はじめに
ベトナムは製造拠点として成長する一方で、近年は消費市場としても成長を遂げている。しかし、依然としてベトナム産、ベトナムブランド製品の付加価値は低いという現状がある。各分野でのブランド化・高付加価値商品の創出が求められる中で、代表的な例としてベトナム発のローカルアパレルブランドが増加している。
本レポートでは、ベトナム発のローカルブランドを紹介し、ベトナムブランド・ベトナムの製品の高付加価値化について考察する。
ベトナムのアパレル市場が発達している
2024年のベトナムのアパレル市場における年間利益は67億1,000万米ドルに上ると予測されており、2024年から2028年の期間に年間平均3.83%の成長が見込まれる。(Statista調べ)
ベトナムのアパレル市場が消費市場として成長するなかで、ユニクロ、ZARA、H&Mなどの大手外資系ブランドが市場に参入をしている。一方で、ベトナムのローカルアパレルブランドも増加している。
ベトナムのローカルアパレルブランドの中には価格帯が低いものもあるが、ハノイ・ホーチミンなどを中心に中高価格帯のブランドも増加傾向にあり、より付加価値の高い産業になりつつある。
比較的安価なブランド
ベトナムの人々にとっての安い洋服の価格帯は約150,000VNDから200,000VNDとされている。
ベトナムのローカルアパレルブランドの中で、主にこの価格帯の製品を取り扱う比較的安価なブランドを紹介する。
THE BLUES
THE BLUESは、2001年にBlue Exchange社から誕生したブランドである。メインターゲットは若者と中高年層で、価格帯は50,000VNDから799,000VNDと手が届きやすく設定されている。ベトナム国内に527店舗を展開しており、ベトナムのローカルアパレルブランドの中でも広範なネットワークを誇る。
THE BLUESの強みは、多岐にわたる製品ラインナップ、競争力のある価格、そして品質にある。成人向けアパレルから子供服、靴、バッグ、帽子、アクセサリーなど、豊富な製品を取り揃えており、幅広いニーズに応えている。価格が手頃であるため、消費者にとって購買しやすく、長年にわたりベトナムの消費者から支持を受けてきた。これにより、THE BLUESはベトナムの市場で確固たる地位を築いている。
M2
M2はアパレル販売店からスタートし、ベトナムのアパレル市場において20年以上の実績を有する成長ブランドである。
現在、ハノイとその近隣の州に計17店舗を展開しており、さらにロシアのモスクワにも進出している。また、今後も積極的に店舗数を増加させる計画を進めている。
M2の想定される主なターゲット層は、10代から30代の男女である。提供する商品の特徴は、常に最新のトレンドを反映しつつ、高品質でありながら優れたコストパフォーマンスを実現している点にある。これにより、顧客に対して高い満足度を提供している。製品の適合性評価基準を満たすため、M2はハイフォン市に自社工場を持ち、製造プロセスを厳格に管理している。
また、M2は企業の社会的責任を重視し、コミュニティプロジェクトとして様々な慈善活動や社会貢献事業にも取り組んでいる。例えば、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時には、20万枚以上の布製マスクをハノイ市および北部の州、複数の病院、そして感染症対策部隊に無償で配布した。この取り組みは地域社会への支援と感染拡大防止に寄与した。
さらに、パンデミックの影響で野菜の需要が減少し、多くの農家が困難な状況に直面した際には、ハイズオン市で生産された約40トンの野菜と果物をM2本社で販売し、農家の支援に貢献した。このように、M2はビジネスの枠を超えた社会貢献活動を通じて、地域社会との良好な関係を築いている。
M2店舗前で無償配布される布製マスク 出所:M2ホームページ
CANIFA
CANIFAは2001年に設立されたブランドで、国際品質基準システムに則った厳格な品質管理および制御プロセスを確立し、製品の生産を行っている。
現在、CANIFAはベトナム国内に110店舗を展開しており、広範なネットワークを有している。
CANIFAの主なターゲットはファミリー層であり、家族全員が同じデザインを楽しめる商品や、人気キャラクターとコラボレーションした商品ラインナップを展開している。価格帯は129,000VNDから799,000VNDまで幅広く設定されており、ファミリー層にとって手が届きやすい価格設定となっている。
CANIFAの強みは、環境に配慮した製品の製造にある。具体的には、LEED国際認証の取得、OEKO-TEX®やWoolmarkといった国際的な品質基準を満たす製品の製造、さらにアメリカでの綿花生産における持続可能性指標への準拠などが挙げられる。これにより、環境に優しい製品を提供し、持続可能な生産プロセスを推進している。CANIFAの製品は、フンイエン省に位置する自社工場およびカニファ・ヴァンザン緑地複合施設で生産されている。
さらに、CANIFAは地域貢献活動にも力を入れており、社会的な責任を果たしている。例えば、高原地帯に住む子供たちの冬の寒さを和らげるため、コートを配布する活動を行っており、2019年には約15,000枚のコートが寄贈された。その他にも、植樹活動、災害復興支援、献血活動など、多岐にわたる社会貢献事業を展開し、地域社会との良好な関係を築いている。
中高価格帯
ベトナムの人々にとって中高価格帯の洋服は約300,000VNDから1,000,000VNDとされている。
ベトナムのローカルアパレルブランドの中で、主にこの価格帯の製品を取り扱う中高価格帯のブランドを紹介する。
BOO
BOOは2003年に誕生したBOO SKATE SHOPによるアパレルブランドである。
若者文化、ストリート文化にインスパイアされたベトナムファッションをコンセプトに10代から20代の男女をメインターゲットとした商品を販売している。販売している商品の価格帯は129,000VNDからd2,599,000VNDでハノイ、ホーチミン、ダナンなど10地域に25店舗を展開している。
BOOでは「ビジネスは利益を上げることだけではなく、社会に貢献することが重要である」という考えのもと、「made in Vietnam」であることにこだわった製造を行っている。また、ミッションとしてサステナビリティを掲げ、BOO VIRONMENTという活動を行っている。
BOO VIRONMENTでは、グリーンプロダクション、グリーンディスティネイション、グリーンオフィス、グリーンプロジェクトの4つの柱のもと、持続可能な方法で栽培された綿花の使用、100%リサイクルのショッピングバッグの使用、資源の回収プログラム、募金活動などを行っている。
NEM
NEMは2002年にNem Fashion Joint Stock Companyによって立ち上げられたブランドで、婦人服の製造販売を専門としている。
NEMの商品はオフィスカジュアル向きの製品が多く、想定されるメインターゲットは30代から40代の女性だと考えられる。扱う商品の価格帯は699,000VNDから1,799,000VNDとなっており、ベトナム国内に45店舗を展開し、また、カンボジアにも店舗を進出させている。
NEMの特徴としてベトナムのファッションとファッショントレンドの融合、商品数の多さが挙げられる。NEMのでは婦人服専門ブランドとしてベトナムの伝統衣装であるアオザイと国際的なファッショントレンドを融合させたワンピースドレスコレクションを発売するなど、国際的なファッショントレンドに傾倒しつつあるベトナムのファッション業界の様相を変えることに貢献している。また、NEMでは毎月500を超える商品を販売しており、製品ラインの多さもベトナム人女性に支持される大きな理由の1つとなっている。
JUNO
JUNOはNEMと同じように女性向けのアパレル製品を取り扱うブランドであるが、JUNOは婦人服に加え、靴、バッグ、アクセサリーも取り扱っている。
JUNOはベトナムの28都市に59店舗を展開し、20代から30代女性をメインターゲットとする商品展開を行っている。
JUNOが販売するフットウェア製品はホーチミン市にある自社の製造工場で製造されており、「Made in Vietnam」の製品を強みとしている。また、メインターゲット、販売する商品がNEMと重複しているが、JUNOの商品は中高価格帯の中でもNEMより低い価格になっており、販売されている服の価格帯も299,000VNDから699,000VNDと手の届きやすい価格になっている。
ベトナム国産ブランドは今後各分野で増える
昨今、ベトナムが消費市場へと転換する中で、ベトナム国内ではベトナム国産のものを消費しようという機運が高まっている。
ベトナムの消費者のうち82%の人々は選択肢があればベトナム製品を優先して購入したいと回答している。実際に、2024年第1四半期にはベトナムの自動車メーカーであるVINFASTの市場シェアが他の外資系自動車メーカーを抑えて1位となった。また、小型モデルでは市場シェアの50%近くを占めている。(Cimig調べ)
この風潮は今後も継続していく見込みで、ベトナムの消費市場拡大の追い風になっている。
さいごに
本レポートではベトナムのローカルアパレルブランドを紹介してきた。
ベトナムでは外資系ブランドや、安価なノーブランド品も多く流通する中で、ベトナム発のブランドが増加している。このようなトレンドの中で、ベトナムから世界的知名度を得るようなブランドが複数輩出されれば、ベトナムの市場はより付加価値の高い市場になるだろう。
そのためには国際市場に販売できるECが重要になると考えられる。現在のベトナムではコロナ禍を契機にECが普及しており、直近ではTikTok shopが台頭し、ECが急速に成長している。実際に、消費者の67~88%は実店舗に変わるショッピングチャネルを利用したことがある。(マッキンゼー調べ)
また、国際市場で求められるエシカルな価値観を取り入れる必要もあるだろう。本レポートで紹介したローカルアパレルブランドの多くは環境に配慮した製品や、環境保護活動を行っていた。また、消費者の間でもエシカルな価値観が受け入れられつつあり、ベトナムの消費者の67%がグリーンラベルや持続可能性認証付きの製品を優先的に選ぶと回答している。(Cimig調べ)これらのことから市場でエシカルな価値観が浸透し始めていると言えるだろう。