はじめに
ベトナムへ進出する方法としては、商品の販売、現地企業への出資、駐在員事務所の設置等の様々な方法があるが、日本企業の進出形態の一つとして、ベトナム現地に会社を設立するという方法がある。今回はベトナムにおける会社設立に焦点を当てて、ベトナムではどのような形態での会社設立が認められているのかについて解説していきたい。尚、ベトナムにおける会社設立の種類・規定は「2020年企業法(59/2020/QH14)」に定められており、本解説は同法に定められた規定を基にすることとしたい。
ベトナムにおける会社形態の種類
ベトナムでは以下の5つの会社形態が認められている。
- 一人社員有限責任会社
- 二人以上社員有限責任会社
- 株式会社
- 合名会社
- 私人会社
以下で、各会社形態についての詳細な説明を加えていきたい。
一人社員有限責任会社
一人社員有限責任会社(ベトナム語: CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN MỘT THÀNH VIÊN)は、出資者が1人の個人または1つの組織である会社設立形態である。
日本企業や日本人が単独で出資して会社を設立する際には、一人社員有限責任会社となる。出資者は会社の債務に対して出資した資本額の範囲で責任を負う。また有限責任会社は株式を発行することは出来ない。
二人以上社員有限責任会社
二人以上社員有限責任会社(ベトナム語:CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN HAI THÀNH VIÊN TRỞ LÊN)は、出資者が2人以上の個人または2つ以上の組織(出資者数の上限は50の個人・組織)である会社設立形態である。
日本企業がベトナム企業と共同出資して合弁会社を作るような場合は、二人以上社員有限責任会社となる。出資者は会社の債務に対して出資した資本額の範囲で責任を負う。また有限責任会社は株式を発行することは出来ない。
ちなみに、有限責任会社という分類の中で、さらに「一人」と「二人以上」という社員数(出資者数)による区分を設ける制度は国際的に見ても珍しく、ベトナムの企業法の特徴と言える。
株式会社
株式会社(ベトナム語:CÔNG TY CỔ PHẦN)は、出資者が3人以上の個人または3つ以上の組織である会社設立形態である。会社の定款資本は「株式」の各単位に均等に分けられ、株式の譲渡を自由に行うことが出来る。株主は会社の債務に対して出資した資本額(保有する株式の額面)の範囲で責任を負う。
合名会社
合名会社(ベトナム語:CÔNG TY HỢP DANH)は2人以上の合名社員が出資し、共同所有する形で設立される。この合名社員は個人である必要があり、組織は合名社員となることはできない。また共同所有はしないものの、出資のみ行う出資者も認められている。
合名会社の特徴は、会社のすべての義務に対して自己の資産で責任を負う点が、有限責任会社や株式会社とは異なっている。
私人会社
私人会社(ベトナム語:DOANH NGHIỆP TƯ NHÂN)は1人の個人が出資・所有する形で設立される。個人は会社のすべての義務に対して自己の資産で責任を負う点が、一人有限責任会社とは異なっている。尚、私人会社は「個人事業主」の概念と近しい。
各会社形態の比較
以下では、より5つの会社形態の違いを明確にするために、8つの視点から各会社形態を比較していく。
会社の所有者
組織が会社の所有者となれるのは、一人・二人以上社員有限責任会社および株式会社となり、合名会社や私人会社では組織は会社の所有者となることはできない。
社員数・出資者数
一人有限責任会社の場合は出資者数は1名・1組織となり、2名・2つ以上の出資者がいる場合には二人以上社員有限責任会社となる。また二人以上社員有限責任会社の出資者の上限は50となっている。株式会社は3名・3つ以上の出資者が必要で、出資者数の上限はない。合名会社の場合には2人以上の合名社員が必要であり、1人しかいない場合には私人会社となる。
法人格
私人会社は法人格を有することができず、それ以外の会社形態は全て法人格を有する。その意味では、前述の通り私人会社=個人事業主と捉えることも可能である。
資本取引
有限会社や合名会社、私人会社は株式は発行できないため、株式を自由に発行したり、他者へ譲渡する取引を行うことができない。これらの会社に出資している出資者が、出資持分を他者へ譲渡しようとする場合、持分を譲渡することとなるが、会社形態によって以下のように規定されている。
有限会社の持分譲渡
有限会社の社員が自己の持分の一部・または全てを譲渡しようとする場合には、以下のような流れに沿う必要がある。
- 自分以外の社員に対し、持分の売却条件を提示し、売却を申し出る。
- 売却を申し出た日から30日以内に、どの社員も自己の持分を購入しない場合は、社員以外の者に対して、社員に提示した条件と同一の条件を提示し、持分を譲渡することが可能となる
合名会社の持分譲渡
合名社員が自己の持分の一部・または全てを譲渡しようとする場合には、他の合名社員全ての承認を得る必要がある。
私人会社の持分譲渡
所有者が1名である私人会社の持分を売却するということは、私人会社自体を売却することと同じである。私人会社主は自由に会社を売却・譲渡することができる。
定款資本
有限責任会社、株式会社の場合は、出資者は払込資本金の範囲で、会社の債権・負債・義務等に対する責任を負う。一方で合名会社の場合は、合名社員は会社の義務に対して、自己の全ての資産の範囲で責任を負わなければならない(出資者の場合は払込資本金の範囲)。また私人会社も同様に、自己の全ての資産の範囲で責任を負う。
会社形態の変更
会社形態の変更については、以下の場合に認められている。
- 有限責任会社から株式会社への転換
- 株式会社から有限責任会社への転換
- 私人会社から有限責任会社、株式会社、合名会社への転換
- 一人社員有限責任会社から二人以上社員有限責任会社への転換
会社形態を転換する理由としては、当初は有限責任会社として設立した企業を、上場を目的として株式が発行可能な株式会社へ転換する例などが考えられる。 一方で、合名会社から他の形態への転換は認められていない点に注意が必要である。
会社の意思決定機関
一人社員有限責任会社の場合は、出資者が1名なのであるから、その1名が最高意思決定者となる。二人以上社員有限責任会社の場合は、出資をする社員総会が最高の意思決定機関となる。株式会社の場合は株式を有する者の株主総会が意思決定を行う。合名会社の場合も、合名社員全員が出席する社員総会が最高の意思決定機関となる。
最後に:状況・目的に応じた会社形態の選択
本レポートでは、ベトナム企業法に基づいた会社設立の形態について解説を行った。今回解説した内容は、日本企業がベトナムで会社を設立する際にはもちろんだが、パートナー企業の探索、M&A、ベトナム企業との取引の際にも重要となる知識である。
特に日本企業が留意すべきポイントは「資本(持分)の譲渡」および「出資者の会社に対する責任の範囲」である。例えば有限責任会社では持分譲渡は、まずは社員に対して売却を提示し、それでも買い手がいなかった場合に、同じ条件で社外に対して売却を申し出ることが可能であるという、特徴的な規定がある。
また会社に対する責任の範囲の点では、有限責任会社や株式会社が「出資の範囲内」における文字通りの有限責任であるのに対して、合名会社や私人会社は「自己の資産の範囲内」で責任を負う必要がある無限責任であるという点を抑える必要があるだろう。
今後、ベトナムと日本の経済交流がますます密接になるにつれて、ベトナムの企業法に対する正しい理解が求められるようになる。また企業法はその時々の経済の状況に応じて改定されることも多いため、VietBizでは今後も最新の制度について随時解説を行っていきたい。
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