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ベトナムM&Aの成否を分けるものとは|京大MBA研究で代表が語る失敗と成功の分岐点

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日本企業によるベトナムM&Aの成否は何で決まるのか。京都大学大学院経営管理教育部(MBA)で日本企業のクロスボーダーM&Aを研究する田沼正蔵氏が10月30日、ONE-VALUE代表取締役のフィ・ホアに、オンラインでインタビューした。年間約200件のM&A相談に応じるホアは、成否を最も左右するのは「対象会社の選定」だと指摘。日本企業の意思決定の遅さや売り手との価格差が破談を招いているとしたうえで、買収前からPMI(買収後の統合)体制を整える重要性を強調した。

田沼氏は、既存研究の多くが製造業を対象とし、ホスピタリティやサービス業に焦点を当てたものは分析の余地がある点に問題意識を持つ。取材では、失敗と成功のパターン、価格交渉の規律、サービス業特有の注意点などを尋ねた。本稿で紹介する割合や倍率は、特記のない限り当社の支援実務に基づく感覚値である。

「検討1年」の間に他国勢へ 失敗の典型は意思決定の遅さ

日本はベトナムにとって主要な投資国の一つだ。日本貿易振興機構(JETRO)によると2025年の対ベトナム直接投資(新規・拡張、認可ベース)は約30億8,000万ドルで、国・地域別で第4位だった。日本企業からの出資を望むベトナム企業も多い。

出所:JETRO「ベトナム 概況・基本統計」(2026年8月12日公開)をもとにONE-VALUE作成

それでも案件がまとまらない例は後を絶たない。ホアが最初に挙げたのは、日本側の意思決定の遅さだ。ベトナムの売り手が早い決断を求めるのに対し、日本企業の検討は1年以上に及ぶこともある。その間に売り手が別の買い手と契約してしまう。日本企業が検討を続けるうちに、中国企業が買い手となった案件もあったという。

「日本企業は遅いし、情報もたくさん求められる。面倒だという声を、ベトナム人オーナーから実際に聞く」とホアは明かす。大型の合弁案件でも、日本側のスピードを理由にベトナム側が白紙撤回を口にした局面が何度もあった。

交渉の場で決められず 「全員の賛成」が好機を逃す

遅さの背景にあるのが、意思決定の仕組みの違いだ。ベトナムはオーナー企業が多く、トップが自ら交渉の場に出てその場で決める。日本側の出席者は決裁権を持たないことが多く、「持ち帰って検討する」を繰り返す。

ある大手上場企業では、規則上は過半数の賛成で承認できるにもかかわらず、役員全員が賛成しない限りM&Aを進めない慣行が長く続いている。反対者が1人でもいれば根回しと説得に時間を費やし、その結果、魅力的な案件を見送ってきたという。

ホアは、責任回避の意識が「ローリスク・ハイリターン」を求める姿勢につながっていると分析する。「経営に全員が納得する正解はない。経営者が決めた方針をやり切る勢いが必要だ」と語った。

情報の不正確さ、買収後の人材流出も

売り手側に起因する失敗もある。開示される情報が少ない、内容が誤っている、二重帳簿などで会計が信用できない。ホアはこれらを「対象選定ではなく、デューデリジェンス(DD)で見極めるべき問題」と位置づける。

買収後の組織運営も課題だ。日本から派遣された経営者がベトナム人社員をまとめられず、ガバナンスが効かない。買収を機に中核人材が離職する。「いずれも日々の支援で直面する典型的な失敗パターンだ」という。

関連情報は、以下の記事でも詳しく紹介しています。

・Nissha・USM事例に学ぶベトナムM&Aのデューデリジェンス

・ベトナムM&Aで見落とせないHRDD

成功企業は「買う前からPMI」

一方、成果を上げる企業には共通点がある。M&Aの経験が豊富で意思決定が早い。対象の業界に詳しく、買収後も自らマネジメントできる。そしてベトナムをよく理解し、クロージング前の段階からPMIの管理体制を設計している。

当社が関わる案件では、同業種の買収が約7割、異業種が約3割を占める。異業種では、自社では販売できない商品を扱うために卸企業を買うといった機能補完型が目立つという。

M&Aを使う利点として、ホアは「時間を買える」「既存の顧客基盤を引き継げる」「外資規制のある分野にも参入しやすくなる」の3点を挙げた。

最大の分岐点は「相手選び」 破談の主因は価格

対象選定、価格、DD、PMIのどれも重要だとしたうえで、ホアは対象会社の選定を最も重視する。「M&Aは結婚と同じだ。ふさわしい相手に出会えるかどうかが一番大きい」。

選定ミスの典型として、期待したシナジーが買収後に得られなかったケースや、信頼していたオーナーが実際にはそうではなかったケースを挙げた。後者はオーナー企業の多いベトナムで特に目立つという。

関連情報は、以下の記事でも詳しく紹介しています。

・オーナー企業を買収する前に確認すべき実質支配の実態

一方、案件が成立しない理由として最も多いのは価格だ。国として成長が続くベトナムでは、売り手が将来の成長を織り込んだ高い価格を求めがちだ。またPMIについては、「その案件だけでなく、今後のM&Aで成果を出せるかどうかを左右する」と位置づけた。

成否の評価は「半々」 外部からは見えにくい

M&Aが成立したかどうかは、契約や開示で外からも分かる。難しいのはその先だ。「結婚した2人が幸せに暮らせているかを測るのは難しい」とホアは言う。

「M&Aの8割は想定した価値を生まない」といった言説については、十分な統計はなく、そもそもの期待が高すぎる場合もあると指摘した。当社の実感では、買収後に順調な案件と苦戦する案件がおおむね半々だ。ただし「苦戦しているから失敗とは言えない」とも付け加えた。

実務上の判断材料は2つある。売上が事業計画どおりに伸びているか。そして財務、文化、顧客紹介や情報共有といった事業面の統合が進んでいるかだ。ただ、こうした指標を公開する企業は少ない。外部から確認できるのは、減損の計上や株式の売却といった結果が表に出たときにほぼ限られる。

EBITDA倍率に大きな開き アーンアウトで差を埋める

価格面の開きは大きい。日本企業がEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の5〜6倍を目安に提示しても、ベトナムの売り手には「話にならない」。検討の土俵に乗るのは10倍前後からだという。折り合う案件もあるが、破談のほうが多いというのがホアの実感だ。

出所:インタビューをもとにONE-VALUE作成(実務上の感覚値)

払い過ぎを防ぐため、当社が提案しているのが、業績に応じて対価を支払うアーンアウト方式だ。売り手が100を求める場合、まず70を支払う。事業計画を達成すれば合計100、計画を上回れば合計120まで支払う。業績が一定水準を下回った場合には、売り手に株式の買い戻しを義務づける条項(プットオプション)を設けることもある。

出所:インタビューをもとにONE-VALUE作成

出資比率を段階的に引き上げる手法も広く使われている。ただしホアは「段階的な取得は当然として、たとえば10%の取得でも、それぞれの段階で払い過ぎにならない設計が必要だ」と強調した。

サービス業は「人」が価値の源泉 PMIの比重高く

これまで日系企業のベトナム進出は、製造業がおよそ半分を占めてきた。ホアによると、この2年ほどで大型の製造業進出は一巡し、小規模な案件が中心になっている。今後は製造業の比率が3割程度まで下がるとみる。外食、ホテル、給食などサービス業のM&Aは、これまで以上に重みを増しそうだ。

製造業との最大の違いは「人」だ。製造業では日本のマニュアルやものづくりの基準を応用しやすい。これに対しサービス業は、ベトナム人の従業員がベトナム人の顧客に提供する事業であり、人材の育成に時間がかかる。「日本のおもてなしをやってほしいと言っても、そもそもおもてなしの定義から共有しなければならない」とホアは言う。

図表:製造業とサービス業、M&Aでの着眼点の違い

観点製造業サービス業(外食・給食など)
対象選定設備・生産能力すでに高いサービス水準を提供できているか
日本流の移植マニュアル・品質基準を応用しやすい「おもてなし」の定義から共有が必要
PMI比較的管理しやすい目に見えない部分が多く、より力を入れる必要
価値評価の中心資産(アセット)人材、ネットワーク、顧客基盤
出所:インタビューをもとにONE-VALUE作成

ただしホテルは例外だ。直営ホテルでは不動産が価値の中心となり、「立地がすべて」だという。

案件の少ないニッチな業種では、その分野に詳しいアドバイザーや調査会社を活用すべきだとしたうえで、情報の質にも言及した。「マクロの情報は、今やAIで誰でも取れる。人に会って直接話を聞き、その人がどう考えているのかを知る。そうした一次情報の価値は、これからさらに高まる」

「片道切符」の覚悟を 海外展開への3つの助言

取材の最後に、田沼氏は日本企業が海外で成功するための助言を求めた。ホアがまず挙げたのは、現地に送る人材だ。

当社が支援した韓国企業の社長は、ベトナム語を学び、家族とともに移り住んでいた。「韓国企業は片道切符だ。成功しなければ戻れない」。対して日本企業の駐在員は「往復切符」だ。大きな失敗さえしなければ親会社に戻れるため、大胆な手を打ちにくい。現地に合わせ、一定のリスクを取れる人材を送り込むことが第一歩だという。

2つ目は、現地を十分に理解すること。調査や情報収集、現地に詳しいアドバイザーの活用を惜しまない姿勢が求められる。

3つ目は、意思決定のスピードだ。オーナー企業であれば、オーナー自らが相手先に足を運び、交渉の場で決断できる。「それができれば、ベトナム企業との交渉はずっと進めやすくなる」とホアは締めくくった。

ONE-VALUEのベトナムM&A支援

ONE-VALUEは日本とベトナム(ハノイ、ホーチミン)に拠点を持ち、市場調査やパートナー探索からM&Aアドバイザリー、DD、買収後のPMIまでを一貫して支援している。現地企業の経営層とのネットワークを生かし、市場に出ていない案件の紹介も可能だ。ベトナムでの買収・合弁、価格交渉や買収後の統合に関するご相談を受け付けている。

出典

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