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汚職撲滅運動から読み解く、ベトナムビジネスのリスクと回避策

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はじめに
この記事で伝えたいこと
  • 2022年から続く一連の汚職撲滅キャンペーンにより、ベトナムビジネスにおける新たなリスクが発生した。
  • 今後、日本企業は慎重にベトナム企業のパートナーを精査し、選ぶ必要がある。
  • 効果的な企業調査を実施することで、リスクを回避することができる。

はじめに

ベトナムはアジアの中で最も魅力的な投資先として、日本企業および先進国から注目を集めていた。その理由の1つは、共産党の一党支配による政治の安定性である。しかし新型コロナの対応に関連した汚職容疑で、グエン・スアン・フック国家主席と2名の副首相、あわせて3名が退任および解任された。トップ閣僚の相次ぐ退任はベトナムの政治史上前例がなく、多くの関係者たちに驚きを与えた。汚職追及の手は政府内だけでなく民間セクターにも向けられており、ベトナムへ進出および進出を検討している日本企業のビジネスにも少なくない影響を与えると予測される。

今回はベトナムの汚職撲滅運動が、日本企業によるベトナムビジネスにどのような影響を与えるかについて考察していきたい。

新型コロナ対応関連での相次ぐ政府要人の逮捕

本章では、近年発生したベトナム政府要人の主な汚職を紹介する。

逮捕された元保健相大臣グエン・タイン・ロン氏(出所:VnExpress

新型コロナウイルス検査キットに絡む不正

相次ぐ逮捕劇の始まりは、2022年6月7日に逮捕された、元保健省大臣グエン・タイン・ロン氏である。ことの始まりは、新型コロナウイルス検査キットの開発・販売を行うベトアー・テクノロジー・コーポレーション(Viet A Technology Corporation)が生産コストを水増しして検査キットを不当に高値で販売。販売先はベトナム全国の省・市に及び、売上高は日本円にして230億円近くにも上った。ロン氏はこの件に関してベトアー社から不当な利益供与を受けていたという疑いがかけられている。この件に関しては元保健省大臣の他にも、当時の科学技術省大臣、ハノイ市長等、100人以上の逮捕者が出ており、不当な利益供与(リベート)の額は50億円近くになると言われている。

臨時帰国便に絡む不正

ベトナム行の臨時帰国便(出所:Vietnam Plus

続いて明るみになったのが、日本に住むベトナム人に向けた臨時帰国便の手配に絡む不正である。新型コロナが世界的に拡大したことにより世界の往来がストップし、日本に住んでいるベトナム人も帰国することができず日本に取り残されるという事態が発生した。こうしたベトナム人への救済策として、政府は日本からベトナムに帰国するための臨時便を手配した。

臨時便で帰国を希望する者は、航空便のチケット代金を払うだけでなく、帰国後に2週間隔離されるためのホテルの宿泊代金を払う必要があった。通常、航空便チケットと2週間のホテル代金を併せても10万円程度である。しかし、帰国便と宿泊施設を手配した旅行会社は、帰国便の利用者に対して適正価格の数倍ともなる過大な料金を請求し、不当に利益を上げていた。この利益の一部は、外務省を始めとする当局への賄賂となった。

この件では、外務省関連の幹部のみならず、当時の駐日大使のブー・ホン・ナム氏、駐マレーシア大使のチャン・ベト・タイ氏等、40人以上の逮捕者が出た。

民間セクターにも向けられた汚職撲滅の矛先

逮捕されたFLCグループ元会長チン・バン・クエット氏(出所:労働新聞

一連の汚職撲滅キャンペーンの矛先は民間セクター、特に不動産業界へも向けられた。2022年4月には新興不動産会社でありバンブー航空等を子会社に持つFLCグループの元会長チン・バン・クエット氏が株価操作の容疑で逮捕され、経済界に大きな衝撃を与えた。FLCグループは傘下に航空会社、証券会社等の多くの分野で事業展開する子会社を有しており、一大コングロマリットとして知られている。

また同じく2022年4月に不動産大手のタンホアンミングループの会長ドー・アイン・ズン氏が少人数私募債発行に関わる不正容疑で逮捕、また2022年後半には同じく不動産大手のバンティンファットグループ(VTP)の会長チュオン・ミー・ラン氏も社債の発行を巡る不正の容疑で逮捕された。

こうした一連の逮捕劇を受け、外国投資家はベトナムの不動産セクターへの投資はリスクが高いとして投資を控えるようになった他、地場金融機関も与信管理を厳しくし、不動産価格の下落の一因となった。

2023年のベトナム不動産市場については以下の記事で紹介しています。

汚職撲滅か、権力闘争か

グエン・フー・チョン書記長(出所:政府新聞

上述した一連の汚職撲滅キャンペーンを、よりベトナム政治がクリーンになる動きとして評価する声もある一方、共産党内の権力闘争の一環に過ぎないのではないかという意見も多い。

汚職撲滅キャンペーンをリードするグエン・フー・チョン書記長

汚職撲滅キャンペーンをリードしてきたのが、ベトナム共産党書記長であり同国の最高指導者である、グエン・フー・チョン書記長である。ハノイ国家大学卒業後にベトナム共産党に入党し、党の機関雑誌「共産雑誌(Tạp chí Cộng sản)」の編集長を経て、政治局員に選出。2011年に党書記長に選任された。2023年現在、チョン書記長は3期目を迎えており、書記長の再任は2期までという党規約を超えた状態となっている。

汚職撲滅キャンペーンとの関わり

今回退任したフック首相や逮捕された高官は、資本主義をより前向きに進めていく「改革派」であったという見方が強い。特にフック首相は外国企業への市場開放、投資の誘致に対して積極的な姿勢を取っていた。また逮捕された不動産開発企業の代表たちも、チョン氏の政治的ライバルに近い存在であったと言われている。そのため、国内外の一部の専門家は、今回の汚職撲滅キャンペーンはあくまでチョン氏が、自身の政治基盤をより盤石にするための「粛清」だったのではないかという見方を取っている。

日本企業のベトナムビジネスへの影響

ホーチミン市の摩天楼(出所:現地報道 民族と発展

このような状況はベトナム国内政治のみならず、ベトナム経済にも大きな影響を与えている。ここでは日本企業のベトナムビジネスに対してどのような影響が考えられるかを考察していく。

投資プロジェクト認可の遅れ

政治犯罪に対して容疑の特定、逮捕を行うのはベトナム公安局であるが、その容疑の定義、基準は曖昧であることが多い。特にベトナムでは「国家財産に損害を与える行為」も汚職の定義に含まれるとされており、故意の有無に限らず意思決定により罪に問われる可能性がある。

このため、相次いで政府高官が逮捕される中、「次は自分ではないか」と恐れる政府当局の担当者たちは、重要な意思決定することに消極的になっている。特に大型の海外からの投資プロジェクトの許認可が進んでおらず、数千ものプロジェクトがペンディングされた状態となっている。

ベトナム企業と提携するにあたってのリスク

日本企業がベトナムビジネスを行うにあたって、ベトナム現地企業のM&A、合弁会社設立、業務提携などがよく行われる。一方で、今回の汚職撲滅キャンペーンは民間企業にまでもがターゲットとなっており、ベトナム現地のパートナー企業が捜査の対象となる、または経営陣が逮捕されるリスクが高まっている。

ベトナムでは大きい企業であればあるほど、ベトナム当局との関係が深くなるのが特徴である。また元国営企業では共産党員や政府幹部が経営陣となっているケースも少なくない。こうした場合、不正行為を行っていなくても、過去に遡って「国家財産に損害を与える行為」として罪に問われる可能性がゼロではない。

もしそのような事態が発生した場合、ベトナムビジネスが行き詰まるだけでなく、日本本社へのレピュテーションリスクも考慮に入れる必要があり、日本企業にとっては頭の痛い事態となる。

日本企業にとってのリスク回避策

上述のようなリスクを避けるために、日本企業はより慎重に投資プロジェクトを見極めるともに、現地企業およびその経営陣を精査する必要がある。

例えば、M&Aで良く実施される人事デューデリジェンス(DD)が、リスク回避策として有効である。人事DDでは経営陣や企業のキーパーソンの経歴、政治行動、過去に不正を行ったリスク等を精査するものであるため、日本企業にとってより安心して現地パートナーと提携するための有効な手段である。

また企業内部だけでなく、企業の取引において政府関係者とどのような取引を行っているかも精査する必要があるだろう。

さいごに

本記事ではベトナムにおける汚職撲滅キャンペーンがベトナムビジネスに及ぼす影響、および日本企業によるリスク回避策について解説してきた。クロスボーダービジネスにおいて諸々のリスクは付き物であるが、それでも日本企業にとってベトナムが有望な投資先であることは変わりがない。VietBizおよびONE-VALUEではベトナム企業の信用調査を含めた企業調査サービスを提供しているため、本記事の内容についてより深く知りたい方は、ぜひお問合せをいただきたい。

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