はじめに
ベトナムでは韓国のコンテンツが急速に人気を集めており、特に美容分野においてその影響は大きいとされている。ベトナムの消費者にとって、音楽やドラマ、食事と同様に、韓国コスメは手頃な価格で高い効果を持つことから関心が高まっており、今後もその人気は持続すると見込まれている。特に、韓国のスキンケア製品は、品質と価格の観点から、ベトナム人の心をつかんでいる。
さらに、韓国コスメなどの美容トレンドは、SNSを通じて瞬時に広がり、多くのベトナム人がその情報に容易にアクセスできるようになった。これにより、韓国コスメは単なる流行ではなく、ベトナム市場における定番となりつつある。
また、韓国企業の積極的なマーケティング戦略や、現地の消費者ニーズに応じた商品開発も、人気を後押ししている理由と言える。今後も、韓国の美容文化がベトナムに与える影響は一層強まり、化粧品市場の成長を牽引する要因となるだろう。
本レポートでは、韓国コスメの進出がベトナムの化粧品市場に与える影響について解説していく。
ベトナムで化粧品市場が拡大している
ベトナムの化粧品市場の収益は年々増加傾向にある。この背景には、①人口の増加、および、②経済成長による可処分所得の増加、③SNSやECの普及、そして、④ベトナム人の美容意識の高まりなどがある。
ベトナムの人口動向
ベトナムの人口は2023年3月時点で1憶人に達しており、2040年頃には日本の人口を上回ると予測されている。ベトナムの人口は世界で15番目、東南アジアでは、インドネシアとフィリピンに次いで3番目の規模となっている。
ベトナムのGDP成長
ベトナムの2024年以降のGDP成長率は、年平均約6.2%と予想されており、ベトナム人の一人当たりGDPは、2025年に3931ドルに達すると見込まれている。一般的に一人当たりGDPが3000ドルを超えると、国民の耐久消費財(自動車や家電など)への購買意欲が急速に高まるとされている。ベトナムの化粧品市場は、経済成長に伴って人々の可処分所得が増加し、今後さらなる成長が期待されている。
ECとSNSの発展
ベトナムではコロナ禍を通じて、EC(電子商取引)の普及が進み、消費者が多様な情報にアクセスしながら、より個々のニーズに合わせた商品を購入できる環境が整いつつある。近年はSNSの普及とともに、企業のマーケティング戦略にも変化が見られる。例えば、SNSで大きな影響力を持つインフルエンサーを活用して、商品やサービスのプロモーションを行うインフルエンサーマーケティングや、ライブ動画の配信中に、配信者がリアルタイムで視聴者とコミュニケーションを取りながら、商品やサービスのプロモーションを行うライブコマースなどがある。ベトナムのEC市場には、2022年4月にTikTok Shop(ティックトック ショップ)が参入し、2023年の第2四半期の売上シェアが、これまで2位であったLazadaを上回ったとされている。ベトナムで急成長を遂げているTikTok Shopとは、TikTokアプリの中で出店から決済まで一貫して行えるECプラットフォームである。日本ではまだ導入されていないものの、ベトナムを含めた複数の国で展開されており、急速に市場シェアを拡大している傾向が見られる。
ベトナム消費者の美容意識の向上
ベトナムではさらに、人々の美意識の向上に伴い、美容クリニックやエステ、化粧品店の数、そして消費者の美容製品への支出も増加傾向にある。ベトナムは比較的赤道に近く日差しが強いため、日焼けやシミ対策に対する関心が高まっており、特にスキンケア商品の需要が拡大しつつある。
このような背景から、ベトナムの化粧品市場は今後も成長が見込まれている。
韓国コンテンツの影響が強い
ベトナムの化粧品市場は2015年の約15億ドルから2027年には27億ドルにまで成長すると予測されている。韓国コスメの市場参入が、この成長の大きな要因の1つとされている。韓国コスメは、自然由来の成分で作られる製品が多くあり、現地消費者のニーズに応える柔軟な商品開発が行われている。特に、SNSやインフルエンサーを活用したマーケティング戦略が功を奏し、ブランドの認知度を高める要因とされている。多くのベトナム人が韓国の音楽やドラマ、ファッションに影響を受けているため、韓国コスメは単なる流行にとどまらず、生活の一部として定着しつつある。
本章では具体的事例として、2つの韓国コスメブランドの事例を紹介する。
ベトナムで注目を集めた韓国化粧品ブランド①:イニスフリー(innisfree)
ベトナムで特に人気を博している韓国コスメブランドのイニスフリー(innisfree)は、フランスのオーガニック製品認証機関であるエコサート(ECOCERT)によって、天然で安全かつ良性の成分を使用した製品であると認められたブランドである。ベトナムのECサイトによると、イニスフリーの化粧品購入者のレビューが285件ほど投稿されており、全て満点の5点評価を獲得している。ベトナムでのイニスフリーは、韓国よりも20%ほど高い価格設定にもかかわらず、トップクラスの化粧品ブランドとしての地位を確立している。
ベトナムには2016年以降、ハノイ・ホーチミン・ニャチャンなどのベトナムの主要都市を中心に市場参入がされている。翌年2017年には、ベトナムでinnisfree Festaと呼ばれるイベントが初めて開催され、イベントでは、イニスフリーの化粧品を実際に試すとのできるブースが設置されたほか、スキンケアに関するワークショップや、韓国の美容トレンドに関するセミナーなどが実施された。また、参加者には特別な割引やプレゼントが用意され、来場者の購買意欲が刺激された。さらに、イベントには韓国の女優・アイドルであり、「国民の初恋」として世界的に有名なYoonaが参加し、イベントでは多くのベトナム人の関心を集めるきっかけとなった。
ベトナムで注目を集めた韓国化粧品ブランド②:Manyo Factory(マニョファクトリー)
ベトナムの化粧品市場において、ヴィーガンコスメ(動物由来の成分を一切使用していない化粧品)は消費者の関心を集める新たなトレンドとなりつつある。ベトナムでは特に、韓国発のヴィーガンブランド「Manyo Factory(マニョファクトリー)」が人気とされている。 Manyo Factoryの化粧品は天然由来の成分を使用した無添加処方となっている。人工的な防腐剤や香料、着色料などの化学物質が含まれておらず、肌の負担が少ない処方がなされている。
ベトナムで人気となった背景の1つは、SNS上での印象的な広告戦略の実施である。例えば、韓国の男性アイドルグループのTreasure、女優のSon Ye Jinなどとのコラボレーションが挙げられる。また、ブランドアンバサダーにカン・ヒェウォンを起用したことで、Manyo Factoryは、ベトナムのZ世代の価値観を現代の美容トレンドに融合させることに成功したとされている。さらに、韓国の人気ドラマ「愛の不時着」では Manyo Factory の商品が登場し、このドラマはベトナムでも高い人気を誇っており、商品の認知度と人気上昇に寄与した。
日本企業もよりマーケティング活動に注力する必要がある
ベトナムを含むアジア市場では、近年になって韓国コスメの人気が若者を中心に急上昇している。この現象は特に若者の間で顕著であり、韓国企業がSNSやインフルエンサーを通じて強力なマーケティング戦略を展開していることが背景にある。
その一方で、日本の化粧品ブランドは依然として高品質を誇っているが、若者の間で認知度が低下していることが懸念点として挙げられる。特に、SNSやインフルエンサーの影響を受けやすい世代においては、ブランドの存在感が重要であり、若者に対するマーケティング戦略の見直しが急務となっている。日本企業がアジア市場での競争力を維持するためには、マーケティング戦略を強化し、現地のニーズに応じた商品開発やプロモーションを行っていく必要がある。
さいごに
ベトナムの化粧品市場は今後も、人口の増加と経済成長に伴う可処分所得の増加、さらにはベトナム人の美容意識の高まりにより、急速な成長を遂げると予測されている。ベトナムの化粧品市場拡大の背景には、韓国コスメの参入による影響も大きいと推測され、今後も、韓国コスメの存在感も並行して、より一層強まると予想されている。また、 TikTok Shopのような新しいECプラットフォームの登場も、ベトナム人消費者が多様な情報にアクセスしやすくなる環境をつくっている。
一方で韓国コスメのトレンドは、SNSやインフルエンサーの影響を受けながら、特に若年層の間で強い支持を得ている。 ベトナムで人気のあるManyo Factoryのようなヴィーガンブランドや、innisfreeといった韓国コスメは、ベトナム人消費者の多様なニーズに応えているとされている。
今後、ベトナム市場における韓国コスメの存在感はさらに強まり、化粧品業界の成長を牽引する要因となると予想されている。また、日本企業もこの流れに乗り遅れないよう、現地のニーズに応じたマーケティング戦略や商品開発を進めることが求められている。