都市部で進む高齢化が“新しい介護ニーズ”を生み出した
ベトナムの都市部では、少子化・高齢化・核家族化が急速に進行し、従来の家族介護モデルだけでは高齢者ケア需要に対応しきれない状況が生まれている。ホーチミン市やハノイ市では高齢者世帯の集中が進み、日中の見守りや健康維持を担う外部サービスへの依存度が年々高まっている。
同時に、都市部の中間層・富裕層が拡大し、質の高い医療・介護・健康サービスを求める声が急速に強まっている。医療・介護・ウェルネスを組み合わせた高付加価値型サービスへの需要が都市部で一気に立ち上がり、従来の“介護施設”という枠組みを超えた新しい選択肢が求められるようになっている。
こうした背景のもと、都市部では高齢者が朝から夕方まで滞在し、ヨガ・運動・交流・趣味活動を楽しむ “成人の幼稚園”モデル が新たなサービスとして台頭している。見守り・健康維持・社会参加を包括的に提供するこの都市型デイサービスは、急速に変化する都市部の高齢化ニーズに合致しており、市場の中心的存在になりつつある。
家族介護が崩れ、都市部は本格的な“高齢社会”に突入した
ベトナム都市部のヘルスケア・介護市場は、人口構造とライフスタイルの変化によって、今後10〜20年にわたり継続的に拡大していく領域である。
都市部では、もはや家族だけでは高齢者を支えきれない
ベトナムはアジアでも高齢化の進行が速い国の一つであり、60歳以上人口比率は 2019年11.9% → 2035年には約17% に達すると予測されている。特にホーチミン市・ハノイ市の都市部では高齢者の集中が進み、平均寿命は75〜77歳 と全国平均を上回る。医療インフラや生活水準の高さから、高齢者が都市部へ移住・定住する流れが続き、都市部はすでに“準高齢社会”の様相を呈している。
一方で、都市部の出生率は急速に低下しており、ホーチミン市では TFR 1.39（2024年） と東南アジアでも最低水準に近い。加えて、共働き世帯率は70%以上 に達し、日中に家庭内で介護を担える人材が不足している。こうした状況から、「家族が自宅で介護する」モデルの持続可能性は大きく揺らぎ、日中の見守りや生活支援を外部サービスに頼らざるを得ない家庭が急増している。
成長しているのは人数ではなく“介護＋医療＋ウェルネス”の新価値層
ヘルスケア・介護市場の拡大を支えているのは、単なる人口増ではなく、医療＋介護＋ウェルネスを一体の価値として捉える中間層・富裕層の登場である。健康診断、リハビリ、交流施設、予防医療、メンタルケアなど、多様なサービスが都市部で生まれ、生活の質向上を重視する利用者に受け入れられている。
Kirin Capitalによれば、ベトナムのヘルスケア市場規模は2017年16 Bil USD → 2022年22 Bil USD へ拡大。さらに民間ヘルスケア分野は 2025〜2030年にCAGR 7.5% という高成長が予測されている。医療・介護・ウェルネスを組み合わせた高付加価値型サービスを求める層が都市部で急速に増加しており、これは従来の「病院か介護施設か」という二択を超えた新しい市場を生み出している。
その結果、医療と生活の中間領域 に位置する都市型デイサービスやアクティブシニア向けコミュニティ施設が、都市部の新たな成長セグメントとして存在感を急速に高めている。
制度整備が進み、高齢者ケアは投資の舞台に躍り出た
ベトナム政府は、政令103/2017/ND-CPおよび20/2021/ND-CPにおいて「高齢者ケア施設」を明確に定義し、施設条件・人員配置・サービス水準に関する枠組みを整備してきた。これにより、ヘルスケア・介護市場は「グレーゾーン」から脱却し、民間資本が長期的な視点で投資判断を行いやすい環境が整いつつある。都市部ヘルスケア・介護市場は、人口構造・所得水準・法制度の三つが揃った、数少ない成長セクターであると言える。
市場は伸びるが、参入の壁は依然として高い
拡大する市場の一方で、ベトナム都市部のヘルスケア・介護ビジネスは、参入障壁も決して低くない。特に外国企業や初参入の投資家にとって、制度・運営面のハードルは無視できない要素である。
ライセンスは“知識”よりも“どこで止まるか”が勝敗を分ける
高齢者ケア施設やデイサービスを開設するには、政令103/2017および20/2021に基づく各種条件を満たしたうえで、所管官庁からの許可を得る必要がある。施設基準、安全基準、人員配置基準は細かく定められており、申請書類も多岐にわたる。
さらに、各省・各自治体で解釈や運用が微妙に異なることも少なくなく、現地の事情に不慣れな事業者は、設計や書類のやり直しに時間とコストを奪われるリスクを抱えることになる。ライセンス申請プロセスを読み違えると、オープン時期が半年〜一年単位でずれ込む可能性もある。
ターゲットを誤れば、ヘルスケア事業は一瞬で赤字に沈む
ヘルスケア・介護ビジネスは、社会的意義が大きい一方で、収支構造は繊細である。ターゲットを中間層に置くのか、富裕層にフォーカスするのか、どこまで医療機能を取り込むのか、あるいはウェルネス・コミュニティ重視とするのかによって、必要な投資額も料金水準も大きく変わる。
日本の介護モデルをそのままベトナムに持ち込んでも、文化・家族観・支払い能力の違いから、期待した稼働率を得られないケースは十分想定される。「誰のための、どのようなヘルスケア・介護サービスなのか」を徹底的に言語化し、数字に落とし込む作業が欠かせない。
人材・運営・集客を一体設計できなければ施設は続かない
都市部のヘルスケア・介護市場では、介護・看護人材の量・質の両面で課題が存在する。高齢者ケアの経験を持つスタッフは限られ、教育水準にもばらつきがあるため、統一されたサービス品質をつくるオペレーション設計が不可欠である。
加えて、オープン後の集客も大きな壁となる。高齢者ケアは信頼ビジネスであり、単に広告を打てばよい領域ではない。医療機関、地域コミュニティ、オンラインチャネルなどを組み合わせ、段階的に稼働率を高める戦略が必要となる。施設建設・ライセンス取得・オペレーション・マーケティングを一体で設計できなければ、都市部ヘルスケア・介護市場での成功は難しい。
都市部で広がり始めた新しい高齢者ケアの解決策
こうした課題に対し、ベトナム都市部ではすでに「答えの一部」が動き出している。それが“成人の幼稚園”モデルと、Vin New Horizonに代表される民間投資の本格化である。
一日デイサービスが、高齢者と家族の“日常”を塗り替えた
“成人の幼稚園”モデルとは、高齢者が朝に施設へ来て、夕方に家族とともに帰宅する、一日滞在型の都市型デイサービスである。ヨガや軽い運動、リハビリメニュー、音楽やアート、趣味のワークショップ、少人数での対話プログラムなどを組み合わせ、心身の健康と社会的つながりを同時にデザインする場であることが特徴だ。
家族にとっては「日中の見守りとケアを専門家に任せられる」安心感があり、高齢者本人にとっては「毎日通いたくなる居場所」が手に入る。ベトナム都市部のライフスタイルと親和性が高いソリューションであり、“介護施設”というイメージよりも、アクティブシニア向けライフスタイルサービスとして受け止められやすい。
中間層・富裕層は“介護以上の生きがい”を求め始めている
ベトナムの中間層・富裕層は、親世代に対して「ただ長生きしてほしい」だけではなく、「元気で、自分らしく、誰かとつながっていてほしい」と考えるようになっている。そこでは、従来型の“介護”だけでは価値が不十分であり、健康維持・予防・交流・学び・余暇を含んだトータルな提案が求められる。
“成人の幼稚園”モデルは、このニーズに対して極めてわかりやすい答えを提示している。日中のプログラム設計次第で、要介護手前のアクティブシニアから、軽度の介護ニーズを抱える高齢者まで、幅広い層をカバーできる柔軟性を持つからである。都市部のヘルスケア・介護市場において、このモデルは今後ますます存在感を増すだろう。
Vin New Horizonは介護投資が本格的な成長産業へ変わった証
こうしたトレンドを最も象徴的な形で体現しているのが、VingroupによるVin New Horizonである。Vin New Horizonは、医療・介護・ウェルネス・レジデンス・コミュニティ機能を組み合わせた、都市型高齢者向け複合プロジェクトであり、ベトナムのヘルスケア・介護市場における一つのマイルストーンになりつつある。
注目すべきは、Vin New Horizonが単なる一施設ではなく、グループ全体の成長ストーリーの一部として位置づけられている点である。高齢者ケア・ウェルネス分野が、資本市場における評価や企業価値向上に寄与する「新しい柱」として認識され始めている。これは、都市部ヘルスケア・介護市場が今後も長期的な投資テーマであり続けることを示唆している。
大手デベロッパーが旗を掲げることで、市場全体の認知度と信頼性が高まり、中規模・ニッチな“成人の幼稚園”型デイサービスにも追い風が吹き始めているのである。
ONE-VALUEが提供する参入サポート
ONE-VALUEは、ベトナム都市部のヘルスケア・介護市場で、多くの日本企業の参入準備を支援してきた。市場調査、事業コンセプトの整理、ビジネスモデル策定に加え、政令103/2017・20/2021に基づくライセンス申請支援を数多く実施してきた点が大きな強みである。
ライセンス取得は、その後の信用形成に直結する“最初の関門”であり、ONE-VALUEは書類作成、行政交渉、要件整理まで実務レベルで伴走することで、プロジェクトの立ち上げスピードを大きく引き上げている。
都市部でデイサービスや“成人の幼稚園”モデルを検討する事業者にとって、ONE-VALUEは「まずどこから動けばいいか」を明確にし、最短距離で立ち上げを実現するパートナーである。
“いつか”では遅い──動いた企業だけが次の10年を掴む
ベトナム都市部のヘルスケア・介護市場は、少子高齢化の加速、中間層・富裕層の拡大、大手デベロッパーの本格投資、そして政令103/2017・20/2021による制度整備が重なる稀有な成長領域である。一方で、ライセンス、モデル設計、人材運営、集客といった実務フェーズでは想定以上の壁が立ちはだかり、単なる模倣や一般論では前に進まないのが実情だ。 “成人の幼稚園”型デイサービスのような有望モデルであっても、参入の成否は準備段階でほぼ決まる。
こうした複雑な市場で確実に前進するためには、制度理解だけでなく行政対応・書類要件・立地・オペレーション・集客まで一体で設計できるパートナーの存在が欠かせない。ONE-VALUEは、ヘルスケア施設や“成人の幼稚園”型デイサービスの立ち上げにおいて、市場分析からライセンス申請、運営・集客フェーズまで一貫支援を提供してきた実務集団である。ベトナム都市部で介護・デイサービス事業の立ち上げをご検討される企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
