ベトナム国内でデジタル化が国家・企業の成長を牽引する中、データセンター(Data Center:DC)は膨大な情報を保管・処理する基盤として、その重要性を急速に高めている。ベトナムはまだ世界のデータセンターマップ上では小規模な存在に過ぎないが、この分野には巨大な成長ポテンシャルがあり、ベトナム政府が東南アジアのデジタルハブを目指す中で、国内外投資家の注目を集めている。
ベトナム市場の「1兆円規模」ポテンシャル
調査会社Research and Marketsの報告書「ベトナムのデータセンター市場:2025~2030年の投資分析と成長機会」によると、ベトナム国内のデータセンター市場規模は2024年に6億5,400万USDに達し、2030年までに17億5,000万USD(約1兆円)に拡大すると予測されている。年平均成長率(CAGR)は17.93%と高水準だ。
現在、ベトナム国内では既に41のデータセンターが稼働または建設中であり、特にViettel IDC、VNPT IDC、Mobifone、CMC Telecomといった大手通信企業が「Make in Vietnam」型の施設を次々と立ち上げている。このうち、Viettel IDCが国内で最も多くのデータセンターを保有し、同分野を牽引している。
ベトナム商工省および科学技術省のデータによると、国内データセンターの総電力容量は182MWに到達したものの、2030年目標の870MWにはまだ遠い。また、現時点で稼働中の大規模施設はハノイにある30MW規模の1拠点のみである。
地理的分布では、データセンターはホーチミン市、ハノイ市、ダナン市などの主要都市に集中しており、ホーチミン市が18拠点で国内最多、続いてハノイが16拠点、ダナンが5拠点、ハイフォンとドンナイがそれぞれ1拠点を保有している。
中でもホーチミン市は、ベトナム国内デジタルインフラの中核都市として存在感を高めており、以下の2つの大型プロジェクトが象徴的である。
- Viettel IDC:2025年4月に着工した出力140MWのデータセンター。ベトナム初の100MW超級施設であり、東南アジアトップ10に入る規模。これによりホーチミン市は地域のデータ接続拠点として戦略的な地位を確立する。
- CMC Telecom:出力30MWで開始し、将来的に120MWまで拡張予定。2026年第2四半期に着工し、AI・クラウド・デジタル経済分野への計算需要を支える見込み。
ベトナムの競争優位性
ベトナムはデータセンター投資先として、アジアでもコスト競争力が高い国の一つである。Cushman & Wakefieldの2025年レポートによると、ベトナム国内でのデータセンター建設コストは1MWあたり540万〜840万USDで、シンガポール(1,170万USD)や日本(1,320万USD)よりも大幅に低い水準となっている。
さらに、土地・人件費もアジア諸国に比べて低廉であり、ベトナム企業・外資企業ともに大規模プロジェクトを展開しやすい環境が整っている。ベトナム政府はクラウド、AI、ビッグデータ需要の高まりを背景に、国際的なインフラ投資を積極的に誘致している。
持続可能な発展への鍵
データセンターはAIやクラウド、映像配信、各種デジタルサービスの中核インフラであり、常時24時間稼働するため膨大な電力を消費する。このため、ベトナム電力網への負荷が増大しており、再生可能エネルギーとの統合が急務である。
具体的には、太陽光発電や風力発電との連携、電力直接購入制度(DPPA)の導入、クリーン電力比率の段階的引き上げが求められている。たとえば中国では、2025年までにデータセンターの再エネ利用率30%、2032年には100%を義務化している。ベトナム商工省も同様の仕組みを検討しており、温室効果ガス削減と電力供給安定の両立を目指している。
また、ハノイやホーチミン市に過度に集中する現状を見直し、風力・太陽光のポテンシャルが高い地方(ニントゥアン省、ビントゥアン省、ロングアン省など)に分散投資を進めることも重要である。これにより都市部の電力負荷軽減と地方経済の活性化、未活用の再エネ資源の有効活用が期待される。
展望と課題
データセンター市場は高成長、低コスト、大きな内需という三拍子がそろい、ベトナム企業および外資企業にとって「黄金の投資機会」となりつつある。
しかし、インフラ・電力・地域計画といった課題を克服しなければ、潜在力は十分に発揮できない。ベトナム政府が掲げるグリーン転換と再エネ拡大の政策を軸に、持続可能で環境に優しいデジタルインフラを構築することが、ベトナム国内データセンター産業を世界レベルへと押し上げる鍵となるだろう。


