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ベトナムM&Aベトナム進出

ベトナムM&Aアドバイザリーの完全ガイド | 成功のための実務知識と専門家選定のポイント

ベトナムM&Aアドバイザリーの完全ガイド | 成功のための実務知識と専門家選定のポイント

運営会社について
このメディアは、ベトナムビジネスの経営課題を解決する
ベトナム特化コンサルティング会社、ONE-VALUE株式会社によって運営されています。

はじめに
この記事で伝えたいこと
  • ベトナムM&Aは、市場成長性は高い一方で、外資規制・二重帳簿・土地使用権・文化ギャップなど、日本企業だけでは見抜きにくい固有リスクが多く、戦略策定〜PMIまで一貫した専門対応が不可欠である。
  • 成功と失敗を分けるのは、デューデリジェンス徹底、契約条項(表明保証・補償・エスクロー等)の設計、そしてクロージング後のPMI実行力であり、「いくらで買うか」以上に「買った後にどう統合し、シナジーを出すか」が投資成果を左右する。
  • ONE-VALUEは1,500件超の支援実績と現地ネットワーク、法務・会計・税務・人事を束ねたワンストップ体制により、プレM&AからPMIまでを伴走し、日本企業のベトナムM&Aでのリスク最小化とリターン最大化を実現するパートナーである。
  1. ベトナムM&Aアドバイザリーとは
    1. M&Aアドバイザリーの役割と重要性
    2. ベトナムM&Aアドバイザリーが求められる背景
  2. ベトナムM&A市場の現状と動向
    1. ベトナムM&A市場の特徴
    2. 日本企業によるベトナムM&Aの傾向
  3. ベトナムM&Aアドバイザリーの主要サービス
    1. プレM&Aフェーズの支援内容
    2. M&A実行フェーズの支援内容
    3. ポストM&A(PMI)フェーズの支援内容
  4. ベトナムM&Aで直面する主要な課題
    1. 法規制面の課題
    2. 財務・会計面の課題
    3. 商習慣・文化面の課題
    4. 実務・手続き面の課題
  5. ベトナムM&Aアドバイザリーを活用するメリット
    1. リスク回避と成功確率の向上
    2. プロセスの効率化と時間短縮
    3. 現地ネットワークの活用
    4. PMI成功による投資効果の最大化
  6. 優れたベトナムM&Aアドバイザーの選び方
    1. 確認すべき実績と専門性
    2. サービス範囲とサポート体制
    3. 報酬体系の透明性
    4. 信頼性と実績の見極め方
  7. ベトナムM&Aの具体的な進め方
    1. フェーズ1:戦略策定と候補先選定(1〜2ヶ月)
    2. フェーズ2:初期交渉と基本合意(2〜3ヶ月)
    3. フェーズ3:デューデリジェンス(1〜2ヶ月)
    4. フェーズ4:最終契約とクロージング(1〜2ヶ月)
    5. フェーズ5:PMI実行(6ヶ月〜2年)
  8. ベトナムM&Aで失敗しないための実務ポイント
    1. デューデリジェンスで見落としがちな項目
    2. 交渉で押さえるべき条件
    3. PMI失敗の典型パターンと対策
  9. ベトナムM&Aにおける法規制の理解
    1. 外資規制と投資法の基礎知識
    2. 公開会社と非公開会社の違い
    3. 必要な許認可
  10. ベトナムM&Aの成功事例
    1. 日本企業による成功事例
    2. 失敗から学ぶ教訓
  11. ONE-VALUEのベトナムM&Aアドバイザリーサービス
    1. 1,500件以上の支援実績に基づく専門性
    2. ワンストップ支援の強み
    3. プレM&AからPMIまでの一貫支援
  12. まとめ:ベトナムM&Aアドバイザリー活用の重要性
  13. ベトナム市場の情報収集を支援します

ベトナムM&Aアドバイザリーとは

M&Aアドバイザリーの役割と重要性

M&Aアドバイザリーとは、企業の合併・買収(M&A)プロセス全体を専門的な知見でサポートするサービスである。具体的には、候補先企業の選定から交渉、デューデリジェンス、契約締結、そしてクロージング後の統合支援(PMI)まで、包括的な支援を提供する。

ベトナムでのM&Aにおいて、アドバイザーの存在は特に重要である。日本とは異なる法制度、商習慣、会計基準が存在するベトナムでは、現地の実情を深く理解した専門家なしに成功を収めることは極めて困難である。アドバイザーは単なる仲介者ではなく、リスクを最小化し、投資効果を最大化するための戦略パートナーとしての役割を担う。

主なサービス内容には、市場調査・企業評価、法務・財務・税務デューデリジェンス、交渉戦略の立案、契約書作成支援、各種許認可取得のサポート、PMI計画の策定と実行支援などが含まれる。これらを一貫して提供できるワンストップ型のアドバイザリーサービスが、ベトナムM&Aの成功確率を大きく高める。

ベトナムM&Aアドバイザリーが求められる背景

ベトナムは人口約1億人を擁し、平均年齢が若く、高い経済成長率を維持している。ASEAN諸国の中でもシンガポールに次いでM&Aが活発な市場であり、日本企業にとって魅力的な投資先となっている。製造拠点としてだけでなく、消費市場としてのポテンシャルも急速に拡大しており、小売業、金融業、不動産業などへのM&A投資が増加傾向にある。

しかし、クロスボーダーM&A特有の複雑性がベトナムでは特に顕著である。外資規制、条件付き投資分野、複雑な許認可手続き、不透明な会計慣行など、日本企業が単独で対応するには多くの障壁が存在する。特に二重帳簿や三重帳簿が一般的に行われているベトナムでは、財務諸表の信頼性評価が極めて難しい。

さらに、ベトナム人経営者との交渉では、意思決定プロセスや価値観の違いを理解した上でアプローチする必要がある。短期的な利益を重視する傾向や、契約後も条件変更を求めてくるケースなど、日本のビジネス慣行とは大きく異なる局面に直面する。こうした背景から、ベトナムの実情に精通したM&Aアドバイザリーの需要が高まっている。


ベトナムM&A市場の現状と動向

ベトナムM&A市場の特徴

ベトナムはASEAN加盟10カ国の中で、シンガポールに次いで2番目にM&Aが盛んな市場である。2020年代に入ってからも、コロナ禍の影響を受けながらも底堅い成長を続けており、日本企業を含む外国企業からの投資が継続している。

ベトナムM&A市場の最大の特徴は、小規模案件が多いことである。これはベトナムの現地企業の大半が中小規模であり、資本金や事業規模が比較的小さいことに起因する。数億円から数十億円規模の案件が中心となっており、日本企業にとっては比較的参入しやすい投資金額といえる。また、外資出資比率に上限が設けられている業種も多く、完全子会社化ではなくマジョリティ出資(51%程度)による買収が一般的である。

近年の注目すべき動向として、M&Aの対象産業に変化が見られる。従来は人件費の安さを活かした製造業への投資が中心だったが、現在は消費市場の拡大を見据えた小売業、EC、金融サービス、不動産開発、ヘルスケアなどへの投資が増加している。また、ベトナム企業同士のM&Aや、ベトナム企業が海外企業を買収するケースも増えてきており、市場の成熟化が進んでいる。

日本企業によるベトナムM&Aの傾向

日本企業によるベトナムM&Aは、進出目的が多様化している。初期は製造コスト削減を主目的とした工場買収が中心だったが、現在は販売チャネルの獲得、技術・ノウハウの取得、サプライチェーンの強化、新規事業参入など、戦略的な目的でのM&Aが増えている。

投資金額の規模感としては、数億円から50億円程度の案件が多く、100億円を超える大型案件は限られる。これはベトナム企業の規模が小さいことに加え、外資規制により完全子会社化できない業種が多いことも影響している。一方で、複数の企業を段階的に買収していく「ロールアップ戦略」を採用する日本企業も増えており、小規模案件を積み重ねることで市場シェアを拡大する手法が注目されている。

成功率については、適切なアドバイザリーを活用したケースでは高い成功率を示している一方、自社単独で進めた案件では失敗に終わるケースも少なくない。失敗の主な要因は、デューデリジェンス不足による簿外債務の発覚、PMI計画の不備による統合失敗、現地経営陣との信頼関係構築の失敗などである。これらの多くは、専門的なアドバイザリーサポートによって回避可能なリスクといえる。


ベトナムM&Aアドバイザリーの主要サービス

プレM&Aフェーズの支援内容

プレM&Aフェーズは、M&A戦略の成否を左右する最も重要な段階である。このフェーズでのアドバイザリーサービスは、まず市場調査と業界分析から始まる。ベトナムの特定産業における市場規模、成長性、競合環境、規制動向などを詳細に分析し、投資判断の基礎となる情報を提供する。

候補先企業の選定では、ロングリスト(広範な候補リスト)からショートリスト(絞り込んだ候補リスト)への段階的な絞り込みを行う。この過程で、財務状況、経営陣の質、顧客基盤、技術力、コンプライアンス状況など、多角的な評価を実施する。ベトナムでは公開情報が限られるため、アドバイザーの現地ネットワークを活用した情報収集が不可欠である。

投資スキームの策定も重要な支援内容である。株式取得か資産譲渡か、出資比率をどう設定するか、段階的な買収を行うか、現地パートナーとの共同投資とするかなど、目的とリスク許容度に応じた最適なスキームを提案する。また、企業価値評価(バリュエーション)では、ベトナム特有の会計慣行を考慮した適正価格の算定を行い、交渉の基礎資料を作成する。

事業シナジーの検証では、買収後に期待できる相乗効果を具体的に数値化する。売上シナジー、コストシナジー、経営ノウハウの移転効果などを詳細に分析し、投資回収計画を策定する。この段階での綿密な分析が、後のPMI成功につながる。

M&A実行フェーズの支援内容

M&A実行フェーズでは、まず候補先企業への初期アプローチとNDA(秘密保持契約)締結の支援を行う。ベトナムでは、直接的すぎるアプローチは警戒されることが多いため、適切な仲介者を通じた慎重なアプローチが効果的である。初期情報の開示を受けた後、買収意向の表明と初期的な条件提示を行う。

基本合意書(MOU)の作成では、買収価格の範囲、デューデリジェンスの実施、独占交渉権、最終契約締結の目標時期などの基本条件を文書化する。ベトナムでは契約後も条件変更を求められることがあるため、MOUの段階で可能な限り詳細な条件を詰めておくことが重要である。

デューデリジェンスは、財務DD、法務DD、税務DD、ビジネスDDを包括的に実施する。特にベトナムでは、二重帳簿の有無、税務リスク、労務リスク、許認可の適法性、土地使用権の確認などが重点項目となる。デューデリジェンスで発見されたリスクや問題点は、買収価格の調整や契約条件への反映、あるいは買収見送りの判断材料となる。

最終契約書の交渉では、表明保証条項、補償条項(インデムニティ)、前提条件、解除条件などを詳細に規定する。ベトナム企業とのM&Aでは、クロージング後に発覚した簿外債務への対応として、エスクロー口座の設定や段階的な対価支払い(アーンアウト条項)を盛り込むケースも多い。

クロージング手続きでは、各種当局への届出・承認取得、企業登録証明書の変更、対価の支払い、経営権の移転などを確実に実行する。ベトナムでは手続きが煩雑で時間がかかるため、経験豊富なアドバイザーによる進行管理が不可欠である。

ポストM&A(PMI)フェーズの支援内容

PMI(Post Merger Integration)は、M&Aの投資効果を実現する最も重要なフェーズである。統合計画の策定では、100日プラン、1年プラン、中長期プランを段階的に作成し、具体的なマイルストーンとKPIを設定する。

ガバナンス体制の構築では、取締役会の構成、経営会議の運営方法、報告体系、承認権限などを明確に定める。ベトナムでは、本社からの過度な管理は現場の反発を招くことが多いため、現地経営陣への適切な権限委譲とモニタリングのバランスが重要である。

経営管理システムの統合では、会計システム、予算管理、業績報告、内部統制などを親会社の基準に合わせて整備する。ただし、一度にすべてを変更するのではなく、段階的なアプローチが現実的である。特に、二重帳簿を行っていた企業の場合、適正な会計処理への移行には相当な時間と労力を要する。

人事評価制度の整備も重要な課題である。ベトナムでは、給与水準や評価基準が日本と大きく異なるため、現地の実情に合わせた制度設計が必要である。また、優秀な人材の流出を防ぐため、適切なインセンティブ設計も不可欠である。

文化統合とコミュニケーション支援では、日本側とベトナム側の相互理解を深めるための施策を実施する。定期的な対話の場の設定、経営ビジョンの共有、チームビルディング活動などを通じて、一体感のある組織作りを支援する。


ベトナムM&Aで直面する主要な課題

法規制面の課題

ベトナムにおけるM&Aの最大の課題の一つが、複雑な法規制への対応である。外資による投資が禁止されている業種として、麻薬物質関連、希少野生動植物関連、売春、人身売買、爆竹販売、債権回収などが明確に定められている。

さらに重要なのが、条件付き投資分野の存在である。2023年8月時点で228業種が条件付き投資分野に指定されており、これらの業種でM&Aを行う場合、ベトナム政府から事前承認を得る必要がある。承認取得には詳細な事業計画の提出や、各種条件のクリアが求められ、審査には数ヶ月を要することも珍しくない。

また、外資出資比率の上限が業種ごとに定められているケースも多い。例えば、小売業、金融業、通信業、教育業などでは、外資が保有できる株式比率に制限がある。この制限により、完全子会社化ができず、マジョリティ出資(51%程度)に留まることも多い。

投資法、企業法、証券法など、関連する法律が多岐にわたる点も複雑性を増している。これらの法律は頻繁に改正されるため、最新の法令を正確に理解し、適切に対応することが求められる。違反した場合、M&A自体が無効となるリスクや、罰金、事業停止命令などの厳しい処分を受ける可能性がある。

財務・会計面の課題

ベトナムM&Aにおける最大のリスク要因が、財務・会計面の不透明性である。二重帳簿や三重帳簿が広く行われているベトナムでは、提示される財務諸表が実態を反映していないケースが非常に多い。企業会計用、税務申告用、銀行提出用と、目的に応じて異なる数字を記載した帳簿を使い分けている企業が少なくない。

この背景には、ベトナムの税務調査が現地企業に対しては比較的緩やかであることや、非上場の現地企業には会計監査義務がないことがある。結果として、売上の過少申告や経費の過大計上による節税、実際よりも良好な財務状況を銀行に見せるための粉飾など、様々な会計操作が行われている。

会計基準自体の曖昧さも課題である。ベトナムにはベトナム会計基準(VAS)が存在するものの、解釈に幅があり、企業によって適用方法が異なることも多い。国際会計基準(IFRS)との差異も大きく、日本企業が財務諸表を正確に理解することは容易ではない。

こうした状況下でのデューデリジェンスは極めて困難である。表面的な財務諸表分析だけでは真の財務状況を把握できず、詳細な実地調査、取引先へのヒアリング、銀行口座の精査、税務申告書との突合など、多角的なアプローチが必要となる。簿外債務、未払税金、労務債務などが後から発覚し、買収後に多額の損失を被るケースも後を絶たない。

商習慣・文化面の課題

ベトナムでのM&Aでは、商習慣や文化の違いが大きな障壁となることが多い。交渉スタイルにおいて、ベトナム人経営者は関係構築を非常に重視する。初対面からいきなり本題に入るのではなく、まずは信頼関係を築くための時間を十分にとることが重要である。また、直接的な拒絶や否定的な表現を避ける傾向があり、「検討します」という返答が実質的な断りを意味することもある。

意思決定プロセスにも特徴がある。表面上は社長が全権を持っているように見えても、実際には創業家の複数メンバーや、政府関係者、地元有力者などの意向が強く影響するケースがある。したがって、公式な交渉相手だけでなく、実質的な意思決定者が誰なのかを見極めることが重要である。

短期的な利益志向も日本企業との大きな違いである。ベトナム企業の多くは、長期的な成長戦略よりも、目先の利益やキャッシュフローを重視する傾向がある。そのため、日本企業が描く中長期的な事業計画に対して、十分な理解や共感を得られないこともある。

契約後も条件変更を求めてくるケースがあることも、日本企業にとっては驚きである。ベトナムでは、契約は交渉の終点ではなく、継続的な関係の一つの通過点と捉えられることがある。市場環境の変化や予想外の事態が発生した際、契約条件の見直しを求められることは珍しくない。

人材マネジメントの難しさも無視できない。ベトナムの若年層は転職に対する抵抗感が低く、より良い条件があればすぐに転職する傾向がある。M&A後に優秀な人材が流出し、事業運営に支障をきたすケースも多い。適切な処遇と成長機会の提供が、人材定着のカギとなる。

実務・手続き面の課題

ベトナムM&Aの実務面で最も特徴的なのが、土地使用権の概念である。ベトナムでは、土地はすべて国家に帰属し、企業や個人は「使用権」を有償で取得する仕組みとなっている。土地使用権には期限があり、期限到来時の更新可能性も不透明な場合がある。

土地使用権には、「割当土地使用権」と「リース土地使用権」の2種類がある。リース土地使用権は国から直接リースする場合とデベロッパーからサブリースする場合があり、それぞれ権利内容や期限、更新条件が異なる。M&Aで企業を買収する際、その企業が保有する土地使用権の種類、残存期間、更新可能性、担保設定の有無などを詳細に確認する必要がある。

企業登録証明書の変更手続きも重要である。ベトナムでは、M&Aによる株主変更があった場合、必ず企業登録証明書の変更手続きを行わなければならない。この手続きは、契約締結後クロージングまでの間に完了させる必要があり、通常3営業日程度かかる。手続きが完了しないと、正式に株主として認められず、経営権を行使できない。

外国人投資家が51%以上の株式を取得する場合、地方計画投資局または工業団地管理委員会から買収承認を得て、投資登録証明書を取得する必要がある。この審査には通常15日程度かかるが、追加資料の提出を求められたり、審査が長引いたりするケースもある。

対価支払いのタイミングも注意が必要である。以前は対価を先に支払わないと各種手続きができなかったが、法改正により、手続き完了後の支払いが可能となった。しかし、現場レベルでは旧慣習が残っており、当局から先払いを求められることもある。株式譲渡契約書に明確に支払条件を記載し、法令に基づいた対応を主張することが重要である。

為替リスクの管理も実務上の課題である。ベトナム企業とのM&Aでは、アメリカドル建てで取引されることが多い。円建てで予算を組んでいる場合、為替レートの変動により、実際の支払額が予算を大幅に超過するリスクがある。為替予約などのヘッジ手段の活用や、契約時の為替レート条項の設定などが対策となる。


ベトナムM&Aアドバイザリーを活用するメリット

リスク回避と成功確率の向上

ベトナムM&Aアドバイザリーを活用する最大のメリットは、様々なリスクを回避し、成功確率を大幅に高められることである。法令違反リスクの最小化において、外資規制、条件付き投資分野、許認可要件など、複雑な法規制を正確に理解し、適切に対応することで、M&A自体が無効となるリスクや、事後的な処分を受けるリスクを回避できる。

隠れた債務やリスクの早期発見も重要な価値である。専門家による徹底したデューデリジェンスにより、二重帳簿、簿外債務、未払税金、労務リスク、訴訟リスクなど、後から重大な問題となりうる事項を事前に把握できる。発見されたリスクは、買収価格への反映、契約条件での保護、あるいは買収見送りの判断材料となる。

適正価格での買収実現も見逃せないメリットである。ベトナム特有の会計慣行を考慮した企業価値評価により、過大な買収を避け、適正な価格で取引を成立させることができる。また、経験豊富なアドバイザーによる交渉支援により、有利な条件を引き出せる可能性も高まる。

これらの結果として、M&Aの成功確率が大幅に向上する。適切なアドバイザリーを受けたケースでは、買収後も安定した事業運営が実現できており、投資回収の確度が高い。一方、自社単独で進めたケースでは、様々な問題に直面し、最悪の場合、投資全額が損失となるケースもある。

プロセスの効率化と時間短縮

M&Aアドバイザリーの活用は、プロセス全体の効率化と大幅な時間短縮をもたらす。候補先企業の探索において、アドバイザーの現地ネットワークを活用することで、自社で一から候補先を探すよりも遥かに迅速に、質の高い候補先リストを作成できる。特にベトナムでは公開情報が限られるため、現地でのネットワークと情報収集力が決定的に重要である。

複数専門家との調整負担の軽減も大きなメリットである。ベトナムM&Aでは、弁護士、会計士、税理士、労務コンサルタント、不動産専門家など、多くの専門家の関与が必要となる。ワンストップ型のアドバイザリーサービスを利用すれば、これらの専門家を個別に手配し、調整する手間が省ける。

手続きの並行進行による期間短縮も実現できる。経験豊富なアドバイザーは、各種手続きの順序や所要時間を熟知しているため、効率的なスケジューリングが可能である。並行して進められる手続きを同時に進行させることで、全体の所要期間を短縮できる。

結果として、初期検討から最終クロージングまでの期間を、自社単独で進めた場合の半分から3分の2程度に短縮できるケースも多い。時間短縮は、機会損失の最小化、人件費などのコスト削減、そして経営資源を本業に集中できることにつながる。

現地ネットワークの活用

ベトナムでのM&A成功には、現地での強固なネットワークが不可欠である。優れたアドバイザーは、長年の活動を通じて構築した幅広いネットワークを有しており、これがクライアント企業に大きな価値をもたらす。

信頼できる候補先企業の紹介において、アドバイザーのネットワークは決定的な役割を果たす。単に企業リストを提供するだけでなく、その企業の経営者の人柄、実際の経営状況、市場での評判など、公開情報では得られない生の情報を提供できる。また、アドバイザーの紹介であれば、候補先企業も安心して交渉のテーブルにつきやすい。

弁護士、会計士、税理士などの専門家ネットワークも重要である。ベトナムには多数の専門家がいるが、その能力や信頼性には大きなばらつきがある。優秀で信頼できる専門家を見極めることは、現地事情に疎い日本企業には困難である。実績あるアドバイザーは、長年の協働を通じて能力を確認済みの専門家チームを有しており、安心して任せられる。

当局との円滑なコミュニケーションも、ネットワークの重要な要素である。投資登録証明書の取得や各種許認可の申請において、当局とのやり取りは避けられない。現地での実績が豊富なアドバイザーは、当局との良好な関係を築いており、手続きをスムーズに進めることができる。

業界団体や商工会議所などとのつながりも有益である。業界の最新動向、規制変更の兆候、他社の動きなど、M&A判断に役立つ情報をタイムリーに入手できる。

PMI成功による投資効果の最大化

M&Aの真の成功は、買収後の統合(PMI)にかかっている。どれほど良い企業を適正価格で買収できても、PMIに失敗すれば投資効果は得られない。アドバイザリーサービスによるPMI支援は、投資効果を最大化する上で極めて重要である。

統合計画の着実な実行において、アドバイザーは具体的なロードマップとマイルストーンを設定し、進捗を管理する。100日プラン、1年プラン、中長期プランと段階的に計画を策定し、各フェーズでの達成目標を明確にする。定期的な進捗レビューにより、問題の早期発見と対策が可能となる。

シナジー創出の早期実現も重要な支援領域である。プレM&Aフェーズで想定したシナジーを具体的な施策に落とし込み、実行を支援する。販売チャネルの相互活用、調達コストの削減、重複業務の統合、技術・ノウハウの移転など、具体的なシナジー施策を推進する。

現地経営の安定化支援では、ベトナム人経営陣との信頼関係構築、従業員の不安解消、取引先との関係維持など、買収直後の混乱期を乗り越えるためのサポートを提供する。特に、文化的な違いから生じる誤解や摩擦を最小化し、スムーズな組織統合を実現することが、長期的な成功の基盤となる。

結果として、投資回収期間の短縮、計画以上のシナジー創出、安定した収益基盤の確立などが実現し、M&Aの投資効果が最大化される。


優れたベトナムM&Aアドバイザーの選び方

確認すべき実績と専門性

ベトナムM&Aアドバイザーを選定する際、まず確認すべきは具体的な支援実績である。単に「ベトナムでの実績があります」という表明だけでなく、何件のM&Aを支援し、そのうち何件が成約に至ったのか、成約後の企業の業績はどうなっているのかといった具体的な情報を確認することが重要である。

対応可能な業種と規模も重要な選定基準である。アドバイザーによって得意分野は異なる。自社が検討している業種でのM&A実績が豊富か、想定している投資規模に対応できるかを確認する。特に、外資規制が厳しい業種や、複雑な許認可が必要な業種でのM&Aを検討している場合、その分野での専門知識と実績が不可欠である。

現地拠点の有無と体制も見極めるポイントである。ベトナムに自社拠点を持ち、常駐の日本人スタッフとベトナム人スタッフを配置しているアドバイザーは、現地情報の収集力や、緊急時の対応力に優れている。一方、日本からの出張ベースで対応するアドバイザーでは、きめ細かいサポートを受けられない可能性がある。

専門家チームの構成も確認したい。M&Aには、会計・税務、法務、労務、不動産など、多様な専門知識が必要である。これらの専門家を社内に抱えているか、あるいは信頼できる外部専門家とのネットワークを持っているかが、ワンストップサービスの質を左右する。

サービス範囲とサポート体制

アドバイザーが提供するサービスの範囲を明確に確認することも重要である。プレM&Aフェーズからクロージング、そしてPMIまで一貫してサポートできるか、それとも特定のフェーズのみの対応なのかを確認する。一貫したサポートを受けられる方が、情報の引き継ぎがスムーズで、全体最適の視点からのアドバイスを得られる。

日本語対応の充実度も、日本企業にとっては重要な要素である。現地スタッフとのコミュニケーションが日本語でスムーズにできるか、契約書などの重要書類に日本語訳が提供されるか、日本語でのレポーティングが可能かなどを確認する。

緊急時の対応体制も見逃せない。M&Aのプロセスでは、予期せぬ問題が突然発生することがある。そうした際に、迅速に対応できる体制が整っているかを確認する。特に時差があるため、緊急時にすぐに連絡が取れる体制かどうかは重要である。

アフターフォローの内容も確認すべきポイントである。クロージング後も、継続的な相談やサポートを受けられるか、追加料金が発生するのか、どの程度の期間サポートを受けられるのかを明確にしておく。

報酬体系の透明性

アドバイザリー報酬の体系は、着手金、中間金、成功報酬の組み合わせが一般的である。着手金は、業務開始時に支払う固定額で、基本合意締結時などに支払う中間金と合わせて、最終的な成功報酬から控除されることが多い。成功報酬は、取引金額に応じた料率で計算されるのが一般的である。

報酬体系の透明性は極めて重要である。総額でいくらかかるのか、追加費用が発生する条件は何か、成功報酬の計算基準は何かなどを、契約前に明確にしておく必要がある。曖昧な説明しかしないアドバイザーは避けるべきである。

費用の妥当性と相場感も重要である。極端に安い報酬を提示するアドバイザーは、サービスの質に問題がある可能性がある。一方、高額すぎる報酬を要求するアドバイザーも、費用対効果の観点から疑問である。複数のアドバイザーから見積もりを取り、サービス内容と報酬のバランスを比較検討することが推奨される。

追加費用の発生条件も確認が必要である。デューデリジェンスで追加調査が必要になった場合、外部専門家を起用する場合、PMI支援を延長する場合など、どのようなケースで追加費用が発生するのかを明確にしておく。

信頼性と実績の見極め方

アドバイザーの信頼性を見極めるため、過去の成功事例の具体性を確認することが有効である。単に企業名を列挙するだけでなく、どのような課題があり、どう解決したのか、成約後の企業の状況はどうなっているのかといった具体的な情報を提供できるアドバイザーは信頼性が高い。

クライアント企業からの評価も重要な判断材料である。可能であれば、過去のクライアント企業に直接コンタクトを取り、サービスの質、対応の迅速性、問題発生時の対応などについて聞いてみることが理想的である。また、インターネット上の口コミや評判も参考になる。

現地での評判とネットワークの広さも、信頼性の指標となる。ベトナムの業界関係者、他のアドバイザー、日系企業などから、そのアドバイザーがどう評価されているかを調べることも有効である。

初回相談時の対応も見極めのポイントである。質問に対して具体的で的確な回答ができるか、ベトナムM&Aの難しさとリスクを正直に説明するか、過度に楽観的な見通しを述べないか、といった点を注意深く観察する。誠実で現実的なアドバイザーほど、信頼できる。


ベトナムM&Aの具体的な進め方

フェーズ1:戦略策定と候補先選定(1〜2ヶ月)

ベトナムM&Aの第一歩は、M&A戦略の明確化である。なぜベトナムでM&Aを行うのか、何を達成したいのかを具体的に定義する。市場シェア拡大、製造拠点の確保、技術獲得、販売チャネルの獲得など、目的によって選ぶべき企業は大きく異なる。

M&A目的を明確にした上で、ターゲット企業の条件を設定する。業種、事業規模、地域、財務状況、経営陣の質、顧客基盤など、優先順位をつけて条件を整理する。この段階で、許容できる投資金額の範囲や、リスク許容度も明確にしておく。

候補先リストの作成では、まず幅広い候補をリストアップするロングリストを作成する。アドバイザーの現地ネットワークを活用し、条件に合致する可能性のある企業を洗い出す。次に、公開情報や初期的な調査に基づいて、有望な候補に絞り込んだショートリストを作成する。

ショートリストに挙がった企業について、より詳細な情報収集を行う。財務状況、市場でのポジション、経営陣の評判、M&A意向の有無などを、可能な範囲で調査する。この段階で、最も有望と思われる候補を2〜3社程度に絞り込み、アプローチの優先順位を決定する。

フェーズ2:初期交渉と基本合意(2〜3ヶ月)

候補先企業へのアプローチは、慎重かつ戦略的に行う必要がある。ベトナムでは、直接的すぎるアプローチは警戒されることが多いため、信頼できる仲介者を通じた紹介が効果的である。初回の面談では、M&Aの詳細な条件よりも、まずは相互理解と信頼関係の構築に重点を置く。

相互に関心があることが確認できたら、NDA(秘密保持契約)を締結し、より詳細な情報開示を受ける。この段階で提供される情報には、事業概要、財務諸表、組織体制、主要取引先、許認可状況などが含まれる。ただし、ベトナムでは情報開示に消極的な企業も多いため、段階的な開示となることも多い。

初期情報の分析に基づき、買収意向表明書(LOI)を提出する。LOIには、想定する買収価格の範囲、買収スキーム、デューデリジェンスの実施意向、独占交渉権の要求、想定スケジュールなどを記載する。この段階での価格は暫定的なものであり、デューデリジェンスの結果を踏まえて調整されることを明記する。

交渉が進展したら、基本合意書(MOU)を締結する。MOUには、買収価格の範囲、デューデリジェンスの実施内容と期間、独占交渉権、最終契約締結の目標時期、前提条件などを具体的に記載する。ベトナムでは契約後の条件変更を求められることがあるため、この段階で可能な限り詳細に条件を詰めておくことが重要である。

フェーズ3:デューデリジェンス(1〜2ヶ月)

デューデリジェンス(DD)は、M&Aにおける最も重要なプロセスの一つである。ベトナムでは、財務DD、法務DD、税務DD、ビジネスDDを包括的に実施することが不可欠である。

財務DDでは、過去3〜5年分の財務諸表を詳細に分析する。ただし、ベトナムでは二重帳簿が一般的であるため、提示される財務諸表だけでは不十分である。銀行口座の取引履歴、主要取引先への確認、実地棚卸の立会いなど、多角的な調査が必要となる。売上の実在性、債権の回収可能性、在庫の実在性と評価、負債の網羅性などを徹底的に検証する。

法務DDでは、会社の設立登記、定款、株主構成、許認可の適法性、契約書類、訴訟リスクなどを確認する。特に重要なのが、外資規制への適合性、土地使用権の確認、労働契約の適法性、知的財産権の保護状況などである。

税務DDは、ベトナムM&Aで最も注意を要する領域の一つである。過去の税務申告内容を精査し、適正に申告されているか、未払税金や将来の追徴課税リスクがないかを確認する。二重帳簿を行っている企業の場合、税務申告書と実態の乖離が大きい可能性があり、買収後に追徴課税を受けるリスクがある。

ビジネスDDでは、事業の競争力、市場環境、顧客基盤、サプライチェーン、経営陣の能力、従業員の質などを評価する。また、想定しているシナジーが実現可能かどうかも検証する。

DDの結果、発見された問題点やリスクは、買収価格の調整、契約条件への反映、あるいは買収見送りの判断材料となる。重大なリスクが発見された場合は、交渉を中止する勇気も必要である。

フェーズ4:最終契約とクロージング(1〜2ヶ月)

デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な買収条件を交渉する。買収価格の調整、リスク事項への対応、契約条件の詳細などを詰めていく。特に重要なのが、表明保証条項と補償条項(インデムニティ)の設定である。

表明保証条項では、売主が財務諸表の正確性、税務申告の適正性、訴訟がないこと、重要な契約の開示などについて保証する。ベトナム企業とのM&Aでは、可能な限り広範囲の表明保証を取得することが重要である。

補償条項では、表明保証違反や隠れた債務が発覚した場合の補償方法を定める。補償の範囲、上限額、期間、手続きなどを明確に規定する。ベトナムでは、買収後に予期せぬ問題が発覚するケースが多いため、十分な補償条項を設けることが不可欠である。

エスクロー口座の活用も有効な手段である。買収代金の一部(通常10〜20%程度)をエスクロー口座に留保し、一定期間後に問題がなければ売主に支払う仕組みである。この期間中に表明保証違反や隠れた債務が発覚した場合、エスクロー口座から補償を受けられる。

アーンアウト条項の検討も一案である。買収後の業績に応じて追加の対価を支払う仕組みで、企業価値評価が困難な場合や、将来の業績に不確実性がある場合に有効である。ただし、業績の測定方法、達成条件、支払時期などを明確に定めないと、後でトラブルの原因となる。

最終契約書には、株式譲渡契約書、株主間契約書(共同投資の場合)、経営陣との雇用契約書などが含まれる。これらの契約書は、ベトナム法に準拠して作成されるため、経験豊富な現地弁護士の関与が不可欠である。

契約締結後、クロージングに向けた各種手続きを進める。外国人投資家が51%以上を取得する場合は、買収承認の取得と投資登録証明書の発行を受ける必要がある。また、企業登録証明書の変更手続きも必須である。これらの手続きには通常2〜4週間程度かかる。

すべての手続きが完了したら、対価を支払い、正式に経営権を取得する。クロージング時には、株主名簿の書き換え、印鑑の引き渡し、銀行口座の権限移転、重要書類の引き渡しなどが行われる。

フェーズ5:PMI実行(6ヶ月〜2年)

クロージング後、直ちにPMI(Post Merger Integration)を開始する。最初の100日間は特に重要で、この期間に基本的な統合作業を完了させることが目標となる。

まず、統合計画を具体的なアクションプランに落とし込む。各タスクの責任者、期限、成果物を明確にし、進捗を定期的にモニタリングする。週次での進捗会議を開催し、問題が発生した場合は迅速に対応する。

経営体制の確立も最優先事項である。取締役会の構成を確定し、定期的な取締役会を開催する。経営会議の運営ルールを定め、報告体系を整備する。重要事項の承認権限を明確にし、適切なガバナンスを構築する。

従業員とのコミュニケーションも重要である。買収の目的、今後の方針、処遇への影響などを丁寧に説明し、不安を解消する。優秀な人材の流出を防ぐため、適切な処遇を提示し、成長機会を示すことが重要である。

シナジー創出の具体的な施策も早期に着手する。販売チャネルの相互活用、調達先の統合、技術・ノウハウの移転、バックオフィス機能の統合など、計画していた施策を着実に実行していく。

中長期的には、経営管理システムの整備、人事評価制度の確立、企業文化の統合などに取り組む。これらは一朝一夕には実現できないため、段階的なアプローチが現実的である。特に、急激な変更は現場の混乱を招くため、現地の実情を尊重しながら、徐々に改善していく姿勢が重要である。


ベトナムM&Aで失敗しないための実務ポイント

デューデリジェンスで見落としがちな項目

ベトナムM&Aのデューデリジェンスでは、日本では通常問題とならない項目が重大なリスクとなることがある。簿外債務の徹底チェックは最優先事項である。提示される財務諸表には計上されていない債務が存在する可能性が高い。特に注意すべきは、税務当局への未払税金、社会保険料の未納、取引先への未払金、個人保証による債務などである。

労務関連リスクも見落としがちな重要項目である。ベトナムの労働法は従業員保護の色彩が強く、不適切な労務管理は多額の補償金支払いにつながる。未払賃金や残業代の有無、社会保険・健康保険への適正な加入、労働契約書の適法性、解雇の適法性などを詳細に確認する必要がある。

取引先との契約内容の精査も重要である。主要な売上先・仕入先との契約書を確認し、契約期間、解除条件、M&A時の取扱いなどをチェックする。ベトナムでは、経営者個人と企業の区別が曖昧なケースがあり、M&A後に取引先が離れるリスクがある。主要取引先には事前に説明し、継続的な取引の意向を確認することが望ましい。

土地使用権の確認は、ベトナム特有の重要項目である。土地使用権の種類(割当かリースか)、残存期間、更新可能性、担保設定の有無、使用目的との整合性などを詳細に確認する。特に、工場用地や店舗用地として使用している土地については、使用権の期限到来時に更新できないリスクを評価する必要がある。

交渉で押さえるべき条件

ベトナム企業とのM&A交渉では、いくつかの重要な条項を契約に盛り込むことで、リスクを大幅に軽減できる。表明保証条項は、売主が一定の事実について保証するものである。財務諸表の正確性、税務申告の適正性、重要な契約の開示、訴訟がないこと、知的財産権の保護、許認可の適法性などについて、包括的な表明保証を取得することが重要である。

補償条項(インデムニティ)は、表明保証違反や隠れた債務が発覚した場合の補償方法を定める。補償の範囲、上限額、期間、手続きなどを明確に規定する。ベトナムでは、買収後に予期せぬ問題が発覚することが多いため、十分な補償条項を設けることが不可欠である。

エスクロー口座の活用も有効な手段である。買収代金の一部(通常10〜20%程度)をエスクロー口座に留保し、一定期間後に問題がなければ売主に支払う仕組みである。この期間中に表明保証違反や隠れた債務が発覚した場合、エスクロー口座から補償を受けられる。

アーンアウト条項の検討も一案である。買収後の業績に応じて追加の対価を支払う仕組みで、企業価値評価が困難な場合や、将来の業績に不確実性がある場合に有効である。ただし、業績の測定方法、達成条件、支払時期などを明確に定めないと、後でトラブルの原因となる。

PMI失敗の典型パターンと対策

PMI失敗の最も典型的なパターンは、統合計画の不備である。買収前に描いた理想的なシナジーシナリオだけで、具体的な実行計画を欠いているケースである。誰が、いつまでに、何を、どのように実行するのかが明確でないと、統合は進まない。対策としては、クロージング前に詳細なPMI計画を策定し、責任者と期限を明確にすることである。

コミュニケーション不足も深刻な問題を引き起こす。買収後、日本側からの一方的な指示だけで、現地の意見を聞かないケースや、重要な情報が現場に伝わっていないケースが多い。対策としては、定期的な対話の場を設け、双方向のコミュニケーションを確保することである。経営方針の説明会、定期的な経営会議、現場との直接対話など、複数のチャネルを設けることが有効である。

現地経営陣との信頼関係構築失敗も致命的である。買収直後に現地の経営陣を解任したり、大幅な権限縮小を行ったりすると、優秀な人材が流出し、事業運営に支障をきたす。対策としては、まずは現地経営陣を尊重し、信頼関係を構築した上で、段階的に変革を進めることである。

過度な本社管理による現場の混乱も、よく見られる失敗パターンである。日本本社の細かい承認手続きを導入したり、頻繁な報告を求めたりすることで、現場の意思決定スピードが低下し、ビジネス機会を逃すケースがある。対策としては、重要事項については本社の関与を強めつつ、日常的な業務については現地に権限を委譲し、スピード感を維持することである。


ベトナムM&Aにおける法規制の理解

外資規制と投資法の基礎知識

ベトナムでM&Aを行う際、外資規制の理解は不可欠である。まず、外資による投資が完全に禁止されている業種が存在する。麻薬物質関連事業、希少野生動植物関連事業、売春関連事業、人身売買、爆竹販売事業、債権回収事業などは、外資の参入が一切認められていない。

より重要なのが、条件付き投資分野である。2023年8月時点で228業種が条件付き投資分野に指定されており、これらの業種でM&Aを行う場合、ベトナム政府から事前承認を得る必要がある。条件付き投資分野には、小売業、金融業、通信業、教育業、医療業、運輸業、不動産業など、多くの重要産業が含まれている。

承認取得のためには、詳細な事業計画書、財務計画、技術移転計画、雇用計画などを提出し、審査を受ける。審査には通常数ヶ月を要し、追加資料の提出を求められることも多い。承認が得られない場合、M&A自体が実施できないため、初期段階で承認取得の可能性を十分に検討することが重要である。

外資出資比率の上限も業種ごとに定められている。例えば、小売業では外資比率の制限はないが、銀行業では外資比率30%が上限、証券会社では49%が上限などの制限がある。これらの制限により、完全子会社化ができず、マジョリティ出資に留まることも多い。

投資登録証明書の取得も重要な手続きである。外国人投資家が51%以上の株式を取得する場合、地方計画投資局または工業団地管理委員会から投資登録証明書を取得する必要がある。この証明書は、ベトナムでの事業活動を行う上での基本的な許可証となる。

公開会社と非公開会社の違い

ベトナムのM&Aでは、対象企業が公開会社か非公開会社かによって、手続きが大きく異なる。ベトナムの証券法では、以下のいずれかに該当する企業を公開会社と定義している。①証券取引所または証券取引センターに上場している企業、②資本金100億ベトナムドン以上かつ株主100人以上の企業、③株式を公募した企業である。

重要なのは、日本と異なり、ベトナムでは公開会社が必ずしも上場企業ではない点である。上場していなくても、資本金と株主数の条件を満たせば公開会社となる。

公開会社に対してM&Aを行う場合、TOB(株式公開買付)手続きが義務付けられるケースがある。具体的には、①対象企業の25%以上の株式を取得する場合、②すでに25%以上保有している株主がさらに10%以上を取得する場合、③直近のTOBから1年未満で25%以上保有している株主がさらに5〜10%未満を取得する場合である。

TOBでは、証券当局への届出、公告、一定期間の買付期間の設定などが必要となり、手続きは煩雑である。また、TOBにより80%以上の株式を取得した場合、その後30日間は残りの株式についても買付を継続しなければならない強制買付義務が生じる。

一方、非公開会社のM&Aでは、TOB手続きは不要である。非公開会社の形態には、1人有限責任会社、2人以上有限責任会社、株式会社(株主3人以上)の3種類がある。ベトナムでは、株式会社の設立には時間と費用がかかるため、多くの中小企業は有限責任会社の形態を選択している。

非公開会社のM&Aでは、株主との直接交渉となる。1人有限責任会社であれば1人の出資者と交渉すればよいが、2人以上有限責任会社や株式会社の場合、過半数の株式を取得するために複数の株主と交渉する必要がある。

必要な許認可

ベトナムM&Aでは、様々な許認可と手続きが必要となる。企業登録証明書の変更は、すべてのM&Aで必須の手続きである。株主が変更された場合、企業登録機関に対して変更届を提出し、新しい企業登録証明書の発行を受ける必要がある。この手続きは通常3営業日程度で完了するが、M&A後速やかに行わないと、新しい株主として正式に認められない。

投資登録証明書の取得は、外国人投資家が51%以上の株式を取得する場合に必要となる。地方計画投資局または工業団地管理委員会に申請し、審査を受ける。審査には通常15日程度かかるが、追加資料の提出を求められると、さらに時間がかかる。

業種によっては、サブライセンスの取得が必要となる。例えば、小売業ライセンス、建設業ライセンス、教育ライセンス、医療ライセンスなど、業種ごとに管轄当局から個別の許可を得る必要がある。これらのライセンスは、M&A前に対象企業が既に取得している場合でも、株主変更に伴って再申請や変更手続きが必要となることがある。

土地使用権の名義変更も重要な手続きである。企業が保有する土地使用権は、M&Aにより株主が変わっても自動的には名義変更されない。別途、土地管理当局に対して名義変更手続きを行う必要がある。

これらの手続きは、それぞれ異なる当局が管轄しており、提出書類や審査基準も異なる。経験豊富なアドバイザーのサポートなしに、すべての手続きを適切に完了させることは極めて困難である。


ベトナムM&Aの成功事例

日本企業による成功事例

製造業の成功事例として、2017年にシャープがベトナムのカメラモジュール製造企業SAIGON STEC CO.,LTD.の持分51%を取得したケースがある。取得価額は約3億5,400万円と比較的小規模ながら、シャープはこのM&Aによりカメラモジュール事業の競争力強化を実現した。成功の要因は、明確な戦略目的(技術力強化)、適正な価格での買収、そして買収後の着実な統合にあった。

小売・サービス業の事例では、2021年に森永乳業がベトナムの飲料・ヨーグルト製造販売企業Elovi Vietnam Joint Stock Companyの株式51%を取得し、その後100%まで引き上げたケースが挙げられる。このM&Aにより、森永乳業は新たな販売チャネルを獲得し、商品ラインナップを拡充することで、ベトナム市場での事業を強化した。

成功要因を分析すると、いくつかの共通点が見られる。第一に、明確な戦略目的の設定である。単に「ベトナム市場に進出したい」という漠然とした目的ではなく、具体的に何を達成したいのかが明確であった。第二に、徹底したデューデリジェンスの実施である。財務面だけでなく、事業面、法務面、税務面など、多角的な調査を行い、リスクを事前に把握していた。

第三に、適正な価格での買収である。過度に高い価格で買収すると、その後の投資回収が困難になる。バリュエーションを慎重に行い、納得できる価格で交渉をまとめている。第四に、PMIの重視である。買収後の統合計画を事前に準備し、クロージング直後から着実に実行している。

失敗から学ぶ教訓

一方で、ベトナムM&Aには失敗事例も存在する。よくある失敗パターンとして、デューデリジェンス不足による簿外債務の発覚がある。買収後に多額の未払税金や労務債務が判明し、予定外の出費を強いられるケースである。

失敗の根本原因を分析すると、多くの場合、コスト削減や時間短縮を優先して、デューデリジェンスを簡略化したことにある。また、提示された財務諸表を鵜呑みにし、実地調査や裏付け確認を怠ったことも大きな要因である。

もう一つの典型的な失敗は、PMI計画の不備による統合失敗である。買収後に何をすべきか具体的な計画がなく、現場が混乱し、業績が悪化するケースである。特に、現地経営陣とのコミュニケーション不足や、急激な変更による反発などが、失敗の引き金となることが多い。

これらの失敗を回避するための対策は明確である。第一に、デューデリジェンスを徹底することである。時間とコストはかかるが、後から発覚する問題に対処するコストと比べれば、はるかに効率的である。第二に、PMI計画を事前に詳細に策定し、クロージング直後から着実に実行することである。

第三に、現地の実情を尊重し、急激な変更を避けることである。変革は必要だが、段階的かつ丁寧に進めることで、現場の理解と協力を得られる。第四に、経験豊富なアドバイザーの活用である。ベトナム特有のリスクやベストプラクティスを熟知した専門家のサポートは、成功確率を大幅に高める。


ONE-VALUEのベトナムM&Aアドバイザリーサービス

1,500件以上の支援実績に基づく専門性

株式会社ONE-VALUEは、1,500件以上の豊富な支援実績を誇るベトナムビジネスの専門家集団である。この圧倒的な実績により蓄積されたノウハウと経験が、クライアント企業のM&A成功を支える強固な基盤となっている。

豊富な業種・規模での実績により、製造業、小売業、サービス業、IT業など、幅広い産業でのM&A支援が可能である。数億円規模の小型案件から数十億円規模の大型案件まで、様々な規模のM&Aに対応してきた経験がある。

ベトナム特有の課題への対応ノウハウも豊富である。二重帳簿の実態把握、複雑な法規制への対応、ベトナム人経営者との交渉術、PMIにおける文化統合など、ベトナムM&Aならではの難しさを熟知しており、効果的な対策を提供できる。

成功率を高める独自メソッドも確立している。長年の経験から導き出されたベストプラクティスを体系化し、各フェーズで押さえるべきポイントをチェックリスト化している。これにより、見落としや失敗のリスクを最小化し、高い成功確率を実現している。

ワンストップ支援の強み

ONE-VALUEの大きな強みが、ワンストップ支援体制である。M&Aには、会計・税務、法務、労務、不動産など、多様な専門知識が必要だが、ONE-VALUEはこれらすべての領域をカバーする専門家チームを擁している。

法務・会計・税務・人事の一元管理により、クライアント企業は複数の専門家を個別に手配し、調整する手間から解放される。すべての専門家がONE-VALUEのもとで連携して動くため、情報共有がスムーズで、全体最適の視点からのアドバイスを受けられる。

現地拠点による迅速な対応も大きなメリットである。ベトナムに自社拠点を持ち、常駐の日本人スタッフとベトナム人スタッフを配置しているため、現地情報の収集力に優れ、緊急時にも迅速に対応できる。時差の問題も最小限に抑えられる。

日本語でのフルサポート体制も整っている。現地スタッフとのコミュニケーション、契約書類の日本語訳、日本語でのレポーティングなど、言語面での不安なくM&Aを進められる。日本企業の商習慣や意思決定プロセスも理解しているため、スムーズなコミュニケーションが可能である。

プレM&AからPMIまでの一貫支援

ONE-VALUEのサービスは、M&Aの入口から出口まで、一貫したサポートを提供する点が特徴である。戦略策定の段階から参画し、M&Aの目的設定、ターゲット選定、スキーム策定など、M&A戦略の立案を支援する。

実行フェーズでは、候補先へのアプローチ、交渉支援、デューデリジェンスの実施、契約書作成、各種手続きのサポートなど、クロージングまでのすべてのプロセスを伴走する。ベトナム特有の複雑な手続きも、豊富な経験に基づいて効率的に進められる。

クロージング後のPMI支援も充実している。統合計画の策定と実行管理、ガバナンス体制の構築、経営管理システムの整備、人事評価制度の確立、文化統合支援など、M&Aの投資効果を最大化するための包括的なサポートを提供する。

長期的なパートナーシップを重視しているのもONE-VALUEの特徴である。M&Aは一時的なプロジェクトではなく、長期的な事業展開の一環である。クロージング後も継続的な相談やサポートを提供し、クライアント企業のベトナムでの成功を長期にわたって支援する。


まとめ:ベトナムM&Aアドバイザリー活用の重要性

ベトナムでのM&Aは、高い成長性と魅力的な市場機会を提供する一方で、複雑な法規制、不透明な会計慣行、文化的な違いなど、多くの課題も存在する。これらの課題を克服し、M&Aを成功に導くカギは、優れた専門家の選定にある。

経験豊富なM&Aアドバイザーは、ベトナム特有のリスクを熟知しており、それらを回避するための具体的な対策を提供できる。デューデリジェンスの徹底、適正価格での買収、スムーズな手続き進行、そして効果的なPMIの実現により、M&Aの成功確率は大幅に高まる。

リスク管理と機会最大化の両立こそが、ベトナムM&Aの本質である。リスクを過度に恐れて機会を逃すことなく、かといってリスクを軽視して大きな損失を被ることもなく、バランスの取れたアプローチが求められる。優れたアドバイザーは、このバランスを実現するための羅針盤となる。

ONE-VALUEは、1,500件以上の豊富な支援実績と、ベトナムでの強固なネットワークを活かし、日本企業のベトナムM&Aを全面的にサポートする。プレM&Aからクロージング、そしてPMIまで、一貫したワンストップサービスにより、M&Aの成功を確実なものとする。

ベトナムでのM&Aをご検討の際は、ぜひONE-VALUEにご相談いただきたい。経験豊富な専門家チームが、貴社のベトナムビジネス成功を全力でサポートする。

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