ベトナム炭素市場の現状:ハノイ証券取引所(HNX)の役割
ベトナム政府は、2050年までのネットゼロ達成という国際公約に向け、国内炭素市場の構築を急ピッチで進めている。今回公布された政令29/2026/ND-CPにより、取引インフラの全容が明らかになった。
運営体制として、ハノイ証券取引所(HNX)が取引システムの構築・運営を担い、ベトナム証券保管振替機構(VSDC:Vietnam Securities Depository and Clearing Corporation)が振替・決済サービスを提供する。取引される「商品」は、政府から割り当てられた「温室効果ガス排出枠(配分量)」と、排出削減プロジェクトから創出される「炭素クレジット」の2種類である。
この市場の最大の特徴は、既存の証券市場のインフラを活用しつつも、炭素取引独自の「即時決済」メカニズムを採用している点である。一般的な株式取引のような中央清算機関(CCP)による差金決済ではなく、取引ごとに資金とクレジットの移転が同時に行われる。これにより、市場参入初期の不確実性を排除し、透明性の高い取引環境が保証されている。

出所: https://vneconomy.vn/viet-nam-chinh-thuc-hinh-thanh-san-giao-dich-carbon-trong-nuoc.htm
2028年までの「手数料免除」:日本企業にとってのメリット
日系投資家や現地進出企業にとって最大の関心事は、コスト面での優遇措置である。政令29/2026/ND-CPの第34条では、2028年12月31日までの試行運用期間中、VSDC、ベトナム証券取引所、およびハノI証券取引所(HNX)によるサービス提供手数料を「徴収しない」と明記された。
手数料が有料化される2029年1月1日以降と比較すると、この3年間は極めて低い摩擦コストで取引経験を蓄積できる。
現在、欧州の排出権取引制度(EU-ETS)では炭素価格が高騰しており、企業のコスト負担増が課題となっている。対して、形成段階にあるベトナム市場では、手数料免除というインセンティブに加え、初期段階のクレジット価格も国際水準より低く抑えられる可能性が高い。特に、火力発電、鉄鋼、セメントといった年間排出量のインベントリ(目録)作成が義務付けられている分野の日系製造業にとって、この期間に排出枠を確保しておくことは、将来的な規制強化に対する強力なヘッジ戦略となる。
日本企業への提言:早期参入と戦略的パートナーシップ
ベトナムのGX(グリーントランスフォーメーション)戦略は、単なる環境保護の枠を超え、企業の「輸出競争力」に直結するフェーズに入った。欧州の国境炭素調整措置(CBAM)への対応を迫られる中、ベトナムで低コストに炭素クレジットを調達・創出できる体制を整えることは、グローバルサプライチェーンにおける優位性を意味する。
ここで日本企業が検討すべき戦略 baby、単なるスポット取引にとどまらない。
第一に、ベトナム企業とのM&Aを通じた「排出権の自社保有」である。再生可能エネルギープロジェクトや森林保全事業を展開する現地企業との資本提携により、クレジットの創出源そのものをコントロール下に置く動きが加速している。 第二に、厳格な決済銀行基準への注目である。試行期間中、決済銀行は資本金10兆ドン(~約600億円)以上、直近2年間の黒字経営といった厳しい条件を満たす商業銀行1行に限定される。こうした信頼性の高い金融機関との連携も重要となる。

出所: https://baochinhphu.vn/quang-tri-tan-dung-nang-gio-de-tro-thanh-trung-tam-nang-luong-sach-102220907143546603.htm
しかし、ベトナムの法規制は複雑であり、2025年、2026年にかけてさらなる細則の改正も予想される。不透明な環境下での投資判断には、正確な「現地情報」と「規制分析」が欠かせない。
まとめ
2028年末までの手数料免除措置は、ベトナム政府が市場の流動性を高めるために投じた強力な一手である。日本企業にとって、この「試行期間」は単なる準備期間ではなく、低コストで市場の主導権を握るための投資期間と捉えるべきだ。
炭素取引口座の開設には、一般的な証券口座とは異なる資産管理の分離や、独自のITシステム接続が求められる。また、将来的な価格動向の予測や、信頼できるクレジット供給源の確保には専門的な知見が必要となる。
より詳細な市場調査、特定の業界における炭素排出規制の影響分析、あるいはGX関連企業のM&Aアドバイザリーについては、ベトナム市場に精通したVietbiz / ONE-VALUE(ワンバリュー)までお問い合わせいただきたい。貴社の脱炭素戦略を、現地での実務経験と最新の法規制分析に基づきサポートする。
