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ベトナム市場調査環境・再生可能エネルギー

ベトナムの水力発電市場の現状と将来展望

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水力発電市場の動向:発電量、成長率、新規開発のポテンシャル 

ベトナムの水力発電は長年にわたり国内の主要電源として位置づけられてきた。2023年時点で、国内総発電量の約30%を占め、石炭火力発電に次ぐ第二の電源として重要な役割を果たしている。2023年末時点で、全国における水力発電設備容量は22,872MWに達し、年間発電量は750~850億kWhである。 

2050年までの方向性として、水力発電の総設備容量は40,624MWに達すると見込まれ(全システム総設備容量の6.3~7.3%)、年間発電量は1,148億kWhに達する見通しである。この目標を達成するためには、低落差水力、小水力、揚水発電、潮汐発電など、残存する水力資源の最大限の活用が必要である。 

しかし、環境規制や社会的影響評価の厳格化により、実際に開発可能な案件数は限られている。近年の主な開発は、小水力発電の導入、既存施設の出力向上、および新たな揚水式水力発電所の建設に集中している。 

水力発電にかかるDPPA(直接電力購入契約)の動向 

ベトナム政府は再生可能エネルギーの普及促進策として、直接電力購入契約(Direct Power Purchase Agreement:DPPA)制度の導入を進めている。DPPAとは発電事業者が大口需要家と直接電力を取引できる制度であり、ベトナムでは2023年に制度化が始まった。制度対象には主に太陽光や風力が含まれているが、小規模水力発電(自営線モデル)もDPPA制度上は対象となっている。 

しかし、現状では水力発電案件に対するDPPAの利用は限定的である。多くの大規模水力発電所はEVNとの長期PPA契約を締結しており、DPPA移行のメリットが少ないためだ。一方、中小規模水力発電プロジェクトについては、今後DPPAの活用により収益安定化や資金調達の多様化が期待されている。ただし、送電インフラの制約や制度運用の不確実性が課題となっており、当面は限定的な利用に留まると見込まれる。 

水力発電のM&Aの動向:セカンダリーマーケットの活性化 

本章は水力発電のM&Aの動向:セカンダリーマーケットの活性化について解説する。

 新規開発余地は限定的の理由 

ベトナムの水力発電市場において新規開発余地が限定的であるのは、大規模に適した開発地点の枯渇、環境・社会的影響への懸念の高まり、および太陽光や風力といった他の再生可能エネルギーとの競争激化が主な要因である。 

このため、今後の投資戦略は、既存水力発電施設のリパワリングや効率化、並びにセカンダリーマーケットを通じた既存資産への投資が中心となると考えられる。ここで言う「セカンダリーマーケット」とは、既存の水力発電所の売買市場を指す。つまり、新しくダムや発電所を建設する(=グリーンフィールド投資)のではなく、すでに稼働している水力発電所の運営権や株式を取得する形で市場に参入する、という意味である。 

特に、日本企業を含む外国資本にとっては、安定した収益基盤を持つ既存資産への投資機会が拡大しており、ベトナム水力発電市場は引き続き魅力的な投資対象である。 

 水力発電のM&A市場の活性化 

ベトナムにおける水力発電のM&A市場は、2015年以降、特に2021年前後から顕著な活性化を見せている。主因は、国内市場における新規開発余地の減少に伴い、既存資産への投資需要が高まったためである。セカンダリーマーケットが活性化した背景には、国内の電力市場自由化の推進、発電の民営化進展(発電への民間投資)、海外投資家の関心の高まりなどが挙げられる。 

事例として、2016年に日本のオリックスとパートナー企業がBitexco Power社(BPC)に約5000万ドルを出資し、ベトナム水力市場における外資参入の先駆けとなった。具体的には、オリックス株式会社(本社:東京都港区、社長:井上 亮)とUOB Venture Management Pte Ltd.(本社:シンガポール、Managing Director:Seah Kian Wee)と共同で、ベトナムで水力発電事業を営むBitexco Power Corporation(本社:ベトナム、Chairman:Vu Quang Hoi、以下「BPC」)から、第三者割当増資により約50百万米ドル相当の株式を取得することに合意した。オリックスの株式取得額は本件株式取得額の50%である約25百万米ドルになる。 

また、2022年には日本の中部電力が同じくBPCの株式20%を取得するなど、日系企業によるベトナム水力への投資が目立っている。2023年には東京電力リニューアブルパワーもベトナム上場企業VNPD社の株式を取得し、ベトナム国内の水力発電運営に参画するなど、外国資本の関与が増加している。 

こうした動きから、現在のベトナムの水力発電M&A市場は、初期投資フェーズから資産運用・効率化フェーズへと移行しており、セカンダリー市場の重要性が今後も継続的に高まることが予想される。 

主要プレーヤによる案件開示の動き 

本章は主要プレーヤによる案件開示の動き について解説する。

 主要プレーヤ 

ベトナムの水力発電市場は、国営企業のベトナム電力公社 (EVN) が中心的な役割を果たす一方で、民間企業や外国資本の参入が進んでいる。特に、日本企業は技術力を活かし、既存施設の効率化や新規開発に積極的に関与している。今後も、再生可能エネルギーへの関心の高まりとともに、国内外の企業による投資が期待される。​ 

EVN 

EVNは、ベトナム政府が設立する国営企業である。電力の発電・送電・配電を一貫して担当し、国内の電力供給を安定させる役割を果たす。特に水力発電分野において、EVNは圧倒的な存在感を持つ。自社で複数の大規模水力発電所を所有・運営し、全国の電力供給量の大部分をカバーする。代表的な施設には、東南アジア最大級のソンラ水力発電所(2,400MW)がある。これに加え、ホアビン水力発電所、ライチャウ水力発電所など、戦略的に重要な発電所も運営する。 

EVNは、気候変動対策や再生可能エネルギー推進にも力を入れ、水力発電の効率向上や新規開発を積極的に進める。国家のエネルギー政策と密接に連携しながら、安定供給と環境負荷軽減の両立を目指す姿勢が特徴である。 

Bitexco 

Bitexco は現在、ベトナムにおける水力発電に最も多く投資している民間企業の 1 つである。 Bitexco Group 内で、Bitexco Power はエネルギー分野に特化した子会社である。 

2002年以来、Bitexcoは水力発電への投資を開始した。 第一段階では、Bitexcoが金融投資家の役割を果たし、EVN、Song Da Corporation などの技術力のあるパートナーと提携した。 

2006 年から 2014 年にかけて、技術を習得した後、Bitexco はいくつかの新しい水力発電プロジェクトを自社開発した。 

2015年以来、BitexcoはHoang Anh Gia Lai社、IDICO社などのデベロッパーからいくつかのCOD済の水力発電所を買収した。 

2024年現在、Bitexcoは合計設備容量約1,000MWの水力発電所23ヶ所の株式を保有している。 

将来的に、Bitexcoは、2035年までに水力発電を含む各種電源総容量が5,000MWとなり、ベトナムのエネルギー業界への投資をリードする民間企業になることを目指している。 さらに、Bitexco Power はベトナムの電力の大手卸売・小売業者、炭素クレジットの投資家/販売者となることを目指している。 

REE Corporation 

REE Corporation(株式コード:REE)は、ベトナムの大手民間企業であり、インフラ、エネルギー、不動産分野において多角的に事業を展開する。エネルギー部門では、水力発電を重要な収益源の一つと位置付ける。自社所有または出資による複数の中小規模水力発電プロジェクトを運営し、安定した電力供給と持続的な収益確保を図る。REEは、水力発電事業を通じて長期的な成長戦略を推進し、発電所の効率向上や発電容量の拡大にも取り組む。 

2022年末までに、REE Corporationは17の水力発電所の株式を所有し、総設置容量は1,310.3MWとなる。そのうち、REE Corporationが所有する株式割合に相当する容量は512MWである。 

REE Corporationは 2 つの形式で水力発電業界に投資している。1つ目は、REE Corporationが資本提供する投資家として、 新規プロジェクトを建設するために、技術が充実している EVN CPC、EVN GENCO 2 などと提携する。2つ目は、すでに開発されているプロジェクトの株式を買収するために M&A を実施する形式である。 

案件開示の動き 

水力発電市場の成熟化に伴い、主要プレイヤーによる情報開示の動きも活発化している。従来、発電プロジェクト情報は国営企業であるEVNが中心だったが、近年では外資系企業や民間企業の情報開示も増加している。 

Bitexco Power社は、オリックスや中部電力による投資を受け、出資元企業からの情報開示を通じて透明性を高めている。こうした海外企業が自社の投資案件として情報公開を行うことで、投資環境の透明性向上に貢献している。さらに、Gia Lai Electricity JSC(GEC)は国際金融公社(IFC)やシンガポールのクリーンエナジーファンドからの投資を受け、投資家向けの積極的な情報開示を進めている(IFC報告書、2023年)。 

ベトナム国内企業のREE Corporationも自社保有の水力発電資産の運用状況を株主に定期的に開示している。このように、ベトナム水力発電業界は市場の成熟化に伴い、プレイヤー間の情報透明性が向上し、投資家にとって投資判断を行いやすい環境が整いつつある。 

結論 

ベトナムの水力発電市場は、依然として国内電力供給の中核を担う一方、新規開発余地は限定的であり、設備の効率化や既存施設の拡張が中心的な戦略となっている。当面限定的な影響に留まる見込みである。 

セカンダリーマーケットでは、2021年以降、特に外国企業を中心としたM&A活動が活発化している。日本企業を含めた外国資本が既存水力発電資産に積極的に投資しており、市場の流動性が高まっている。 

情報開示の進展も著しく、主要プレイヤーが積極的に情報を公開することで市場の透明性が向上し、ベトナムの水力発電市場は投資対象としての魅力を増している。今後も安定的な収益源として水力発電資産への投資需要は継続すると見られ、ベトナムの水力発電分野は引き続き投資家の注目を集めるであろう。 

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