はじめに:ベトナムM&Aで「支配リスク」が重要になる理由
ベトナム市場では、民間企業の多くがファミリー企業、または個人オーナーが強い影響力を持つオーナー企業として運営されている。こうした企業では、実質的な権限が創業者、オーナー、または少数の親族に集中していることが多い。
その結果、企業登録証明書や株主名簿に記載されている人物が、必ずしも最終的な意思決定者とは限らないという実態がある。日本企業が表面的な法務書類だけをもとにデューデリジェンスを行うと、取引完了後に実際の経営権を十分に行使できないリスクに直面する可能性がある。
実質支配者を正しく把握できなければ、交渉の停滞、経営権移管の困難、さらには買収後統合の失敗につながる。したがって、ベトナムM&Aでは、支配リスクの把握が取引実行性を確保するための前提条件となる。
実質支配の実態を把握する重要性
ベトナム市場では、日本企業が法務書類と実際の運営との間に大きなギャップを感じるケースが少なくない。特に重要なのが、実質支配リスクである。これは、最終的な意思決定者が、株主名簿や法定代表者として書類に記載された人物と一致しないリスクを指す。
この実態を正しく把握することは、取引完了後に日本企業が投資家としての権限を実際に行使できるかどうかを左右する。
もし、見えにくい権力構造を十分に調査しなければ、買収後も従業員や現地パートナーが旧オーナーの指示に従い続け、日本企業が経営上の主導権を握れない状況に陥る可能性がある。
ファミリー企業・オーナー企業とは何か:所有・経営・意思決定の特徴
ベトナムにおけるファミリー企業とは、所有、経営、血縁関係が密接に結びついた企業形態である。
本質的には、同じ家族の構成員が定款資本や資産の大部分を保有し、会長、社長、最高経営責任者、会計責任者などの主要ポジションを直接担う企業である。
一方、オーナー企業では、財務、人事、対外関係を含むあらゆる戦略が、トップ個人の信用力と影響力に大きく依存する。
こうした企業のガバナンスは、意思決定が速い一方で、個人の利益と会社の利益が十分に分離されていないことも多い。
- メリット
意思決定が非常に速く、長期的なコミットメントが強く、企業文化が統一されやすい。
- 課題
透明性が不足しやすく、ガバナンスが専門化されていない。また、特定個人の健康状態、信用力、影響力に過度に依存するリスクがある。
ベトナムでは、ビングループ(Vingroup)、マサン(Masan)、チュオンハイ自動車(THACO)などの大手グループも、家族的な影響力や創業者の存在感が、ガバナンス構造や権限承継において重要な役割を果たしてきた代表例である。

ファミリー企業買収で発生する主な実質支配者リスク
ベトナムのファミリー企業を買収する際には、日本企業が特に注意すべき重要リスクがある。主なリスクは以下の5つである。
- 所有と実質支配のずれ
書類上の株主は複数に分かれていても、最終的な意思決定権は、株主名簿に現れない特定人物に集中している場合がある。この人物の同意がなければ、契約締結やM&A後の約束履行が実質的に進まない可能性がある。
- オーナー個人への依存リスク
行政機関、銀行、大口顧客との関係は、旧オーナー個人の信用力に結びついていることが多い。旧オーナーがM&A後に離脱すれば、これらの戦略的関係が断絶し、企業価値が低下する可能性がある。
- 家族内対立リスク
夫婦、兄弟姉妹、後継世代など、家族内の権力争いが株式譲渡の過程で表面化することがある。これにより、取引が停滞したり、長期的な法的紛争に発展したりするリスクがある。
- 内部統制不足と隠蔽リスク
ファミリー企業では、「親族への信頼」を理由に、財務承認や会計プロセスが軽視される場合がある。その結果、税務・財務上の問題が、日本企業による買収後に初めて発覚することがある。
- 買収後統合における支配権リスク
日本企業が過半数株式を取得しても、旧オーナーの親族が主要ポジションに残っている場合、新しい指示が現場で抵抗を受ける可能性がある。こうした見えにくい抵抗により、経営体制が機能不全に陥ることもある。
実務上の教訓:タンタン社の事例
タンタン社の事例は、実質的な権力構造を把握できないことが、いかに大きな問題につながるかを示している。
新株主は、法令に従って45.83%の株式を取得したにもかかわらず、旧オーナーとその家族が会社印、会計資料を保持し続け、株主総会の招集に関する民事判決にも従わなかった。

この事例から得られる示唆は以下の通りである。
- 書類上の大きな株式保有だけでは、現場で即時に経営権を行使できるとは限らない。
- 家族内の庇護意識や結束が強い場合、外国投資家の介入は実質的に無効化される可能性がある。
買収前に、権限移管計画と現場での支配権確保策を設計しておく必要がある。
ベトナムM&Aで確認すべき実質的支配者デューデリジェンス
リスクを回避するには、ベトナムM&Aにおけるデューデリジェンスを、書類確認だけでなく、実際のガバナンスと権限構造の確認まで拡張する必要がある。
特に、以下の5つの確認が重要である。
- 実質的な所有構造の確認
株主名簿だけでなく、過去の持分譲渡履歴、名義貸しの有無、家族内の個別合意を確認する必要がある。
- 意思決定の流れの確認
大口支出、幹部人材の採用、重要契約の締結を実際に承認している人物を確認する。正式な役職を持たない家族構成員が意思決定に介入していないかも確認すべきである。
- オーナー依存度の評価
顧客やサプライヤーへのヒアリングを行い、旧オーナーが離脱した後も契約関係が維持されるかを確認する。また、会社資産とオーナー個人の借入・担保関係が混在していないかも確認する必要がある。
- 承継リスクと紛争リスクの確認
第二世代、第三世代への承継計画、家族内の各系統の利害対立、後継者候補間の関係性を確認する。
- 現地ヒアリングと実地確認
最も重要なのは、現地での確認である。主要人材、業界専門家、長年の取引先に直接ヒアリングし、企業の背後にある実際の権力構造を把握する必要がある。

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ONE-VALUEが支援できる領域:ベトナム企業買収DDと実質支配者調査
ONE-VALUEは、ベトナムM&A案件における複雑なリスクの特定と対応を日本投資家向けに支援する、戦略コンサルティングの専門企業である。
当社は、ベトナムのファミリー企業において「真実はしばしば書類の外にある」ことを理解している。そのため、ONE-VALUEの実質的支配者デューデリジェンスは、証憑の確認にとどまらず、広範な情報ネットワークを組み合わせることで、権力構造、家族関係、オーナーの透明性を検証するものである。
日本投資家は、以下の各段階でONE-VALUEの強みを活用できる。
- M&A前:対象企業のガバナンス実態に関するスクリーニングと初期調査。
- DD段階:支配実体に関する詳細なデューデリジェンスと潜在リスクの評価。
- PMI段階:日本投資家が実質的に経営権を掌握できるよう、権力移管戦略と組織再編計画を策定する。
結論:ファミリーガバナンスからプロフェッショナルガバナンスへの移行
ベトナムのファミリー企業には大きな機会が存在する一方で、それに応じた実質支配リスクも存在する。日本投資家は、書類上の肩書きだけを見るのではなく、現場における権力の本質を正しく評価する必要がある。
ONE-VALUEのように現地のビジネス文化を深く理解するコンサルティング会社と連携することで、投資家は支配上の障壁を早期に把握し、安全な取引スキームを構築し、M&A後のシナジー価値を最適化することが可能になる。
ONE-VALUE株式会社(ONE-VALUE Inc.)について
ONE-VALUEは、1,000社以上の日本企業のベトナム進出を支援してきた総合コンサルティングファームです。
- 市場調査・戦略立案: 深い市場理解に基づくロードマップ策定。
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