はじめに
近年、ベトナムの不動産市場は急速に発展している一方で、特に住宅や土地の投機的な保有が横行し、実際の供給が減少、価格が高騰して国民の大多数が手の届かない状況に直面している。このような背景の中、未使用不動産への課税が市場の均衡を回復し、土地資源の有効活用を促し、資源の無駄を防ぐための緊急かつ必要な施策とみなされている。
背景と政策の必要性
2025年5月24日、関係省庁の参加を得て開催された政府常任会議において、ファム・ミン・チン首相は、未使用不動産への課税制度を早急に検討・提案するよう財務省に指示した。この政策は、土地の投機的保有や価格のつり上げを抑制し、供給を促進することにより価格安定を図ることを目的としている。
建設省によれば、2025年第1四半期には全国で約788件の不動産プロジェクトが法制度、都市計画、投資、建設、住宅、入札、資金調達など様々な問題により停滞している。これにより、とりわけ商業住宅や社会住宅分野での市場供給が深刻に減少している。また、新都市開発地や大都市近郊を中心に、空き地や空き家が急増しており、地価は投機によって高騰を続けている。

政策の目的
このような状況において、未使用不動産への課税政策は、効果的な市場調整ツールとして期待されている。
第一に、この政策は土地の投機行為を抑制することを目的としている。地価上昇を見越して土地を保有し続けることは、資源の非効率な利用を招き、供給と需要のバランスを崩す原因となる。課税によってコストが増せば、所有者はより早く利用または譲渡する動機を持つことになる
第二に、国家財政への新たな税収源を確保することができる。税収が透明かつ効率的に管理されれば、社会住宅整備、都市インフラ改善、低所得層支援などの公共福祉事業に再投資することが可能となる。
第三に、長期的には社会的公平性の促進にもつながる。使用されていない土地を保有する者が優遇され続けることを防ぎ、住宅にアクセスできない一般市民との不公平を是正することが期待されている。
各国の事例
世界の多くの国々では、不動産市場の調整策として同様の課税制度を導入している。
シンガポールでは、資産税、投機制限、多数の不動産保有者に対する累進課税などの厳格な対策が講じられている。カナダのバンクーバー市では、空き家税を導入しており、資産の有効利用を促進している。オーストラリアでも同様の政策があり、未使用不動産に対する課税と外国人投資家への制限が設けられている。
これらの事例は、適切に設計され厳格に運用されれば、空き不動産への課税が市場管理の有効な手段となりうることを示している。
課題と提案
しかし、この政策を成功させるには多くの課題が存在する。
第一の課題は「未使用不動産」の定義である。外見上は空き家でも、短期賃貸や非定期的な使用が行われている場合があり、調査と評価が困難である。政策の公平性と実現可能性を確保するには、リアルタイムで更新される透明なデータベースの構築が不可欠である。
第二に、市場への逆効果も懸念される。不適切な導入により市場が一層冷え込み、投資家の信頼が損なわれ、資金繰りに困難を抱える真面目なデベロッパーにも悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、まずはハノイやホーチミン市など空き不動産の集中する大都市で段階的に導入することが適切とされる。また、年間使用率や未使用期間などに基づいた分類基準も必要である。建設途中や法的手続き中の不動産、災害や疫病などの特別な事情によるケースは課税対象外とすべきである。
さらに、税制度は累進的に設計することが望ましい。長期間未使用であるほど税率が上昇することで、経済的なインセンティブにより利用を促す仕組みとする。初期段階では、限定的な地域で試験運用を行い、市民や企業からのフィードバックを得て柔軟に調整していくべきである。
市民の視点からは、情報が透明かつ明確に発信されるならば、当該政策は広く支持される可能性が高い。住宅価格が所得水準を大きく上回る現状では、投機の抑制と住宅の適正配分は合理的かつ不可欠な方策である。政策の信頼性を高めるには、課税基準や手続きの公開、税収の使途についての明確な説明が必要である。
企業の視点では、課税制度は投資戦略の見直しを迫る契機ともなる。意図的な供給制限によって価格を釣り上げる戦術は通用しなくなり、プロジェクト開発、キャッシュフロー管理、販売戦略の最適化が求められる。結果的には、実行力のある企業とそうでない企業の選別が進み、市場の健全化につながる。
結論
未使用不動産への課税政策は、公正で持続可能な不動産市場を目指す上での重要なステップとなる。明確な法的枠組み、透明なデータ基盤、段階的な導入という条件が整えば、投機の抑制、資産の有効活用、財政収入の確保に大きく貢献する。また、これは不動産市場を一部の富裕層の資産蓄積の場とするのではなく、広く国民全体の利益に資する方向へと導く政府の強い意思の表れでもある。
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