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ベトナムの動物用飼料を徹底解説│動向と将来予測

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はじめに
この記事で伝えたいこと
  • ベトナムの動物用飼料市場は今後も成長が見込まれている。
  • ベトナムは農業大国であるが、飼料の原材料としての活用はあまり進んでおらず、この点は大きな課題である。
  • 市場は外資系の大企業が高いシェアを占めており、地場企業はやや弱い立場にある。

はじめに

ベトナムでは飼料の生産が盛んである。ベトナムは東南アジアの主要な動物用飼料の生産国であり、自由貿易協定により市場拡大の大きなチャンスに恵まれている。2020年には、ベトナムは世界第10位、東南アジアで第1位の人口飼料の生産国になった。

このページでは、ベトナムの動物用飼料について網羅的に紹介・解説していく。まずは本レポートで使用する言葉の定義を確認したい。本レポートで用いる「動物用飼料」とは、ウシ、ブタ、ニワトリなどの畜産・養鶏等に用いられる飼料を指し、水産養殖に用いる水産飼料は含まない。

ベトナムの水産飼料については以下の記事で紹介しています。

ベトナムの動物用飼料市場の概要

ベトナムの人口の動物用飼料の生産量は増加傾向にある。2019年における人口の動物用飼料の生産量は1890万トンだったが、2020年には2050万トン、2021年にはさらに2190万トンに増加した。

生産高の平均成長率は約7~8%/年である。生産高のうち、外資系(FDI)企業が約60%、ベトナム企業が約40%を占めている。動物用飼料の種類の内訳として、は豚用55.8%、家禽用40.4%、その他動物用は3.8%である。

ベトナムは現在、人口の動物用飼料の生産において、東南アジアでトップ、世界でも10位の国である。一方で、ベトナムはまだ動物用飼料の原材料の約70〜85%を輸入している。

ベトナムの動物用飼料市場の特徴

ここではベトナムの動物用飼料市場の特徴を解説していく。

ほとんどの原材料を輸入している

ベトナム畜産局(MARD)によると、ベトナムの動物用飼料製造に用いられる原材料の需要は年間3300万トンあるが、国内調達では約1300万トンしか供給できず(全体の約40%)、残りの2230万トンは中国、インド、ヨーロッパ、米国から輸入している。2021年、ベトナムは飼料添加物・サプリメントを70万トン、10億米ドル相当を輸入している。

外国産原材料への依存は、価格や品質の不安定さを招く重大なリスクである。また、生産コストを増大させ、生産におけるイニシアチブを失ってしまう可能性もある。

ベトナムは農業大国であり、具体的にはコメ、コーヒー、ゴム、カシューナッツ、果物類など、世界でもトップクラスの生産量・輸出量を誇る農産物が多くある。しかしながら、飼料の原材料としての使用にはあまり繋がっていない。

ベトナムの養鶏場 出所:現地メディア VietnamPlus

外資系企業が、原材料の生産地域に投資しない

ベトナムの多くの農家の収穫・保存工程はあまり発達していないため、飼料の原材料としての品質が基準に達しておらず、外資系企業は原材料の生産地域を開発するための投資をあまりしない傾向がある。外資系企業はベトナム産の原材料を使用せず、主に輸入した原材料で動物用飼料を製造している。

激しい競争とM&Aの傾向

2020年及び2021年頃のベトナムでの新型コロナの大流行により、多くの飼料製造企業は原材料の調達に苦労した。その一方で、コロナ禍のベトナムの動物用飼料分野では外国企業によるM&Aが多く行われた。

De Heus Group社(オランダ)は Masan Group社(ベトナム)から14の飼料工場を買収し、22の工場を持つベトナム最大の動物用飼料メーカーとなった。他にも参入している外資系企業は多く、競争が行われている。

ベトナムのM&A動向については以下の記事で紹介しています。

動物用飼料の価格は、世界価格によって変動する

2020年10月以降、新型コロナの流行の影響により、動物用飼料の価格は継続的に上昇しており、平均増加率は約35%に達している。この増加の理由の1つとして、気候変動によって中国が国内生産の穀物の集荷を増やしたことが挙げられる。その上、世界的なサプライチェーンの麻痺によって輸送費が急増したため、ベトナムのように動物用飼料の原材料多くを輸入している国では、動物用飼料の値段が上昇した。

日々進歩する加工技術

ベトナムで新たに投資された動物用飼料の生産ラインのほとんどは新しいもので、欧米などの先進国が手掛けたものが多い。動物用飼料を生産する生産施設の約80%は自動・半自動の生産ラインを持ち、ISO、HACCP、GMPまたは同等の品質管理システムを少なくとも1つは適用している。

飼料工場の偏在

飼料工場や施設の多くは、紅河デルタ、東南部、メコン河デルタなどのデルタ地帯に集中している。北西部、北中部など地理的に製造拠点の立地が難しい地域は飼料工場が少なくなるため、原料の輸送コストが高くなり、市場に供給される量も少なくなる。一方、畜産物(豚肉、牛肉、卵など)の販売価格は、この地域の方が低い。これらの地域の企業は小規模企業が中心で、大企業にアウトソーシングをしている。

ベトナムにおける動物用飼料の製造業者の状況

ベトナム農業農村開発省によると、2022年5月現在、ベトナムには269の人工飼料生産工場があり、設計容量は4100万トン以上である。そのうち、外資系工場は90社で、33.4%を占めるが、市場シェアは65%を占める。一方、国内企業に属する工場は179工場(66.5%)で、市場シェアは35%に過ぎない。

ベトナムにある動物用飼料工場の60%は自動生産ラインの導入などの技術投資をしている。20%は工場は半自動レベルに達しており、残りの20%の工場は手動生産で生産能力は3万トン/年以下である。

大規模な動物用飼料製造企業はすべて外資系企業で、C.P社、Cargill社、Japfa社など、確立された経営戦略と大きな資金力を持つ企業である。ベトナム資本でも数社が良い業績をあげているが、全体的にベトナム資本企業の業績はあまり良くない。

ベトナムに進出している主な外資系の動物用飼料製造企業

ここでは前述したベトナムに進出している主な動物用飼料の製造会社を紹介する。下記で一覧している3社とも優れた業績をあげており、ベトナムの動物用飼料市場が大きな市場であることを表している。

C.P Vietnam(タイ)

1993年、C.Pグループはベトナムで第1号となる動物用飼料の製造工場を設立した。現在までに、C.P Vietnamはベトナムの動物用飼料市場で最大のシェアを持つ企業となっている。現在、9つの工場を構えている。2020年、売上高は前年比25.1%増の80兆912億ドンに達し、税引き後利益は188億9600万ドンに達し、前年のや約3倍となった。

Cargill Vietnam(米国)

Cargill社は米国の農業企業で、1995年にベトナム市場に参入した。2021年時点で、Cargill Vietnam社は11の飼料工場を所有している。Cargill社の2020年の売上高は17兆1680億ドンに達し、前年比38.5%増、税引き後利益は9390億ドンに達し、前年比46.0%増となった。

Japfa Comfeed Vietnam (インドネシア)

Japfa社はVietnam Livestock Corporation社との合弁という形でベトナムに投資し、1999年にJapfa社は100%外資でJapfa Comfeed Vietnam社に社名を変更した。2020年、Japfa Comfeed Vietnam社の売上高は13兆8000億ドンに達し、前年比で33.2%増加した。税引き後利益は前年の3.4倍に増加し、1兆9640億ドンに達した。

ベトナムにおける動物用飼料製造の動向

本章ではベトナムで製造される飼料の動向・傾向について解説する。

製造される飼料の傾向

ベトナムの動物用飼料の生産について、人口飼料は主にブタやニワトリの飼育に使われる精製飼料が生産され、天然飼料は放牧家畜(スイギュウ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ)の飼育に使われるわら、草、農業副産物などがある。

世界全体では、鶏肉、卵などを好む消費者が増えているため、家禽用の飼料が最も消費される飼料となっている。ベトナム人もある程度似た傾向を持っており、牛肉や乳製品よりも豚肉と鶏肉が人気のため、ブタ・家禽用の飼料の需要は、他の種類の飼料よりも大きくなっている。ベトナムのブタ・家禽用飼料の生産割合は、2019年時点で世界の平均より高い水準にある。

家禽用飼料は世界で最も消費されている飼料であるが、
ベトナムではブタ用飼料に次いで第2位である
出所:現地メディア Toplist

ベトナム家禽畜産協会の見通しでは、ベトナムの動物用飼料の原材料の需要は今後5年間で約2800万〜3000万トン/年に達し、平均成長率は11〜12%/年である。その内、約1500万トンが養鶏用飼料の原材料である。

原材料調達の動向

動物用飼料の製品コストのうち、原材料のコストは約60〜70%を占めている。人口飼料は動物用飼料の需要の約70%を占め、残りの30%は、農家が入手可能な天然飼料を利用するか、その天然飼料を含んだ混合物である。

動物用飼料の主な原材料 出所:ベトナム畜産協会

ベトナムの農業については以下の記事で紹介しています。

炭水化物が豊富な原材料グループ

トウモロコシ、小麦、ぬか、砕米等の穀物、キャッサバなどは、約2100万トン(65%以上を占める)が消費されている。その中で、トウモロコシは動物用飼料の生産に使われる主な原材料である。現在のベトナムの国内生産では、トウモロコシ需要の約3分の1程度しか満たしていない。そのため、ベトナムは毎年大量のトウモロコシを輸入しなければならない。

タンパク質が豊富な原材料グループ

植物性タンパク質を含む原材料としては油粕、トウモロコシ残渣があり、動物性タンパク質を含む原材料は肉骨粉、家禽粉、貝殻粉、血液粉、魚粉、魚油等が挙げられ、850万トン(約30%を占める)が消費されている。これらの副産物の生産は、主に乾燥や 粉砕等比較的簡単な技術で行われている。

ベトナムにはこれら以外にも様々な飼料及び飼料原材料がある。

ベトナム政府の政策

ベトナム政府は、地域ごとの動物用飼料の問題を解決するために、「2021年~2030年の期間における動物用飼料加工産業の発展に関するプロジェクト」を発表した。それに伴い、2030年までにベトナムは原材料の約40%を国内生産で自給し、そのうちサプリメントグループは約50%を自給することを具体的な目標としている。

プロダクションチェーンの展開

動物用飼料の製造工場の建設プロジェクトは、物流への圧力を軽減するために、各飼育地域、食品加工地域等との位置関係、シナジーを考慮する。ベトナム政府には、飼料の製造工場が増加する前提で、畜産のサプライチェーン全体を再構築する意向がある。

タイ資本の食肉大手C.P.グループは、飼料-農場-小売を一貫して手掛ける
出所:現地メディア ASIA MEDIA VIETNAM

新たな飼料原材料の探索を拡大する

ベトナム政府は動物用飼料の新たな原材料活用のための研究開発を推進している。例えば、ブタは雑食の動物で適応力が高いので、ブタ用の様々な食品を利用することができる。

  • アジアにおける動物用飼料生産の伝統的な原材料であるトウモロコシや大豆に代わる、米ぬか、キャッサバ等の新たな原材料の利用を拡大する。
  • 飼料製造業者とコメ農家との連携を強化し、割れた糠や 砕米糠の利用を拡大させる。また、現在輸入されているタンパク質の豊富な原材料の一部を代替する、昆虫の飼料活用を開発する。

農業副産物の飼料としての利用拡大

2030年までに予想される動物用飼料製造工場の生産能力は約4000〜4500万トンであるが、実際の原材料生産量は3000〜3200万トンであり、生産能力の約70%に留まっている。

したがって、ベトナムは原材料の生産地域を再開発し、生産性の低い耕作地をトウモロコシ、キャッサバなどの生産性の高い栽培地に転換することが必要である。

また、ベトナムの地方では、農業副産物や加工副産物を十分に活用し、動物用飼料にする必要がある。例えば、ベトナム国立農業改良普及センターのプロジェクトでは、トウモロコシの栽培や農業廃棄物・副産物からの動物用飼料の製造モデルを支援し、再現するための予算源を優先的に確保する予定である。

バイオテクノロジーの応用

ベトナム政府は、バイオテクノロジーの開発を強く推奨している。技術の応用は、酵母、パイナップル残渣、キャッサバ残渣、エビ頭殻、骨頭、パンガシウス脂肪、などからの副産物の栄養価を向上さ せる。

ベトナムの動物用飼料産業の課題

本章ではベトナムの動物用飼料産業の課題を考察していく。

人工飼料の品質が低い

ベトナムの動物用飼料の品質は安定しておらず、安全性は低く、特にメーカーが混合した飼料の品質は低い。これは、環境汚染を引き起こすだけでなく、畜産物の生産性、品質、食の安全性に影響を与える可能性がある。

ベトナムではブタ用飼料の需要が最も多い 出所:現地メディア VnExpress

飼料用副産物の栽培・開拓面積が少ない

ブタやニワトリの主な餌となる穀物の栽培面積は小さく、生産性も低い。また、ベトナムの家畜・家禽の屠殺システムは規模が小さく、副産物を飼料に加工することができないため、副産物を活用することができない。

ベトナムの動物用飼料産業における課題の解決策

本章ではベトナムの動物用飼料産業の課題に対する解決策を考察する。

サプライチェーンの調整

国内消費市場のニーズと輸出能力に応じて、動物用飼料生産工場のネットワークを調整する。すでに多くの飼料工場がある地域での工業用飼料工場の新規開設や拡張を制限するなど、関連する法律・規定の整備も必要である。

インフラシステムの改善への投資

原材料や飼料の輸出入のための海港インフラや専門倉庫のシステム改善、品質等の検査に関するシステムへの投資を奨励する。

ベトナム冷蔵冷凍輸送・コールドチェーン最新動向を考察:冷蔵倉庫
物流インフラの整備はベトナム社会の重要な課題
出所:ベトナム現地メディア VnExpress

ベトナムの物流については以下の記事で紹介しています。

有機飼料の開発

ベトナムは、小規模な畜産農家と牧草、トウモロコシ、稲等の集約農業のモデルに適した有機動物用飼料の加工モデルと生産技術の開発をして、混合飼料(TMR)加工技術を組み合わせることを奨励する必要がある。

例えば、ベトナムにはすでに、家畜の糞尿や農業副産物(クロバエ、ミミズ)から昆虫を飼育し、小規模企業で家畜のタンパク質源として昆虫食を生産している事業所がある。

まとめ

ベトナムの動物用飼料産業は今後も成長していくと予測されている。動物用飼料市場は、大企業の事業拡大、小規模農業から大規模集約農業への転換といった2つの戦略により、より高度な生産モデルや技術を適用しながら、より発展していくとされる。新しい原材料供給源の拡大と農業廃棄物の利用は、ベトナムの動物用飼料産業が輸入に依存せず自立するための重要な要因である。

日本企業にとっては、特に新たな高品質飼料の販売や原材料の調達に資する分野の参入余地が大きい。

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