はじめに
大気汚染が深刻化し、交通渋滞が長期化するハノイ市の状況において、ベトナム政府は環境を改善し、近代的でグリーンな交通システムを構築するために、強力な政策を実施することが決定される。その中で画期的な一歩として、首相の指令第20/CT-TTgが発出され、ハノイ市において2026年7月1日から環状道路1号内でガソリン・ディーゼルバイクの使用が全面的に禁止されることが求められる。
この政策は、低排出ゾーン(LEZ:Low Emission Zone)の発展計画の一環として位置づけられ、温室効果ガスや微小粒子状物質(PM2.5)の排出を削減し、大気の質を改善するための重要な手段とされる。しかしながら、この方針は車両の転換、インフラ投資、そして市民支援に関して多くの課題も提起される。
ハノイ市の交通機関の現状
ハノイ市人民委員会のデータによると、現在ハノイ市には約110万台の自動車と690万台のバイクが稼働している。これは都市のインフラ規模と比較して非常に大きな数であり、特に中心部では深刻な影響が見られる。バイクは今なお最も一般的な移動手段であり、とりわけ中所得層や労働者に多く利用されている。
ハノイ市のバイクの約72%が10年以上使用されているとされ、その多くは定期的な整備が行われておらず、基準値を超える排ガスを出す原因となっている。これが大気汚染の主因であり、特に呼吸器系や循環器系に悪影響を与えるPM2.5の濃度上昇に繋がっている。
さらに、環状道路1号を含む都心部では頻繁に渋滞が発生し、燃料や時間の無駄を引き起こし、環境へのさらなる圧力がかかっている。狭い道路空間においてバイク、自動車、自転車、バスなどが混在して走行することで、運行効率が低下し、事故のリスクも高まっている。
指令第20/CT-TTgと低排出ゾーン政策の内容
指令第20/CT-TTgに基づき、2026年7月1日以降、ハノイ市は環状道路1号の区域内でガソリン・ディーゼルバイクの走行を全面禁止することが定められる。
この区域には、ホアンキエム区、バディン区、ドンダー区、ハイバーチュン区、カウザイ区、タイホー区など、旧市街の中心6区が含まれ、総延長は約7.2kmである。

それ以降、この区域内で走行が許可されるのは、電動バイク、ハイブリッド車、電動自転車、環境にやさしい公共交通機関のみとなる。
また、ハノイ市は2025年1月1日から低排出ゾーン(LEZ)モデルの運用を開始し、段階的にガソリン・ディーゼルバイクの禁止へ向かう計画が進められている。このゾーニングの目的は、個人所有の交通手段から排出される汚染ガスの管理・制御にある。
市民の反応と専門家の意見
多くの市民は環境保護の目的に賛同するが、一方で車両転換のコストに対する懸念を表明し、経済的負担が大きいと訴える。また、電動バイクの充電インフラ、メンテナンス、バッテリー寿命なども不安材料として挙げられる。これらの点は一般ユーザーにとってまだ馴染みの薄いものである。
この政策について、専門家の一人であるホアン・ズオン・トゥン博士(ベトナムクリーンエアネットワーク会長)は、「これは進歩的な政策だが、インフラ整備から経済的支援、意識向上まで一体的に進める必要がある」と述べる。
トゥン博士は、「実質的な支援がなければ、市民は政府と共に行動できない」と強調し、制度の成功には市民の参加と納得が不可欠であると指摘する。
終わりに
2026年7月1日からハノイ市の環状道路1号内でガソリン・ディーゼルバイクの使用を禁止する政策は、グリーンで文明的かつ持続可能な都市建設戦略における重要な転換点となる。
しかし、この政策を成功させるためには、行政機関、企業、市民の三者間の綿密な準備と連携が求められる。
政策の成功は、単なる行政判断に依存するだけでなく、特に財政的支援、インフラ整備、情報へのアクセスといった実質的な支援のレベルにも左右される。もし適切に実行されれば、ハノイ市にとって、現代的かつ環境に優しい都市への前向きな転換の一歩となることが期待される。
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