1. はじめに
2025年、ベトナム国会は「198/2025/QH15号決議」により、民間経済の発展を促進するための特別な制度と政策を導入する。この決議は、外国企業や投資家にとって、事業環境の透明性と安定性を高める重要な転機となる。
2. 法律の遡及適用を禁止
決議の中で最も注目すべき点は、企業・個人事業主に不利な形で法律を過去に遡って適用することを禁止する原則である。これは、法令が将来に向けてのみ適用されるべきであり、企業が過去に行った行為について、後から制定されたルールで不利に裁かれることがないことを意味する。この方針は、法的安定性を確保し、事業リスクを軽減する。
ベトナムにおいて「法律の遡及適用を禁止する」原則は、多くの業界にとってメリットがあるが、特に電力業界(発電・供給・投資)では極めて重要な安心材料になる。
2017〜2021年頃、ベトナム政府は再生可能エネルギー(RE)促進のために、**固定価格買取制度(FIT制度)**を導入し、太陽光・風力発電に対して有利な価格での電力買い取りを保証していた。多くの外資系企業(例:日本、韓国、シンガポール企業)がこの制度を信頼し、数千万〜数億ドル規模の投資を行った。
しかし、2021年以降、政府がFIT制度を終了し、新制度の導入を検討した際、一部の投資家の間で以下の懸念が広がった:
「既存のプロジェクトにも新しい低価格ルールが遡及的に適用されるのではないか?」
「買取価格が下げられることで、当初想定した投資回収計画が崩れるのではないか?」
このような**「ルール変更の遡及適用」**は、特に長期契約を前提としたインフラ・電力投資において、大きな法的・財務的リスクとなる。
このような状況において、「遡及適用禁止」を明文化した本決議の存在は、次のような実務上の安心材料になる。
投資の予見可能性が高まる:FIT制度など過去の制度に基づき契約・運転している発電所に対して、新しい法律や価格政策が不利に適用されないと保証されることで、事業計画が安定する。
資金調達の信用向上:金融機関(特に日本の商業銀行や国際投資機関)は、「将来的に政策が変わっても、過去にさかのぼって適用されない」ことで、長期ローンの与信リスクが低下し、ファイナンスが容易になる。
日本企業の出口戦略にも好影響:日系インフラ企業がEXIT(売却・譲渡)を検討する際も、「過去の契約条件が守られる」保証があることで、買い手候補の企業も安心してM&A交渉を進められる。

3. 優先すべきは経済的解決
違反行為が発生した場合でも、刑事責任の追及より、まずは民事・経済的手段による問題解決を優先するとされている。企業・個人事業主が自発的に違反を是正し、被害を補償する努力をした場合、それが刑事責任追及の判断材料となる。
また、刑事訴追の可能性がある場合でも、法の運用上に解釈の幅があるときは、安易に刑事責任を問わず、処罰を控える柔軟な対応を求めている。
4. 無罪推定の原則を徹底
調査・起訴・裁判の各段階において、「無罪推定の原則」を厳格に守ることも強調されている。証拠が不十分な場合、迅速に結論を出し、公表する必要がある。
また、資産の差し押さえや凍結においては、手続きの正当性や相当性を確保し、企業や個人の正当な利益を不当に侵害しないことが求められる。差し押さえ資産の評価も、実際の損害額と釣り合いが取れている必要がある。
5. 合理的な調査と事業継続の両立
捜査活動においては、関係当局の合意のもと、企業の生産・経営活動に対する影響を最小限に抑える手段を講じることとされる。これは、調査と同時に企業の運営継続を確保し、経済的損失の拡大を防ぐ目的である。
6. 資産の区別と活用の明確化
企業の資産と経営者個人の資産は厳格に区別される。また、合法的に得た資産と違法行為に関連する資産を明確に分離し、証拠品や関連資産は迅速かつ効率的に処理することが推奨される。その際、国家の利益を守りつつ、私企業の合法的利益も保障しなければならない。
さらに、使える資産は早期に活用し、社会・経済への還元を図る。資産を放置せず、活用することで資源の無駄遣いを防ぎ、投資環境の改善にも寄与する。
7. おわりに
本決議は、法の予見性・公正性・経済合理性を重視する方向性を明確に示すものであり、外国投資家にとって大きな安心材料となる。特に、法の遡及適用を禁止することは、ベトナムで事業を展開する上での法的リスクを大幅に軽減する。今後のベトナム経済において、法整備の透明化と法的安定性の向上が、さらに外国資本の呼び込みを後押しするだろう。
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