1.はじめに
2026年に入り、ベトナムは経済構造の本格的な転換局面に入った。2026年1月6日、ベトナム共産党政治局は国有経済の発展に関する決議79-NQ/TWを発出し、これにより同国は2024年末から2025年にかけて連続的に策定されてきた一連の制度改革を、実行フェーズへと移行させた。
この政策パッケージは、国有経済の役割を再定義するのみならず、民間経済の成長余地を拡大し、質・効率・イノベーションを重視する成長モデルへの転換を明確に示すものである。
日本企業にとって、これは単なるマクロ政策の変更ではなく、M&A、官民連携、長期戦略投資における新たな投資サイクルの到来を示すシグナルである。
2.決議79-NQ/TW(2026年1月6日):国有経済の再定義と選別的な資本撤退方針
決議79-NQ/TW(2026年1月6日付)は、新たな発展段階における国有経済の位置付けを定める基幹文書である。本決議は、従来のように国有企業(SOE:State-Owned Enterprises)の関与範囲を広げるものではなく、国家が主導すべき戦略分野に資源を集中させる方針を明確にした。
具体的には、インフラ、エネルギー、ロジスティクス、金融、基幹工業といった分野において、国家が安定化機能と方向付けの役割を担う。一方で、国有企業に対しては財務規律と税務管理の強化、国際標準に沿ったガバナンス改革、デジタル経営の導入が求められている。目的は、限られた数の国有企業を地域・国際レベルで競争可能な「ナショナル・チャンピオン」へと育成することである。
同時に、国有資本の選別的な撤退(ディスインベストメント)が明確な政策手段として位置付けられた。国家が支配株式を保有する必要のない企業については、段階的な資本売却を進め、民間および外国投資家の参入を促す方針である。このプロセスにおいて、国家資本投資・経営総公社(SCIC)は中核的な役割を担い、すでに上場済みで事業基盤が安定した大手企業が対象リストに含まれている。
もっとも、ベトナムにおける国有資本の取得は、承認プロセスや評価手続きが複雑で、取引期間が長期化する傾向がある。したがって、日本企業には中長期視点と、制度運用に精通した専門家の関与が不可欠となる。
3.ベトナム国有企業はなぜ日本企業にとって戦略資産なのか
決議79号の下で再編が進む中にあっても、ベトナムの国有企業は依然として戦略的価値の高い投資対象である。特に長期的な市場参入を志向する日本企業にとっての魅力は、その財務規模以上に制度的優位性にあると言えよう。

第一に、国有企業は政府機関との強固なネットワークを有し、規制産業における中核的プレイヤーである。エネルギー、インフラ、ロジスティクスといった分野では、事業ライセンスや運営権が事実上限定的であり、民間企業がゼロから取得することは容易ではない。
第二に、多くの国有企業は戦略的立地における土地資産や既存インフラを保有している。これらは日本企業が短期間で構築することが難しい資産であり、株式取得や戦略提携を通じて初めてアクセス可能となる。
特に、日本のインフラ・重工業系企業にとって、国有企業とのM&Aは2026~2030年に本格化する国家プロジェクトへの参画ルートとなる。SCICや所管省庁のエコシステムに属する企業への資本参加は、単なる財務投資にとどまらず、ベトナム市場における長期的なポジション確立にもつながる。
ONE-VALUEの実務経験から見ると、2025~2026年にかけて、日本企業による国有企業の資本撤退案件への関心の高まりは顕著になってきている。一方、成功を掴むには、詳細なデューデリジェンス、長期的な交渉の調整力、国有企業特有のガバナンス理解が不可欠である。
4.2024~2025年の主要決議群、決議198号と2025~2026年のM&A動向
決議79号に先立ち、ベトナム共産党政治局は2024年末から2025年にかけて一連の基幹決議を相次いで採択した。いわゆる「4つの柱」となる決議である。
- 決議57-NQ/TW:国家の科学技術・イノベーション・デジタル転換の突破的発展(2024年12月22日)
- 決議59-NQ/TW:新たな国際情勢下での国際統合(2025年1月24日)
- 決議66-NQ/TW:法制度の構築・執行改革(2025年4月30日)
- 決議68-NQ/TW:民間経済の発展(2025年5月4日)
これらの決議により、民間経済はベトナム経済の重要な成長エンジンの一つとして明確に位置付けられ、行政手続きの簡素化、イノベーション促進、国際統合の加速が進められている。
加えて、2025年の国会決議198号は、経済違反に対して刑事処罰よりも経済的措置を優先する考え方を打ち出し、投資環境の安定性を高めた。このアプローチは、企業再編やM&A、イノベーション投資における法的リスクを低減する効果を持つ。
こうした制度環境の下、ベトナムのM&A市場は2025~2026年にかけて「選別的再編フェーズ」へと移行している。インフラ、エネルギー、製造業、ロジスティクス、デジタル経済分野を中心に、戦略性の高い取引が増加している。法的安定性と長期視点を重視する日本企業にとって、現在のベトナムは中・大規模M&Aに適した市場環境が整いつつあると言えよう。
5.結論
決議79-NQ/TW(2026年1月6日)、決議68-NQ/TW(2025年5月4日)、および国会決議198号(2025年)の相乗効果により、日本企業はベトナムにおける戦略を再定義すべき重要なタイミングを迎えている。
国有企業の資本撤退案件を通じた参入であれ、成長する民間企業との戦略提携であれ、制度運用の実態を正確に理解することが成功の鍵となる。
ONE-VALUE(VietBizの運営会社)は、ベトナムの官庁・企業ネットワークに深く根差したコンサルティング会社として、日本企業向けに以下のサービスを提供しています。
- 市場調査(Market Research):主要決議に基づく重点産業の分析
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- M&Aアドバイザリー(M&A Advisory):国有企業の資本撤退案件へのアクセス、デューデリジェンスおよび取引実行支援
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