はじめに
2024年7月、ベトナム政府は、電力の直接買取規定(DPPA)を正式に公布した。ベトナム電力市場では、ベトナム電力公社(EVN)が唯一の電力購入者として想定されていたが、今後は、電力事業者は電力需要者と、直接買い取り契約を締結することができる。しかし、電力価格の決定方法など、現在のDPPAでは細則が詰め切れていない部分があり、実際の運用にあたっては詳細なガイドラインの発行を待つ必要がある。今回の公布により、国内外の企業が、ベトナムの再生可能エネルギーに分野での投資を活発に行うようになることが期待される。
ベトナム政府、直接買取規定(DPPA)を公布
ベトナム政府内では、直接電力購入契約(DPPA)の正式な導入に向けた議論がされてきた。従来のベトナム電力市場では、ベトナム電力公社(EVN)が唯一の電力購入者として想定されていた。しかし、DPPA制度では、電力事業者は電力需要者と、直接買い取り契約を締結することができる。
2020 年4月、ベトナム商工省は、再生可能エネルギー発電事業者と電力使用者間の DPPA 制度の試行に向けた規定の草案を公表し、意見を求めた。2023 年7 月末、ベトナム商工省は、再生可能エネルギーの発電事業者と製造業を代表とする大口電力需要家との間で、DPPA 制度に関する草案を整理し、ファム・ミン・チン首相に提出した。企業及び国際機関から、同制度の早期実施への要請もあり、特に2024 年初頭から DPPA に関する議論が盛んになされ、2024年7月3日に正式に公布されるに至った。
DPPA 制度の検討状況
7 月 3 日に政令 No.80/2024/ND-CP が公布された。この政令では、DPPA が実施のための法的基盤を持つための方向付けをしている。通常、ベトナムでは政令が発布された後に、実施計画や政令の実施を指導するための文書が必要である。
現在(2024 年 7 月 16 日時点)、商工省は EVN に対して、この政令を実施するための実施計画や規則を作成するよう指示している。以前の草案との比較では、太陽光、風力に加え、80/2024/ND-CP 政令は対象範囲を広げ、小水力、バイオマス、地熱、波力、潮力、海流などの再生可能エネルギー発電事業者、及び屋根置き太陽光発電システムを含んでいる。DPPA は直ちに実施され、試験運用の必要はない。
以下は、工業団地内以外の大口電力消費者が、個別送電線、国家送電網を利用し電力の直接取引を行うケースである。
個別送電線を通じた電力の直接取引では、売り手は再生可能エネルギーから発電する発電事業者で、買い手は大口電力消費者(電力を購入する組織や個人で、他の組織や個人に再販はせず、平均消費量が月200,000 kWh以上)である。
このタイプの電力の直接取引では、再生可能エネルギー発電事業者と大口需要家が電力取引契約を締結し、発電事業者が個別送電線を介して大口需要家に電力を供給する。契約は所定の様式に従う必要はないが、以下の主要な内容を含む必要がある。
- 契約の主体、使用目的、サービスの基準と品質、各当事者の権利と義務、電力料金、支払い方法と期限、契約の終了条件、契約違反の責任、契約の期間、個別送電線の投資、建設、運用管理の責任、その他の両当事者が合意した内容等。 売買価格は売り手と買い手の合意の上決定する(特殊な場合を除く)。
一方、国家送電網を通じた電力の直接取引では、DPPAに参加できる対象はより限定される。売り手は太陽光または風力の再生可能エネルギーから発電する発電事業者で、その発電容量が10 MW以上であること。買い手は大口電力消費者で、その電力が工場の製造などでの生産目的に使用され、22 kV以上の電圧で接続されることが条件となる。