はじめに
新型コロナウイルス(Covid-19)の影響で、ベトナムでは健康とウェルネスへの関心が高まっている。2024年の調査では、81%の人が週に1回以上運動していると回答している。特にフィットネスや競技系のスポーツが人気で、ランニングやサイクリングがブームとなっている。2023年には全国で41のマラソン大会が開催され、サイクリングも都市部で急増中である。ジム業界も成長しており、2023年には110のフィットネス会社が存在し、年率37.5%の成長を記録した。サッカーは国民的な人気を誇り、75%の人々が興味を持つ。バドミントンも手軽に楽しめるスポーツとして広がっている。これらの動向は、健康意識の高まりとともに、スポーツウェア市場の成長を促進している。
ベトナムのスポーツ事情
本章では、ベトナムスポーツ事情について解説する。
ベトナムにおける身体運動の傾向
新型コロナウイルス(Covid-19)感染症拡大の後、世界的なトレンドとも相俟って、ベトナムの消費者の間で健康とウェルネスへの関心が高まっている。2024年にユーロモニター・インターナショナルが1,007人を対象に実施した調査によると、回答者の81%が週に1回以上運動をしていると答えた。
ベトナムで人気のスポーツ
ベトナムで人気の運動の多くはスポーツウェアが必要なため、スポーツウェア市場は非常に大きく、今後さらに成長すると予想される。日常的に運動が活発に行われることで、スポーツウェアの需要も増加が見込まれる。
ベトナム人は様々な運動をしている。2021年にQ&Meが1,406人を対象に行った調査によると、フィットネス系が最も人気があり、次いで競技計、格闘技系の順となっている。
ランニング
ベトナムではランニングがブームになっている。2023年、ベトナムでは前年より25%多い41の全国マラソン大会(FM)が開催され、27の省・市で、計26万4,000人以上の人が参加した。また、2023年には、ハノイ、ホーチミン、カントー、ダナン、ラオカイなど、ベトナムの各都市で様々なスポーツイベントが企業によって開催された。例えば、2023年5月にはVinfast Ironman 70.3 Vietnam、2023年6月にはDalat Music Run、2023年9月にはTechcombank Marathonが開催された。これらのイベントはベトナムの消費者の注目を集め、健康のため日常的に運動をするようになった消費者もいる。
サイクリング
サイクリングは、全国の省・市、特に都市部でブームとなりつつある。ハノイでは、早朝や夕方、特に週末になると、多くの人が運動のためサイクリングをしている。西湖(Ho Tay)には、サイクリングを楽しむ人のための自転車レンタルサービスもある。
近年、ベトナムでは自転車の利用が急増しており、都市部に多くの自転車駐輪場が設置された。2023年当初から7月までの間に、ホーチミン、ハイフォン、ダナンで自転車レンタルサービスが導入され、2,500台以上の自転車が稼働した。ハノイでの7日間(2023年8月16日〜22日)の試行期間には、16,000以上の新規アカウントが開設され、7,000回以上の利用があり、1回の利用による平均走行距離は6.3キロメートルであった。自転車駐輪場の設置会社であるTri Nam Digital Transport Services Joint Stock Companyによると、今後さらに多くのベトナム人が自転車を使用するようになると予測している。
ジム
ベトナムのジム業界は、人々の健康意識と体型への意識の高まりにより、、近年急成長を遂げている。Statistaのデータによると、ベトナムのフィットネス会社トップ3は、Cakifonia Fitness (37店舗)、Curves(28店舗)、Elite Fitness(14店舗)であり、2023年の全国のフィットネス会社の総数は110に達した。2017年から2023年までベトナムのフィットネスサービスのCAGRは37.50%に達した。
サッカー
分析会社ニールセンの2022年世界フットボールレポートによると、ベトナムはアジアで最もサッカーの人気が高い国で、75%の人が興味がある。ベトナム人にとってサッカーが魅力的なのには、主に2つの理由がある。
1つ目の理由として、1890年代初頭にサッカーはフランス人によってベトナムにもたらされたが、ルールがシンプルでわかりやすく、ボールさえあれば、ユニフォームや用具を揃える必要がなかったことがある。
2つ目の理由として、サッカーが国民の誇りを喚起するスポーツだからである。国を代表する選手が勝利を目指し、国に栄光をもたらそうと懸命にプレーするときの感動は、応援するベトナム国民も一体になり愛国心と民族の誇りを表現する手段となっている。
バドミントン
バドミントンがベトナムで始まったのは1960年代からである。
バドミントンは以下の理由で人気がある。
- バドミントンに必要な道具がシンプルで、コストがかからない。小さなコートとラケット数本があれば、公園や学校、地域のスポーツセンターなどで気軽に遊べる。
- バドミントンは多くの学校で体育の授業に取り入れられており、幼い頃から親しんでいる。
バレーボール
バレーボールはベトナムで3番目に人気のあるスポーツである。バレーボールは都市部でも農村部でも人気があり、学校、公園、住宅地などでプレーしているのをよく見かける。
バレーボールは1950年代にベトナムに紹介され、すぐに人気のスポーツとなった。当初、バレーボールはクラブや学校でのみ行われていた。しかし、1990年代以降、バレーボールは人気のスポーツとなり、ベトナムでは、全国大会や国際大会を含め、多くの大会が開催されている。
ベトナムのスポーツ市場
ベトナムのスポーツ市場はスポーツアパレル、スポーツシューズ、スポーツ用品の3つのセグメントに分類されるである。
スポーツウェアの中では、ランニング、サッカー、バスケットボール、テニスなどの競技に合わせたユニフォームとシューズが金額・数量とも大きな成長を遂げている。最近では若い女性消費者の間で、ダイエットのためにスポーツやフィットネスを始める人が増えており、ヨガ・スポーツウェアやスポーツブラなどの需要も高まっている。ワークアウトやリラクゼーションのためにヨガやピラティスを好む女性も多い。また、急成長しているアスレジャーのトレンドにより、家事や在宅勤務などの際にスポーツウェアを日常着として着用する女性も増えている。COVID-19の規制が解除されて以来、ベトナムではキャンプやトレッキングを楽しむ人も増えており、スポーツウェア、特にアウトドアウェアとフットウェアの需要を押し上げる要因となっている。
スポーツアパレル
全体として、スポーツアパレル市場はCovid-19の感染拡大の影響で減少し、2019年から2021年にかけて20.3%の急激な落ち込みを見せた。しかし、2022年以降市場は回復し、2018年〜2023年のCAGRは2.9%に達する。
具体的には、スポーツアパレル市場最大のセクターであるパフォーマンス市場が最も高い成長率を示し、同期間のCAGRは3.3%である。スポーツアパレル( Sport-inspired apparel)の分野もCAGR 3.2%と力強い成長を示しているが、アウトドアアパレル分野は横ばいで、2019年から2023年までのCAGRはわずか0.3%である。
*パフォーマンス・アパレル(performance apparel)は、実際にスポーツをするための機能的な服装を指し、スポーツ風アパレル(sport-inspired apparel)は、ファッションとしてスポーツウェアのデザインやスタイルを取り入れたカジュアルな服装を指します。
スポーツシューズ
スポーツシューズ市場は、スポーツアパレルと同じ傾向を辿り、2021年には大きく落ち込むが、2022年には成長の勢いを取り戻す。2018年から2023年までの期間では、市場の売上高は1.7%の緩やかな成長を示した。
パフォーマンスフットウェアが市場の一番大きな構成部分であり、同期間のCAGRは2.0%である。ユーロモニター・インターナショナルによると、ベトナム経済の回復に伴い、はスポーツシューズ市場の拡大の成長が加速し、今後5年間のCAGRは4.8%に達すると予測した。
スポーツ用品
ベトナムのスポーツ用品の原産地は多様で、ほとんどが輸入品である。上記のスポーツアパレルとスポーツシューズのトレンドとは異なり、輸入額は2019年に減少に見舞われた後、パンデミックの中でも力強い伸びを示している。ベトナムのスポーツ用品市場は中国への依存を強めており、2018年のスポーツ用品輸入額に占める中国製品の割合は36%であったが、2022年は70%まで増加した。
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