はじめに
ベトナム政府は、カーボンニュートラル目指す取り組みの一環として、2024年8月13日「決定第13号(13/2024/QĐ-TTg)」を公布した。この決定では、温室効果ガス(GHG)排出量インベントリのの義務化、対象分野、対象企業・施設*を具体的に定めている。以下、その背景、内容、意義、そして投資機会について解説する。
*ここでいう施設とは、各分野でGHGを排出する具体的な場所を指す。例えば、発電所、工場、輸送車両の集合体、建設現場、農場、廃棄物処理施設などである。
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出所:Thu Vien Phap Luat
背景
ベトナムは、パリ協定基づく目標達成に向け、2030年まで温室効果ガス排出量の削減を加速すること表明した。この決定は、ベトナムが具体的な行動を示す重要なステップとして位置付けられる。
決定第13号の主な内容
本章では決定第13号の主な内容について解説する。
対象分野の特定
以下は、温室効果ガス排出量のインベントリ対象の分野である。
- エネルギー分野:エネルギー生産および消費活動(産業、商業、家庭など)。
- 輸送分野:輸送活動におけるエネルギー使用。
- 建設分野:建設活動および建設資材生産。
- 工業分野:化学製品や金属加工など製造活動。
- 農業・林業分野:作物生産や畜産活動。
- 廃棄物分野:廃棄物処理関連排出(埋立、焼却など)。
対象施設の明確化
合計2,166の企業・施設が温室効果ガス排出の現状調査を義務付けられている。分野別の企業・施設数は以下の通りである。
- 産業・貿易部門:1,805
- 輸送部門:75
- 建設部門:229
- 天然資源・環境部門:57
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出所:Bao Chi Chinh Phu
実施スケジュール
本決定は、2022年の「決定第01/2022/QĐ-TTg」*に代わる新たな枠組みを提示しており、2024年10月1日に施行された。
*「決定第01/2022/QĐ-TTg」は、ベトナム政府が2022年に制定した温室効果ガス(GHG)排出量の管理に関する規定である。この決定では、GHG排出量を監視し、削減するための初期の枠組みを提示した。
決定第13号(13/2024/QĐ-TTg)に記載の政府目標
決定第13号(13/2024/QĐ-TTg)が記載されている政府目標は、ベトナムにおける温室効果ガス(GHG)の排出を効果的に管理し、カーボンニュートラル(実質的な温室効果ガス排出ゼロ)を達成するための基盤を整備することにある。以下は、目標として期待される成果である。
- GHG排出量の正確な把握:対象施設排出量のインベントリ、排出削減基礎データ整備。
- 国際的評価の向上:ベトナムの環境政策が国際基準に近づき、外国企業や投資家の信頼感が高まる。
- 持続可能な発展促進:温室効果ガスのインベントリの義務により、排出削減技術や再生可能エネルギーの投資促進が期待される。
投資機会
この決定により、ベトナムは環境技術や再生可能エネルギー分野での投資機会を拡大することができる。具体的には以下の可能性が挙げられる。
- 再生可能エネルギー分野への参入:ベトナムは風力発電や太陽光発電の潜在力が非常に高い国であり、外国投資家にとっては大規模な発電プロジェクトの実施や関連機器の生産基盤構築が可能となる。
- 環境技術の導入:温室効果ガス削減を支援するための革新的な技術やインフラの導入により、企業は環境配慮型のビジネスモデルを構築する機会を得る。特に、エネルギー効率向上のための技術や排出削減装置の需要が高まっている。
- インフラ開発と地域経済成長:GHG削減関連のプロジェクトにより、地方都市や農村地域におけるインフラ整備が進む。この結果、地域経済の活性化が期待され、新規事業展開や雇用創出の機会が広がる。
- カーボンクレジット市場への参入:ベトナムでは、国際的なカーボンクレジット市場への参加が進んでおり、投資家は排出量取引を通じて利益を得ることができる。GHG排出削減プロジェクトを推進することで、カーボンクレジットを活用した新たな収益源を確保できる。
課題と今後の展望
本章では、課題と今後の展望について解説する。
主要な課題
- インベントリのコスト負担:多くの中小企業にとって、排出量インベントリの設備投資や専門知識の取得は大きな負担となる可能性が高い。このため、企業は政府支援の有無を慎重に見極めながら対応を模索するだろう。
- 監視体制の整備不足:地方政府や関連省庁が適切な監視体制を確立できない場合、不正確なデータ報告や規制逃れが発生するリスクがある。これに対処するためには、監視技術や人材育成への投資が必要。
- インフラ整備の遅れ:必要なインフラ、特に再生可能エネルギー設備や廃棄物処理施設が整備されていない地域では、企業が迅速に対応することが困難となる。この課題は、政府主導の資金調達や公共-民間連携で解決する必要がある。
予想される企業の反応
- 一部の大企業は、環境への取り組みを強化し、国際的なイメージ向上を図るため、早期に対応を進める可能性がある。
- 中小企業では、コスト負担やノウハウの不足から対応に遅れが生じるケースが予想され、特に政府の資金援助や技術支援プログラムに依存する動きが強まる。
- 外国企業にとっては、新規事業展開のチャンスと捉える企業も多く、特に再生可能エネルギーや環境技術分野での投資が促進される可能性がある。
これら課題に対処するため、政府と企業の協力が不可欠であり、透明性の高い政策運営と効果的な支援体制の構築が求められる。
結論
「決定第13号(13/2024/QĐ-TTg)」は、ベトナムがカーボンニュートラル達成に向け重要な一歩踏み出したことを象徴している。この決定を通じ、同国の持続可能な未来に向け明確なビジョン示し、国際社会における役割の強化が期待される。また、外国投資家にとっては新たな事業に参入する契機ともなる。
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