトナムの水産飼料産業の概要
本章ではベトナムの水産飼料業界の基本的な情報を紹介・解説する。
産業規模
ベトナムの飼料産業(家畜、家禽、水産用飼料を含む)全般で見れば、ベトナム全体の消費需要増大により、飼料生産量は年々増加し続けている。ベトナムの2020年の飼料の生産量は23,673.4千トンに達した。ベトナムは飼料の生産量では東南アジアをリードしており、世界のトップ10に入る。
水産飼料については、2020年のベトナムの水産飼料生産量は2015年の生産量と比較してほぼ倍増の5628.4千トンに達し、飼料の総生産量の24%を占める。
一般的に、水産飼料のベトナム国内供給は国内需要の約85%を満たしており、一部はアジア諸国へ輸出されている。2021年、水産飼料(魚粉を含む)の輸出高は685.2百万米ドルに達している。
産業の特徴
ベトナム水産総局の報告によると、現在、全国で水産飼料を生産する企業は合計121社ある。このうち、外資系企業(FDI企業)は58社で、全体の48%を占めている。外資系企業の生産能力は520万トン/年に達し、国内企業の生産能力(470万トン/年)を上回っている。飼料生産企業のほかに、魚粉、米ぬか、割栗、米油、小麦粉、ミネラルミックス、ビタミン、飼料添加物など、水産飼料生産のあらゆる種類の原材料を生産する企業が全国に63社(外資系企業20社、国内企業43社)存在する。
ベトナムの水産飼料市場において、外資系企業はベトナム企業より少ないが、市場シェアの大部分を占めている。具体的には、水産飼料市場の約80%のシェアを外資系企業が占めている。ベトナムの主要輸出品目であるエビとパンガシウスの飼料に限って言えば、外資系企業のシェアはそれぞれ90〜95%、65〜70%である。親会社の資本が大きい外資系企業は、工場、近代的な機械、生産技術、高品質の製品・サービスなどの競争優位性を有していることが多く、消費者からの人気も高い。
現在、ベトナムの水産飼料企業は主にメコンデルタ地域に集中している。メコンデルタ地域はベトナム国内有数の水産養殖地域であるためだ。
水産飼料企業が集中している省は、ビンロン(Vinh Long)省、 バクリュウ(Bac Lieu)省、 カントー(Can Tho)市、 ドンナイ(Dong Nai)省などが挙げられる。各企業は直接販売と、地方にある卸売・小売代理店を通じての間接販売の2つの経路で販売している。
最近では水産飼料の会社以外にも、Minh Phu社・Hung Vuong社・Viet Uc社などの、養殖・加工・輸出を手掛ける水産の大企業が自社で飼料を生産することが増加している。
主なキープレイヤー
本項ではベトナムの水産飼料市場における主なプレーヤーを紹介していく。
Uni-President Vietnam
設立 | 1999 |
資本 | 外資系(完全子会社) |
本社 | 台湾 |
主要製品 | 水産飼料(エビ、魚、カエル)、家畜・家禽飼料(豚、牛、鴨、鶏、うずら)、小麦粉、即席めん |
規模 | 4か所の水産飼料工場(Binh Duong省、 Tien Giang省、 Quang Nam省、 Ninh Thuan省) |
主な販売先 | ベトナム国内、アジア諸国 |
Uni-President社は、ベトナムの水産飼料、特にエビの飼料生産においてトップの企業である。ベトナムにおけるエビ用飼料の市場シェアのうち、Uni-President社が約30~35%を占めている。南部の主要な養殖地域に4つの工場を持ち、年間約40万トンの飼料を市場に供給している。
CP Vietnam
設立 | 1998 |
資本 | 外資系(完全子会社) |
本社 | タイ |
主要製品 | 水生飼料(エビ、魚)、 家畜・家禽飼料 (豚、鶏) |
規模 | 3か所の水産飼料工場 |
主な販売先 | ベトナム国内 |
C.P.グループ(Charoen Pokphand)は、工業・農業の分野でタイ最大の企業の1つである。C.P. Vietnam社は1988年に設立され、農場から最終消費者までの3F(Feed – Farm – Food)での事業展開を指向している。水産飼料生産の分野では、C.P.ベトナムの工場は高品質、トレーサビリティ、ISO、HACCP、GMP、グローバルGAP、BAPなどの多くの国際管理基準を適用し、各工場は最大249,600トン/年の生産能力を有している。
De Heus Vietnam
設立 | 2008 |
資本 | 外資系(完全子会社) |
本社 | オランダ |
主要製品 | 水産飼料(エビ、魚)、家畜・家禽飼料(豚、牛、山羊、鴨、鶏、うずら) |
規模 | 3か所の水産飼料工場(Vinh Long省、Bac Lieu省)、1つの水産養殖研究開発センター |
主な販売先一覧 | ベトナム国内、カンボジア、インド、ミャンマー、フィリピン、バングラデシュ、インドネシア |
De Heus Vietnam 社は、飼料製造の分野で世界的に事業を展開する De Heus Groupに属している。2011年、Vinh Long 水産工場を買収し、水産飼料分野に参入することを決定した。この工場は、短期間の改良と拡張を経て、オランダ製の近代的な生産ラインを備え、最大10万トン/年の生産能力を持つようになった。また、ベトナムで最も近代的とされる水産物研究開発センターにも投資し、製品開発・改良に絶え間ない努力を見せている。
Cargill Vietnam
設立 | 1995 |
資本 | 外資系(完全子会社) |
本社 | アメリカ |
主要製品 | 水産飼料(エビ、魚)、 家畜・家禽飼料 (豚、鶏) |
規模 | 3か所の水産飼料工場(Dong Thap省、Tien Giang省、Hung Yen省) |
主な販売先 | ベトナム国内、アジア諸国、環太平洋地域の国々 |
Cargill社は1995年にベトナム市場に進出し、主に家畜・家禽飼料と水産飼料の製造を行っている。水産飼料の分野ではエビや魚の飼料を製造しており、主にベトナム市場やアジア太平洋地域の国々に展開している。
Proconco
設立 | 2007 |
資本 | 外資系(ジョイントベンチャー) |
本社 | ベトナム、フランス |
主要製品 | 水産飼料(魚) |
規模 | 1か所の水産飼料工場 (Hung Yen省) |
主な販売先 | ベトナム国内 |
Proconco社は、ベトナムの農家にとって長い歴史を持つ、非常に親しみのある飼料ブランドである。1991年、ベトナムとフランスの合弁会社Proconco社が設立され、ベトナムにおける飼料製造分野での最初の合弁会社となった。
1997年、Proconco社はCan Tho省に工場を建設し、水産飼料分野への拡大を続け、この工場はベトナムで最初の水産飼料工場でもあった。2014年、Proconco社は世界の動物飼料メーカーTop100にランクインした。
ベトナムの水産飼料業界の課題
本章ではベトナムの水産飼料業界の課題を考察していく。
原材料を輸入に依存している
ベトナムは世界有数の農産生産国、輸出国であるにもかかわらず、家畜・家禽・水産飼料用の原材料を海外から大量に輸入している。そのため、水産業で毎年用いられる飼料の、60〜80%は輸入されたものである。
ベトナムは通常、トウモロコシ、大豆、魚粉、動物性脂肪などの原材料を輸入しており、主にアメリカ、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、インド、EUから輸入している。
魚粉のようないくつかの輸入原材料では、ベトナムはまだ輸入品と同じ価格で生産・販売することができる。しかし大手の水産飼料企業は、国際規格の証明書やトレーサビリティが確保されていることを理由に、輸入原材料を好む。
輸入した飼料原材料に過度に依存すると、ベトナムにとっては変動する食料価格のコントロールが困難になるという大きなデメリットがある。その上、輸入の過程で多くの仲介業者を通さなければならないので、エンドユーザーに届いた時の販売価格は非常に高くなる。
外資系企業が市場を独占し、国内企業は競争力が弱い
ベトナムには多くの国内企業があるが中小企業が多く、競争力は外資系企業よりはるかに弱い。結果として、業界内の市場シェアも外資系企業が多くを占める。理由として、国内企業が外資系企業のような豊富な資本を持っていない、機械・生産技術が古い、労働生産性が低いことが挙げられる。外資系企業は、市場価格を制御しやすくなる。
産業に対する国の政策
現在、水産飼料産業に関する政策は、飼料産業にまとめられている。農業農村開発省の2021~2030年における飼料加工産業の発展プロジェクトによると、具体的な目標としては、次のようなものが掲げられている。
- 飼料の生産量目標は、約3000~3200万トン/年
- 飼料製造企業はすべて品質管理システムISO、HACCP、GMPまたは同等のものを適用している
- ベトナムの飼料の生産、管理、品質に関する技術水準を、ASEAN地域の中で最も進んだ基準にする
- 総原料の約40%を国内生産で自給
上記の目標を達成するために、以下のような具体的な解決策が示されている。
生産・管理の機械化・ハイテク化の推進
ベトナム政府は、各企業が作業の機械化、水産飼料の栄養と生産に関する研究、移転に投資することを奨励している。特にベトナム国内の中小企業においては、水産飼料製造のコストを削減するために、デジタル技術を活用することが推奨されている。
生産に必要な原材料を積極的に調達する
輸入原材料への依存度を下げるには、まず農業副産物を活用することが解決策として挙げられる。現在、ベトナムの農業副産物(栽培、畜産、林業、漁業を含む)の生産量は約1億5,680万トンである。その中には、干し魚の残滓、干しエビ、バナナの茎、トウモロコシ残滓、トウモロコシの穂軸、稲藁など、潜在的に活用可能性がある副産物もある。しかし、これらの副産物を有効に活用するためには、先端技術や新しい設備等も必要である。
また、政府は副産物だけでなく、トウモロコシや大豆などの原材料分野の研究開発への投資も、各省庁や企業に奨励している。
投資企業への優遇措置
水産飼料の生産は、ベトナム政府からの優遇措置を受けられる分野の一つで、特に原材料生産地の開発プロジェクト、機械や生産技術への投資プロジェクトが注目されている。具体的に、「企業の農業・農村への投資を奨励する政策に関する政令第61/2010/ND-CP号」によると、水産飼料産業への投資プロジェクトは、以下の優遇を受けることができる。
- 土地使用料の免除・減免
- 国の土地・水面賃借料の免除・減免
- 世帯や個人の土地あるいは水面の賃貸料に対する支援
- その他の優遇支援: 人材育成支援、市場開拓支援、コンサルティングサービス、科学技術応用支援、貨物運賃支援
まとめ
現在、ベトナムの水産飼料産業は 外資系企業が大きなシェアを占めている。今後もベトナム国内需要の拡大に伴い、外資系企業の参入が増加することが予想される。一方でベトナムの水産飼料産業は、原材料を輸入に頼っていること、国内企業の生産能力が低いことなど多くの問題を抱えている。このような問題に対し、ベトナム政府は企業に原材料生産地の開発への投資、国内原材料の有効活用、生産・管理における機械化・技術活用を奨励する多くの政策を導入している。 このように、ベトナムの水産飼料市場では既に外資系企業が大きなプレゼンスを発揮しているが課題も多いため、日本企業のこれからの参入余地も十分あると考えられる。
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