医療需要拡大と供給不足が生む構造的ギャップの深刻化
ベトナムの医療市場では、経済成長と都市化の進展により医療需要が急速に拡大する一方で、高まる医療支出と限られた医療供給との間に大きなギャップが生じている。公立医療の逼迫、私立医療の都市部集中、医療人材不足など複数の構造課題が重なり、患者の家計負担と医療アクセス格差は年々深刻化している。このギャップこそが、医療サービスの改善ニーズと新規参入機会を同時に生み出し、市場全体の変化と拡大を加速させている。

ベトナム医療市場の現実:需要は膨張、供給は追いつかず
ベトナムでは経済成長と都市化の進展により、医療需要が急速に拡大している。医療市場規模は2030年に約340億米ドルへ成長し、CAGRは約7.6%とAmCham Vietnamが推計しており、需要の底上げが続いている。所得向上により医療サービスを「質で選ぶ」層が増え、民間医療機関の利用が拡大している。
医療費は上昇の一途、家計負担は限界に近づく
ベトナムの医療支出は過去10年以上にわたり右肩上がりで推移しており、2022年には GDPの約4.6% に達したとWorld Bankが報告している。こうした支出拡大の背景には、家計が負担する医療費の高さがある。 公的保険制度は拡大しているものの補償範囲は限定的で、高度医療や私立医療を利用する際には依然として高額な自己負担が発生する。
特に慢性疾患やがん治療では継続的な診察・検査・投薬が必要となり、家計への負担は極めて大きい。さらに、都市部の中間層では「混雑回避」や「質の高い診療」を求めて私立病院を選択する傾向が強まっており、これが医療費の上昇を通じて生活コスト全体を押し上げる要因となっている。

食品衛生悪化と生活習慣病の爆発が医療需要を押し上げる
医療需要の増大は、単なる人口増加ではなく、生活環境そのものが病気になりやすい方向へ変化していることが大きく影響している。外食産業の拡大による食品衛生問題は急性疾患の受診を押し上げる一方、都市化に伴う運動不足、喫煙、加工食品の摂取増加は生活習慣病の増加を招いている。実際、ベトナムでは非感染性疾患(NCD)が死亡原因の約8割を占め、がん・心血管疾患・糖尿病など長期治療を必要とする疾病が広がっている。
こうした疾病構造の変化は医療機関の利用を押し上げており、外来患者数は過去10年で約1.5倍に増加し、都市部では年間3〜4%で拡大しているとベトナム保健省(MoH)は報告している。加えて、空気汚染の深刻化により肺がん・肝がん・乳がんの罹患率も上昇しており、急性疾患と慢性疾患の双方が医療需要を継続的に押し上げている。
医療インフラの遅れが医療アクセス格差をさらに拡大
増え続ける医療需要に対し、医療インフラ整備は依然として追いついていない。公立医療は低価格で利用しやすいものの、設備の老朽化が進み、新規患者の受け入れ余力が限られている。病床数は依然として不足しており、地方では医療機関や医師の確保が難しく、地域によって医療アクセスに大きな格差が生じている。
医療供給の“深刻な穴”:病院もクリニックも健診も足りない
ベトナムの医療需要が拡大する一方で、医療サービスの供給は質・量ともに十分とは言えず、公立・私立の役割分担や地域バランスの偏りが医療アクセスの格差を拡大させている。クリニックや健診サービスの不足、専門医・医療スタッフの不足も相まって、医療ギャップは構造的な課題として残り続けている。
公立病院は慢性的に過密、私立は都市部偏在で地方を置き去り
ベトナムには約1,531の医療機関が存在し、そのうち公立が約80%を占める一方、民間医療は限られた都市部に集中している。公立病院は依然として国民の主要な受診先であるものの、財政制約や設備更新の遅れにより十分なキャパシティを確保しにくい状況が続いている。私立病院は高度医療を提供する施設が中心で、都市部に偏在しているため、地方住民にとっては選択肢が限られる構造となっている。

公立病院:108中央軍病院、チョーライ病院、バックマイ病院、フエ中央病院 民間病院:Vinmec、ホンゴック病院
クリニック不足と健診空白地帯が予防医療を阻む
ベトナムにおける私立医療部門の登録クリニック数は約50,000件とされているが、一次診療や定期健診を十分にカバーできる体制とは言い難く、サービス範囲とのミスマッチが大きい。特に地方では健診機能そのものが整備されていない地域も多く、予防医療へのアクセス格差が顕著である。この不足は生活習慣病やがんの早期発見を妨げ、結果として治療費の増大や家計負担の悪化を招いている。
専門医・医療人材の枯渇が高度医療の提供を制限する
2024年時点でベトナムでは人口1万人あたり約12.5人の医師しかおらず、専門医・看護師・検査技師など幅広い医療人材が慢性的に不足している。がん、循環器、整形外科などの高度医療を担う専門医は都市部に偏在し、地方では診療提供体制そのものが脆弱である。これにより、医療機器の導入や高度医療の提供が地域によって大きく異なり、医療サービスの“質”と“量”の両面で制約が生じている。

医療ギャップが生む巨大市場:不足だからこそ参入余地が広がる
医療需要の増加に対し供給が十分とは言えない状況は、多様な領域で新規参入の余地を生み出している。特に、プレミアム医療、専門医療、検査領域、病院運営支援、デジタルヘルスなどは成長期待が高い分野である。
プレミアム医療と健診は“需要過熱”で急成長市場に
都市部を中心に中間層・富裕層が拡大し、質の高い医療サービスを求める層が急増している。医療検査市場(ダイアグノスティクス)では、2024年時点で約18.4億米ドルの市場規模を持ち、2030年には約67.9億米ドルまで成長するとMarkNtelが推定している。このように、がん検診・生活習慣病検査・画像診断など高精度検査サービスの需要は極めて大きく、企業向け健康診断やウェルネスプログラムなど予防医療分野にも広い拡大余地がある。
専門医療・検査・病院運営支援は外部パートナー待望の状態
がん、循環器、整形外科など高度診療のニーズは強いものの、国内では専門医・設備が不足している。ここに日本企業の強みが活かせる領域が広がっている。専門外来の共同運営、手術部門の品質管理、外来・入院フローの最適化、医療安全・感染対策といった病院運営支援は迅速な改善効果をもたらす。また、検査部門では精度管理の強化や検査機器の導入支援に対する需要が高い。日本の医療品質や運営ノウハウは高く評価されており、現地パートナーとの協業も一層進むと見込まれる。
海外企業の積極参入が市場の熱量を証明する
近年、国際的な医療プレーヤーがベトナムへの投資や事業展開を進めており、市場の成長期待を示している。主な参入事例は以下のとおりである。。
- **Raffles Medical(シンガポール):**ホーチミン市のAmerican International Hospital(AIH)の過半数株式を取得し、運営管理に参画。都市部でのプレミアム医療提供を強化している。
- **IHH Healthcare(シンガポール/マレーシア):**アジア最大級の民間医療グループとして、ベトナムの医療・ヘルスケア領域に戦略投資を実施し、医療アクセス向上に寄与している。
- **Sanofi(フランス):**ワクチン・医薬品分野で現地企業と協業し、国内のワクチン製造体制や供給網強化を推進。予防医療領域における外資参入の代表例となっている。
これらの動きは、医療ギャップを補完するサービスに対する需要の高さを示すとともに、日本企業にとっても広範な参入機会が存在することを裏付けている。

ONE-VALUE が参入成功を実現する理由
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ベトナム医療市場のギャップは“最大の参入チャンス”である
ベトナムでは、家庭の医療支出が高止まりする一方で、病院・クリニック・健診サービスの供給不足が続き、医療アクセスの格差や生活習慣病・がんの増加による受診ニーズの高まりが重なっている。食品衛生問題や都市化による健康リスクの上昇も相まって、医療需要と供給のギャップは今後さらに拡大することが想定される。
しかし、このギャップこそが、民間医療、健診、検査、クリニック事業など多様な分野における大きな成長機会を生み出している。ONE-VALUEは、市場調査、パートナー探索、情報整理、面談調整、行政手続きに関する情報提供を通じて、日本企業のベトナム医療市場参入を実務面から総合的にサポートする。医療関連事業の検討に際しては、ONE-VALUE へお気軽にご相談ください。


