はじめに
2025年7月、米国のドナルド・トランプ前大統領は14カ国に対して25~40%の関税を課す措置を発表し、国際経済に大きな衝撃を与えた。対象国には日本や韓国をはじめとする主要貿易国に加え、カンボジア、タイ、マレーシア、ラオス、そしてベトナムも含まれており、ベトナムには20%の相互関税が課されることとなった。
ベトナムは近年、安定した政治体制、低コストの労働力、自由貿易協定(FTA)の積極的活用を背景に、「中国+1」戦略の主要拠点として国際的な製造・輸出ハブの地位を確立してきた。特にアメリカ市場への輸出はベトナム経済の柱であり、2024年には総輸出額の約30%、1,200億ドル以上を占めるに至っている。
このような状況下での対米関税措置は、ベトナム経済の持続的成長に対する重大なリスク要因となり、特に繊維・履物・電子部品などの主要輸出産業は価格競争力の低下に直面している。また、中国からの迂回輸出経路としての機能にも規制が強化される見通しであり、サプライチェーン全体の再構築が迫られる。
本レポートでは、ベトナムに対する関税措置の発表を契機として、2025年以降のベトナム経済と投資環境にどのような影響が及ぶかを分析し、今後日本企業や外国投資家がとるべき対応戦略を展望する。政治・通商リスクが再び高まるなかで、ベトナムは引き続き有望な投資先たり得るのか。その問いに答えるのが本稿の目的である。
トランプ氏、14カ国に対し25~40%の関税を発表
CNBCによると、ベトナム時間の7月8日未明、アメリカのドナルド・トランプ前大統領は14カ国に宛てた書簡を公表し、2024年8月1日から発効する25~40%の関税措置を通知した。
最初に通知を受けたのはアメリカにとって重要な貿易相手国である日本と韓国であり、それぞれ25%の関税が課される予定である。これら2カ国は2024年にアメリカに対する貿易赤字が最も大きく、それぞれ**690億ドル(日本)と660億ドル(韓国)**に上った。
また、トランプ氏は次のような関税を発表した:
マレーシア、チュニジア、カザフスタン:25%
南アフリカ、ボスニア・ヘルツェゴビナ:30%
セルビア、バングラデシュ:35%
カンボジア、タイ:36%
ラオス、ミャンマー:40%
この発表の直前、トランプ氏は7月9日予定だった関税発効日を8月1日に延期する大統領令に署名した。その大統領令では、「追加情報および複数の高官からの勧告に基づいてこの決定を下した」と述べている。
書簡の中で、トランプ氏は「我が国と貴国との関係次第で、新たな関税率を調整する『可能性がある』」と明記している。
ベトナム経済・ビジネス関連の有料レポートはこちらからもご覧いただけます。