はじめに
ベトナムは急速な経済成長と都市化が進む中、廃棄物の処理が大きな社会的課題となっている。2023年時点での人口は約1億人を超え、さらに2040年代には日本の人口を上回ると予測されており、廃棄物の発生量が増加の一途をたどっている。このような背景から、持続可能な廃棄物管理が急務となっており、リサイクルや環境に優しい廃棄物処理技術へのニーズがますます高まっている。特にベトナム政府がCOP26でカーボンニュートラルを目指すことを表明したことにより、従来の埋却や焼却処理から、リサイクルや資源化へのシフトが求められている。この変化に伴い、ベトナムのリサイクル・廃棄物処理ビジネスは国内外の企業にとって有望な市場として注目されている。本記事では、ベトナムのリサイクル・廃棄物処理ビジネスの最新動向について詳しく探る。
なぜベトナムのリサイクル・廃棄物ビジネスが有望なのか?
ベトナムのリサイクル・廃棄物ビジネスは、日本投資家にとって、政府のカーボンニュートラル目標、急速な都市化や人口増加、経済と外国投資成長による市場拡大、そして技術革新の機会など、複数の要因によって非常に有望である。
政府のカーボンニュートラル目標と規制強化
ベトナム政府はCOP26でカーボンニュートラルを宣言し、CO2排出削減を目指していることから、廃棄物処理において環境への配慮が一層求められている。この結果、廃棄物の処理方法は埋却や焼却からリサイクルや資源化への転換が必要とされており、特に焼却によるCO2および有害物質の排出が社会的に非難されている。これにより、環境に優しい廃棄物処理技術やリサイクルソリューションの需要が増加しており、こうしたニーズに応える技術を持つ外国企業にとっては、大きなビジネスチャンスが生まれている。
急速な都市化や人口増加
ベトナムは急速な都市化と人口増加を経験しており、これに伴い廃棄物の発生量も増加している。都市部での廃棄物処理能力が追いつかず、廃棄物処理インフラが逼迫している。2023年時点でのベトナム人口は1億30万人であり、2040年代には日本の人口を超えると予測されている。これに加え、都市部に人口が集中するという都市化が2000年以降、急速に進んでおり、都市部の人口過密が進むことで都市部における廃棄物の排出量の増加につながり、廃棄物処理インフラを逼迫させる事態が生じている。
経済と外国投資成長による市場拡大
ベトナムは近年、安定した経済成長を遂げており、その成長率はアジア地域でも高水準を維持している。IMF(国際通貨基金)は、2024年から2027年の期間において、ベトナムの成長率が6%以上と予測している。この経済成長は、国内の消費活動の活発化や産業の拡大をもたらし、それに伴って廃棄物の量も増加している。具体的には、都市部の消費者市場の拡大と工業生産の増加により、一般廃棄物および産業廃棄物の発生が急増している。
ベトナムは多くの企業にとって生産拠点として選ばれることが増えている。過去数年間で、ベトナムは主に中国からの生産移転というトレンドにより、外国からの投資が急増している。ベトナムはこれらの企業にとって人気のある投資先となっており、2022年には220億ドル以上の外国直接投資(FDI)が集まった。この傾向は、ベトナム国内の産業活動が活発化することを意味し、その結果、産業廃棄物の発生量も増加する。
廃棄物処理インフラの限界と改善ニーズ
現在、ベトナムでは廃棄物の大半が埋却または焼却されているが、これには限界がある。このような処理はCO2を排出し、ベトナムのカーボンニュートラル目標を脅かすことになる。また、都市部では廃棄物の排出量が増加しており、既存の処理インフラが逼迫している。この状況は、新しいリサイクル技術や効率的な廃棄物管理システムの導入を促進するため、外国企業が提供する高度な技術やソリューションに対する需要を生み出す。
ベトナムにおける廃棄物の種類別の分類
ベトナムにおける廃棄物は主に三つの種類に分類される。
- 生活廃棄物
- 産業廃棄物
- 医療廃棄物
ベトナムにおける廃棄物市場の概要
ベトナムの廃棄物市場は、持続的な成長を続けており、今後もマクロ経済、新技術や政策の影響を受けながら成長していくと予想される。
生活廃棄物の収集、運搬、処理
生活廃棄物の発生量:
天然資源環境省によると、ベトナムでは、2022年約 2,450 万トンの生活廃棄物が発生した。生活廃棄物発生量は地域間で不均一であり、主に紅河デルタ地域と南東部に集中している。その中で、都市部はより多くの廃棄物が発生する地域であり、平均して年間10~16% 増加しており、ハノイ、 ホーチミン市、ダナン、ハイフォンなどの大都市部では急激に増加している。
2022年の都市部の生活廃棄物の毎日の発生量は1,470万トン/年で、全国の総発生量の約60% を占めた。特に、ホーチミン市とハノイの総発生量は国内の廃棄物発生量の約33.6%を占める。農村部の生活廃棄物の発生量は国内の廃棄物発生量の約 40% を占めた。
生活廃棄物の収集、運搬について:
- 都市部では、生活廃棄物は都市環境衛生会社によって収集・運搬される。その後、大規模な集中埋立地で処理するために収集される。2022 年には都市部で収集・処理される生活廃棄物の割合は約 96.37% に達する。
- 農村地域では、生活廃棄物は、(1) 環境衛生会社、(2) 地元の村の人民委員会が設立・管理する廃棄物収集・運搬チーム・協同組合、または (3) 住民自身によって、収集し、地元の小規模業者に運搬されている。現在、農村部の村の約 50% は廃棄物収集・運搬チーム・協同組合を設立している。2022 年には農村部で収集・処理された生活廃棄物の割合は約 40% ~ 50% に達する。
生活廃棄物の処理:
天然資源環境省によると、2022年末時点で、全国には廃棄物焼却場、堆肥化処理場、埋め立て場など 1千以上の生活廃棄物処理施設があるが、埋め立て地は不衛生な場合が多い。 廃棄物処理技術については、ベトナムの生活廃棄物の71%は埋め立て、処理され、16%は堆肥化工場で処理されている。残りの13%は焼却で処理されている。生活廃棄物処理の料金は、各省の人民委員会によって規制されている。
産業廃棄物・医療廃棄物の収集・運搬・処理
産業廃棄物・医療廃棄物の発生量:
- 産業廃棄物: 天然資源環境省のデータによると、2022 年に、無害産業廃棄物の発生量は約2,500万トン/年で、そのうち、工業団地からの廃棄物は約810万トン/年。有害産業廃棄物の発生量は約100万トン/年と推定されている。
- 医療廃棄物: 2022 年に発生する医療固形廃棄物の平均発生量は平均 440.7 トン/日で、そのうち有害医療固形廃棄物は 71.5 トン/日。病院の医療固形廃棄物処理率は95%に達している。
産業廃棄物・医療廃棄物の収集と輸送:
収集と運搬は、排出施設自身が廃棄物収集・処理企業との交渉に基づき決定する。
産業廃棄物・医療廃棄物の処理:
産業廃棄物:2016年から2020年までの国家環境状況報告書によると、産業廃棄物の収集・処理率は比較的に高く、発生量の90%以上が処理されている。特に、有害産業廃棄物の収集・処理率は2020年に85%に達する。
医療廃棄物: ベトナムにおける病院での医療固形廃棄物の収集と処理は比較的うまく行われている。2022年には医療廃棄物の処理率は約95%に達する。現在、医療廃棄物の大半は焼却で処理されている。
産業廃棄物・医療廃棄物の処理料金は、排出者自身が個別に処理企業との交渉によって、決めている。有害廃棄物は無害廃棄物より処理価格が高い。
有害医療廃棄物や有害産業廃棄物を処理するには、廃棄物処理業者に有害廃棄物処理許可が必要である。2020年末までに、天然資源環境省から認可を受けた有害廃棄物処理施設は全国に117か所あり、それらの総処理能力は年間約200万トンに達する。
リサイクルの現状(特別なセグメント)
ベトナムにおける高い成長率を誇るリサイクル業界は以下のとおりである。
プラスチックのリサイクル
プラスチックの消費量とリサイクル量について、International Finance Corporation(国際金融公社)によると、2023年、ベトナムでは合計約390万トンのPET、LDPE、HDPE、およびPPプラスチックが消費されている。そのうち、約128万トン(33%)が回収されリサイクルされており、残りの262万トンは廃棄され、材料の大きな浪費と経済的な損失を引き起こしている。
現在のリサイクル能力について、ベトナムにおけるリサイクル能力は総需要の30%しか対応できていない。PET包装材のリサイクル能力は需要の64%を満たしているが、PPおよびPEプラスチックのリサイクルはそれぞれ29%と30%しか満たしていない。ポリエステルPET繊維に至っては、リサイクル能力はほぼ皆無である。
現在のリサイクル能力が需要の30%しか対応していないため、ベトナムのプラスチックリサイクル市場には大きな成長余地がある。特に、PP、PE、ポリエステルPET繊維のリサイクル需要は十分に満たされておらず、これが投資家にとって大きなチャンスとなる。リサイクル能力を拡大するためには、海外からの最新技術の導入が必要である。特に、リサイクル分野で経験豊富で高度な技術を持つ海外投資家の参加が期待されている。
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